ファイアーエムブレム / 聖杯大戦(Fire Emblem / Holy Grail Grand War) 作:femania
聖杯戦争には生前の状態で呼ばれている特殊なケースの英霊。戦いの際は速く流麗な剣技を披露する少女。しかし、人を斬ることにはためらいはないが後ろめたさを持ち、時に剣戟に迷いが生じる。普段は遊牧民族の装いに近い軽装をしている。
マスター アルト
聖杯戦争に『赤』の陣営で参加しているリュエンと同年代の男子。『赤』の陣営の至上命題である魔王の守護のために参加はしているものの、本人は第1皇子フィラルドに、ある理由で大きな恨みを持っている。
赤のアーチャー 真名 ???
目つきの悪い英霊。アーチャーを名乗るに十分な腕を持つ女性のサーヴァント。彼女は神器とともに名を刻まれたわけではなく、その技術が認められた反英霊になった。暗闇などの視界が悪い中でも、その腕が全く落ちることがなく、敵を人知れず絶命させることを得意とする。
マスター ロウロ
アルトと幼馴染でいわゆる知的キャラ。クールを気取り、物事に挑むときには冷静に挑もうとしているものの、熱血的なアルトの影響を受けているからか、ここ一番で感情的になってしまう節がある。
赤のランサー 真名 ???
槍と炎を操り高い戦闘能力を示すトップサーヴァント。槍は生前鍛えた技であり、王族でありながら一国の武将を一騎打ちで倒せるほど。炎はサーヴァントになったことで得た宝具の力。これにより遠距離の攻撃も可能になっている。
マスター エイリ
『赤』の陣営の中で最年少の14歳。父ゼルクは帝国士官の1人として、魔族が住む区域の監視を任されている将軍の1人であるが、実際は魔族であり、その娘であるエイリも当然魔族である。この戦争で、魔王を守るため離反した父のために、そして、ずっと前、自分を可愛がってくれたリュエンのため、自らサーヴァントを召喚しマスターになる決意をした。父、ゼルクはそんな娘に可能な限り危険が及ばないように、自らマスターのような振る舞いをしている。
赤のライダー 真名 ???
竜に乗って槍と斧を振るう女性騎士。誠実さは人一倍あり、サーヴァントとしての在り方には最も順応しやすい性格である。彼女自身に自覚はないが、その誠実さが人を惹きつけることもしばしばあり、生前では、決して友好を結べないと思っていた存在とも友人となり、友和のシンボルとなった。
マスター ハーリヒト
赤のマスター陣営の中でも、ゼルクに続く年長者。魔族と人間の混血であるが故に、互いを敵視している魔族からも人間からも敵視されることに。しかし、本人はそれをさほども気にしたことはない。逆境に燃えるタイプ。リュエンに加担する理由について本人は話さない。
黒のキャスター 真名 ???
