ファイアーエムブレム / 聖杯大戦(Fire Emblem / Holy Grail Grand War) 作:femania
・連載小説初心者です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品です。元と性格や行動が違うことがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・この作品オリジナルキャラも人物描写はスキップしている場合があります。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・作品はほぼオリジナル展開であり、オリジナル設定も盛り込んでいます。ファイアーエムブレムのキャラを動かすにあたり、素材を最高に生かそうとした結果、原作とは矛盾が生まれることもありますが、この世界独自のルールとして受け取ってください
これでOKという人はお楽しみください!
ファイアーエムブレムのキャラを使って聖杯戦争をします!
赤のアサシン 真名 ???
様々な武器と魔法、さらには神官のみが使える杖さえも使い戦う特異的なサーヴァント。自らの腕をサーヴァントの中でも最低ランクと卑下する癖がある。
マスター リュエン
魔法と共に生きる魔族の中で、最も力のある伝説上の存在の魔王。彼女はその直系の最後の子孫である。王族へ復讐を誓っている。
赤のセイバー 真名 ???
聖杯戦争には生前の状態で呼ばれている特殊なケースの英霊。戦いの際は速く流麗な剣技を披露する少女。普段は遊牧民族の装いに近い軽装をしている。
マスター アルト
聖杯戦争に『赤』の陣営で参加しているリュエンと同年代の男子。第1皇子フィラルドに、ある理由で大きな恨みを持っている。
赤のアーチャー 真名 ???
目つきの悪い英霊。アーチャーを名乗るに十分な腕を持つ女性のサーヴァント。彼女は神器とともに名を刻まれたわけではなく、その技術が認められた反英霊になった。
マスター ロウロ
アルトと幼馴染。クールを気取り、物事に挑むときには冷静に挑もうとしているものの、熱血的なアルトの影響を受けているからか、ここ一番で感情的になってしまう節がある。
赤のランサー 真名 ???
槍と炎を操るトップサーヴァント。槍は生前鍛えた技であり、王族でありながら一国の武将を一騎打ちで倒せるほど。炎はサーヴァントになったことで得た宝具の力。これにより遠距離の攻撃も可能になっている。
マスター エイリ
『赤』の陣営の中で最年少の14歳。父ゼルクは帝国士官の1人だが、実際は魔族であり、その娘であるエイリも当然魔族である。魔王を守るため離反を決意した父と自分を可愛がってくれたリュエンのため、自らサーヴァントを召喚しマスターになる決意をした。
赤のライダー 真名 ???
竜に乗って槍と斧を振るう女性騎士。誠実さは人一倍あり、サーヴァントとしての在り方には最も順応しやすい性格である。彼女自身に自覚はないが、その誠実さが人を惹きつけることもしばしばある。
マスター ハーリヒト
赤のマスター陣営の中でも、ゼルクに続く年長者。魔族と人間の混血であるが故に、互いを敵視している魔族からも人間からも敵視されることに。しかし、本人はそれをさほど気にしたことはない。逆境に燃えるタイプ。リュエンに加担する理由について本人は話さない。
黒のキャスター 真名 ???
