VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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白水哩の場合

白水哩は新道寺女子のエースであり部長であり鶴田姫子の憧れでもあった。そして何より姫子と確かな絆を育んでいた。

誰より姫子を信じていたが故に、思っていたが故に厳しく姫子を突き放し、独り立ちを促した。

 

己の不器用さで姫子が傷つき精彩を欠いて憔悴していく姿に何度も自分のやったことが正しかったのか、駆けつけ支えた方がいいのではないかと思い悩み、それでも鶴田姫子という人間を信じて気づかれないように遠くから見守った。

 

そして姫子が学校にも来るようになり、麻雀部の輪の中に再び戻っていくのを陰から覗いて安堵した頃、いつの間にかスマホにインストールされていたアプリの存在に気づいた。

 

思い返しても哩自身にダウンロードした記憶はない。ならばこれはウイルスの類かと削除しようとして……できなかった。

アンインストールの表示が出ないわけではない。消そうと思えば消せるはずだった。だがなぜか消してはいけない気がして、アプリの説明文を見るだけで妙に心惹かれてしまう。

 

自分の中に巣くうなにかに急かされるように指が勝手に動き、心臓が脈打つのを感じながら起動を見守って網膜に1人の金髪の少年が映った途端に己の中で声がするのを哩は認める。

 

これは運命だと、彼以外は考えられないと、自分だけが彼のモノでありたいと、頭の中が目の前の彼一色で染まっていく。

 

『ふわ、おはようございます。えっと、貴女がパートナーでいいんでしょうか?』

 

『京太郎』としては流石に「所有者」はストレートすぎだろうと気を回した結果の言葉の選択だった。

だがそれは現在において姫子とパートナー関係を解消している哩にとって甘い毒であり、同時にそれだけでは説明できないときめきが哩に押し寄せる。

 

波立つ感情を抑えきれない哩の姿に『京太郎』は自分が自己紹介もしていないことに気がつき、伏せがちの哩の目をまっすぐ見ながら

 

『あ、名前は須賀京太郎です。高校1年で麻雀は始めたて、中学の時はハンドボールやってました。これからよろしくお願いします』

 

お辞儀とともに挨拶をした『京太郎』に哩は真っ赤になった顔で恥ずかし気に口を開く。

 

「す、」

 

『す?』

 

「好いとーと」

 

『スイトン?』

 

勇気を振り絞った女性からの告白に対し、戦時中の粗食と間違えるという大きなミス。博多方面の方言への無理解が引き起こした悲しい事故である。

 

「な、なんでんなかっ!」

 

さすがに標準語に直したうえで二度目の告白をすることは羞恥心がたえかねたか、顔を背けてごまかしに入る哩。だがどうしても気になるのか横目で何度も京太郎の顔を見ては心臓が跳ねる。

 

その一見ツンとした態度に『京太郎』は(嫌われちゃったかな)などと見当はずれの考えをめぐらす。

 

「白水哩、高3ばい」

 

いつもと違って歯切れ悪く名乗りながら、哩は恥ずかしさに指をもじもじと動かしていた。そこにちょっとでも仲良くなろうと『京太郎』は切り込む。

 

『テレビで見たので知ってます。新道寺のエースで部長さんですよね。でもテレビ越しだと凛とした雰囲気でかっこよかったですけど、じかに見ると可愛らしいですね』

 

「か、可愛!?」

 

普段「頼りになる」とか「憧れる」とかかっこいい系の言葉は言われ慣れていた反面、年下の異性から「可愛い」と褒められて哩の乙女回路はショート寸前。

ただ挨拶を終えただけなのに哩の心の中には深く『京太郎』の存在が焼き付き忘れることなどできそうもなくなっていた。

 

「やばか、気持ちん止まらん。こん人んことしか考えられなかよ」

 

かすれるほどに小さな呟きは『京太郎』には届かず、ハテナ顔のまま悠長に返事を待っている。

 

膨らむ好意と独占欲。哩はそれが()()()()()()()()()などと気づくこともないまま己の内側から湧き出た感情だと錯覚する。

そして恋というものは一度錯覚してしまえばより気になり深みにはまるという性質のもので、引き返すことは非常に難しい。

 

白水哩の『失敗』は強く鶴田姫子を大切にするあまり極端な態度しか取れなかったこと。哩が姫子を思う限り流れ込んでくる『姫子の京太郎への想い』、自覚もなくそれに完全に絡めとられていた。

そして始めは自分のものでなかったとしても時を経れば根付き自分の心と同化する。だからその帰結は免れられないものだった。

 

(誰が相手でも譲れなか。たとえそれが姫子でも)

 

咲いた花が持つのは棘か毒か、それが分かるときには既にもうどうしようもなくなった後でしかない。

 

こうして『京太郎』は特に何をするでもなくいつの間にか、当人の知る由もない理由によって哩の根本から歪んだ愛の対象になり、そこから逃れることすら許されない状況に陥っていた。

 

ある意味、というか9割はとばっちりであったが魅力的な女性に好かれているという一点だけが『京太郎』の救いなのかもしれない。




『白水哩の場合』、そして新道寺面子の恋模様は終了。
え、次鋒の子? 羊先輩以上にセリフもなくキャラが欠片も分からない人をどう書けと?

読んだらそのまま分かることですが、哩さんは自分で掘った落とし穴に自分から嵌まりに行っただけという。
姫子への対応ミスがそのまま恋愛方面でも悪化の原因を作る負のスパイラル。

姫子側はもう『京太郎』しか見えなくなってるので哩さん側に流れてくる一方通行。
そして哩さんも姫子のことなんかどうでもよくなるほどに『京太郎』に依存する結果をもたらすという。

リザベーションが最悪の形で発現してる状態ですね。『鶴田姫子の場合』を書いた時にはもうこうなる結末しかなかった。


次は幕間回。智紀か衣かのどちらかです。その後は白糸台へ。

感想への返信はできてませんが全部見て励みにしているので、頑張って作品で返したいと思います。書き手は反応があると調子に乗る生き物、すごく単純。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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