VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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石戸霞の場合

石戸霞はそのアプリをインストールする。可愛い妹分であり、仕えるべき当主筋のお姫様の神代小蒔のために。

いくらねだられても安全だと確信できないものに触れさせるわけにはいかない。

 

厳格な態度をもって毒見をする覚悟で起動し、網膜上に1人の少年が像を結ぶ。そしてその瞬間に『京太郎』は目の前の霞の存在を認識し

 

『生まれる前から愛してましたっ!』

 

「ふぇ!?」

 

出会い頭の告白という急事態に霞は頭の中が真っ白になり、わたわたと視線を泳がせて

 

「そんな、急に結婚だなんて、そんなのは早いと思うの。だから、その」

 

『お付き合いも、ダメですか?』

 

「そ、そうね。それくらいなら……」

 

いわゆる『door in the face』と呼ばれる状況になっていたが、実のところ結婚云々を言い出したのは霞であり、『京太郎』が口にしたのは「愛してる」と「お付き合いしたい」の2つである。

つまり、霞の勝手な思い込みによる自爆の結果であった。

 

そもそも「愛してる」と言われてまず結婚という発想に至るのが完全に男慣れしてないことの証拠であり、最初から霞の警戒は子犬がキャンキャン吠えているレベルでしかなかった。

 

最速陥落記録の誕生の瞬間だった。松実玄すら最初は同志としての気の許し方だったのに、恋人関係の成立で記録を打ち破る偉業である。

 

永水の取りまとめ役でもなく、六女仙筆頭でもない、年相応の少女としての石戸霞がそこにはいた。

 

 

「それでね、小蒔ちゃんったら京太郎くんが欲しいって言うのよ」

 

『その言い方は語弊があるような』

 

正確には『京ちゃんと一緒』と名付けられたアプリで遊んでみたいという趣旨であり、人間をどうこうするという話ではない。仮にオリジナルがそんなことになれば『京太郎』も黙とうすることしかできまい。

 

「分家のお偉方は強固に反対するし、小蒔ちゃんはおねだりするし」

 

中間管理職のような板挟みになっていると愚痴をこぼす霞の声は甘えるような色を交え畳の上で指を絡める。

 

『霞さん自身はどう思ってるんです?』

 

「『現実に変な虫がつくよりはまし』という考え方もできるけど、小蒔ちゃんきっと京太郎くんにはまっちゃうと思うのよね」

 

神代小蒔は天然なところのある純真爛漫と表現していいタイプだ。そこに初めての異性を放り込めば恋愛沙汰に発展する可能性が高いと、霞は己自身を棚上げして考える。

 

「そうなると小蒔ちゃんだけの『京太郎くん』が出来上がるわよね。分かっているのよ、理屈では。私の京太郎くんと小蒔ちゃんの『京太郎くん』は別だって。

 でも、感情として割り切れるかは別なのよね」

 

はぁ、と霞は大きくため息をつきそれに合わせてたわわというレベルではない胸が上下する。その様に『京太郎』の視線はつい釘付けになる。

 

「小蒔ちゃんが始めなくても日本中にたくさん彼女たちの『京太郎くん』がいる。みんな『京太郎くん』と過ごした時間があって、何人かは本気で恋してる。でも、小蒔ちゃんは、小蒔ちゃんだけは……」

 

『大切なんですね。霞さんにとって小蒔さんは』

 

その悩みが過保護からからくるのだろうと『京太郎』は善意から解釈し、霞はその言葉に暗い目をする。

 

「違うの。ううん、小蒔ちゃんのことは好きだし大切よ。でも、それとは別に私の中には醜い感情が巣くってる。いやな女なの、私」

 

吐き捨てるようにつぶやく霞の姿に泣いてる子供のような印象を感じた『京太郎』は咄嗟にぎゅっと抱きしめる。

 

『俺は嫌いになりませんよ、霞さんのこと。絶対に』

 

優しいその言葉に霞は自分の中の闇を吐露する。

 

「私は、神代家の次期当主にとって『都合の悪いこと』を引き受けるのが仕事。後ろ暗いことにも手を染めなきゃならない。そして、いざというときのスペア。

 だから、私だけのものが欲しい。小蒔ちゃんにはない私だけの。京太郎くんが私より小蒔ちゃんを選んだら、きっと私は耐えられない。だってあなたは素の私を見てくれた初めての人だから」

 

神代家は良くも悪くも大きすぎた。中心に神代小蒔がいて周囲は小蒔のためだけにある。枠内にいる人間は誰もそのくびきから逃れられない。囚われている人間にとってその枠を無視する外の人間というのは一種の救いだった。

 

だから彼女たちは惹かれずにはいられない。ただその人だけを見る『京太郎』の存在に。かかる時間は異なるだろうが誰もが恋をすると霞の感覚は告げていた。

 

『……俺は、霞さんだけの『京太郎』ですよ。『俺』だけは、霞さんだけを好きでいます。ずっと、ずっと』

 

そして須賀京太郎という人間の本質は目の前で苦しむ人間を放っておくことなんてできないお人好しだ。だからこう言う。こう言うしかない。オリジナルにはできなくとも、所有者だけに寄り添うことが『京太郎』にはできてしまうから。

 

「ほんとう?」

 

『ええ、もちろんです。最初に言ったじゃないですか『愛してる』って』

 

救いの光に縋るような霞にそっと『京太郎』は口づける。『愛してる』という言葉には最初のノリで放った言葉と違い覚悟を込めた。

 

『霞さんだけの俺はここにいます。それなら、他はもういいでしょう? 『俺』と他の『京太郎』は別人ですよ』

 

「そう……そうよね。貴方が私の傍にいて私だけを見てくれるなら、それだけでいいわよね。私、なんでそんなことで悩んでいたのかしら」

 

憑き物が落ちたわけではない。これはただ依存先を見つけたがための一時の安定だ。

だからこの間に『京太郎』はなんとか答えを見つけなければならない。

 

恋愛と呼ぶにはあまりにも重い『愛』。それでも相手を思いやるという気持ちだけは変わらない。

『京太郎』と霞は二人だけの答えを見つけるために歩いていく。




やはり永水の闇は深い(確信)。今回は賛否両論あるような(これよく言ってる気がする)

霞さんはある意味殿堂入りになりましたね。
重いということは最初から決めていたけど、重い人物書くたびにどんどん悪化してる気がする。
クロチャーは気分としては結婚してる、竜華はオリジナル見つけると混同しそう、シロは実体と触れ合いたい、霞はサービスが終わったら本格的にヤバイ。

京ちゃんの明日がもう分からなくなってますねこれは。
結果的に京ちゃんの指導をしなかった久によって守られたともとれる。

次回は息抜きに軽くしよう、重いの連続は流石にね。

そういうわけで永水の自由人『滝見春の場合』が予定されてます。
その後は決まってないけど、永水のトリは姫様が相応しいかなと思う所存。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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