生前の状態で呼ばれている特殊なサーヴァント。魔法の習得を感覚で行えるほど、魔法使いとしての素質を持つ少女。しかし純粋。あまりにもピュア。人を殺すことなどでとてもできない性格である。しかし、意思は強く、望む未来の為なら戦える。
マスター フィラルド
アルアトール帝国第3皇子。口も悪い、素行も悪い。周りの兄弟に比べ、秀でた才能も地道な努力もない彼は、威張り散らし己を強く見せることでしか、強さを顕示できない。しかし行動力だけは一人前で自分が王族であるというプライドだけは決して譲らない。
ローグ
第1皇女の近衛騎士。黒い剣一本を持ち、鎧すら着ずに戦場へと行くのは自分の戦いの腕を過信しているからか否か。しかし、あらゆる戦場を超えてなお、重傷を一度も負うことなく帰ってきている。
目の前に唐突に現れた男について、ゼルクが語る。
「大陸一の剣士は誰か、と問われれば、第1皇子と共に名前に挙がる男だ」
「大陸一の剣士……」
アルトはそれを聞きニヤリと笑う。
「つまり、こいつを倒せば、俺はあの男とも戦える腕になったって言っていいよな?」
アルトは剣士だ。魔法を主な武器にする魔族の中では、その在り方は異端だった、もちろん全く魔法を使わないわけではない。剣と魔法を組み合わせる魔法剣士という表現が一番適した戦い方をする。
「なら、俺があいつと戦う」
アルトは、右に持つ短剣の穂先を向け宣言する。
一方で、黒い剣を持つその青年は目の前のアルトの威嚇や挑発ともとれる行為に微塵も興味を示さず、王子の元へと行く。
「ヴァレル皇子。助太刀をしよう」
「んだ、てめぇ?」
「近衛騎士ローグ。第1皇女の近衛騎士だ。偶然お前が襲われていたから助けたが、姫の敵である以上、敬意を向ける必要はないな。……令呪も一画使用、そのうえでサーヴァントはあのザマ。見事な敗北だな」
「てめえ、誰に向かってその口を動かしてると思っている……俺は皇子だ。貴様を不敬罪として死刑にしてやることだってできる」
「残念だが、近衛騎士の役割は皇子への忠言も仕事の内だ。それは自分の仕える人間だけでなく、皇子や皇女全員に。故に近衛は不敬罪の対象外だ」
「は?」
「お前、そんなことも知らなかったのか。どうやら皇族の中で最も無知というのは本当らしい」
「てめえ、俺に向かって、なんて態度を。絶対に殺す」
「だったら、ここで死んでは意味がない。個々は撤退しろ」
「うるせえ! あの雑魚をもう一度起こして、戦わせればいいだろ!」
「馬鹿め」
「なんだと!」
「あのキャスターを前衛に出してどうする。あのタイプは前衛ができないのは目に見えている。まずはサーヴァントが何をできるかを分析することが肝要だ」
「く……」
「まあ、今日は反省して寝ておけ、後で部屋までは連れて行ってやる」
ローグは第3皇子に開いた手を向ける。
何かの力が発動した。魔法書ではないので、魔法ではないはずだが、一瞬黒い瘴気が放たれたのが見える。
ヴァレルは急に黙り、そして地面に崩れ落ちる。
「何を……」
そしてローグはようやくアルトの方を向く。剣の刃先を向けられているのにようやく気が付くものの、特に警戒することもない。
「ちょっとした報復だ。可愛いお嬢さんを理不尽に殴る野郎にはちょっと眠っててもらうだけだ」
ローグは剣を構え準備をする。
後ろでキャスターが立ち上がった。蹴られたところを抱えつつ立ち上がり、何をしようかとあたふたし始める。
「キャスターのお嬢さん。障壁は展開できるかな?」
キャスターと呼ばれた少女は頷き、魔法を唱え始める。自分のマスターの周りに、球体型の障壁が展開された。これである程度の攻撃から身を守れる。
「よろしい。では、俺が戻るまで耐えるんだ。いいね」
「は……はい」
ローグはサーヴァントが数多く待機する前にも関わらず、ローグは剣を構え戦闘態勢に入った。
これは自殺行為だ。
サーヴァントは通常の人間に比べ、はるかに高い戦闘力を持っている。10年訓練を積んだ戦士が相手でも、戦いにすらならないだろう。瞬間的に命を奪われる。
