エイスリン・ウィッシュアートは楽しかった。シロに誘われていった麻雀部で輪に入って、豊音が来たことで自分も麻雀を始めてみんなで全国にと夢を描いた。
先生が良くて始めて数ヶ月で実力をつけ、全国の舞台に駒を進めた。
楽しくて楽しくて、だからこそ2回戦でなにもできなかったことが申し訳なくて、団体戦で負けた。
「エイスリンのせいじゃない」、そう皆は言ってくれる。彼女らが本気で言っているのだとわかる。今問うても同じ言葉が返されるだろう。
仲間だからこそ、言えない。エイスリン自身が己のせいだと思う気持ちを打ち明けられる相手は第三者でなければ意味がない。
「ダカラ」
つっかえつっかえに、つたない言葉だからこそ乗せられた思いは重くて、聞いていた『京太郎』は天を仰ぐ。
なぜなら第三者では全くなかったから。エイスリンを完封した相手はオリジナルの部活の先輩であり、つまり被害者と加害者の立場だった。
だが、こんな事実は明かせない。明かせばエイスリンに相談相手がいなくなり、それでも優しい彼女は「アナタ、ワルクナイ」と言うのだろう。かつて自分が言われたように。
だから今は清澄高校の雑用係としてじゃなく、個人としての『京太郎』として話す。
『まあ、きついよな。自分だけが負けるのはいい、いや負けたくないけど我慢できる。でも自分の力不足でチームが負けるのは耐えられない。
そんなふうにさ、泣いたんだ俺も。県大会でさ、みんなごめんって』
エイスリン自身の経験と『京太郎』の中学時代、似ている二つの話にエイスリンの瞳が潤む。
だけど二人は違う。既に飲み込んだ『京太郎』はいまだ道に迷うエイスリンに微笑みかける。
『ところが泣いてる俺をぶん殴ったんだ、あいつら。「ここまでお前ひとりで勝ってきたつもりか、なめんなこのバカ! 負けたのはお前じゃねえ、俺たち全員だ! だから一人で下見んな! 俺らを見ろ!」ってさ』
当時のことを思い出し『京太郎』は苦笑する。
『正直俺を殴ってきたやつはそこまで上手くなかった。なんでキャプテンしてたのか、終わるまで気づかない俺はほんっとバカだったと思うよ』
これはただの自分語り。この話から何を得て何を探すのはエイスリンが決めること。ただその手伝いはしよう。
『引退の日にさ、その手が早いキャプテンに聞かれた。「お前はみんなと戦って、後悔したか? それとも楽しかったか?」ってさ。
そん時、気づいた。俺はただ勝ちたかったんじゃない。ただみんなとの楽しい時間を少しでも長く味わいたかっただけなんだって
だから高校じゃ同じ部活は選ばなかった。俺にとってあの競技はあいつらとの大切な夢だったから。全く別の、新しい仲間を見つけようって思ったんだ』
その言葉に、控室で泣いた豊音の言葉を思い出す。彼女に涙を流しながら告げられた言葉にエイスリンはやっと意識が追い付く。
「この夏、ここにいることができた。そんな大事な思い出の、記念になるんだよ」。豊音のその言葉が今まで以上に深いところまで染み渡る。
『エイスリンさんはさ、みんなと出会ったの後悔してる? それとも楽しかった?』
「スゴク、タノシイ!」
花開く笑顔がエイスリンに戻ってくる。
『ならこれからもみんなと遊べばいい。きっと楽しいですよ』
高校3年生のエイスリンにとって卒業までのリミットは半年と少し。ならたくさん楽しい思い出を作るのに越したことはない。そう思った『京太郎』の言葉に、エイスリンはホワイトボードに絵を描き始める。
「キョウタロ、モ」
完成した絵には宮守女子麻雀部のみんなと『京太郎』が輪になって楽しそうな姿。
『え、俺もいいんですか? でも俺麻雀よわっちいですよ』
「オシエル!」
かつて受け取ったバトンを渡す。後輩がいなかったためにできなかったそれも『京太郎』のおかげで可能になった。今度はエイスリンが先生。
きっと熊倉トシのようにうまくはいかないだろうが、二人三脚はそれはそれで楽しいものだ。
エイスリンのワクワクした姿に『京太郎』がほほえましいものを見る目をしていると、ちょいちょいと体をかがめるように指示される。
よく分からないながらもとりあえず従った彼の首に両手が絡み、引き寄せられて唇と唇が重なる。
突然の出来事に目を白黒させている『京太郎』にエイスリンは天使のような笑顔で告げる。
「オレイ!」
その言葉をそのままに受け取った『京太郎』は(そういえば外国ではキスは挨拶なんだっけ)などとズレたことを考える。
挨拶のキスは頬にするものであり、唇にするのは家族以外では基本的に好いた異性相手だが『京太郎』は素直というか真に受けやすい性格をしていた。
だから今エイスリンがちょっと頬を染めながら相合傘に自分と京太郎、そしてハートマークを描いているなんてことは想像もしない。
エイスリンが天使なだけではなく、小悪魔な魅力を携えて『京太郎』を本気で落としに行くのはもう少し後の話。
過去に試合後に椅子でダレている白望におんぶを要求された時に、蹴とばす絵を見せた程度には悪戯っぽさも存在しているのだから。
泉にはバッサリいかれた京ちゃんの過去話ですが、エイちゃんはいい子なので真面目に聞いてくれます。
おもちがないとはいえ天使なエイちゃんに迫られる京ちゃんは多くの嫉妬を受けるべき。
実は時系列的に並べるとエイスリン→白望・胡桃→塞→豊音の順番だったりします、宮守。
次回は『姉帯豊音の場合』で宮守は終了です。
なので、宮守の後に続く高校を活動報告でアンケートします。感想欄は規定で禁止ですよ。必ず活動報告で!(大事なこry)
期日は10月25日(木曜)の0時まで。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