ファイアーエムブレム / 聖杯大戦(Fire Emblem / Holy Grail Grand War)   作:femania

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注意事項

・連載小説初心者です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品です。元と性格や行動が違うことがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・この作品オリジナルキャラも人物描写はスキップしている場合があります。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・作品はほぼオリジナル展開であり、オリジナル設定も盛り込んでいます。ファイアーエムブレムのキャラを動かすにあたり、素材を最高に生かそうとした結果、原作とは矛盾が生まれることもありますが、この世界独自のルールとして受け取ってください

これでOKという人はお楽しみください!


1 開戦
1-1 夢(1)


 どれほどの時が過ぎようとも、忘れることのない後悔がある。

 

 寝ていると、たまに夢に見るのだ。その光景を。

 

 

 アルアトール帝国には、大陸各地の子どもをスカウトし、帝国の騎士や兵士、王国の事務員などにする制度がある。教養のある貴族の子供だけでなく、身分が低い、貧しい人間も同様に集め、真に国に役に立つ人間を養成する。国家公務員はやはり、無能であるよりは有能である方がいいという考えから、第三代皇帝の時代から始まった制度である。

 

 スカウトされた人間は、アルアトール本城に集められ、城に近い敷地に建てられた学校なる建物で、集団生活を行う。

 

 学校では、法律の勉強、才能に合わせた武術や魔法書物を使った魔法の訓練、集団行動の基礎、王国に仕える者としての心構えなど王国士官になるための基礎の内容を、十二歳になるまでは学ぶ。徴兵制に似た制度だが、強制的に集められた割には、学び舎は本当に学校そのもので、学習している内容や、毎日5時間の戦闘訓練以外は、いろいろと自由な時間もあった。7日に1日は休みがあったし、普段は学内の寮で過ごすものの、自由時間は外に遊びに行くことは許された。だから、そんなに悪い思いはしなかったと覚えている。

 

 

 今日はこの夢か。

 

 俺は情けないながら、魔法というものがある事すら、アルアトール本城城下街に来てから初めて知った。当然それが、主に軍事活用されるための武器であることも。

 

 この話をするのは、今日の夢と関係があるからだ。

 

「くそー」

 

 ある日のこと。

 

 教室で魔法を使う前の基礎として、魔法書を用いた魔法理論を学ぶ授業がある。先ほ

ど、中間試験があり、俺は見事に、100点中12点というクラス最下位。他の追随を許さないぶっちぎりの素晴らしい結果だった。

 

「ねえ、普通に勉強しても30点は取れると思うのだけど。もしかして昨日、勉強してなかった?」

 

「リュエン、なんだよ」

 

「アレスは100点だった。リリエラは98点。私も」

 

「うるせー、俺だって好きでこんな点数なわけじゃないんだぞ」

 

 俺をからかってきたのはリュエンだった。

 

 周りの男子生徒から嫌な目線を向けられる。別に俺が何か悪いことをしたわけではなく、そもそも俺がリュエンに話しかけられているということ自体が罪だという感じだ。

 

 リュエンは容姿端麗な方の部類に入る女子だった。周りの男子を目を引き、よく注目の的になっている。魔法学、魔法の訓練では常にトップクラス。信じられないほどの魔法の才能を持っていると魔法の教官は言っていた。

 人当たりも基本穏やかであり、人気者まではいかなくても、嫌われ者ではない。

 

 逆に人気者と言えば、今も休み時間に、別の男子を誘って剣術の自主練に向かったアレスと、リュエンと同じ、大陸西の大都市、ルフェリアスから来たリリエラだ。

 

 アレスはアルアトールの皇子である。なので本来であればこのような学校にはいないはずだ。しかし、以前にも第一皇子のフィラルドが何故かこの学校に通っていたのを聞き、自分も同じようになりたいと思い、入学したとか。

 

 リリエラは、リュエンと同じくらいの魔法の知識・技術を持っている少女だった。リュエンと違い、口は達者でノリがいいので、いつもクラスの注目の的になっている。

 

「このままじゃ補習だよ。次に合格できるまで、教官は寝かさないって言ってた」

 

「ええ……ええええ!」

 

 冗談じゃない。

 

 そんなことになれば、俺は死んでしまう!

 

「やばい」

 

「はぁ……しょうがないなぁ」

 

 リュエンは焦った俺を見て満足したのか、にっこり笑って、

 

「じゃあ、私が、今日教えてあげる」

 

 と、とても魅力的な提案をしてくれた。

 

 周りの男子の視線がさらに痛いものに変化していくが、それはそれ。死なないためにも周りの野獣の嫌な目線よりは、教官の地獄の補習を回避しなければならない。

 

「おう、頼む」

 

「なんか誠意を感じない。私も貴重な自分の時間を潰すのに」

 

「あ、ええっと」

 

 彼女の言うことも正しい。善意の押し売りという形で誠意を見せろというのはかなり卑怯な話ではないかとも思ったが、それよりも補習が怖いので、

 

「よろしく……お願いします」

 

 俺は素直に従った。

 

「いいよ、じゃあ、準備してくるね」

 

 勝ち誇ったよ笑みを見せ、リュエンは教室を飛び出した。

 

 おまえー!