それは一般人ならともかく、皇族の近衛騎士ともなれば、必ず知っていなければならない常識と言っていい。自身が仕える皇族が参加する聖杯戦争に関する知識の中では最も基礎的な知識だからだ。
「さて、そこの少年。1人で戦うのか? それとも後ろの連中と一緒にやるか?」
「当然俺が……!」
アルトが飛び出そうとした。それを彼のサーヴァントが制止する。
「セイバー?」
「ここは私が先行します」
「でも、俺がやらなきゃ意味ないだろ。俺の実力を試すにはいい機会だし」
「待ってください。あの男は……」
倭刀を前に構え、アルトの前へと歩み出る。
「何か嫌な予感がします。どうか、せめて私も共に行かせてください」
アルトは一瞬断ろうとした。
しかし、自分のサーヴァントが真剣な表情で自分に語り掛けているのを見て、少し頭が冷えたような感覚を得た。
目的は第1皇子への復讐。であれば1対1で戦う必要はない。サーヴァントとともに協力し、それで相手を殺すに至るのならば、それでいい。
剣の道を究めるものとして、1対1で技術を競い合うのは望むところではある。
しかし、それは個人で叶えるものであり、決して仲間との戦いの場に持ち込むものではない。
「分かった、セイバー。頼む」
「はい!」
嬉しそうに頷く赤のセイバーは、その笑みをすぐに消し、意識を変えた。
赤のセイバー、彼女の中に流れるのは人斬りの血。剣の道を究めるためには人を斬ることを厭わなかった一族、その血を継ぐ彼女には、決定的に不足しているものがある。それは人に刃を向けてはいけないという道徳心。
故に彼女は戦える。優しさと剣士としての矜持が両立し得る。
アルトと赤のセイバーが己の武器を構えたのを見て、他の赤の陣営の人間も支援の準備を始める。
「いいか、アルトとセイバーをまだ失うわけにはいかない。アルトに恨まれようとも、ここで近衛騎士を確実に倒しておくぞ」
ゼルクの声に、赤の陣営の魔族たちは遠距離攻撃による支援の準備を行う。
そして赤のアーチャーも、相手の頭に矢の照準を合わせる。
アルトはそれを気配で感じ取る。
本当はフェアではない戦いは好きではないが、今回は拠点が襲われているということもあり、赤の陣営に余裕がない状況。アルトもそれが分かっているため、後ろの仲間たちには何も言わなかった。
その代わり、せめて、宣言することにした。
「悪いが、俺たちは全員が王族を殺すために来た。全員で行くぜ。お前も運が悪かったと諦めて死んでくれ、近衛騎士。王族の弱体化のために、近衛騎士も標的の一人だからな」
「それはそうだろうな」
ローグはそれほど驚かない。
「この顔ぶれを見る限り、お前達は全員がこの国に恨みがある」
「はぁ?」
むしろアルトが驚きの声を上げることになる。
それほど有名人であるはずがない自分たちをなぜ知っているのか。アルトはそれを問おうとしたが、ローグは赤の陣営をもう一度確認し、
「王国に恨みがありそうな活きの良い反逆者候補は、個人的に調べているもんでね。しかし、これだけ揃うと壮観だな」
自分が知る人物であると確信した様子を見せたあと、剣を構え、臨戦態勢に入った。
アルトだけではない。赤の陣営による、王族への復讐心。
リュエンはそれを聞いて少し驚いていた。
これはリュエンがそうしたいからそう言っているのではない。確かにリュエンはライダーにはそのようなことを言ったが、ライダーはリュエンの目的を他のマスターたちに言う暇はなかった。リュエンもここまでで赤の陣営のマスターたちに、自分の望みを言ったわけではない。
つまり、王族の抹殺。それはリュエンだけでなく、赤の陣営のマスター全員の目標であることを示している。その事実に、リュエンは驚いたのだ。
しかし、彼女の驚きに気が付いたのはアサシンのみであり、
「行くぞ、セイバー。あの男を突破する!」
「はい。主殿!」
と、二人でローグに突撃して、戦闘は始まる。
