VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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鹿倉胡桃の場合

鹿倉胡桃は130㎝の身長に童顔、それ故に子供と間違えられることが多かった。

だが実際には高校3年、最上級生である。だからこそというべきか、お姉さんぶるのがとても好きだ。

 

『胡桃姉さん、疲れてるなら肩揉みましょうか?』

 

「んっ」

 

天江衣という前例があったので素早くそれを察した『京太郎』は初対面時の対応を間違えなかったため、すぐに気に入られることに成功した。

 

『結構固い……やっぱり受験勉強大変なんですね』

 

「京太郎も3年になったら分かるよ」

 

触れられている暖かさを感じながら胡桃は男の掌の大きさにかすかに吐息を漏らす。

それを疲れているため息だと考えた『京太郎』は首筋から鎖骨、肩へと血行が良くなるように手を動かす。

 

実体のない『京太郎』がマッサージをしても意味がないように思うかもしれないが、温感を受けて血行が良くなる作用自体は働くため割と効果があったりする。

 

「休憩」

 

赤本に付箋を貼ってから閉じ、体を伸ばしてから胡桃は自分のすぐ隣をポンポンと叩き座るよう指示をする。

 

『京太郎』はそれを受けて素直に従い座り、すぐに胡桃は『京太郎』の膝の上に座る。

 

「充電」

 

そう胡桃が『充電』と呼ぶ行為。大抵ぐでんとした白望の膝に座って足をぶらぶらさせていたものだが、今は『京太郎』に対して行っている。

 

白望の『充電』は柔らかく少し低めの体温が心地いい。

『京太郎』の『充電』は少し硬いが暖かくて安定感と安心感がいい。わざと後ろに傾けて頭を胸板にこすりつけるようにするのがお気に入りだ。

 

両肩に添えられた手に気づかいと優しさを感じて胡桃はご満悦。問題は感触はあっても実体はないから本当に体勢を崩すとどうしようもないことだが、そこまで求めるのは贅沢というものだろう。

 

『胡桃さん、これ好きですよね?』

 

その質問に答えるのは口ではなく、体を揺らしてすりすりする行為での回答。

男に包まれるのが心地いいなんて少し前の胡桃自身に教えても否定しただろう。だが今は知ってしまった。

暖かさに微睡み蕩けるように甘い声を上げる。

 

「キス……」

 

『え?』

 

目をぱちくりする『京太郎』の顔を見て、自分の言葉を顧みて急いで続ける。

 

「き、鱚の天ぷらとか夕飯にどうかな?」

 

『ああ、いいですよね。いろいろ天ぷらにしてお蕎麦と一緒とか贅沢じゃないですかね』

 

長野生まれといえば麺の代表は蕎麦である。そして岩手もわんこそばの流れを汲む。よってこの話題は好感度が高かった。

 

だが胡桃の方はいっぱいいっぱいである。なぜ「キスしてほしい」などと言いかけたのか、『京太郎』は弟分のはずと自分に言い聞かせる。

 

だが意識しないようにと思うほど視線は『京太郎』の唇へと向かい、頭の中は勝手に思考が暴走する。

 

(キスされて、そのまま押し倒されて……でも私に興奮してくれる? もしちゃんと大人の女性として扱ってくれるなら)

 

『天ぷらそばなら芋天は外せませんよね。紫蘇にきのこも欲しいかな。エビは高いですかね? どう思います、胡桃姉さん』

 

問いかけられて、胡桃は沸騰しそうになっている頭を冷やすために勢いよく立ち上がる。これ以上触れ合っていてはまずいと何かが警告している。

流されそうになっている自分と脈絡なく立ち上がったことに疑問を抱いていそうな『京太郎』の両方に強く告げる。

 

「買い物!」

 

『ああ、確かに見ながらの方がいいですね。何かセール品あるかもですし』

 

あっさりと納得する『京太郎』を急かすように胡桃は出かける準備をする。

 

外の空気で頭を冷やさなければ。今は受験勉強に集中しなければ後々困る。だから買い物を終えて夕飯を作ったらアプリを落とす。

そんな考えに囚われている胡桃は気づけない。それは『京太郎』がいると意識して集中できないということであり、わざわざ外にまで京太郎を連れ歩くのは一種の買い物デートであるということに。

 

そして行きつく先のデパートの中で胡桃の学友二人がちょうど胡桃の話題を挙げているなど知る余地もない。

 

 

「そういえば最近胡桃の充電率下がってない?」

 

臼沢塞の質問に小瀬川白望は肩を落としながら答える。

 

「私でするのが減っただけだと思う。それより買い物袋重い、塞持って」

 

「え、私に送れってこと? 自分で持ちなよ」

 

「塞は厳しい」

 

既に察している白望とまだ分かっていない塞、その前に他人には見えない『京太郎』を引き連れた胡桃が通った結果

 

「あっ、胡桃」

 

「っ!?」

 

塞に声をかけられた胡桃は咄嗟に逃げ出す。それに呆然とする塞と、対照的に落ち着いた白望。

 

「……塞はデリカシーがない」

 

「声かけただけなんだけど!? というかシロには言われたくない!」

 

後ろから聞こえる声を無視して胡桃は走る。

色々あって思考の鈍っていた彼女は『京太郎』が他人には見えないことすら忘れ『友人にデートを見られた』などとパニック状態だった。

その思考自体が自分が落ちていることの証なのだが、自覚するにはまだ時間がかかりそうだった。




シロに比べると健全な胡桃さん。
ラブコメとしてはこっちのが正しいのですが。

次回は『臼沢塞の場合』か『エイスリン・ウィッシュアートの場合』か少し悩み中。
両方シチュが浮かんでいないので少し時間かかるかもです。


話は全然変わりますが感想欄のはやりんがほぼ自分の頭の中とほぼ一緒で笑ってしまった。
R-18版を求める読者はいるのだろうか? アラサー組は求めてやまないだろうけども。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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