VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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亦野誠子の場合

亦野誠子のあだ名はフィッシャー、『釣り人』である。

その異名は鳴くことで上り牌を釣りあげる打ち筋から来たものであるが、異能のほとんどはその人間の本質や生き方に大きく関わっている。

 

つまるところ何が言いたいかといえば、誠子の趣味は釣りであるということだ。

そしてそれが彼女の『京ちゃんと一緒』というアプリの使い方が独特である理由であった。

 

『誠子さん、3時方向7m辺りです』

 

「はいはい、いくよー」

 

誠子の釣り竿がしなり助言より少し遠くに投げ入れたルアーが舞い踊りながら引かれ、狙った魚に餌と誤認させるべく動き出す。

 

そう、誠子は『京太郎』を魚探知機として利用していた。

運営の全く意図していない使用法。スマホから半径5mまでならば自由に動ける『京太郎』に水中の魚を視認させるという発想。

 

半径5m先まで『京太郎』が動き自然に振る舞えるということは、アプリは当然5m+『京太郎』の視認できる範囲の地形を把握しているということだ。

そして『京太郎』は網膜上に投影されてはいるが別に質量を持って実在しているわけではない。

 

だから普通は人間のいけないところまで通り抜けることも、やろうと思えばできる。

普段やらないのはあくまで不自然さを使用者に感じさせないため。リアリティの追及にすぎない。

 

誠子はその抜け穴を悪用した。結果、『京太郎』は魚探知機としてその有能さを発揮していた。

 

「フィーッシュ!」

 

見事にかかった魚、空中を舞って誠子の元へと手繰り寄せられ手元に収まる。その魚の姿形を確認した誠子は興奮気味に叫ぶ。

 

「おお~! ヒメマス!」

 

『そんなに大喜びするやつなんですか?』

 

当然というべきか、誠子に出会うまで釣りの経験のない『京太郎』にとってはせいぜいがイワナ、サケ、ヤマメ程度しか見わけがつかない。細かい分類に関してはさっぱりである。

海鮮魚ならまだ種類もいくつか分かるが、湖や渓谷の魚に関しては無知な現代人である。

 

「サケやマス類の中じゃ一番美味しいんだよこれ。ただ足が早くてすぐ味が落ちるから最高の状態で食べられるのは釣った人間の役得なんだ」

 

『え、銀鮭や紅鮭より格上? そういえば顔が似てるような』

 

じーっと『京太郎』は釣られたばかりの魚に視線を注ぐ。が、誠子は呆れた顔。

 

「いや紅鮭なんだけど」

 

『京太郎』は言われた言葉を反芻し、首をひねる。

 

『え、でもここ湖じゃないですか。鮭って秋に海から川を上ってくるやつでしょ?』

 

一般的イメージにより思い込みに囚われた『京太郎』。生きてる姿を日常的に見ず切り身を買ってすませる人間、しかも海から遠く離れる長野出身ではサワラの西京焼きが近年までメイン。

 

「海から遡上するのが紅鮭、ずっと淡水で育つのがヒメマス。だから湖でも釣れるんだよ」

 

いそいそとクーラーボックスにしまう誠子の後姿を見ながら『京太郎』は驚愕に目を見開く。

 

『なん……だと?』

 

「50cmくらいまで育つけどこれは30cm代後半かな。数人で食べるならこれくらいでも十分だし夕飯にしよっと」

 

満足げに頷く誠子の袖を『京太郎』はくいくいと引っ張る。

 

『あのー、俺にも食べさせてくれたりは』

 

「どうやって食べるの? そんな機能追加されてたっけ?」

 

されているわけがない。今も人間をやっているオリジナルの感覚が美味しい魚を目の前に暴走しただけである。

 

『……食べられなくても味わえるように運営にメールしておきます』

 

悲しそうな目でルンルン顔で帰り道を急ぐ誠子の手を『京太郎』は握り、心なしか潤んだ目でまっすぐと誠子の瞳を見つめる。

 

『ですから、実装した暁にはぜひご相伴を!』

 

「う、うん、分かった、分かったから!」

 

黙っていれば二枚目に見える京太郎の顔を間近で突きつけられた誠子は顔を赤くして焦りながら目を泳がせる。

 

「もう、ずるいんだから」

 

男に耐性のない誠子は小さく呟くと人差し指だけを『京太郎』に絡め、ドキドキしながら釣りデートの帰りを照れくさくも楽しむのだった。

そして『京太郎』はそんな様子に頓着することもなく、ただひたすら釣りたてのヒメマスの味に思いを馳せていた。




お久しぶりです。いやまだ忙しいの終わったわけではないんですが。

白糸台の『フィッシャー』誠子さんらしい話を、と思ったらほぼ釣り談議になった件。
恋愛要素は最後の方にちょろっとだけ。
ただし誠子さんの中では一貫して彼氏との趣味を兼ねたデートのつもり、ただ『京太郎』は無自覚。

純愛で健全ですね! これで闇が深いという印象も払しょくされるはず!

なお作者は釣りをやったことは幼少期にイワシを釣りまくって親に天ぷら作るのめんどいと言われた1回のみ。
なのでほぼwiki頼りです。ルアーでヒメマスが釣れるかも知らないというダメっぷり。


次回は『渋谷尭深の場合』。プロットはできてますが執筆時間がとれるのはちょい先になりそうです。
白糸台面子&幕間の衣は12月中に終わらせたかったんですが、これ間に合うのかな?


なぜ日本はただでさえ忙しいのに忘年会や新年会をするのか?
なんもかんも政治が悪い(羊先輩のセリフの万能感)

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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