アルトは、自分が未熟なことを十分承知している。確実にあの男を倒すために、サーヴァントであるセイバーの力を頼りにすることは決めている。
当然赤のセイバーもそれを承知している。最初に斬りかかるアルトに続き、すぐに連携ができるように足を踏み出した。
双剣術、アルトは短剣2本による剣技で猛攻を仕掛けるものの、ローグはその斬撃をものともせず、その攻撃が崩れる一手を的確に入れてくる。
赤のセイバーがフォローに入る。倭刀による横薙ぎで、アルトへの反撃を許さず、ローグは後ろに跳躍してその横薙ぎを躱した。
しかし、遠距離による支援組が、跳躍中を狙い支援の魔法、および矢を撃ち放つ。
届かなかった。
不可解な現象が起こったのだ。ローグがその攻撃を認識したとき、第3皇子を気絶させたときと同じ黒い風が、支援攻撃と真っ向からぶつかるように放たれる。
魔法は風に当たった瞬間消え、矢は弾かれた。
しかし、アーチャーは甘くない。正面からの攻撃が防がれるのを見越して、相手の意識の外となる、真上から矢が落ちるように曲射も行っていたのだ。
それをローグは見ることなく剣で弾き飛ばした。
「うそでしょアレ……」
さすがのアーチャーも驚いた様子だった。
しかし、矢を弾くために剣を上へと上げた一瞬のその隙を見逃すほど、赤のセイバーは甘くはない。
その瞬間、彼女の本気を、マスターであるアルトは見た。
全力でも近づくのに三秒かかりそうな距離をたった一瞬で、赤のセイバーは肉薄する。
まさに神速の剣。そこからの彼女の怒涛の攻めは、人技とは思えないほどの速度の高速剣舞。
確かにその攻撃には魔力が乗ってない。しかし、そんなものは必要ないのだとみているものすべてに思わせる。培ってきた技が赤のセイバーの剣技のすべてだと否応なしに判らせるものだった。
確実に、近衛騎士であるローグを追い詰めている。十五の剣戟、その間に、二か所の斬撃の痕がローグに刻まれた。
アルトも止まってはいられない、赤のセイバーの邪魔をしないように気を付けつつ距離を詰めた。
すでに、ロウロとハーリヒト、そして赤のアーチャーは次弾の準備を完了している。
アサシンは感心した様子でその戦いを見ていた。
「何サボってるの?」
マスターであるリュエンの問いに、アサシンは意味不明な回答をする。
「俺が手を出すと帰って場を混乱させるかもしれん。個々は、連携を磨いてきた仲良し連中のお手並みを拝見しようと思ってね。それに」
「それに?」
「あのローグと言う男、嫌な予感がする。もしものことが起こったら、俺が動かねばならん」
嫌な予感とは何か。リュエンには分からない。
確かに最初の支援攻撃ははずれ、今はセイバーのサーヴァントと斬りあっている。しかし、状況は見る限り赤のセイバーが有利だ。徐々に相手を追い詰めているのは素人目でも分かるのだ。
リュエンはそこで、この状況の異質さに気が付いた。
しかし、それはすこし遅かったかもしれない。
「せあ!」
とどめとばかりに振るった赤のセイバーの一撃を潜り抜け、ローグは赤のセイバーを放置した。
「な……!」
ローグが向かう先はアルトの方角。
アーチャーの弓と、ハーリヒトの放った魔法は、ローグに届くことなく消え去る。
「まずはお前だな」
サーヴァントの攻撃を潜り抜け、マスターであるアルトにローグが向かう。
アルトは右に持つ剣を突き出すが、それはあえなく躱され、相手からの斬撃を左の剣で受け止める。
アルトは2本の短剣使い。双剣術は主に防御に長けた剣術で相手の攻撃を、片手に剣を持つよりも多くの角度から受け止められるのが強みである。
三連の斬撃を弾き、受け流した後、アルトは剣に炎の魔法を乗せる。炎をジェット噴射させ斬撃の速度を上げる。威力を上げるだけが魔法剣の強みではない。
「……くっ……!」
5連続のアルトの中で最速の攻撃を、ローグはすべて捌いて見せた。
そして一閃。狙いはアルトの剣だった。体への攻撃ばかりに注意をしていたアルトは、右手の剣を弾き飛ばされてしまった。反射でアルトはすぐに後ろへと跳躍し距離を取ろうとする。
