それは宮永照が大星淡のスマホの待機画面を見た時の話。
「淡、どうして京ちゃんと一緒に映ってるの? しかも腕まで組んで」
仲の良さを見せつけるような淡の自撮りに照の声のトーンが低くなるが、淡は頭の中お花畑がさらに進行しているため全く気付く様子がない。
「あ、テルーもやってるんだ、『京ちゃんと一緒』。すっごいよね、アプリをダウンロードするだけで恋人ができちゃって写真にもちゃんと見えるし!」
「あぷり?」
「? そーだけど。あ、写真機能はね、課金が必要なの! テルー見逃してた?」
勝手に(テルーはおドジだから見落としてたんだね、ちゃんと教えてあげる淡ちゃんってば先輩思い!)などと納得した淡は自分のスマホの画面を見せながら自分と『京太郎』のラブラブぶりを語る。
だが照は、スマホのアプリで『京ちゃんと一緒』という名前であるという一点だけを拾うと後は表情を消して右から左に聞き流していた。
照は普段から基本的に表情が分かりにくいため、視野狭窄に陥っている淡はとにかく『京ちゃんと一緒』がどれだけ素晴らしく『京太郎』と過ごす毎日がいかに楽しいのかを語るのに夢中でそんな照の様子には一切気がついていなかったのである。
照は自室の鍵を閉め、月明かりの中スマホにインストールしたアプリを起動し、目に『見知った少年』の姿が投影される。
それと同時に『京太郎』は目の前の人物の顔と右腕に渦巻く豪風を認識するなりスマホの中に帰ろうと踵を返して逃げに入ろうとするが、その首根っこを掴まれて逃走は阻止される。
「京ちゃん、説明」
『こ、これは違うんです。機密保持とかの関係で言えなかっただけで照さんを蔑ろにしたとかそういうわけでは』
「いいから、正座」
淡々とした口調と相反した竜巻の唸り声、それにかつて受けたコークスクリューレバーブロウの痛みを幻視し、『京太郎』は叱られた大型犬のようにしょんぼりと床に座り洗いざらいを吐かされることになった。
「つまり京ちゃんは遊び気分で恋愛ゲーム作りを手伝ったらハーレムができてウハウハ?」
『何をどう聞けばそうなるんですか!? 仮に『俺達』が使用者と恋愛関係になっても大元の長野にいる本体には何の影響も起きないんだからノーカンですって!
まあそもそも好みの女性と『俺達』が恋愛関係になれるかというとそんなことはない気がしますけどね!』
困ったことにこの男、幼馴染に適当に塩対応されることに慣れてしまったことと麻雀の腕でうだつが上がらない為に自分の魅力というものへの自信や自覚がきれいさっぱりとそぎ落とされていた。
さらに世の女性雀士がどれだけ恋愛耐性がないかということも深く考えずに甘く見積もっており、悪気が欠片もないまま世界の泥沼に浸かっているということを知りもしないのである。
「事情は一応理解した。じゃあ攻略法を教えて」
『?』
「?」
お互いが鏡のように、はてな顔で首を傾げる。
『あの照さん、このアプリの趣旨分かってます? これは『俺』と架空恋愛を楽しむゲームで、攻略対象に攻略法を聞くとか無粋な上に効果もありませんよ?』
「そんなのは知ってる。でも私が知りたいのは長野に実在する京ちゃんの攻略法。京ちゃんの好みを誰よりも熟知しててしかも聞いた内容が伝わらないなら、ここにいる『京ちゃん』に教えてもらうのが確実かつ完璧」
『京太郎』はしばし照の言葉を頭の中でかみ砕いて、内容を理解するとにわかに狼狽え始める。
『あ、あの、それはまるで俺――この場合は長野の本体のことが恋愛的な意味で好きって言ってるように聞こえるんですが』
顔を赤くしてソワソワする『京太郎』の姿に照は思わず心の中でにんまりしつつ、でも恥ずかしいのは恥ずかしいので枕を抱きしめて唇から下を隠して押し当てる。
「うん、好き。大好き」
耳を赤くしながらも視線はまっすぐと『京太郎』の瞳に。
「いや?」
『い、いやじゃないですけどっ、ちょ、ちょっと待ってください、今俺の中の照さん像が崩れてきてて』
頭を抱えてイメージの修正に躍起になる『京太郎』の姿に、照はほっと息を吐く。
「脈がないわけじゃないのは分かったからいい。お姉さんぶって頼りになる所見せててよかった」
『いや、元から頼りないとは思ってます』
「えぇ?」
こんなときであろうが突っ込みはちゃんと入れる『京太郎』と、まさか余裕たっぷりのお姉さんイメージを植え付けられてなかったのかとびっくりする照。
しかし自分の想いを定めている分立ち直るのは照が早かった。
「でも、これから頑張る。多分最大の障壁は咲のはず」
『いやあいつは俺に恋愛感情なんてないでしょ』
ばっさりと切られた「嫁さん違います」事件といい、咲の京太郎に対する態度はかなり適当だ。
「咲は自覚がなくても京ちゃんを取られそうになったら絶対に抵抗する、そういう子」
『えぇ? それはないんじゃないかなぁ』
咲が「京ちゃん好き」などという姿を想像できない『京太郎』。しかし本人は自分が先ほどまで照に「好き」といわれることも全く想像できていなかったのだが。
「とりあえず、京ちゃんに次に会ったら猛アピールする」
『はあ』
もう(本体のことなんで自分には関係ないや)などと他人事のような顔をしている『京太郎』だったが、彼の真の苦難はこれからである。
「そのために『京ちゃん』で練習。一番ドキッとしたのを教えて、それでいく。
ただキスは、だめ。最初は本当の京ちゃんのために取っておきたいから」
自分が告白されるための練習に『自分』が付き合わされる、世の中でも稀有な事例がこれから幾つも樹立するのであった。
『宮永照の場合』&白糸台編は終了です。
照の場合はもっといろいろ書ける気もするけど他のみんなとの分量調整の都合でこの辺で。
いつかIF世界の『京ちゃんと一緒』R-18版ではぐいぐい迫るテルーが見れるんじゃないですかね、いつか知らんけど。
この次はもんぶちーずも衣で幕間は一区切り、アラサーとか行き遅れとか言われるプロの出番にいこうかなと。
すこやん、のよりん、はやりん、順番はどうするべきか……?
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