 いなかものー!

 くたばれ!

 

 など、周りから聞こえてくる声を無視して俺も、逃げるように教室を後にする。

 

 しかし、教室を出てすぐ、まるで俺を待ち伏せしていたかのように、リリエラとアレスが待ち伏せていた。俺はそこで立ち止まることになってしまった。

 

「さいてー、とか?」

 

 リリエラが早速、俺のことを茶化してくる。

 

「リリー……今はやめてくれよ。あいつらが」

 

「ははは、ごめーん」

 

 一応謝るリリエラ。しかし、

 

「代わりに勉強付き合ってあげるから」

 

 と、さらに余計なことを言ってくれる。よりにもよって、教室のすぐそばでだ。

 

 なので教室の中に残っていた男子が、もはや視線だけでなくあからさまに顔を歪めている。怖い。

 

「俺は構わないけど、リュエンにOKはもらったの?」

 

「うん、さっきすれ違った時にね。なんだかおもしろそうだったから、混ぜてくれって

言ったら、お前の勉強だって聞いて」

 

「混ぜてって、俺の勉強の邪魔するつもりか!」

 

「ははは」

 

 当然のように頷くアレス。

 

 リュエンもアレスには甘いものだ。いくら皇子様だからって、遠慮せずに、いらない、とでも言っておけばいいのに、と思うが、冷静になってみると、皇子様に余計なことを言えば、不敬というだけで罪になることもあるという。

 

 皇子様の怖いところだ。

 

 しかし、もちろんリュエンはそんな理由で、アレスの提案を受けたわけではないと思う。もっと大きな別の理由がある。

 

 それよりも、たんに面白がっているリリエラは、別にいらないだろう。

 

「じゃあ、この後レンの部屋ね」

 

 そして当たり前のように俺の部屋に上がろうとするのだ。あんな狭いところに、4人も入ったら暑い。

 

 そんな心配もなんのその、アレスも皇族のくせに、礼節知らずで、他の3人は容赦なく俺の部屋へと足を進める。

 

 せっかく前の休みに買い溜めしたお気に入りおやつの、はちみつパンも彼らに食いつくされることになるだろう。

 

 もっとも、田舎出身の俺が、こんなに都会で友達ができるのは本当に幸運だったと思う。

 

 我は強いがとてもいいやつらだ。初めてできたこっちでの友達相手なら、はちみつパンくらいは我慢しよう。

 

 その代わり、しっかり勉強を教えてもらわなければ。そう思った。

 

「何やってるの? レン、アレス、リリー!」

 

 向こう側から、もう待ちきれない様子で手招きをするリュエンの姿が見える。

 

「早く、行こう!」

 

 俺に勉強が教えるのを楽しみにしているような顔で呼んでいる。俺は、二人と一緒にその方向へと足を踏み出した。

 

 結局はちみつパンは予想通り食いつくされた。

 

 何しろ10個もあったのに俺は1つも食べていない。食いつくしたのは残り3人、リリエラが2つ、アレスが3つ、なんと隠れ大食いだったリュエンが5個も食べたのだった。甘いものには目がないというが、さすがに食べ過ぎであると思う。

 

「おいしー!」

 

 しかし、喜んでくれたなら、それでもいいか、と思った。アレスやリュエン、リリーに喜んでもらえたのだから。

 

 

 

 思えばこの頃は幸せだった。

 これまでの人生で一番幸せだった。

 俺の数少ない輝かしい思い出。毎日笑っていたと思う。

 あの『人生最悪の日』までは。

 

 

 いつも俺の夢は、『人生最悪の日』で終わる。

 

 ――死んでいた。

 

 ついさっきまで一緒に授業を受けていたやつが死んでいた。

 

 学校を夕陽が照らすが、その赤さなど生ぬるい炎の地獄の中を俺は走っていた。

 

 炎の魔法が暴発でもしたのか。至るところが燃えている。息を可能な限り我慢した。

 

 血が散乱している。

 

 時に、生気を失った人間や、焼けている肉の塊を見た。

 

 身に寒気が走る。

 

 その光景はあまりに容赦のないものだった。

 

 何の罪もない子どもが殺されている。一人残らず刃物で貫かれたように見えた。出身地の牧場で、牛を殺している光景を見たことがあるが、それでは吐き気が起こらなかったのに、今目の前に存在するその光景によって、俺は吐き気を催した。何とか吐かなかったのは血を見慣れているからか。俺はそういう意味では幸運だったのだろう。

 

「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!」

 

 泣き叫びながら、廊下を走っている同級生がいた。

 

 その後ろから、帝国の兵士が襲い掛かっている。

 

 なぜだ。

 

 この学校は未来の王国兵を育てるための建物ではないのか。

 

 しかし、目に入る光景こそ真実に他ならない。それを夢かなんかと勘違いするほど、子供からは脱却できていた。

 

 そしてやらなければいいけないことはすぐに思いついた。

 

