VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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松実玄の場合

松実玄は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の男を除かなければならぬと決意した。

玄には恋愛が分からぬ。

玄は旅館の娘である。家業の手伝いをし姉の世話をして暮して来た。

けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

故にその悪逆を見抜くべく自らのスマホにアプリをインストールした。

ならば男の視線がどこに向いているのかなど暴くのは容易かった。

 

 

「京太郎くん、おもちが好きなんだね! 分かる、分かるよ。おねーちゃんのおもちは柔らくて手を包もうとしてくるの!」

 

『な、なんですって!? 詳しく、どうか詳しく!』

 

ただ、見抜いたことで自分の趣味を分かってくれると直感した玄は警戒心を失い、高速の掌返しに至った。

起動してわずか2分。事前に仲を育んでいない人間の中で最速記録を樹立した瞬間である。

 

玄にとって自分の特殊な趣味を理解してくれる盟友の存在は甘い毒だった。

何しろ知った人間は理解どころか叱ってくる有様だ。

ここに先達に憧れる目を向けられて機嫌は急上昇。同じ道を行く後輩を正しい道に導く義務感すら感じ始めていた。

 

「特別に私のコレクションを見せてあげるよ。今まで誰にも見せたことがない逸品だから期待していいよ」

 

隠しているのは知られたら即没収の憂き目にあうからなのだが有頂天になった玄には周囲が見えていなかった。

 

『まさかこんな人がいたなんて……全国は広い』

 

何かに戦慄するように唾を飲み込む『須賀京太郎』。基本的に性格は温厚で誠実、誰からも好かれるタイプだが同時に若干ノリで生きる三枚目なところがあった。

この点、本当に松実玄との共通点は多い。ある意味ではこの帰結は当然だったのかもしれない。

 

しかし、ぬくぬくと炬燵でミカンを食べている最愛の姉に呆れた視線を向けられていることに気づくことがなかったのは幸いであったのだろうか

 

 

「まずね、これがおねーちゃんの(おもちの)成長記録。たくさんあったから分かりやすいのを集めたんだ」

 

『小学校高学年の頃からそこそこありますね』

 

「うん。おねーちゃんは等速成長っていうのかな。早めに膨らみ始めて、それからは同じような速度で大きくなっていったの

 一方でこっちが憧ちゃん。私としてはこれをおもちと呼ぶべきではないと思うんだけど成長の仕方が特殊だから保存しておいたの。ガードが堅いから大変だったよ」

 

スッと差し出された3枚の写真。一枚目は優希のような子供っぽいもの、二枚目はすらりと手足が伸びてスレンダーな美少女と呼べるもの、最後は顔は二枚目と同じだが肉付きがよくなって色気が出ているもの

 

『これ、二枚目と三枚目は同じ服着てるみたいですけど』

 

「1ヶ月しかたってないし、麻雀部の集まりで撮ったものから拡大したものだからね。この成長速度ならいつかおもち入りするんじゃないかと思って急いで集めてるんだ」

 

『将来性も見越しているなんて』

 

「『おもちは一日にしてならず』、積み重ねたものを知らなければ真におもちを極めることはできないからね」

 

我ながらいいことを言った、とでも語りたげな首肯とともに放たれた言葉ではあるが余人が聞けば間違いなく拳骨とともに没収であっただろう。

しかし、目に映る『須賀京太郎』は感慨深げにその格言を繰り返す。男であるが故の女性の体への理解の少なさから、そういうものなのかなどと真に受けてしまっていた。

 

「私のコレクションはこれだけじゃないよ。ふふ、じゃーん。こっちが大星淡さんで、こっちは神代小蒔さん、これが清水谷竜華さん」

 

次々と並べられていく素晴らしいおもちの美少女たちの写真に驚嘆を隠せない。

 

『こんなにどうやって……しかもピースしてる人までいるんですけど』

 

「それは真摯な誠意だよ。いつの世も大切なのは真心。土下座をして頼んだら許してくれたんだ」

 

半数ほどの笑顔が引きつっているところを見るとごり押されて根負けしただけなのだが、玄は自分の都合のいいように解釈していた。

おもち愛は世界をも救う、それが松実玄の信念である。

 

『なら、俺お願いがあります』

 

きりっとした真剣な目つきを向けられて玄は自分も顔を引き締める

 

「なにかな? 私にできることならなんでも」

 

『どうか、俺に玄さんのおもちを触らせてください!』

 

一瞬空気が死んだ。勢いよく床に額をたたきつけ土下座する『京太郎』と予想外の要求に固まる玄。

 

『俺は、おもちを見ることでしか知らないんです。それじゃいつまでたっても玄さんの隣には立てない。玄さんに相応しい人間になりたいんです』

 

「そんな、でも私のはおもち未満だし」

 

戸惑う玄の目を見て『京太郎』は真剣な目で訴える。

 

『玄さんにしか頼めないんです。どうか、どうか!』

 

血涙を流さんばかりの姿に玄の思考が揺れる。

男の子の姿をしてるけど実在してるわけじゃないし、それにおもち同志の頼みを蔑ろにしたくないし、などと。

そして熱意に押し切られる。

 

「ちょ、ちょっとだけ、だよ?」

 

『はい。嫌だったら言ってくださいね』

 

セクハラをされているにも関わらず、優しさの片鱗を見せられたことで玄の心臓が跳ねる。

 

「あ……ん……京太郎くん、京太郎くん」

 

本当に触られていると錯覚する暖かさと肌が触れ合っているかのような感触に玄はしばし陶酔する。

 

『分かりました……玄さんはまごうことなきおもちです』

 

「そ、そんな。私はおもちというにはサイズが」

 

何かを悟ったかのような目で告げられた言葉に玄は羞恥に身をよじらせる。

 

『おもちは大きさだけじゃない。玄さんは、その魂がおもちなんです!』

 

「きょ、京太郎くんっ」

 

第三者が聞けばとち狂っていると110番間違いないセリフに、特殊な感性を持つ玄は胸をときめかせてしまう。

 

「私と、これからもおもち探索をしてくれる?」

 

『はい、一緒におもち道を極めましょう!』

 

玄にとってはプロポーズといって過言のない返しに当初の目的を忘却の彼方に投げ捨て、胸のドキドキに身を任せて手を取る。

 

「京太郎くん、好き……」

 

経緯はこの上なくひどいが松実玄はもはや恋する乙女の眼差しとなり、だだハマるのであった。




ギャグ回&玄のチョロイン化。
三枚目ver京ちゃんとの相性が良すぎるのが悪い。
松実姉妹は強く理解者を求めている&ハマると一直線に重くなるイメージ。

次回は阿知賀内で最も恋愛から遠く見える灼の出番です。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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