生前の状態で呼ばれている特殊なサーヴァント。魔法の習得を感覚で行えるほど、魔法使いとしての素質を持つ少女。しかし純粋。あまりにもピュア。人を殺すことなどでとてもできない性格である。しかし、意思は強く、望む未来の為なら戦える。
マスター フィラルド
アルアトール帝国第3皇子。口も悪い、素行も悪い。周りの兄弟に比べ、秀でた才能も地道な努力もない彼は、威張り散らし己を強く見せることでしか、強さを顕示できない。しかし行動力だけは一人前で自分が王族であるというプライドだけは決して譲らない。
「裏門に向かった。君は少し離れたところから見ていると良い」
アサシンの助言に従い、リュエンは加勢をするためではなく、戦場になりうる士官学校の裏門から少し離れた場所で足を止めた。
既に他の仲間を自称する赤の陣営たちが自らのサーヴァントを連れ、己の武器を構え立っている。
「エイリ。お前は裏で、リュエンを見ててやれ」
「でも……」
「そういう約束だろ。戦いを俺達に任せろ」
アルトの忠告を不本意ながらも聞き受け、エイリは後ろに下がる。
「……いいねえ、10人くらいか」
ハーリヒトの戦況分析に、ゼルクは応えた。
「油断するなよ。王都の兵士だ。辺境と練度は比べ物にならないだろう。アルト、ロウロ、ハーリヒト。油断するなよ」
返事はない。しかし、反論する者もいない。
「マスター、目を閉じろ」
アサシンの声が聞こえ、理由を問おうとしたが、そのような状況ではないので、言うことをきいた。
「別に血は大丈夫だけど」
「そうじゃない。君の魔力感知がどの程度のものかを見たい。目を閉じて、動いている魔力の影響場を感じ取ってみろ」
そんな急に言われてできるはずがないでしょう。
そんな反論をする前に効果が出た。
「13人微弱な魔力。1人はそこそこね。でも、それとつながっている奴がすごい。とんでもない魔力を持ってる。……あれ、後ろからもう1人……」
「さすがだマスター。やはり君は本物だよ。サーヴァントである俺の気配感知よりも敏感だ。これからは目に見えるもの以外にも気を配ると良い」
「とんだお節介よ」
「教えないままで死なれても、こちらが困るのでね」
リュエンは今までこのようなことができるとは自分では知らなかった。まるで自分の取り扱い説明書でも持っているかのようなアサシンに今は少し驚かされた。
「来る!」
仲間を自称する目の前の戦士たちに、襲撃のタイミングを知らせる。
その声を疑う者はいなかった。アルトもゼルクも一目散に駆け出し、ハーリヒトとロウロは魔法の詠唱を始める。
襲撃。それはリュエンの掛け声直後のことだった。人数は間違えることなく13人。
「はあああ!」
全員が剣、もしくは槍を持つ一般兵だった。
アルトは、自身のサーヴァントと並び、一番槍となって突撃した。
アルトに迫ったのはまず2人。鍛えられた剣は夜の微弱な光を光沢として反射し、闇の中に剣閃を生み出した。
その剣戟を躱すアルトに槍の刃が迫りくる。左手に持っている短剣で、その刃の軌道を逸らす。
「……ぅん?」
重い。ただの槍の刺突にしては、威力がありすぎる。練度の差であるかと一瞬思ったものの、刃が少し溶けたところ見て、その考えを改めた。
先ほど剣戟を躱された兵士の攻撃が再び来る。
しかし、アルトは躱すことなく、槍使いにさらに接近するため、足を踏み出す。それは、自分がその剣戟に対応する必要がないと判断したからだ。
彼はマスターである。故にサーヴァントは彼の戦いに力を貸すのは当然だ。
赤のセイバーは、黒のセイバーのように魔力を帯びた強力な剣戟はできないものの、それを補って余りある神速の太刀筋を描くことを得意とする。
アルトが先ほど槍の突きを逸らした瞬間までに、赤のセイバーは既に2人を葬っていた。迫る剣を2回容易く躱し、1人目の脇腹を容赦なく斬りつけ、さらに追加の剣戟を背中に刻み込み戦闘不能にすると、2人目の剣を自らの太刀で弾き、左腕をその刀で切断した。
そしてアルトの危機に駆け付け、アルトを斬りつけようとした、3人目の刀を弾き飛ばす。兵士の解せない顔も無理はない。少女が振るっているのは見た目が如何にも脆弱な細身の片刃刀。とても自らの剣を始めるものではないように見える。
アルトは自身のサーヴァントを信じ、身を乗り出した。右に持っているもう一振りの短剣を使い、兵士の胴を斬り裂いた。
「あ……ァァァァ!」
悲鳴を上げながらもそれだけでは止まらない兵士。本来であれば痛みで動けないはずの傷を負っているはず。アルトは少し違和感を覚える。
槍を再び振るって来たその兵士。しかし、アルトには彼に固執することなく、距離を取った。すれ違いざまに兵士に向かった風の魔法が、その兵士を吹き飛ばした。
「ナイス、ロウロ!」
強力な風魔法を叩き込み、無様に飛んでいく兵士を身ながらアルトは自らの共に勝算のエールを送る。
「ぼうっとするな。次来てるぞ!」
今度は兵士三人。絶妙な連携で、アルトに迫る。アルトは持っている2振りの短剣を使い、連続攻撃を器用に弾いていく。そして作った隙を見て、赤のセイバーはマスターに斬りかかた3人を、切り捨てていく。
アルトは視界の隅で動く兵士を捉えた。
それは先ほど赤のセイバーに左腕を奪われたはずの兵士だった。
(なんで立てるんだよ……!)