ローグはそれを逃さまいと、距離を再び詰めようとするが、すぐに赤のセイバーがフォローに入る。
ローグの剣が、黒に近い紫の闇を纏う。
セイバーの三連撃は一呼吸。瞬きの間に3つの太刀筋を描くと言っていい速さだった。にも拘わらず、ローグのその剣はそれと同等、もしくは、その瞬間だけは赤のセイバーの剣速を凌駕していたかもしれない。
結果、赤のセイバーは押し負け、後ずさりをする。その隙をさらについて、セイバーとアルトを抜け、ものすごい速さで、支援を行っているロウロを標的に迫ってくる。
ロウロは今度は威力の高い魔法を、そしてアーチャーは再び矢を放つが、ローグが起こす黒い風によってこれまでと同様に防がれた。
ここまで見れば、もはやリュエンの疑いは、疑いではなく事実だった。
強すぎる。端的に言えばその一言に尽きる。
ローグは近衛騎士だ。つまり人間だ。否、たとえ魔族でも、セイバーのサーヴァントと斬り合って無事に済む人間などいていいはずがない。サーヴァントは、人では敵わない絶対的な力を持っているからこそのサーヴァントなのだから。
赤のセイバーが弱すぎるというわけではない。今までの動きを見れば、彼女の剣の腕は冗談でも並み程度とは言えないことは明らかだった。
赤の陣営全員を相手に、戦いを仕掛け、自身に迫る猛攻をすべて防ぎながら、セイバーを潜り抜けて後方支援者への攻撃へ走る。これがたった一人の、それもサーヴァントではなく人間の行為などと誰が信じられようか。
「マスター?」
「アサシン……あんなのがいるのね。この世界には」
「ああ。おそらく俺一人ではいつか足元掬われる」
「何が言いたいの?」
「……利用できるものは利用しろ、と言うのが一番いいかな?」
アサシンはリュエンにそれだけ、忠告のように言い残した。
これまでで分かっていることは、魔法と弓の効果がないということ。黒い風で消されてしまう。
そうなるとロウロにローグを止めるすべはない。彼は魔法書使いであり、戦う術は魔法しか持っていない。
「ロウロ!」
ゼルクが叫ぶ。ハーリヒトもロウロを救おうとするが、もはや間に合わない。
黒い剣が迫る。
ロウロは目を閉じた。
「アサシン!」
唐突に声が響いた。それは魔王の後継者の声。そして、そのサーヴァントの迎撃を命じた声だった。
ロウロの目の前にアサシンが、双剣を持って立ちはだかった。
「……!」
ローグと赤のアサシンの激突。二十数回の剣戟の後、アサシンは相手を蹴り飛ばす。
サーヴァントの攻撃だからか、その衝撃はあまりに容赦がなく、一気に50mほどの距離を吹き飛んだ。
ローグはそれを受けてなお、特に痛がる様子も見せず、立ち上がる。
「く……アサシンかあれ?」
ローグは一言呟いた。
「リュエン、ありがと」
死にかけだったロウロからの礼に、一番驚いていたのはリュエンだった。
「え、私?」
無我夢中で、実は助けようと意識をしての行動ではなかったのだ。本当はまだ仲間と認めたわけではなかったつもりだったが、いざ目の前で人が死ぬとなると黙っては見ていられなかったのだろう。
リュエンの中に残る良心のかけらが、彼女の体を勝手に動かしたのだ。故に、今、この状況に一番驚いているのは、当の本人だ。
アルトと赤のセイバーも体勢を立て直し、継戦の構えを見せる。しかし、
「ある程度赤の陣営の情報はつかめた。今日はここまでだな」
ローグはそう言って剣を鞘に収める。
「お前、なんのつもりだ!」
「赤のセイバーのマスターくん。君程度の実力では1皇子は殺せない」
「何……!」
「近衛騎士として俺はあの方を見てきた。あれは傑物だ。生半可な覚悟で挑まないよう気を付けることだ」
一度あくびをして完全に戦意を収めたローグは、キャスターの少女を立ち上がらせ、第3皇子を担ぎ上げる。
それを見て追撃をしようとするアルトをセイバーが制止する。そして後ろを見るように誘導する。