 誰が敵か分からない。

 

 誰が味方かも分からない。

 

 それでも俺は友達を助けに行かなくちゃ、とは思った。いつまでもココに居ては危ないかと、あてもなく走り出した。

 

 途中で寄った訓練室で、槍を勝手にとった。訓練用ではなく、人を殺せる本物。俺は魔法学こそできなかったものの、武器を使った訓練であればそこそこいい成績だったから、少しは使える。誰かを殺そうとは思っていなかったが、必要とも思ったのだ。

 

 そして走った。

 

 走った。

 

「レン君!」

 

 魔法学の先生が前に現れた。

 

「先生」

 

「ここは危ないわ。先生と一緒に逃げましょう」

 

「何があったの?」

 

「敵襲よ」

 

「みんなも助けないと」

 

 人の命は大切なものだ。ならば助けるのは当たり前だ。

 

 そう思っていた。

 

 しかし、先生から返ってきた言葉は、

 

「アレス様はもう脱出したわ。もう大丈夫」

 

 2人のことが全く考えられていない言葉だった。

 

「なんでリリエラとリュエンの話はしてくれないの? やっぱり、まだ中にいるんでしょ」

 

「大丈夫、後は私たちに――」

 

 何か嫌な予感がした。

 

 だから俺は先へ走り出した。先生を無視して。

 

「レン!」

 

 微弱な電気が体を襲った。

 

 前に補習で習った、相手を麻痺させる魔法だ。

 

 その場で倒れそうになったけれど、そこは歯を食いしばって耐えた。

 

「待ちなさい!」

 

 その声は、何か鬼気迫るものがあった。

 

 俺を心配してくれたのかもしれない。でも、今は友達が心配だった。

 

 故郷で、訪れた帝国の兵に話しかけられ、そのまま連れていかれたあの日から、俺にできたたった3人の友達。

 

 彼らを助けるために。

 

 寮の入り口から、すぐ近くの木製の階段に二階へと行こうとする。

 

「誰だ!」

 

 すぐにやめた。上げようとした足を元に戻し、十段ほど登った階段を降りて、掃除用具をよく入れる、大きな箱に身を隠した。幸いにも道具は入っておらず、持っていた槍もそのまま一緒に入ることができた。

 

 蓋を閉め、息をひそめ、可能な限りの隙間から、音を聞き取った。

 

「どうした?」

 

「今、足音がしまして見に来たのですが」

 

 帝国の正規兵たちだった。そしてその中心には、兵士の中でもより戦闘技術に長けた騎士という存在もいる。

 

 速まっていく心臓の鼓動を必死に抑える。そして、何が起こったのかを探るためにしっかりと耳を傾けた。

 

「魔族……この学校に100ほど居るようだな。80処理してまだ反応があるとは」

 

「ウリエル様。残りはこの寮になりますが……」

 

「ここまでにいなかったのだ。魔王の血族は生きたまま捕まえろ。それ以外は殺せ。いいか、間違っても生贄は殺すなよ」

 

「はっ」

 

 先ほど俺を追ってきた兵士が再び上へと昇っていく。騎士は、ため息をつきながら、

 

「しかし、魔族の子供がこんなにも集まるとは、我が皇帝も考えたものだ。そして目論見通り、魔王の血筋を持つ生贄も見つけられるとは。……いやはや、恐るべき方だ。それほどまでに聖杯戦争に固執するのか」

 

 魔王? 聖杯戦争?

 

 俺は分からなかった。しかし何かが起ころうとしているのは確かなように思えた。

 

 静かになった瞬間に、俺は箱から脱出し、みんなで勉強会をした寮の部屋へと向かった。

 

 見慣れているはずの第二の家は既に崩壊を始め、見るも無惨なというのはこういうものかと、この時始めて知った。

 

 それでも足は動いた。それだけ俺にとってここでできた友達は大切だったのだ。

 

 だから――それを見た時は、子供なりに絶望を味わった瞬間だった。

 

 俺の部屋。

 

 この前まで、はちみつパンをおいしそうに頬張っていたはずのリリーが、全く同じところで、腹から血を出しながら倒れていたのを見た。

 

 

 

 

 目を覚ます。

 

 今のは夢だ。

 

 もう何年前の話になるだろうか。俺は、すぐに着替えて、顔を洗った。そして、着替えながらあの後のことを思い出していた。

 

「……またか」

 

 今も俺はアルアトールにいる。リリー、リリエラが死んでからどうやって俺が生還したのか、それもはっきり覚えているが、どうやら今日の夢では見なかったようだ。

 

 すでに夜明け。

 

 俺ももう、19歳になった。

 

「行くか」

 

 俺は自分に与えられた、今の寝床である、城内の一室を抜け出し、外へと足を進める。

 

 向かう先は城の3階。その階層の中で最も大きな部屋だった。さすがは皇族の住処とだけあって、城内を飾る装飾は豪華絢爛の一言に尽きる。しかし、そこかしこに傷が見受けられるのは、この皇族の業とでも言うべきものだろう。

 

