VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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弘世菫の場合

弘世菫は白糸台高校の麻雀部部長であり、その職務の大半は自由すぎる宮永照と大星淡の制御役だ。

照はお菓子を求めてさまよう程度なので用意しておいたお菓子を与えれば大抵どうにかなるが、無軌道な淡は何をしでかすか分かったものではない。

 

実際に今日も淡が部活を無断で休み、一人でカップル用のパフェを楽しそうに食べている姿が目撃されたという情報により雷を落としたところだ。

 

菫は自分がいなくなる来年の有様を考えるだけで頭と胃が痛くなる。

 

「全く国麻もあるのに何を考えているんだあいつは」

 

ため息をついても物事は好転しない、そんなことは分かっているのだが責任感の強い菫はどうしても気にしてしまう。

 

気分を変えようと学校の制服を脱ぎ丁寧に畳み、つい最近買ったばかりのお洒落着に袖を通す。

 

チャコールグレイに落ち着いてまとまったワンピースにちょっとしたフリルで可愛らしさを演出、普段はストレートに流している髪を後ろでくくってポニーテールに。

ワンピースと同色であしらったバラのコームを留めて鏡の前で角度を変えて奇麗に見えるか何度も確認。

 

自慢の髪につげ櫛を通して毛先を整えながらつやを出す。さらに手鏡も使って360°どこもおかしくないか念入りに確認してからスマホを取り出し、ベッドに腰かける。

そして覚悟を決めるように深呼吸で息を整えてアプリをタップ、菫の網膜に少年の姿が投影される。

 

『須賀京太郎、お呼ばれに応じてただ今参上。って菫さんその服新作ですか?』

 

「あ、ああ。カタログで気になったからな、どうだ?」

 

菫は『京太郎』の視線を感じつつ、無意識に指を折角整えた髪に巻き付けながら上ずった声で尋ねる。

そこに白糸台の部長として凛とした姿はなく、ただ気になる異性の目にどう映るかばかり考える乙女としての姿があった。

 

その豹変ぶりはもし大星淡が見れば『菫がおかしくなった!』などと叫びだすだろう。

自室でしかアプリを起動しないため誰にも見られる心配がないという事実が菫の心に隙を生み、男に媚びるような態度が表に出ていた。

 

はにかむように袖をつまみ広げて体をよじりながら見せつけると、『京太郎』は悩むでもなく素直な感想を口にする。

 

『うん、楚々とした中に可愛らしさもあってとても菫さんに似合ってますよ。ポニーテールも意外ですし、雰囲気変わって可愛いです』

 

「そ、そうかっ」

 

女性の服装を褒めることに特に抵抗がないばかりか、適当な格好ですませようとする幼馴染に服を押し付けた経験まである『京太郎』からのお墨付きに、菫は喜色を滲ませながら弾んだ声をあげる。

 

異性からべた褒めされる耐性などない菫は「……可愛い、可愛いか」などと小声で投げられた言葉を噛みしめながら頬を紅潮させていた。

 

『菫さんって髪が長いからいろんなヘアスタイル楽しめそうですよね。今日みたいな可愛い系じゃなくてアップにして着物にしてもよさそう』

 

「む、それは私に胸がないと言いたいのか?」

 

さりげなく気にしていたようで口をへの字に曲げて拗ねる視線で『京太郎』を見る。だが何度もチラ見してくる伺うような雰囲気のせいで怖さは全くない。

 

『そういう意図はなかったんですけどね。菫さんはスレンダーで体のライン綺麗なんですし、着物姿だと色っぽいだろうなーと』

 

「い、色っぽ!?」

 

顔を真っ赤にしながら菫は着物姿の自分と浴衣姿の『京太郎』が並んで縁日を歩き、花火を見上げている風景まで幻視する。

 

『可愛い菫さんも、色っぽい菫さんも、全部見てみたいなー』

 

よいしょすることで自分が責められた過去をなかったことにする、女性に囲まれている現在のオリジナルの慣れによる習性であった。

 

「ま、まあ、そこまで言うなら京太郎だけになら見せても……」

 

『わ、限定お披露目ですか? 俺他人には見えないので男除けにはならないのが痛いところですよね。絶対オシャレした菫さんとかナンパされちゃいますし』

 

「ああ、そうだな、『京太郎』にしか見せない」

 

プスプスと頭から煙をあげそうなほど発熱している菫が観客が『京太郎』のみのファッションショーを行い、そこで浴びせられる数々の誉め言葉にさらに『京太郎』に傾倒していくのは、そう先の未来でもなかった。

 

白糸台高校の栄えある部長とて、恋する相手の前では一人の乙女に戻ってしまうのはどうしようもなかった。




新しい電源コード届いたよ!

というわけで『弘世菫の場合』でありました。
うん、白糸台は平和ですね!(前話から目をそらしつつ)

きりっとした菫さんか、デレた菫さんか、スタート地点をどちらにするかでかなり迷った結果が遅れた理由の一つです。
もう一方の候補は淡の怠慢に切れてスマホを取り上げ「これが諸悪の根源か」などと自分のスマホにインストール、警戒していたくせに『京太郎』に心を絆されていくという形。

こちら側の採用理由は公私の区別が付けられなかった塞さんと、しっかりつける菫さんの対比を強調したかったから。
ぶっちゃけ取り上げた結果絆されるという過程はまとめ役なら誰にでもあり得る=菫さんである必然性が薄い、という観点でボツ。


次回は『宮永照』の場合。着地点をどうするか少し考え中。
その後は幕間で衣、アラサー勢の順番でいこうかと予定してます。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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