その兵士は次弾の魔法の詠唱をしているロウロに襲い掛かる。
「ロウ!」
普段の呼び方が唐突に出るほどの緊急時代である。ロウロは魔法をその兵士に向けるが、詠唱が長めの魔法を選び発動していたため、発動が間に合わない。
「アーチャー!」
呼びかけると同時に、頭に猛スピードの矢が刺さり、その勢いで飛び、倒れる兵士。
「義理は果たすって言ったわよね。自分のこと気にする前に援護を続けなさいよクズ!」
「マスターに向かって……可愛くないな……」
と言いながらも、ロウロは自身のサーヴァントを信じ、魔法の詠唱を続ける。援護兵に気を付けながら。
兵士たちの中でも援護に徹する3人は魔法がメイン。炎の魔法『エルファイヤー』という大きめの炎球を放つ威力の高い魔法を準備していた。
「雷の虎」
ハーリヒトが放った魔法は、その兵士たちにとっては驚きだっただろう。魔法のくせに見たこのない類の魔法だ。攻撃魔力を動物へと変化させ、それが自動で自信たちに迫ってくるのだ。
魔法を準備していた援護兵は迫ってきた虎に気を取られ援護どころではない。虎は兵士に向かって突撃し、雷の魔力を帯びているその猛獣に触れたら、体が丸ごと焼け焦げていく。
ハーリヒトは先ほどロウロを襲った兵士を見て、その存在を評する
「魔力で人間を強化してるみたいだが……?」
魔力による人間の強化。体に魔力を宿し、自身の肉体的行為を強化することができる魔法。
体に負荷はかかるものの、一時的に自身の潜在能力の2倍ほど、能力の向上が期待できる。
しかし、この魔力強化。使う魔力がとんでもなく多く、人間、魔族関係なくほんの一握りの人間しか使えない。さらに、自分にかける魔法であり、今回のように他人にかけられるという現象をハーリヒトは初めて見た。さらに同時に10人以上。
これほどの大魔力を持っている存在。
「キャスターのサーヴァントでも近くにいそうだな……」
ハーリヒトは一つの仮説を立てた。
ここは戦場、物事を考える場ではない。相手の兵士はハーリヒトの様子を窺い、そして動きが鈍っていそうなところを見極め、斬りかかる。
「……なめんなよ?」
ハーリヒトは振り下ろされた剣を腕で受け止め、そしてはじき返す。武器同士の激突ではなく肉体に刃を止められた兵士は、驚愕のあまり固まる。
その兵士に強烈な顎砕きが見舞われた。
「ガキども! 油断するなよぉ! 魔力人間だ。とにかく足を狙え! 動けなくなる」
ハーリヒトの宣言よりも前に、それを見極めていたのはゼルク。槍を振るい、4、5人の兵士を同時に相手しながら、なぎ倒し、足の骨を確実に槍の刃で砕いていく。
赤の陣営の中でも最も力のあるゼルクは、その経歴にふさわしい獅子奮迅を見せ、赤の陣営の中で最も敵を倒している。
「はぁ!」
槍による刃砕き、1対多数をものともしない戦技。ゼルクは戦闘技術だけで言えば、この赤の陣営のマスター陣の中ではトップであることに疑いようの余地はない。
エイリの護衛のため待機をしていた赤のライダーは自身の出番が必要ない赤の陣営の見事な戦闘を心の中で賞賛する。
13人、数で勝っていたはずの兵士はあまりに時間もかからず、赤の陣営のマスターとそのサーヴァントに返り討ちにあい、倒れていった。
戦場は一時静まり返り、剣についた汚れをふき取ったアルトがリュエンに、
「どうだ。強くなったろ、俺達」
と自慢げに宣言する。リュエンにはまだ彼が幼馴染であるという感覚はなく、
「……ん?」
と首を傾げることしかできない。
「……いやあ、そんな都合よく思い出すはずもないか」
アルトはため息をつき、再び兵士たちが来た裏門の外を見る。