 聖杯戦争。

 

 昔は俺もあまりに無知だった。せめて、その存在と魔族という言葉さえ知っていたら、もっと――。

 

 いや、それはあまりにも仕方のない後悔だ。

 

 これ以上を考えることに意味はない。

 

「レン様」

 

「おはようございます、ハナムさん、クラウスさん。夜分の護衛ご苦労様でした」

 

 ハナム、クラウスはともに目の前の部屋の主の護衛である。

 

 俺に比べ10歳は年上の彼らに『様』をつけられるのは、こちらも反応困ってしまうのだが、それも主の命令であれば仕方がないのだろう。主の目がないところでも言いつけをしっかり守るあたり、帝国一の忠臣と呼び声高いお二人だ・

 

「後は代わります。お二人はどうかお休みになられてください」

 

「何をおっしゃる。レン様。あなたを失えばアレス様は発狂してしまうやもしれませぬ。あの日より、あなたはただ唯一のご友人。兄弟も、親も信用されていないあの方の唯一の心の拠り所でございます故、あなた様だけに、危険な護衛の仕事をさせるわけにはまいりませぬ」

 

「しかしハナム様、私もすでに近衛騎士に選ばれておよそ2年。今までは新米であるが故に見逃されてきましたが、これから先はさすがに一人で任務を遂行できなければ、帝国の近衛兵として恥となってしまいます」

 

「……では、このハナムは姿を消しましょう。クラウス、行くぞ」

 

「は」

 

 そう言って二人はこの場を後にしたが、果たして本当に休んだかどうかは疑問が残る。

 

 それはさておき、俺は先ほどの二人の後輩にあたる近衛騎士になっていた。

 

 アルアトール皇族は、齢20になるまでは王国の兵士の中でも特に実力のある近衛騎士をつけなければならないという慣習がある。近衛騎士とは、主である皇族の近くを歩くことが許され、皇族の身に迫るあらゆる危険から、皇族を守ることを仕事とする。

 

 仕事としては当然、物理的に外傷を負わせる暗殺者や襲撃者の撃退も含まれるが、公務やそれ以外にも日々の悩みの相談に乗り、後続の心理的負担を軽くすることも仕事の内だ。

 

 そして俺が近衛騎士に選ばれたのは、主にそのメンタルケアの仕事をするためだ。

 

 俺は扉を4回たたく。

 

「アレス。入っていいか?」

 

 本来は呼び捨てなど死罪に値するのだが、俺は彼からそう呼ぶように命令されている。

 

「ああ。来てくれ」

 

 俺は部屋に入る。

 

 その部屋は俺の今の部屋よりも数十倍広く、人が数人並んで寝られるほどの寝具、そして服を入れ、飾る棚、化粧台、後は多くの本が並ぶ本棚と、日が差してくる窓があるが、それ以外には何もなく床には何も転がっていない整頓された部屋だった。

 

 俺は入り口で待機した。

 

「座っていいぞ」

 

「いいや。ここで。すぐに出るだろう?」

 

「知っているのか?」

 

「さっきここに向かう間に聞いた。皇子たちが戻ってきているんだろう」

 

 アレスは一度ため息をつき、しばらく黙り込む。

 

 俺はその理由を知っている。皇族は20を過ぎたら、例外2つを除き、本城を離れ、帝国の要所である数か所の街のどれかに自らの屋敷を構え、その街を治めなければならない。

 

 では例外とは何か。一つは、アルアトールの今の皇帝が亡くなった時、しかし、皇帝は今もご健在だ。

 

 ならばもう1つしかない。

 

 それは、最期の皇子が十分成長をした際にに行われる儀式。

 

 あらゆる願いを叶える願望器であり皇帝たる、聖杯を奪い合い、次の皇帝を決める継承戦争となる、聖杯戦争を始める時。

 

「アレス、どうした?」

 

 アレスはアルアトール帝国第5皇子。王位継承権を持つ彼は聖杯戦争に必ず参加しなければならない。

 

 聖杯戦争は文字通り戦いそのもの。サーヴァントという、この世界に語られている神話や物語の中に出てくる英雄をこの世界に降臨させ、最後の1人になるまで殺し合う。

 

 それも厄介なことに、興味のある人間だけでやればいいものを、継承権がかかっているというだけあって、皇子は必ず参加しなければならない。逃亡は死刑、殺す必要がないにも関わらず、皇子はただ1人になるまで、殺さなければならない。

 

 自分が死ぬかもしれない戦争がすぐそこまで迫っているのだ

 

 アレスが心穏やかではいられないのも無理はない。

 

 なぜなら昨日まで当たり前のように家族であった兄弟と殺し合わなければいけないからだ。

 

「……ごめん。ちょっと辛気臭い顔だったな」

 

「いいや。その……心中察するなんてことは言えないけどさ」

 

「いいんだ。俺も待っていた、この時を」

 

 アレスは最後の上着を来て、近くに置いてあった剣を腰に吊り、玉座へ向かう準備を整える。

 

「待ってたって」

 

