VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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狩宿巴の場合

狩宿巴という人間は永水高校において少々影が薄い……というよりも、周囲のキャラが濃すぎて埋没しがちである。

 

トップは神代家のお姫様にして天然、居眠りさんの神代小蒔。

みんなのお姉さんというかお母さんの風情すら醸し、破格の胸部を持つ石戸霞。

誕生日で言えば誰より早いのに見た目は褐色日焼けロリ、常に巫女服をはだけている薄墨初美。

唯一の1年生にしてマイペースに黒糖をかじるのが幸せ、滝見春。

 

これでは割と常識人でメガネをしているポニーテール3年生では分が悪い。

打ち筋もさほど目立つものでもなく、ただつなぎ役としての役目を果たしているだけに近い。

 

とはいえ蔑ろにされているわけではない。今代の姫様は「みんなと仲良く楽しく」を大事にしてくれるのでインターハイのように大人の目を離れれば露骨に甘えて一緒に遊ぶことを求めだす。その性格には誰しもが救われているし多少の粗相を咎めたりもしない。

 

だが地元に戻れば、やはりどうしてもしがらみが生じる。

狩宿というのは六女仙の中では家格が低い。故にわきまえ遠慮せざるを得ない。さらに巴と春は祓えであり、それは自分は特別にはなれず代わりが利くことを痛感させられる。

 

結局どうしても自分である必要などないのだ。

直接口にされたことこそないが、どうしてもその思いが拭えない。

 

一緒に全国優勝を目指せていた頃はこんな悩みとも離れていられた。夢中になれるものが欲しい、そんなことを考えていたころだった『彼』と出会ったのは。

 

『巴さん、それを世間では縁の下の力持ちっていうんですよ。目立たないけど決して欠かせない……そう、巴さんはそういう存在なんです!』

 

かつてオリジナルが「俺っている必要あるのかな」などと零していたところ、部活の先輩にかけられた優しい言葉に救われた経験から『京太郎』は豪語する。

 

『例え何キロも先にある合宿場にデスクトップPCを運ばされても、練習ごとにパシられても、試合ごとにタコス作らされても、それは必要だからなんです』

 

「私はそんなことさせられないけど。……というか京太郎くん大丈夫? それいじめられてない?」

 

ひどい設定すぎはしないだろうかと巴は『京太郎』の開発陣に対して疑問を覚える。

それが架空の設定ではなく実在の人物に降りかかっていたと知ったならば、優しい巴はその状況から脱出させるべく動いていたかもしれない。

 

『大丈夫ですって。ときどきは無茶ぶりもされますけど基本的には仲良いんで』

 

仲が良くてそれならなおさらダメではなかろうかと思う巴だったが、『京太郎』の表情はあっけらかんとしている。

事実当人は深く気にしてはいないし、オリジナルの環境は悪意があってのものではない。むしろ好意の表れが歪んで出たものであるなど、知るはずもない。

 

「私が京太郎くんの先輩なら絶対に可愛がるのに」

 

『あー、それもいいですね。巴さん優しいし、いいお姉ちゃんって感じですから』

 

優しげな雰囲気を伴う巴は親しみやすい姉として持つならきっと幸せだろう。

なぜかチクリとした違和感を感じた巴はそれを抑え、軽く手を広げてみる。

 

「だったら少し試してみる?」

 

『えと、では、その失礼して』

 

屈んだ「京太郎」の体を巴はゆっくりと抱きしめる。服の下に隠された筋肉質の体が押し返してくる感覚、自分よりも背が高くて首筋に当たる息がくすぐったい。金色の髪を撫でるとかすかに上げる声が妙に色っぽい。

 

『こ、これ、思った以上に照れますね』

 

「そう?」

 

何でもないように返しながら、しかし巴の心臓は言葉を裏切って脈打つ。匂いこそしないが触れた感触と温度が流れ込んできて自分が抱きしめている相手は男の子なのだと実感する。

 

『ギブ、ギブです。なんかこのままだと変な気分になっちゃいそうです』

 

耳元で漏らされた弱音に熱い空気が巴の口から洩れる。

 

「どんな気分? なっちゃったらどうなるの?」

 

からかうような声音を作ったものの、実は巴自身もいっぱいいっぱい。自分がなぜこんなことを言っているのかすら分からない。ぼーっとしてただ心に浮かぶままに受け答えをしているだけ。

胸の奥がちりちりと火で炙られるように焦がれていく。

 

『い、いじわる言わないでくださいよ』

 

腕の中にいる男の子が可愛く拗ねたような、焦ったような声をあげる。

ジンジンと不思議な熱が自分をおかしくしてしまう前に、ぎゅっと一瞬だけ強く『京太郎』を抱きしめ、腕を広げて解放する。

 

「京太郎くんって、甘えるの苦手?」

 

『苦手っていうか、こんな感じの経験ってなかったんで。それに巴さんとはまだそんなに長くないんで、慣れが』

 

ぱたぱたと顔を手で扇いでいる『京太郎』の姿を見ながら巴はくすくすと笑う。

 

「甘えたくなったら、私はいつでもいいよ」

 

『なんだか巴さん、お姉ちゃんみたいですね』

 

『京太郎』の答えに微笑みながらも巴は心中で『お姉ちゃん』か、と呟く。

 

もしあれ以上続けていたら、そしてその先もが許されていたら。『お姉ちゃん』がするはずのない行為に自分は転んでいただろうと巴は心の隅で確信する。

なぜこんな短時間でこんな気持ちになったのか巴自身が分からない。だがこの胸を焼く熱は膨らむだけだろうと確信できた。

 

我慢ができなくなったら自分がどうしてしまうのか、巴自身分からない。

いつしか霧島神境での己の立ち位置への疑問を忘れ、ただ目の前の少年のことで頭の中がいっぱいになっていく。

 

「京太郎くん、これからよろしくね」

 

『はいっ』

 

快活に答える彼には見えていない。熱に潤む巴の瞳の奥に隠された執着の炎は。




あれ? なんで急に巴さん重い感じに堕ちてるの? 作者自身が分からないほど勝手に一人で堕ちていったんだけど。それも理由すら特になく。

この人、R-18版が出たら迷わずインストールしちゃうぞ。巴さんはむっつりだったのか(驚愕)

永水は火薬庫かなにか?

次回『神代小蒔の場合』。
ついに霞さんからOKをもらえた姫様は初めて身近な男の子をゲットします。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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