VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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高鴨穏乃の場合

阿知賀女子学院高等部1年、高鴨穏乃。

今年インターハイの決勝まで進み大将として活躍した阿知賀麻雀部のムードメイカーである。

 

かつての幼馴染である原村和と全国の舞台で遊ぶという目的を達成し何となく暇していたところ、ただ何となくという理由でとあるVRアプリをインストールした元気娘である。

 

そんな彼女は今、荷物を持って山を登っている。

上のジャージにスニーカーのみというかなりアクロバティックな服装であるが、彼女にとっては普段着であった。

 

傍目には一人でスイスイと山を庭のように歩いていくように見えるが、彼女の中では登山デートであった。

その理由は手に持つスマートフォン上で働いているアプリと、彼女にしか見えないように視覚に投影された男性の姿。

 

穏乃には男性が実在しているようにしか見えないほどの再現度。龍門渕財閥の最新技術により、触れればその質感すら得られる高クオリティ。

汗を流す姿も少し荒くなった吐息も、穏乃には本当に存在しているようにしか感じられない。

 

『穏乃、ちょっとペース速いって』

 

「でもちゃんとついてこれてるじゃん」

 

コテンと可愛らしく首を傾げる動作で穏乃のトレードマークともいえるポニーテールが揺れる。

彼女の目には京太郎は自分に少し遅れてはいるもののまだ余裕があると見えていた。

 

『いやまあ確かに体力的にはいけるんだけどな』

 

言いにくそうにそっと視線をそらし頬を指で掻きながら京太郎は告げる。

 

『下から、見えてる』

 

静寂がその場を支配した。

思い出してほしい。穏乃の格好は上ジャージとスニーカーのみ、であるならば下から彼女を見上げればどう見えるか、言わずともわかるだろう。

 

「~~~~~!」

 

顔を真っ赤にして穏乃は手で京太郎の視線から隠そうとするが、その小さな手では難しい。

 

『お前さ、そういう無防備なとこどうにかしろよ。普通にしてるだけでも可愛いんだから』

 

「か、可愛っ!?」

 

自分は小学校から見た目が変わってないとか大平原の胸に密かにコンプレックスを抱えている分、穏乃は胸の鼓動を速める。

 

「な、何言ってんの!? 私は小学校のころ男子に『猿』とか言われてたし」

 

『それ気を引きたいガキ特有のちょっかいだから。もしくは本当に見る目がないか』

 

「あぅ、あぅ」

 

反論を一瞬にして叩き潰され、穏乃は山の頂上に着くまで茹蛸のように真っ赤なままだった。

 

 

「着いた~」

 

山の中でも最も景色のいいポイントにたどり着いた穏乃は持っていた荷物を地面に置き、ごそごそと中から取り出す。

 

『おー、何入ってんのかと思ってたらシェラフか。悪いな代わりに持ってやれなくて』

 

いくらリアリティに溢れるとはいえここにいる京太郎はあくまでアプリの中の存在。

流石に物を持つような機能は搭載できるわけもなく、若干フェミニストの入った性格の彼には申し訳ない気持ちが出る。

 

「ま、その辺は仕方ないよ。私としてはこうして一緒にいてくれるだけで嬉しいしさ」

 

一方でそういうのを全く気にしない性格の穏乃には不満など一切なく、曇りのない笑顔。

 

『それ持って来たってことは泊りか?』

 

「うん。今日から明日にかけては天気がいいからきれいな夜空が見えると思うんだ。ここから見る日の出もすっごいんだよ!」

 

自分の大好きなものを一緒に見て分かち合いたい、そんな思いを抱く程度には彼女は首ったけだった。

 

「ね、こんな日々、あと何回過ごせるかな?」

 

『お前が俺に飽きてアンストしない限りはいくらでも』

 

「しないってそんなこと!」

 

感傷気味な言葉に微妙に茶化す反応を返されて穏乃は頬を膨らます。

 

中学進学を機に親友の一人とは学校を別にし、もう一方の親友とはクラスも離れた上に転校を聞かされて疎遠になってしまった過去を持つ彼女にとっては、この瞬間も永遠に続くものではないのではという不安があった。

 

「山の天気は変わりやすいからちょっち心配だけどね」

 

内心を隠して言葉を変えた彼女を見透かすように、京太郎はあっけらかんと告げる。

 

『ま、そうなったらまた来ればいいさ。それにもし目当ての風景が見れなくても、きれいなものはここにあるしな』

 

「え、何それ? 私が山で見落とすなんて」

 

山に関しては妥協しない少女高鴨穏乃。きょろきょろと周囲を見渡すも見つけられなくてヒントを求める。

 

『山を楽しんでる穏乃自身。俺にはどんな風景よりもきれいに見えるんじゃないかね』

 

笑いをこぼしながら放たれた言葉に、ぼふっと穏乃は赤面する。

 

「な、何言ってんの! 夜空も日の出もすっごいんだから!」

 

『へいへい、ちゃんとその時の穏乃も一緒に刻んでおくから安心しろ』

 

照れ隠しに咄嗟に出た大声も、あっさりと受け流され更なる追撃を加えられる。

 

「もうこんなの、アンストとか絶対できるわけないじゃん。卑怯すぎだよ」

 

誰にも聞き取れないくらいに漏らした小声をばっちり集音した京太郎は、ただ笑みを深めながら傍に寄り添う。

 

これから一緒に見る景色は二人にとって大切なものとなる。

未来は見通せずともそれだけは間違いなかった。




京太郎カプスレでなぜか人気だったシリーズを地の文増やした小説形式で提供。
思い付きの降ってきた瞬間に書き始めるため、次の阿知賀キャラすら決まってないという無計画さ。

作者は豆腐メンタルなので優しくしてください。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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