 昔と違い、こいつはあまりよく笑わなくなった。作った笑顔は何度も見ているが、心から笑っているのは何度だったか。おそらく数えられる程度しかない。

 

 本来であれば、俺はアレスを精神的に支えるはずの立場なのに、アレスの心労は、『人生最悪の日』を過ぎて以来全く取り除けていない。

 

 忘れろ、ということはできない。

 

 なぜなら、俺自身が、今もあの日に執着してしまっている。そんな人間が、同じ――いや、俺よりももっと心に傷を負っているだろうアレスを慰められるのか。

 

「安心してくれ。もう、大丈夫だ」

 

「でも、これから殺し合いだ」

 

「分かってるよ。悪いな、お前だってこの時のために必死に頑張ってくれてたのに」

 

 先ほどまでの迷いのある顔でなく、いつものキリっとした顔に戻ったアレスは、以前に比べてまさに女子が夢に見そうな王子様の顔だった。

 

 その裏に、とんでもない憎悪を隠しているとも思わせないような。

 

「アレス。いいのか?」

 

 部屋を出て、現在の皇帝がいる玉座へ向かい足を動かし始めるアレス、その横を俺が、片手で剣の柄を握りながら歩く。

 

 それを見て、

 

「逞しくなったな」

 

 というアレス。

 

「なんだよ」

 

「いや、感謝してる。お前が俺の近衛騎士になってくれてよかった」

 

「なんだよ、たった2年前だぞ」

 

「ああ。でも、お前は俺の要望に応えてくれた。近衛騎士の試験を乗り越えてここに来てくれた」

 

 アレスの要望というのは、自分の近衛騎士を最低3人つけることを5年前に要求されたときに、ハナム、クラウスを戦闘面で選んだ一方、もう一人として、未だ兵士見習いだった俺を指名したのだ。

 

 当然各地から反対の声が上がったのは必然だっただろう。俺は未だなんの実績も上げていないどころか、見習いでしかなく、皇族の近衛が務まるわけがない。

 

 しかし、アレスは、数年待ってでも俺を近衛にすると言い切ったらしい。とにかく信用できる人間が欲しいと。

 

 そう、この男、俺の何十倍の人間とかかわりを持ち、多くの民からも信頼を寄せられている人気の皇子のくせに、他人を全く信用していない。

 

 ――俺は、お前しか信用できない。傍にいてくれ――。

 

 近衛として傍にいることを懇願されてから、俺は必死に訓練をして、苦手だった勉強にも夢中になって取り組んで、3年でようやくたどり着いた。そしてアレスに最初に再会した時に、情けなく泣きながら自分の心情を語り、そして最後に言った言葉が、これだった。

 

 俺は。戦闘面においては、他の近衛の人間に比べ、全然頼りない。ハナムさんなんかと手合わせをしても、30秒で痣を百か所も作られるほど、実力の差は歴然で、そのハナムさんと同じ、もしくはそれ以上の実力を持っているのが他の近衛騎士なのだ。俺なんかがいていいような地位ではないし、周りから罵倒や侮辱を受けるのは当然だった。

 

 それでも、別に構わなかった。

 

 俺は嬉しかった。アレスは、昔となんの変わりもなく、いい奴だったから。

 

 もう、お互い昔のような無知のガキではない。

 

「レン。いよいよだ」

 

 覚悟は決まっているようだ。すでに目は前しか向いていない。

 

「聖杯戦争。俺は勝つ。お互いの夢をかなえるために」

 

 俺が近衛騎士になってから、アレスは俺によく話を持ち掛けていた。友人と交わす何気ない内容も当然、公務についての相談もしたが、それと同じくらいに話し合ったのは、聖杯戦争についてだ。

 

 アレスは俺に語った。

 

 リュエンを助けたいと。今、帝国のどこかに幽閉されているはずの彼女を助けて、魔族の虐殺を終わらせたい、そのために、兄弟を全員殺し、俺が王になる、と。

 

 アレスはリュエンのことが好きだった。それは友としてだけではなく、恋愛感情を含んでいただろう。

 

 持ち前の正義感というよりは、アレスが魔族差別を終わらせたかったのは、リュエンを将来の伴侶として迎えたい、という願望があったからだろう。まだ10歳を超えて多少経過した程度の歳でそんなことを考えていたとは驚きだったが、昔、学校での2人を見る限り、かなりお似合いだったと思う。

 

 俺はアレスに協力するつもりだ。俺だってリュエンを助けたい。

 

 理由はアレスほど見事なものじゃない。ずいぶんと馬鹿げたものだ。

 

 俺の友達を殺した奴らを俺は許さない。それも魔族だからと、リリーを殺し、リュエンを利用しようとする帝国を。

 

 リュエンをどうにかしたいわけではないが、ただ助け出したい。生贄として殺されそうになっているリュエンをいつかこの手で助け出し、聖杯戦争などという馬鹿げた戦争を壊してやる。

 

 そう、俺は、いわゆる、ただ他人の不幸を許さない正義の味方のつもりだ。

 