一本道。その道の周りは木々に囲まれている。舗装された地面の上を歩く2人の足音が、戦いの終わりはまだであることを示していた。
「リュエン、けがはないか?」
ロウロの声に頷いて応えると、赤の陣営の全員は、足音がする方向へと注意を向ける。
「何か……嫌な予感が」
エイリを庇うように前に立つライダー。嫌な予感は当たっていて、リュエンの魔力感知による感覚では、1人は大した事はなかったが、近くにいるもう1人が凄まじい魔力を持っていた。
足音は大きくなっていく。
赤のセイバーは剣を正面に構える。そしてアルトも短剣を構える。再び一番槍として突撃する準備を整えた。
「なんだ。そろいもそろって」
口を開いたのは、赤の陣営ではなく聞こえてきていた足音を立てている主だった。
「……早速聖杯戦争らしくなったな」
ハーリヒトのこの言葉はマスターの襲撃を意味する。それも赤の陣営が倒すべき、黒のサーヴァントを従えているマスターの襲撃。
少し笑みを見せながら、黒のマスターは、フードをかぶり顔を隠していた自身のサーヴァントを前にあるかせ、自身に満ちた顔を見せる。
「赤の陣営。マスターがこんなにもいる。ここでお前らを倒せば……俺の勝利が近づくわけだなぁ?」
あからさまな挑発に乗る人間は、
「なんだと……?」
アルト以外いなかった。
「当たり前だろ。俺達格式高い黒のマスター。お前らは汚らしい人でなしの屑どもだ。差は初めから見え透いているってもんだろ」
黒の陣営のマスター、ヴァレルは胸を張り、相手を見下す目で彼らを見ている。その目は血の色で輝き、それでも足りないと叫んでいるようだった。
「アルアトール帝国、その王族はより強い王を後世に残すために、至高の戦いを繰り広げる。それが聖杯戦争だ。歴史の敗北者であり、帝国に抗った罪を雪ぐため、魔族の長を生贄にしてやって成立する大儀式。この俺、第3皇子ヴァレルもまたその参加者だ。聖杯戦争の邪魔者を消すのも、聖杯戦争の関係者として、義務なのでね」
侮辱に苛立ちを見せるアルト。剣を構え、前に出ようとしているところを、赤のセイバーが押しとどめる。
「相手はただものではありません。主殿。ここでお待ちください」
「でも、馬鹿にされたままってのは気に食わない」
「いいえ。どうかここで」
赤のセイバーが臨戦態勢に入る。それを確認したヴァレルは、
「さて、サーヴァント同士の戦いには興味があるなぁ……、キャスター、まず1人目だ。お前の実力をここで見せてやれよ」
自らのサーヴァントに命令をする。
キャスターはアルトの方を見ているものの、それ以上動きはしなかった。
「おい、キャスター」
黒のキャスターは首を振る。戦いたくない、という意思表示をしているかのように。
「てめえ、俺の命令が聞けないってのか?」
今のうちに飛び出そうかと赤のセイバーが足に力を込めた。しかし、動くことはない。その振る舞いが罠であるかもしれないからだ。
実際はそんなことはなく、ただキャスターは戦いを好まないだけだったのだが。
「……ふざけんなよおい。キャスター!」
怒声を張り上げるヴァレル。その声に驚き、黒のキャスターは一歩前に出る。しかし、体が震えていた。
「……どうあっても自分じゃいかないつもりか?」
手を突き出すヴァレル。
「令呪をもって命ずる! キャスター、戦え!」
令呪。それは3画、3回分の自分の命令の絶対行使権。令呪と共に乗せられた命令にサーヴァントは逆らうことはできない。多少の抵抗は叶うサーヴァントはいるものの、必ずその命令を受け、その通りにサーヴァントは動くことになる。
