VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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薄墨初美の場合

薄墨初美はかつてお姉さんだった。いや今もお姉さんなのだが、成長期を境にお姉さんポジションを霞にとられたというべきか。

悪意があったわけではない。ただ見た目がよりお姉さんぽくお母さんぽくなっていく親友がその見た目通り振舞うようになって、逆に初美は子供っぽく振舞うようになった。

周囲の目に合わせるうちにいつの間にか本当に自分らしさの一部になった、ただそれだけの話だ。

 

それだけの話だが、周囲の成長度が激しく初美がコンプレックスを抱えたのもまた事実。同時に子供のようにではなく女性に対する接し方をする人間は今まで誰一人いなかった。そう、今までは。

 

『初美先輩、巫女服はだけるのやめてくださいよ。目のやり場に困るでしょ』

 

着崩したというレベルではない色々見えてしまいそうな肌色面積に苦言を呈する『京太郎』。

露出自体には原村和や国広一といった独特の着衣センスを持つ面々によって耐性がつけられたものの、男の子にとってつい見てしまうのは反射に近い。

なにより他の男性までは保証ができない。

 

だが女性ばかりの環境で暮らしていた初美の危機意識は決して高くなかった。

 

「なんですか京太郎は私でこーふんするんですかー?」

 

『しますよ』

 

「はいはい、そー……え?」

 

二度見されたので若干顔を二枚目よりに作ってから『京太郎』は告げる。

 

『日焼けあとって妙になまめかしい気がしません? 水着とか連想しますし』

 

言葉には一切の躊躇いがなかった。ついでに視線はまっすぐだった。

予想外の反応に初美は顔に朱を差し、かき抱くように服の襟をつかんで引き寄せながら弱々しく声を漏らす。

 

「ゃ……」

 

その仕草に分かってもらえたと喜ぶ『京太郎』は追撃を放ってしまう。

 

『それです、それですよ初美先輩。その恥じらいがこう大事なんです、隠そうとするからこそぐっと魅力的になるんです!』

 

「な、何言ってるんですかバカ、こっち見るなですよーっ!」

 

ぽんぽんと投げられる物体は当然網膜上に投影された『京太郎』に当たるはずもなく、いい仕事をしたと満足げな男と対照的に息を荒げ真っ赤になった少女は月に照らされていた。

 

 

一夜明けて、それなりに服をただした初美の前に『京太郎』は眼光鋭く正座を命じられた。

 

『あの、初美先輩? なんで俺はこんな格好にさせられてるんです?』

 

「それはお前が私を騙したからですよー。霞ちゃんにお前の好みは私と正反対だと聞きましたからねー。

 嘘をついた罪は償ってもらわないと気が晴れないのですよー。乙女心を欺いておいて即死刑じゃないだけありがたいと思ってくださいねー」

 

笑顔に目いっぱいの怒りを込めた初美の威嚇に『京太郎』は「ああなんだそんなことか」と返し足を崩しながら

 

『初美先輩は好物一つだけ食べ続ければ満足なタイプです? いくら美味しくても毎日は飽きるし他に好きなものも食べたくないですか?

 そりゃ霞さんが魅力的なのには同意しますけどね、初美先輩が負けるって言うのは早計でしょう』

 

あっけらかんと破顔して初美の瞳を見る。

 

『初美先輩には初美先輩だけの魅力があるんですから戦い方も違うでしょ。

 あ、でもあの服の着崩し方はないです。狼の前に餌をぶら下げるようなものですからね。もっと自分を大事にしてくださいね』

 

「でも、でも、私とみんなじゃ誰だって――」

 

張り付いていた笑顔が崩れ、涙が決壊するその寸前で頬がむにっと摘ままれる

 

『おお、頬っぺた柔らかい。あ、今のは罰だから。その『誰か』に俺を含めようとした罰』

 

むにむにと手触りを楽しみながら『京太郎』は言う。

 

『『誰か』とか知らない。そいつら具体的に誰です? 少なくとも永水には一人もいませんね、確実に。当然俺も違うので除外。あら不思議、候補がいません』

 

おどけたように『京太郎』は続けながら摘まんだ手で初美の唇を持ち上げ、笑顔に見える角度を作る。

 

『他に俺が確信を持って言えるのはそう、初美先輩は笑顔の方が可愛いってことくらいですね』

 

顔を近づければ『京太郎』の瞳の中に映る初美の表情が驚きの後ふんわりと優しいものに変わる。

 

「京太郎はすごく変ですねー」

 

『えー? この流れでまさかの罵倒? 初美先輩の中の俺への評価が低すぎて泣きそうです。慰めてください』

 

差し出した『京太郎』の額に弱いデコピンをして初美は笑う。

 

「私を本気にさせたの後悔しても知りませんからね。今度は諦めとか返品はないですよー」

 

額をこつんと合わせての女側からの宣言に『京太郎』は顔に疑問符を浮かべる。明らかに初美の意図をくみ取れていない。

 

「うわ、こいつマジですか? 自覚ゼロとか逆にこっちが信じられませんよー」

 

『ねえ初美先輩、実は俺のこと嫌いなの? そうなの?』

 

もはや呆れしかいだけない『京太郎』の反応に初美は苦笑する。何をどう考えればそういう結論になるのか、今度は初美側が分からない。

この瞬間に初美は確信した。どうやら大変な勝負になりそうだと腹をくくる。だからと言ってもう負けてやるつもりはもう初美の中には皆無なのだが。

 

「私がお前をどう思ってるかは、これからじっくりと教えてやりますよー」

 

無自覚な火付け犯は最後まで自分の状況を理解できていない顔のまま(初美先輩が元気になったからまあいいや)などとお気楽なことを考えていた。




はっちゃん=優希ポジ=悪友の風潮に真正面から喧嘩を売るスタイル、それが今回の話。

親友、姫様、後輩と発育のいい人間に囲まれればね、比べるよねっていう。

あと京ちゃんの食事の例えは深読みすると浮気します宣言にも聞こえるけど、当人にそんなつもりは全くないことを釈明しておきます。

この京ちゃんは衣である程度慣れてるから初美をからかわない分別がついてます。
大人の対応と理解を得たせいで社会問題が加速するという稀有な例。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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