 アレスとは目的が一致している。アレスは聖杯戦争を手段に、俺は聖杯戦争を壊すために、俺達はリュエンを救い、そして帝国の魔族差別を終わらせ、リュエンを救うのだ。今はもういないリリーのために。

 

「アレス」

 

「ん?」

 

「やっとここまで来たな」

 

「ああ。方法は違うにしろ。俺は兄たちを殺す。お前はリュエンを聖杯戦争の最中に助け出して、俺と合流だ。リュエンを守りながら戦争を終わらせる」

 

「頑張ろうぜ」

 

「当然だ。あの日以来、この時のために生きてきたんだからな」

 

 玉座の間、その直前へと至り、アレスはその、全身を鎧で隠している威厳ある兵士が守る巨大な扉を開けた。

 

 目の前に開かれた、城の中でも最も荘厳な景色。近衛兵である俺でも初めて見た。

 

 本来は皇族と、特別な来賓しか入ることの許されない謁見の間。

 

 アレスの横を堂々と歩く。

 

 俺を突き刺すような目で見て来る人数は半分、興味なさそうにふるまう人間が四割。いつもと同じで見慣れている風景も、玉座の前に来ると、まるで受け止め方が違う。

 

 空気が重い。

 

 それは、玉座に座す、現在の皇帝から放たれている威圧であると分かったのはすぐだった。

 

「誰の許しを得て、私を見る」

 

 皇帝の装束を纏い俺を睨む陛下。体は大きく50歳とは思えない筋肉を身に宿すという話は本当であると俺は確信する。

 

「グランバニア様、いいではありませんか。アレスが唯一心を開く親友ですもの。どうかお気を沈めてくださいまし」

 

 立ちながら、玉座のすぐ横で皇帝をなだめるのはその妻であるルマリアナ皇后。皇女を含め7人の子持ちとは思えないほどに、未だその美貌は健在である。

 

 そしてこの場に集まったのは、皇后様の7人の子供たち。つまり皇族だ。

 

「父上。これで皇族全員が揃いました」

 

 第1皇子フィラルドの提言に頷く陛下。立ち上がり、そして口を開いた。

 

 周りを見ると、近衛騎士たちは、頭を下に向けている。俺もそれに倣い、下に向けた。

 

「この場に集まったその理由、子らよ、分かるな?」

 

 その問いに首を傾げる者はいない。

 

「ついに時は満ちた。今こそ、時代の皇帝を決める時。末であるアレスがもうすぐで成人になろうとしている。今後の王国を担うに十分な成長をしたと判断した。故に、これより、そなたたちには争ってもらう。聖杯戦争、2年前より、細やかに伝えてきた王位継承の儀式だ」

 

 皇帝は立ち上がった。

 

 そして、力強く叫ぶようにして力強く、その言葉を言い放つ。

 

「我が息子たちよ。魔族を滅ぼし光ある世界となったこの世界で、我々は成し遂げなければならない。聖杯の起動を、真にこのアルアトールを支配するにふさわしい力を得ることを」

 

 皇子たちは頷かない。

 

 黙ってその言葉に耳を傾ける。

 

「これは継承戦争。今日を持って貴様らにつけた近衛騎士を解雇する。部外者はこの神秘に触れることすら能わず。これよりは近衛とて戦争に関わることは許さず。これ破るならば、粛清を覚悟せよ。異論のある者はいるか?」

 

 アレスが口を開こうとしたところを、近くの第4皇子が止める。

 

「アレス?」

 

 異変を感じ取った皇帝が、アレスを見るが、アレスは俯き何も言わなかった。

 

 アレスはきっと俺が失職することを防ぐつもりだったのかもしれないが、それは無駄なあがきだ。

 

 皇帝の権力は絶対的。たとえ皇子であろうと、その意向を阻むことは不可能だ。

 

 他の皇子たちにしてみれば、戦いの前に、余計な波を立てたくなかったのだろう。今は、皇子たち誰もがアレスを止めようとしたはずだ。

 

「いいえ……申し訳ありません、陛下」

 

「大人になったものだ。褒めて遣わす」

 

 皇帝陛下は立ち上がり、玉座から歩き出す。

 

「これよりは、地下へと赴く。そこで、貴様らに聖杯と神器、そして王族が代々受け継いできた神秘を見せよう。ただし、これより先は継承権を持つ者しかついてくることは許さない。これを邪魔する者は粛清騎士の剣の錆びになるものと心得よ」

 

 皇帝陛下は歩き出した。そしてそれに続き、フィラルド皇子を先頭に皇子たちは、この謁見の間から出ていく。

 

 俺は皇子たちが完全に部屋から出ていった後、部屋を出ようとするが、それを阻んだのは、他の近衛兵だった。

 

 近衛兵を持っているのは現状第2皇子、第4皇子、アレス、第1皇女である。なんと継承権が最もある第1皇子には近衛兵を自らつけていない。

 

 なんでも、あの第1皇子、剣魔と呼ばれるほどの剣の使い手である。過去に5回の襲撃を受けてきたが、裏社会では有名だったとされる暗殺者を、手段は不明にしても、最後は持っている剣で首を撥ねている。近衛兵ですら、あの皇子勝てるものはいない。