ヴァレルは、原則補充されることのない貴重な令呪を迷うことなく使い、無理矢理キャスターを動かした。
「いや……。 怖いよ……」
黒のキャスターは口ではそういうものの、すでに魔法の本を開いている。恐ろしいのは開いただけで、まだ何の魔法を使っていないにも関わらず、魔力の流れが常人にも見えるほどはっきりしていること。
「……すごいな、これは」
魔族の魔法使いであるロウロはその魔力を敏感に感じ取れる。魔族であるが故にその魔力は常人を遥かに上回っているはずだが、そんな彼も戦慄するほどのサーヴァントが如何にすさまじい存在かを理解できる圧倒的な力の差を感じるほど。
「セイバー、ヤバいんじゃ」
「……どうかお任せください」
「いいのか?」
「主殿。私は、この世界に来た時、あらゆる敵から逃げないと決めた身。どうか、私を信じていただけたらうれしいです」
「……大丈夫なんだよな?」
「はい」
赤のセイバーの声を聞き、アルトは後ろに下がった。そしてセイバーは敵をまっすぐ見つめると、剣を構える。
「う……あああ」
「行け、キャスター!」
ヴァレルの命令で使う魔法は魔法によって生成された剣が2つと大剣が1つ。『グルンブレード』と呼ばれる高等魔法であり、魔力によって模られた剣を飛ばし相手を突き刺す魔法である。
魔法の発動を確認した時点で、赤のセイバーは走りだす。
打ち出される魔法。高密度の魔力の刃。赤のセイバーはそれに臆することなく向かっていく。
一撃目、二撃目。魔法が謎の力によってかき消される。
対魔力、セイバークラスがクラス補正で持つことになる魔法に対抗する力。これを持つサーヴァントには魔法の力が一定の威力分無効化され、その分威力が減衰する。魔法が効きにくくなるのだ。
赤のセイバーには高い対魔力があり、最初に跳んできた刃2つは完全にかき消された。
そして3発目、それは大きめの大剣。さすがに無効化は厳しいと悟ったのか、赤のセイバーは剣を振りかぶる。
そしてすれ違いざまに、その剣を切り捨てた。魔法に集約していた魔力は、分断により分散し、そのままの形を保てなくなり消えていく。
赤のセイバーは相手の魔法をものともせず、
「あ……」
「はぁ!」
黒のキャスターへと至り、渾身の掌打を打ち込んだ。キャスターはその威力で吹き飛ばされ、地面を転がった。
「は?」
激闘でもない。圧倒的な結果にヴァレルは自分の置かれた状況をすぐには飲み込めなかった。自分が負けたということを信じられなかった。
フードがとれる。涙を浮かべた顔、美しい緑色の髪が露わになる。
「あれは……」
見ると黒のキャスターと呼ばれていたのは、15歳くらいの少女だったのだ。
赤のセイバーは、自分よりも若いだろう、弱弱しい体をした黒のキャスターに少し罪悪感を持ってしまった。
本来の聖杯戦争はマスターの殺し合い。赤のセイバーはこの時点ですぐにヴァレルへと迫り、その首を斬らなければならなかった。
しかし、赤のセイバーはそうしなかったのは、キャスターをみてのことだっただろう。
「あのバカ……!」
赤のアーチャーがセイバーの様子を見て、ヴァレルへの止めを行うべく矢を放つが、さすがに唖然としている状態から我に返り、その矢を躱し、矢避けの術を使い対策をする。
舌打ちをした赤のアーチャー。
ヴァレルは飛んで行った自分のサーヴァントのところに近づく。セイバーも我に戻り追撃を仕掛けようとするが、続けざまに起こる行動に再び驚きのあまり足を止めることになる。
「ふざけんなよ……おい!」
黒のキャスターを蹴った。すでにダメージを受けているにも関わらず、
