大星淡は団体戦の決勝で勝利に届かなかった。それを虎姫の中の誰かが責めたりはしない。
ただ準決勝で宮永照以外の全員がマイナス、そして決勝でも挽回できなかったという事実は周囲に『白糸台は宮永照のワンマンチームだった』だの『新星といってもこんなものか』といった印象を与えるのに十分だった。
『いつも空気を読まないポジティブな淡ちゃんNEW GENERATION』などと表向き平気そうにしていてその内心――(次は絶対勝つもん、勝ち逃げできると思うなー!)とこれまたポジティブだった。
確かに負けた当初は泣いたし皆に申し訳なかった。だがそういう感情も推進力に変えられる図太さを淡は保有していた。
だから『京ちゃんと一緒』と題したアプリで遊びだしたのも「あ、おんなじ金髪! 私よりアホっぽい顔! この淡ちゃんが構ってあげよー」といった至極軽い動機であり、『京太郎』に言わせれば『そのセリフそのまま返す』といった感じでポンポンと会話のキャッチボールを楽しんでいた。
どれぐらい楽しんでいたかというと気がついたら部活の時間を過ぎ「どうせ怒られるからこのまま街でパフェ食べに行こう」などと言い出して、後日サボってたことがばれたからお灸をすえられるというレベルだった。
「もー、京太郎のせいでめちゃくちゃ怒られたじゃん」
『おい待て、俺はちゃんと「そろそろ部活の時間だろ」って言ったぞ。お前それに対して自分がなんて言ったか覚えてないのか?』
「まったくもって!」
キランとすごくいい顔で欠片も覚えてないという主張をする淡。悪気などなく本気で言っているのだから更にたちが悪い。
『お前は「そんなことよりもっとしゃべろーよ」と言ったんだこのお馬鹿、ちゃんと脳みそに刻んでおけ』
「つまり私を強く止められなかった京太郎が悪いってことじゃん」
反省ゼロ。責任転嫁までしてくる我儘っぷりにどこかの誰かさんを幻視して頭が痛くなる『京太郎』。
『お前なあ、リベンジするんじゃなかったのかよ?』
報復相手が自身の幼馴染であることは隠して『京太郎』は呆れる。
「するに決まってるじゃん、目指すは完全勝利だからね!」
たった数ヶ月で大きく膨らんだ胸を張って淡は意気込む。
『だったらちゃんと部活行けよ』
その正論に対して淡はため息をつき、やれやれとポーズをとる。
「分かってないなあ。この淡ちゃんが求めるのは雀士としてだけじゃなく女としての圧倒的勝利! 雀卓で負けを味わわせた上に、私のリア充っぷりを見せつけてやるのだ!」
『つまり?』
「彼氏とイチャイチャしてる写メをこれでもかというほど叩きつける!」
超どや顔でアホっぽい発言をかました淡に『京太郎』は生ぬるい目を向けざるをえない。
『そうか、せいぜい頑張れ』
「なに他人事みたいに言ってんの? 京太郎がいなくちゃできないんだからね!」
『…………はい?』
予想外の塊である淡が明かす衝撃の事実。大星淡は『須賀京太郎』を彼氏と言い張るつもりだった。
『いや、待て。そういうのはちゃんと実在する好きな男にだな』
諫めようとする『京太郎』に、淡はきょとんと首を傾げる。無駄に美少女っぷりが発揮されていた。
「なに言ってんの? 京太郎はここにいるじゃん。それに私京太郎のことちゃんと好きだよ」
衝撃の事実Part2、アホの子淡は電子彼氏というものの根本をよく理解できていなかった。普通は妄想彼氏と同列に語られるそれを、現実の恋愛と同列に考えていた。
愕然とする『京太郎』の表情に、自分の告白がうまく伝わってないのかと思った淡は首に手を伸ばして背伸びをし、唇を合わせるどころか舌まで侵入させた。
「証拠、だよ? ファーストキスなんだからね」
普段堂々としている分、照れの混じった上目遣いの破壊力は高かった。
「むー、まだ足りない? じゃ、じゃあ、胸触る? 京太郎おっぱい好きなんでしょ? あ、もち帰ってからだかんね! さすがに廊下でそれは、見られると恥ずかしいし」
その前の段階で十分恥ずかしいことをしていることは淡の中からすっぽり抜けていた。
あまりの事態に『京太郎』は天を仰ぐ。本当に淡がやらかして、幼馴染がオリジナルを引っ張り出してきたならどんな未来が待ち受けるのだろうと。
カオスになりそうな予感しかしなかった。
そうやって遠い目で未来を憂う京太郎に対して、淡はまだ攻めが足りないと感じたのか腕を胸の間で挟むべきかと更にアホなことを考えていた。
白糸台のトップバッターは安定のあわあわでした。
このアホな子は仮にリアル京ちゃんを見つけたら「私達の愛のパワーで肉体を手に入れたんだ!」とか本気で考えるレベルです。
そして自分との愛の記憶がないと知っても「記憶喪失!? 私の愛のパワーで治療しなきゃ!」とか言い出します。
重くはないんだけど、やべー方向の愛の持ち主。
だが『京太郎』がアプリだということは分かっているという、どういう脳の構造したらこんなふうに思い込めるのかというタイプ。
次回は『亦野誠子の場合』の予定。ただちょっと日が空くかもです。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