 

 第3皇子が近衛兵をつけない理由は、性格の悪さがある。男を近くにつければ喧嘩の末決別、女をつければ即手を出す。アレスの兄とは思えない行動の悪さだ。

 

 その他の皇子たちは、それぞれ1人、近衛兵をつけている。

 

 そして俺を止めたのは、第2皇子の執事兼、護衛を自称しているセバスティだった。

 

「……なんですか?」

 

 一応聞いたのだが、向こうは心穏やかではないようで、急に殴ってきた。

俺は後ろに跳んで躱すが、直後俺に向かって針のようなものが飛んでくる。服の袖に隠してあったのだろうか。

 

 針は、おそらく毒が入っている。

 

 剣の抜くのが遅く、どう考えても、後ろに跳んだのが運の尽きで、躱すことができない。

 

 死んだ。

 

 と、一瞬思ったのだが、その即死の毒針を弾いてくれた救世主もこの場にいた。第1皇女の近衛騎士、ローグだった。

 

「貴様。近衛の恥であるその男を生かすというのか」

 

 そう、セバスティは非常に俺のことを毛嫌いしている。いつかは殺してやると、時々言っていたらしいが、まさか、玉座の間で殺されるとは夢にも思っていなかった。

 

 対してさすが第1皇女が最も信頼を寄せる近衛兵ローグ。第1皇子の異名、漆黒の騎士に唯一剣で戦えるとしたら、という天才剣士。

 

 先ほどの殺人未遂の執事、そして、この化け物剣士。近衛騎士というのは、このように戦闘面での天才ばかりなのだ。だからこそ、俺のような存在が近衛騎士に選ばれていることに反感を持っている人間は少なくない。

 

「セバスティ、ここは玉座だ。皇女の前で惨たらしい殺人など俺は許さん」

 

「第2皇子は、速やかに王国の恥を処分せよと私に命じられた。貴様は皇族の意志に逆らうというのか?」

 

「ならばこちらも言わせてもらおう。第1皇女様の思し召しだ。ともかく、この場において殺人は許されない。逆らうというのなら、ここで掣肘を加えるのもやぶさかではないが?」

 

「やってみろ」

 

 近衛騎士2人が恐ろしい殺気で睨み合っている中、フードと仮面で顔を隠している第4皇子の近衛騎士はため息をつく。

 

 一方で第2皇女は、俺の肩を叩き、話しかけてきた。

 

「レン様。お怪我は?」

 

「大丈夫です」

 

 皇女たちは基本的に誰に対しても物腰柔らかいタイプだ。俺としても関わりやすい。対して皇子たちは本当にかかわりづらい。皇帝の血を引いていると聞いて納得の威圧を有している。

 

「……それは良かったです。あなたに何かあれば、アレス兄さまが大変なことになりますゆえ。ところで、この後お時間はございますか?」

 

「ご無礼申し訳ございませんが、この後は私、すぐに城下に降りなければならないのです、日を改めれることをお許しになられるのならば、その時は」

 

「まあ、本当。私、久しぶりにレン様の淹れた紅茶を飲みたかったの」

 

「最高級の茶葉を用意いたします」

 

「楽しみだわ。また私が使者を出しますから、それまではどうか。この城下街を離れないでくださいまし?」

 

 第2皇女に俺は好かれているのかもしれない。そしてそれもまたあの執事が気に入らないところなのだろう。一言でいえば『身の程をわきまえろ』ということだ。

 

「また妹を垂らしこんで」

 

 そしてその執事の俺への怒りの火に油を注ぐような言い方で、第1皇女は、俺の前に立った。

 

「ミレーユ様、決してそのようなことは」

 

「妹はあなたがお気に入りらしいから、泣かせたら殺されるって常に心に誓っておきなさい」

 

「当然の心構えです」

 

「ならばよろしい」

 

 この王女は異端だ。他の皇族に比べて威厳がない。当然口にはしないが、ドレスよりは街中の女性が着る普段着の方が似合いそうに見える。当然、見た目端麗なのだが、不思議とそう思うのだ。

 

「レン。今日から聖杯戦争なんだから。アレスとは会うの最後になってしまうかもしれない。聖杯戦争中は会えない可能性の方が多いんだから、ちゃんとお別れは済ませてね」

 

「はい、心得えます」

 

「じゃあね、レン。ローグ、行きましょう。セバスティ、喉が渇いたわ、ついてきて」

 

「しかし……」

 

「もしかして、ここを逃せば、殺す自信がないとか?」

 

「……かしこまりました」

 

 俺からセバスティをちゃっかり引き離してくれて助かった。

 

 皇女二人は、玉座の間から出ていった。

 

 俺はその2人を正常とは思えない。なぜなら今から家族が殺し合いをするのに、なぜあんないつもと同じ顔でいられるのか。

 

 俺は玉座に残っている皇后さまに深々と頭を下げ、そして玉座の間を後にしようとした。

 

 しかし、その前に呼び止められる。

 