「これじゃあ……俺が弱いみたいじゃないか!」
自身の不名誉をサーヴァントのせいにし、少女のサーヴァントを蹴り続ける。反抗すれば一瞬で殺せるにも関わらず、少女は自身の主の蹴りに堪えていた。
サーヴァントは本来において人間よりも優れている。体力面でも技術面でも。故に、サーヴァントの機嫌を損ねればマスターは殺されることだってあり得るのだ。故にマスターが最初に行うべきことはサーヴァントのとの円満な意思疎通ができるようにすることだ。
今のヴァレルのような蛮行は本来自殺行為に近い。
そもそも、ヴァレルのそれは理不尽な暴力である。キャスターはたとえ15歳くらいの少女であっても相手が多いと思っていたからこそ激突を回避しようとしていた。それを無視しわざわざ特攻をかければ、返り討ちにあうのは至極当然である。
それすらも理解せず、サーヴァントがいれば勝てる、などと言う慢心を見せたが故の結果であり、キャスターには何の落ち度もない。
「お前!」
ヴァレルの理不尽な暴力に憤りを見せるアルト、いてもたってもいられなかったのか短剣を再び手に取り、ヴァレルに突撃する。
「アルト! 飛び出すな!」
ゼルクの忠告を無視し、アルトはその走りを止めない。さらに暴走しているのはアルトだけではなかった。
アルトの突撃を抜き去るように炎の球が通り過ぎる。
「行け、アルト!」
ロウロまで援護を始めたのだ。馬鹿ガキどもめ、というゼルクの怒りは最もだが、赤のライダーはそれを好印象に受け取っている表情をしているのをリュエンは目にした。
炎を何とか防ぐヴァレルだが、すでにアルトが近くに来る。
武装をしていないヴァレルはアルトの短剣を生身で受けなければならない。当然それを防ぐ方法はなく、
「てめ、……ぁ!」
その攻撃を止める手立てはなかった。
しかし、ヴァレルには防げなくても。
今、突然その中に割り込んだ男には防げる。
帝国の騎士の紋章が刻まれた軽装を纏い、黒い剣を持ったその男は、凄まじい速さでヴァレルとアルトの間に割り込むと、アルトの剣を弾き、そしてヴァレルを後ろへ蹴り飛ばした。
「が……!」
その威力は成人男性のヴァレルを軽々飛ばし意識を奪った。
「お前は」
さらにアルトに反撃の剣戟を入れ、後退させる。
「うちの王族が見苦しいところを見せてしまった。申し訳ない。すぐに連れて帰る」
その男を見て、ゼルクは驚きを隠せない。
「下がれ! アルト!」
「は? なんで。まだあの男を!」
「下がれと言っているんだ!」
年長者らしい冷静な物言いのゼルクが焦りと怒りの混じった声を出しているのを、アルトは初めて聞いた。アルトは下がりはしないものの、短剣を構え少しずつ後退する。
「ゼルクさん、あれは……?」
赤のライダーもまた、ゼルクの様子が少しおかしいことを察する。
「黒剣のローグ……あの男はまずい」
第1皇女の近衛騎士、ローグが唐突に現れたのだ。
今回は久しぶりの戦闘シーンでした。実際書いてみると久しぶりであるからか、なかなか筆が進まず、衰えを感じました。
今回はいかがだったでしょうか。
赤のマスターの魅力はまだまだいっぱいあるつもりなのですが、伏線の入れ方については悩むところです。
サーヴァントは今真名は隠しているつもりですが、少し情報を開示しすぎかなぁ、と最近は思ったりしています。ファイアーエムブレムシリーズを知っている人からすると、この段階で正体が分かっているサーヴァントは何人いるんでしょうか? 気が向いた時に、よろしければ教えていただけると、今後の執筆の参考になります。
次回も、赤の陣営の話が続きます。