小鍛治健夜27才、元最年少八冠保持者にして元世界ランク2位、永世七冠、国内無敗。
そんな輝かしい経歴を持ちながらなぜか今は地元に引っ込みろくに大会も出ず、実家暮らしでジャージで家の中でゴロゴロすること多数。
女友達を家に連れてくれば親に男じゃないのかと残念がられる有様。
『どうしてこうなった』そう一部の人間から思われることしきりの健夜であった。
そんな彼女は今までの人生でも最高潮の緊張顔で、小さく震える指でスマホの画面を凝視していた。
「高1、金髪、15ってまだ子供。でも現実で手を出すわけじゃないしあくまでゲーム、そうゲーム。法的にも問題ない、問題ないよね? 練習、予行練習なんだから」
何に言い訳しているのかといえばそれは健夜自身にだろう。一応自分のしていることが『いけないこと』の範疇に入ると思っているのだ。
ただ大体において『いけない』というのは背徳を伴う禁断の果実。麻雀においては最強だとしても女性としては強くない健夜にその誘惑にあらがうことなどできはしない。
何度も深呼吸を繰り返し、震える指先でタップする。
インストールの間に健夜は何度も最初の一言を脳内シミュレートして、網膜上に投影された少年の姿に呆然と魅入る。
二次元の画面から健夜が想像していたよりずっと本物らしい似姿。そこに実在すると錯覚する再現度に男慣れのない健夜は用意していた笑顔をぐぎっと引きつったものにしてしまう。
健夜自身がその引きつりぶりを認識していれば頭から布団に引き篭もっていたかもしれない。
一方で起動した『京太郎』は目の前の女性に何か既視感を感じながらもその正体までは分からず、とりあえず初対面の挨拶へと移る。
『こんにちは、いやもう時間的には「こんばんは」かな? 初めましてお姉さん、俺は須賀京太郎といいます』
「お、おね!? そんな私、もうそんな年齢じゃ」
わたわたと手を動かす健夜であったが、言葉とは裏腹に口元がにやけており全く否定する気持ちはないように見える。
一方で『京太郎』はというと別段おべっかを使ったつもりもなく完全に素である。
『え? でも二十そこそこじゃないんですか?』
健夜はかなりの童顔である。具体的にはよくコンビを組むふくよかじゃない方より年下に見えなくもない。前情報さえなければ。
「えと、私は小鍛治健夜、27……です」
本当の年齢を告げる際に声が霞んだのは一瞬さばを読むか悩んだのだろうか? 『京太郎』は返答を聞いてパチパチと目をしばたたかせ、恐る恐る訊ねる。
『小鍛治って、まさか麻雀プロの?』
「はい」
『なんだかたくさん賞を取ったって噂の?』
「……はい」
健夜は目の前の男が自分を怖がったり距離を取ろうとするのではないかと若干涙目である。
『ほへー。あとでサインもらっていいです? あ、でも俺の場合しまう場所がないや』
しかし『京太郎』目線では蟻にとってサイも象も自分を踏みつぶせるすごく大きい存在という認識レベルであるように、違いがいまいち分かっていない。
さらに宮永姉妹との親交で耐性がついているため、メンタルだけに関してはそこらの人間とは桁が違った。
そして健夜は自分のことを怖がるどころか尊敬の目で見てくる男の子の存在に心がきゅんとしてしまうチョロさであった。
「そんな、私なんて全然大したことないし、モテないし……」
麻雀業界の人間が聞けば前半にこぞってツッコミを入れるか、後半に深く頷くかどちらかであっただろう。しかしこれまた『京太郎』は初心者から脱せないひよっこどころか卵なため、首を傾げる。
『京太郎』は目の前で手櫛で髪の毛を梳かしている健夜の顔をまじまじと見つめ
『でも健夜さんって合コンに行けばすぐに彼氏もできそうですよ?』
無自覚に爆弾を投じた。
確かに『前情報を相手側が知らず』『テンパって余計な行動をして悪目立ちをしなければ』、見た目だけならなくはない。関係が続くかは完全に別だという問題ははらむが。
「そ、そう言ってくれるのは嬉しいけど、合コンはちょっと怖いし、それにその、今は京太郎くんがいるから」
なんとなくのイメージで遠ざけて自らの選択を狭める典型の健夜は、チラチラと自分の半分ほどの年頃の少年に視線を送る。
『あ、そうですね。俺が恋人になればいいですもんね』
朗らかに攻略対象であり攻めやすさを見せる『京太郎』だったが、あくまでゲームやごっこ遊びと考えている『京太郎』と、アラサーを間近にしている健夜では埋められないほどの温度差があった。
だがその事実をこの時の『京太郎』には理解できていなかったのである。
なお余談ではあるが、健夜の部屋の扉は開いており、夕ご飯に呼びに来た健夜の母は娘が何もない空間に話しかけて乙女のような反応をしているのを見てそっとリビングへと踵を返していた。
その日から数日間、健夜の母は菩薩のような慈愛に満ちた顔で健夜を見守っていたという。
アラサー組から第1弾、『小鍛治健夜の場合』でした。
それと明けましておめでとうございます。
うん、やっぱすこやんはすこやんだったよ。結末はどうしてもこんな形になってしまう。
なお、この後すこやんは千万単位で課金をし始め、高級レストランへ連れて行って(周りには見えない)『京太郎』とデートをしたりします。
なぜか空席に料理を運ばされるシェフやウェイター、その場に居合わせた人たちの気持ちはいかに?
次回は『野依理沙の場合』です。緊張と興奮すると怒って見えるのよりん。
どう攻略するのか作者もわかんねー、まったくもってわかんねー(口癖の人の出番はもっと後)
プロット練らなきゃ。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