ロウロが尻餅をつき、過呼吸気味になっているのが目に入る。
「主殿。これ以上はロウロ殿が……。一度、落ち着く時間が必要です。それに、あれほどの男ならば、逃げようと思えばすぐに逃げられたでしょう。それだけの速さと技を持っているように見受けられます。これ以上の深追いは、誰かが犠牲になる可能性も高い。そうなればロウロ殿が狙われる」
「く……」
「今は、守りに徹しましょう」
自分のサーヴァントの忠言に素直にアルトは従った。
それを見たローグは、少し笑みを浮かべ、
「いい判断だ。血迷いやすい性格を良く抑えたな少年。安心しろ、いずれ黒と赤が決着をつける時が来る。その時にまた相手になってやるさ」
それだけアルトに言うと、今度は赤の陣営全員に聞こえるよう声を張った。
「我らアルアトールの近衛騎士は、対サーヴァント戦を想定して特殊な訓練を受けた帝国最強の騎士10人。この聖杯戦争。黒の陣営と戦うのなら、マスターとサーヴァントだけがお前らの敵、というわけではないことを良く知っておくことだ」
それだけ言うと、ローグは後ろを向き、王宮への帰り道を歩き出す。
結果的に言えば、赤の陣営は今日の寝床になる拠点を守り切ったことにはなるが、敵となる帝国の強さの一端を見せられたような感覚に、アルトとロウロは言葉を失う。
その中でリュエンは一つの疑問をぶつけた。
「私たちを取り逃がすつもり? 王国の近衛騎士が、手ぶらで帰るの?」
まさしくこれは挑発と受け取れる言葉だった。しかし、リュエンにとっては単なる疑問だった。
幸運にも、ローグは後者として、その言葉を受け取り、真摯に答えた。
「皇子の命乞いの代わりさ。情報を提供した。代わりに今日は、この馬鹿皇子とキャスターを見逃してくれ。さすがに呼ばれてすぐにキャスターのお嬢さんがいたぶられて死ぬのは見たくなかった。まあ、このクソ皇子は死んでも良かったんだが、令呪がある以上は見捨てるわけにもいかないんでね」
それ以上は何も言わず、夜の闇と同化して消えていった。
戦いはここで終わった。
ハーリヒトがリュエンに馴れ馴れしく近づく。
「さっきはサポートありがとう。リュエン」
「別に、それより、ここにいる人みんなここの帝国に恨みがあるって本当?」
「あ、ああ……、それはまあ、本当なんだが……」
ハーリヒトは周りを見渡すが、ゼルクとロウロはアルトと赤のセイバーの体の傷を確認していて、赤のセイバーは、赤のアサシンと何か話こんでいる。ライダーは引き続き、エイリの警護と周囲の警戒に意識を向けていた。
「まあ、今は詳しい話ができる状況じゃないな。ちなみに俺の理由は秘密だ」
「ふーん。でも、帝国と戦う気があるのは本当なのよね?」
「ああ。連中と同じ聖杯戦争っていう舞台に立てば、奴らも俺らを無視できない。皇族とやり合うチャンスも生まれるってもんだ」
彼らの過去に、リュエンは興味を持ったわけではない。
しかし、使えるとは思った。自分の復讐のために、この、自分の仲間と自称するこの魔族たちを。サーヴァントを。
(利用できるものは利用しろね……)
アサシンの先ほどの言葉を思い出す。
今の攻防を見て、皇族殺しが凄まじい難易度を誇ることを理解した。
難易度が上がったと理解したならば、それ相応の準備をしなければならないのは世の常だ。それくらいはリュエンも理解している。
故に、ハーリヒトに、こう伝えた。
「私はまだ、あなた達は仲間とは認めない。けど、本気で帝国と戦うつもりなら、利用させてもらうわ」
彼にそれを伝えると、
「ああ、いいとも。ジャンジャン利用してくれ。俺達はそのためにここに来たんだからな」
と、利用されるのを歓迎する。
(なんでそんなさわやかに……)
目の前の男の真意は分からず、リュエンは口をへの字にして、機嫌を悪くした。
赤の陣営の紹介を含めた、赤の陣営最初のエピソードはここまでで一区切りです。
次回は、再び主人公サイドに戻り、いよいよ、レンの聖杯戦争が始まります。(予定)