とある週末、取材したいと言われて繁華街の駅前に京太郎は赴いていた。
さほど時間がたつこともなく黒塗りの車が目の前に止まり、その中から見覚えのある金髪がさらりと流れ落ちる。
「あら京太郎さん、既にお待ちしておられましたの? 申し訳ありません、少々支度に時間がかかってしまいましたの」
中から出てきた人物、龍門渕透華の姿に目を見開く。抑えめとはいえそのまま夜会に出られそうなドレスに華美にならない程度に飾られたアクセサリー。ルージュを差しているのか桜色の唇、薄化粧に彩られた透華の姿は絵画の世界から出てきたようだった。
龍門渕透華、まさかのガチモードでの登場である。
周囲から「芸能人?」「すごいキレイ」「あんな人が何でここに」などのざわめきが漏れ、その声を逐一を拾っているのか透華の笑みが眩く光り出す。
「あの、透華さん? すごくお奇麗ですけど、今日は取材って話では?」
対する京太郎の姿といえば高校生なりに整えているとはいえ所詮は一つ一つが安物。並べてみれば明らかに釣り合いがとれてないとしか見えなかった。
「ふふ、先に誉め言葉とは紳士ですわね。そう、今日は取材。デートイベントのための取材ですわ!」
「聞いてないです」
「先に言ってはつまらないのですわ。私、サプライズが大好きですの」
(それは知っているが今発揮されても困る)京太郎は心の中だけで呟く。浮いていることこの上ない空間を作り出している主に京太郎は疑問をぶつける。
「そもそもその『デートイベント』ってなんですか?」
「私たちの作ったアプリはほとんど京太郎さん本人と見分けがつかないレベルの完成度を誇りますわ。けれども! そのアプリは恋愛シミュレーションにもかかわらず本人がデートの作法を知らないという有様!
これでは再現しても意味がない、その状況の打破のためにデートしていただきますわ!」
「帰っていいですか?」
「なぜですの!? わ、私京太郎さんに嫌われるようなことをしてしまったのですか? ハギヨシ、ハギヨシ! 好感度を取り戻す方法を教えてくださいまし!」
遠回しに『デートの経験もない童貞野郎』と言われたと感じた京太郎はつい思ったことをそのまま口に出し、慌てふためく透華の様子を見て心を落ち着かせる。
透華本人的には悪気は一切なかったらしいと分かったので、京太郎は態度を軟化させることにした。
「つまり、俺は今日透華さんに恋人のつもりで接すればいいんですか?」
「ええ、まさにその通りですわ! 私を恋人と思って扱ってくださいませ。
けれども今の私たちがペアとしてなり切れていないのもまた事実。ですので、まずは京太郎さんの服装から手を付けますわ!」
透華が指を鳴らすと黒服に車の中に入るように指示され、半ば諦めた気持ちで苦笑しながら京太郎のデートが始まった。
「透華さん、俺をましにするにしてもアルマーニはやりすぎじゃないですか? 着られている感もしますし」
下着を除いてすべてを着替えさせられ、お値段について聞くのすら怖くなった京太郎は透華の半歩前を歩きながら腕を組んでご機嫌な透華を見やる。
「あら、本当はオーダーメイドしたかったのをつるしで妥協しましたのよ。京太郎さんにはイタリアの伊達男が似合うと思ったのですが英国紳士風の方がお好みでした?」
陽気でフランクなイタリア人がナンパをしている姿と英国紳士が女性にバラを渡している姿を連想して、まだイタリアの方がましだと京太郎は結論付けた。
「それに背筋を伸ばして胸を張って堂々していれば服に負けたりしませんわ。京太郎さんは素敵ですもの」
「誉め言葉は嬉しいんですけど、透華さんのような美しいレディをエスコートするには格が足りませんよ。
えっと、ここで昼食でいいんですか? なんか高そうですけど」
腕の押し引きで間接的に案内を受けて表面上は俺が透華さんをエスコートする体に擬態してみた結果、着いたのはとある有名ホテルのレストラン。
「今日はバイキング方式のチョコレートビュッフェですから1人5000円以下で済みますわ。雰囲気もありますから行ったことのない女性を連れていくには十分効果的ですわね」
確かに無理をして出せなくはない。それで5つ星ホテルでスイーツタイムと考えれば格安に感じる。学生にとっては特別感たっぷりでデートの締めとしてはインパクトもある。
本気であるとアピールするなら選択肢として十分だ。スイーツが食べ放題で高級ホテルの雰囲気、嫌がる女性は少ない気がする。
まあ目の前にいるお嬢様にとっては庭のようなものだろうから遊びを加えるとしよう。
「だったら最初は二人で分けっこしませんか? 気に入ったものを10種ずつ別々に選んで相性占いとか」
「あら素敵な提案ですわね、私ゲームとか大好きですの」
被るものが少なければたくさんの味が楽しめ、ほぼ同じなら相性いいねと盛り上がる。どちらに転んでも楽しめる閃きであった。
受付で予約していたことを確認して店内に入れば50種を超える色とりどり。サンドイッチやピザもあって男子も困らなそうだ。京太郎は甘味好きなので元から問題はない。
そうして気になる品を迷いながらピックアップしていき、相性診断のお時間。
「あら、被ったのは2つですわね。相性占い的には微妙ですわね」
肩を落としている透華さんの手を包んで真正面から目を見ながら言葉を紡ぐ。
「違う感性を少しずつ埋めていく。それが付き合うってことじゃないでしょうか。うちの両親からの受け売りですが」
「ふふ、京太郎さんったら。まるでプロポーズですわよ」
笑みを取り戻した透華さんの手から指を放しながら冗談を言い合う。
「それだと先にご両親に挨拶をしないといけませんね」
「ところで京太郎さん、ここにルームキーがあるのですけれどどうします?」
悪戯めいた笑顔でくるりと鍵を回転させる透華さんに肩をすくめながら応える
「透華さん、そういうのは男性の特権のようなものですよ」
「あら。では改めてどうぞ」
「透華、夜景を見ながらシャンメリーを飲んでくれないか」
「っ、とても素敵なお誘いですわ。お受けいたします」
格好つけた小芝居の応酬も含め、京太郎と透華は二人の時間を楽しんだ。
そして別れ際に驚愕の事実を透華は持ちだしてきた。
「え、デート取材は今回だけじゃない?」
「私だけではぬけが、ではなくて、ユーザーに合わせられるように何パターンも用意しないといけませんもの。清澄にもお話をしていますから、彼女たちにもやってもらいますわ」
こうして京太郎は貴重な休日の予定がいつの間にか埋められていたことを知ったのであった。
決して1人ドキドキしすぎて眠れなかった透華の、のんきに熟睡した京太郎への報復行為ではない。
今回の幕間メインは透華さんでした。
基本的にもんぶちーず&清澄の出番は幕間になります。
リアルの方の京ちゃんも意外と大変。本当に取材の必要性があったのかを知ってるのは開発陣のみ。
次回は永水女子。まずは風紀を取り締まりそうな霞さんを先に落としておかないとね。
というわけで『石戸霞の場合』をお待ちください。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