「レンさん」

 

「はい?」

 

 皇后さまと会う機会は近衛騎士になってから数回しかない上、公務の中だったので話すことはできなかった。

 

 なので、話をする間柄ではないと思っていた俺は、向こうから話しかけてくることに驚いた。

 

「アレスの事感謝致します」

 

「いえ、そんな、俺は、その」

 

「あの子ね、あなたが近衛騎士になってから、少し心に余裕ができたみたいなの」

 

「え……」

 

「よほど良い精神面での支えができたのね。笑わないけれど、怖い顔もあまりなくなった。それは、きっと心に余裕ができたからだと思う。それはハナムだけでは成し得なかった、あなたがしっかり役目を果たしてくれた証です」

 

「恐れ多いお言葉……」

 

「ハナムも良い後輩を持てて幸せだと、この前言っていました」

 

「光栄の極みでございます」

 

「近衛騎士の任は今日で解かれてしまったけれど、今後もアレスの良いお友達でいてください。あ、そうだ、陛下は快く思わないでしょうけれど、元近衛騎士は私の権限で、聖杯戦争とは関係のない皇女3人の誰かに護衛でついてもらうつもりなの。ソフィアもあなたを気に入っている様子ですし、今度のお茶会、楽しませてあげてくださいね?」

 

「ご期待に沿えるよう、全力を尽くします」

 

 皇后さまも、玉座の間を後にした。俺はその背中を見送り、誰もいなくなった玉座を後にした。

 

 

 俺は城下街に降りる。

 

 街の至る所に建てられた掲示板すべてに、夜間の外出禁止令が出されている。街の人間は、聖杯戦争が起こっている事は知らないものの、夜間外出禁止は今はもう100年以上続く慣例となっているため、今更驚くほどのことでもないらしい。むしろ、新しい皇子の決定がなされる前兆だと、今は、次の皇子が誰か話し合っているようだ。

 

 もとよりそんな話に興味はない。俺はアレスを勝ってもらわなければならない。

 

「見てよこれ。今日……生贄の儀式を執り行うらしいわ」

 

「生贄って確か女の子よねぇ。あんな子供が魔法を使うなんて怖いわぁ」

 

「よくも化け物の分際で、俺達の街に入りびてったよな」

 

 聞き捨てならない話題だった。

 

 俺の耳に聞こえてきたのは、今日、どこかに捕らえられているリュエンが生贄に捧げるそうだ。

 

 当然、化け物などと言いやがったことは許さないが、今は波風立てている場合ではない。

 

 聖杯戦争が行われている最中に、リュエンの扱いに動きがあると思ったので、その時が好機だと思ったが、そんな悠長なことは言ってられなさそうだ。

 

 今日にでもすぐに、無駄なあがきかもしれないが、城下街地下に広がる監獄に突撃してみよう。そう決めた。

 

 俺は城下街にある、城の部屋ではない、もう一つの住処へと走り出す。

 

 すぐに準備をしなければならない。今夜からは戦いになるのだから。

 

 

 

 住処に戻り、俺は大切に飾ってあった一本の槍を持った。

 

 見習いの頃から、ずっと愛用している、俺が唯一、自慢できる業物。

 

 ゲイルスケグル。最上級の武具である、勇者の剣、勇者の槍などの勇者シリーズを凌駕する出来と言われた槍だ。

 

 近衛騎士になったときの見習いにハナムさんにもらってからは大切な任務の時には必ず帯同した。

 

 俺は槍の扱いを最も得意としている。近衛の護衛では剣を使うことを強制されているが、本気で戦うならば槍だ。

 

 俺はそれを持ち、少し振って使い心地を思い出そうと、家の庭に出る。

 

 俺は反逆者になる可能性が高い。リュエンを救出するということは、すなわち帝国に逆らうということだ。継承戦争として正当な儀式となっている、聖杯戦争の邪魔をするのだから。

 

 俺には数多くの敵が襲い掛かるだろう。

 

 アレスが勝つまで、リュエンを守らなければいけない。戦わなければいけないのだ。

 

「やるか」

 

 庭に出ようと、窓を開けた。

 

 風が吹く。

 

 ――何か後ろにいる。

 

 振り返ったそこにはハナムさんがいた。

 

「ハナムさ――」

 

 しまった。窓が開いている。

 

 もう1人が後ろから――。

 

「すまぬな」

 

 体に衝撃が走る。視界が急に黒に染まった。

 




お待たせしました。いよいよ本編です。
プロローグが終わったので、今回からいよいよ聖杯戦争開幕です。

と、その前に、今回は真の第1話です。まだ本格的な戦争の開始はできません。
前回唐突に出てきたレンがなぜあの戦場にいたのか。

今回、そして次回に続けて、この聖杯戦争3人目の主人公であるレンが戦いの場に現れるまでの物語となります。

しかし、私としても、そろそろサーヴァントの戦いを心行くまで書きたいという衝動があるので、もしかすると、次回から始めちゃうかもしれません。

いずれにせよ、お楽しみにお待ちいただけると幸いです。
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