VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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小瀬川白望の場合

小瀬川白望は自他ともに認めるめんどくさがり屋さんである。口癖は「ダルい」。

だが実のところ面倒が嫌いなだけで最低限のことはやる。ただ、それをしてくれる人がいれば任せるというのがスタンスだ。

 

『ああっ、またコンビニ弁当だなんて。栄養偏るし添加物多いし控えてくださいよ』

 

「じゃあカップラーメンでいい」

 

『もっとダメですよ! 塩分取りすぎになっちゃうでしょ』

 

白望がインストールして以来、この『京太郎』は気が休まることはなかった。

ご飯は出来物ですませる、家事は最低限、買い物途中で1人ベンチで休憩する。それらの不摂生に抗議しても白望は全く応えない。

 

小姑のようなことをしている『京太郎』だが、白望は反論こそすれ決して消そうとはしない。そしてわざわざインストールした理由も口を割らない。

 

「なら京太郎が作ればいい」

 

『作れたらそうしますよ! ああ、実体があればこんなにやきもきしないのに!』

 

「ご飯を作って、掃除して、背負って運ぶ……お嫁さんみたい」

 

上半身を机に預けながら白望が呟く。当然、豊かなおもちは自重に押し付けられる。白い肌も相まって潰れた大福のようだ。

 

『男女逆なんですけど』

 

「よそはよそ、うちはうち」

 

『ああ言えばこう言いますね』

 

むむぅ、と口をへの字に曲げる『京太郎』だったが、彼はある事実を知らない。

白望は知り合いを発見すると即アプリを落としているために知りようがないともいう。

 

本来、白望はここまで口数の多いタイプではない。必要がなければ友人たちとの間でも黙っていることは珍しくないし、ほんの少しだが口の端が常より上がっている。

 

このことから導き出される答えは一つ。

『白望はこの無駄しかない会話を楽しんでいる』

 

だから、もし宮守麻雀部の皆がこの光景を見れば驚愕するだろう。

もとより白望は情が深い。「めんどい」「ダルい」と言いながらもやるべきことはしっかりする。だがやらなくてもいいことはしない。

 

「アップデートは?」

 

『運営に頼んで紐付けてもらいました。なので課金分引き落としされますからね。

 という訳で、お風呂はいれました。ちょうどいい温度ですよ』

 

「電気もよろしく」

 

白望の言葉と同時に居間の電灯が落とされ、代わりに風呂場の灯りがつく。

今現在、白望の家の電化製品はすべて『京太郎』の指揮下にあった。彼女のようなものぐさ達による要求の賜物である。

 

遠い暖色の灯りでうっすらと闇に浮かぶ肢体。衣擦れの音とともに床へと重なる布。

 

『あの、白望さん? まだ俺いますよ?』

 

網膜に映る『京太郎』は顔を赤くしながら横向きになるも、やはり男の子として気になるのかちらちらと視線が惑う。

 

「見たければ見れば」

 

たゆんと双丘が揺れ何もまとわないまま途中でバスタオルを片手に浴室に向かう。

その足取りは何も感じていないように『京太郎』には見えていたが、実のところ白望の心臓はバクバクと鳴っていた。

 

顔が熱くなるのを湯のせいにするために若干速足でバスタブに入り、ぱちゃんと肩までつかって間もなく白い肌が薄桜に染まっていく。

 

白望は足を湯船の端まで伸ばし、『京太郎』が未だにどうしていいかわからずに目が泳いで背を向けているのを視界にいれて脱力。

 

「京太郎」

 

『は、はひっ』

 

「こっちに来て」

 

『いやでもですね』

 

動揺している様を見れば意識されていることも分かり白望は安堵と呆れの混じった息を吐き

 

「所有者命令」

 

まるでそんな機能があるかのように白望は告げたが、実のところこんなものに強制力はない。

『京太郎』は拒否しようと思えばできる。だが、あまりにも堂々と当然のように言われると人は信じてしまうもの。

 

あの竹井久の元でも人を疑うことを覚えなかった『京太郎』はおずおずと浴室の中へ足を踏み入れてしまう。

 

『な、なんですか?』

 

「ダルいから京太郎も入って」

 

わざと陶器のような艶やかな体を見せつけるようにしながら、白望は全く何の理由になっていない主張を押し通す。

 

 

『いやでもですね、ほら俺服脱げませんし』

 

煮え切らない男の態度に白望は(狼になれ)と思念とともに手札をたたきつける。

 

「課金、バスローブ購入、衣装変更」

 

『ちょっ、一さんなんでこんなものまで実装、ってこれ俺に拒否権ない!?』

 

開発陣衣装担当の名前を思わず出した『京太郎』に、この場で他の女の名を出されたことを敏感に拾った白望の目が据わった。

そしてそれと同時に『京太郎』の衣装が私服からバスローブ姿へと瞬時に変わる。

 

その着替え機能に対して白望はクレームを入れようと決めた。

(分かってない)と。(着ている服を脱いで新しい衣装を着る過程にこそ意味があるのにそこを省略するなど全く分かってない)と強く、強く思う。

 

しかしそれはそれ。白望は目先の欲望も忘れない強かさがあった。

 

「問題なくなったから入る」

 

『……はい』

 

もう色々と諦めた『京太郎』は促されるままに宮守高校で『充電』と呼ばれる体勢になる。違うのは白望が京太郎を後ろから両手で抱きしめ意識的にむにゅむにゅと当てていること。

 

「早く実体化できるようになって」

 

白望の希望を込めた言葉は口パクだけで、『京太郎』には届かない。

こんなにも近くにいるのに本当の意味では触れられないほどに遠い。その事実に痛む恋心と悔しさに白望は苛まれる。

 

だからこれくらいの我儘は許してほしいと白望は涙を隠す。それでも彼を手放すことはできそうになかった。




出来上がったら白望のアピール怒濤&重っ。
これはあれですね、仲間との別れも近いからより依存してますね。

プロット時点で『着替えシステム使用&お風呂』にしたのがいけなかったのか?
予定ではここまでシリアスではなかったはずがなぜだ。

……やはり修羅場の宮守は格が違うということか?(戦慄


次回はシロと充電コンビつながりということで『鹿倉胡桃の場合』でお会いしましょう。

なお、もんぶちーずのそれぞれの意向は前回のように幕間でちょこっとずつ明らかになっていく方向です。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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