渋谷尭深は物静かでおっとりした雰囲気を持つ少女である。湯呑に入れたお茶を好み、それも相まっておっとりしたようにも見える。
そんな彼女は珍しくはやる心を抑えて手元のスマホにアプリをインストールし、逡巡もなく立ち上げる。その動きは何度も練習したかのように素早い。
しばし時間をおいて尭深の網膜に1人の少年の姿が投影される。『須賀京太郎』は目を開いて少女を確認し、愛想よく笑いかける。
その笑みに少し見惚れるように尭深は頬を朱に染めながら自己紹介を始める。
「私は渋谷尭深。高校2年生の17歳で高校は東京の白糸台に通ってます」
品の良さを感じる口調と聞き覚えのある高校名に『京太郎』は目を瞬かせながらもすぐに気を取り直して自分も頭を下げる。
『これはご丁寧に。須賀京太郎、高1の15才、通ってた高校は秘密でこれからは白糸台になるのかな? これからお世話になります』
人好きのする笑顔と予想よりも近い距離に尭深は胸の鼓動を跳ね上げながらも予定していた疑問を投げかける。
「誕生日、まだなんだ?」
『ええ、2月なんで。早生まれのわりに背の伸びは悪くなかったのは幸いですかね、もうちょっとほしいところなんですけど』
金髪の毛先を指でよじりながらほんの少しおちゃらけた風に告げる『京太郎』。実際運動部をやるには背の高さは武器である。今現在は麻雀部なので全く生かせない部分だが。
「しっかりして見えるけど、2つ年下なんだね」
『え、そう見えます? あんまりそういうの言われたことないですけど』
「イメージだけど」
初めて会った女性、しかも少しおもちの尭深に言われて悪い気はしないのか『京太郎』は少し照れくさそうに鼻の下を触る。
そんな年下の少年に真意だと主張するように尭深は微笑みかける。
「外見で勘違いされやすいのかな? 私には格好よく見える」
『やだなー。そんなに褒められると勘違いしちゃいますよ』
おちゃらけて躱す『京太郎』の無意識ムーブに、しかし尭深は年上の余裕で半歩踏み込んで手を取り頬へと導く。
「いいよ、勘違いしても」
『うゎ、た』
お淑やかに見える外見に反した距離の詰め方に『京太郎』はつい顔を赤くして狼狽えてしまう。
「なんだか可愛いね、京太郎くん」
『あんまりからかわないでくださいよぉ』
女性に「可愛い」と表現されることに慣れていない『京太郎』は正面からの攻勢にタジタジ。
逆にここまで押せ押せムードの尭深をチームメイトが見たら驚くだろう。普段の様子からは想像できない積極性だった。
「ん、からかってるつもりはないんだけどな」
少し寂しそうに尭深は視線を下げ、『京太郎』の手を握って自分の左胸に触れさせる。
「手を通して伝わってこない? 私の鼓動、とってもドキドキしてるの」
『あの、もうちょっと自分を大事にですね』
どうも急いで関係を進ませようとしているように見える尭深に、『京太郎』は制動をかけようとする。
すると尭深はあっさりと『京太郎』の手を離して、
「ゆっくりの方が京太郎くんの好みなのかな?」
その問いかけにコクコクと頷く『京太郎』。ここに至って『京太郎』は何か違和感のようなものを感じ始めていた。
「ルールなんて男女の関係に必要なのかな」
急いているのとはまた違う。会話が微妙にかみ合わない、まるで独り言を続けているような印象を尭深に受ける。
「触ってもいいんだよ、どこでも」
『尭深さんは何を考えてるんですか?』
「何って、『京太郎』くんと仲良くなることだよ」
その応えに『京太郎』は首を横に振り、湧き上がった疑心をぶつける。
『尭深さんは俺を見てるようで見てない……まるで俺の心なんてどうでもいい風に』
「……いいよ、教えてあげる」
すっと尭深の表情から色が抜ける。その独白は死を直前にした者への態度のような
「私のオカルトって毎局の最初に捨てた牌がオーラスに全部戻ってくるんだ。牌の数は14、14回で必ず私の手にできあがるの。
なら、それを他の場面で使ったら? 14の会話で実る、願い事が叶う。それが私の『ハーベストタイム』。もう分かるよね? 『私が捨てた牌』に何があたるか」
そんなふうに使おうなんて尭深はこれまで一度も考えたことはなかった。そもそもできるという発想もなかったし、そうして得た結果に意味が宿るとも思えなかっただろう。
しかしその倫理観を捨ててでも、どうしても『欲しいもの』ができたとしたら?
『最初の、一音』
「正解だよ」
震える『京太郎』の声に満足そうに尭深が答え合わせをする。それと同時に『京太郎』の体に葡萄の蔦が絡まる幻影が現れる。
わ・た・し・い・が・い・な・ん・て・ゆ・る・さ・な・い
『私以外なんて許さない』、叶えようとした願いはそれ。
結実の直前、勝利を確信した尭深はだが『唐突に水中へ引きずり込まれる』。
同時に『京太郎』の姿がノイズに代わり、どこからか威圧を宿した少女の声が響き渡る。
『まさか本当にやる者がいるとはな。紅蓮地獄も生ぬるい……が、京太郎の慈悲だ。次に間違えるようなら縊り殺してくれる』
尭深に溺れる恐怖を叩きこむだけ叩き込んで、『声』が去るとノイズが消えて再び『京太郎』が網膜上に現れる。
その『京太郎』には絡まっていたはずの蔦もなく、あっけらかんとした表情で
『あ、初めまして。俺須賀京太郎って言います、これからよろしくお願いしますね』
尭深のことを何も知らないと、また自己紹介を始めた。
もう既に尭深には自分のオカルトを使おうという意思は消えていた。だがその心の奥底に刻まれた『京太郎』への思慕は、直前よりもなお深いものに昇華されていたのである。
前回:闇が深い? 気のせいだよ!
今回:闇なんてちゃちなもんじゃねえ、もっと恐ろしいものを味わったぜ
言い訳させてもらうと、たかみーのオカルト悪用は連載開始期にはもう決まってたんですよ。
そこに感想で「衣はオカルト弾いてるんじゃない?」という言葉を受け、最終的に能力バトルに。
尭深の改心も含めて「ジョジョ4部かな?」感が強くなってしまいました。反省
なお再び現れた『京太郎』が記憶リセットで立ち上げ状態なのか、それとも覚えてるけど何も知らないふりをしてあげつつ心の中で苦笑しているのか、京ちゃんらしい方が正解です。
次回は『弘世菫の場合』。プロットは白紙なので今から考えないとですね。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