VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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野依理沙の場合

野依理沙は口下手である。興奮や緊張を覚えた時には発言が単語になるレベルといえばその重大さが分かるだろう。

そしてツリ目なため怒っていると誤解されやすいが、実際はただ上気しているだけで心は優しい。

 

キレイと可愛いが同居する黒髪ロングのお姉さんといった風貌で、身長は平均より少し下回る程度である。

 

独特の口下手も業界ではもう一種のキャラ扱いであり、専用のアナウンサーを割り当てられて解説も回されるようになっていた。

 

だが業界内では許されたとしてもプライベートな部分ではどうしても不便になりがち。まともな恋愛なんて程遠い。

それが、理沙が『京ちゃんと一緒』というアプリを使いだした経緯であった。

 

「練習!」

 

『はいはい練習ですね。じゃあ俺が街でナンパする男の役をするのでうまく躱してみてください』

 

理沙にしか見えない『京太郎』がそれっぽくするためにわざわざサングラスをかける。

なお理沙の買った課金衣装の内の1つであり、使い道がおそらく今後ないので『京太郎』はもったいないと雰囲気づくりに活用しようと気を利かせた結果である。

 

『お姉さんキレイだね、よかったらそこのガトーショコラの有名店でお茶に付き合ってくれないか? 男一人だと気恥ずかしくてね』

 

さり気なく金髪を風にはためかせるようにサングラスを取りながら『京太郎』は真っ直ぐに理沙の瞳を見つめる。

理沙はそれに対しかすかに口を食んで、

 

「っ、了承!」

 

頬を染めながら快諾した。快諾してしまった。

 

『いやいやいやいや、断りましょうよ。これはナンパを避ける練習だってわかってます?』

 

思わず突っ込まずにいられない『京太郎』。

 

「可哀想!」

 

『スイーツ店は理沙さんの心のハードルを下げる口実ですから、ナンパ男の目当ては理沙さん本人ですからね』

 

どうやら生来の優しさを発揮してしまったらしい理沙は、その言葉に目を瞬かせる。

 

「!? 巧妙!」

 

今更過ぎる驚きに『京太郎』は悟る。難易度が高すぎたらしいと。

もっとこう、典型的なチャラ男っぽく誘う方針に『京太郎』は切り替える。

 

『今度はちゃんと断ってくださいね?』

 

「頑張る!」

 

理沙の意気込みは高い。高いにもかかわらず不安がもたげるのはなぜだろうか?

再びサングラスをかけた『京太郎』は先ほどよりも軽い感じで三枚目調に理沙に話しかける。

 

『お姉ちゃん可愛いね、この後暇? 暇だったら俺と過ごそうよ、退屈はさせないからさぁ』

 

「……だめ!」

 

少し間はあったものの見事に断った。普通の人には小さな一歩でも理沙にとっては大きな一歩である。

だが現実の場合漫画的典型のナンパ男はしつこい。なのでここは心を鬼にして『京太郎』は続ける。

 

『そんなこと言わないで。少しだけ、少しだけでいいから、な?』

 

最後に少しだけ脅すような雰囲気を出せば女の子は怖がるもの、そういう手口を使う輩は悲しいことにいるのである。

理沙はびくっと一瞬したが、顔を俯かせながらも肩に置いた『京太郎』の手から距離を取り、じりじりと離れて口を開く。

 

「やだ!」

 

本人は半分テンパっているのだろうが、理沙の目力ならナンパ野郎に怒っているのだと誤解させるには十分だろう。

 

『理沙さんすごいです、そう、その調子ですよ!』

 

「全力!」

 

『ええ、すごく頑張ってましたもんね。あれ以上しつこいやつには急用があるとか言うか、警察呼ぶって言えば引っ込みますからね』

 

達成感に興奮してさらに上気した理沙は言葉を出すこともできずただこくこくと頷く。

 

『じゃあ一応、ハードモードもやっておきましょうか。これは難しいですよ』

 

「できる!」

 

少しばかり鼻を膨らませながら意気揚々とした雰囲気の理沙。それに対し『京太郎』は三度サングラスをかけてズボンに手を突っ込み、肩をいからせて歩いて理沙にわざとぶつかる。

 

『どこ見てんや!? んん? おどれ野依とかいう麻雀プロやないかい。あー、痛い痛い。まさかプロが人身事故起こすなんてのお、こんなんニュースになったら大変やなあ、あ?』

 

無駄な演技力を発揮した『京太郎』はまさしくヤの字のつく職業の人間の態度である。

 

「ひっ」

 

見かけは少年でも180近い身長からサングラス越しに見据えられることに理沙は怯える。

 

『こんなんニュースになったら終わりやろ、なあ? 近くのホテルで話きこか』

 

「ホテル!?」

 

その単語に理沙はますます体を強張らせる。

 

『口止め料や。どないすればええかはわかっちゅうやろ?』

 

想像してしまったのか理沙は必死に体の前でバツ印を作って『京太郎』の懐に抱きつく。

 

「無理! 無理!」

 

涙声であった。完全にやりすぎである。

 

『わわわ、すみません理沙さん。そんなに怖かったですか? もっとマイルドな方がよかったかなあ』

 

顔を『京太郎』の服に擦り付ける形になった理沙は弱い声で呟く。

 

「1人、無理」

 

やりすぎた特訓は逆効果になるという見本である。

 

『わ、分かりました。理沙さんが大丈夫になるまで俺がついてますから、ね。こっそりアドバイスとかしますから』

 

「一緒?」

 

潤んだ目で見上げられて男に断るという選択肢があるだろうか、いやない。(反語)

 

『はい、ゆっくりでいいから二人で頑張りましょうね』

 

「一緒!」

 

苦笑しながら理沙の頭を撫でる『京太郎』と華やいだ表情になる理沙。

だが二人の間には決定的な溝があった。

 

『(理沙が自分一人でできるようになるまで)一緒』だと思っている『京太郎』、そして『ずっとずっと一緒』だと思っている理沙。

 

言葉が不器用な理沙は当然恋愛感情の表現も不器用だった。二人の物語は誤解をはらんだままこれからも続く。




『野依理沙の場合』、こんなんになりました。
社会復帰プログラムとしては経験値が足りない京ちゃん。まだ高1だから仕方がないね。
逆に依存強めるマッチポンプに結果としてなっているという。

のよりんって結構年相応に見えるしコミュニケーションに対する理解力さえあれば上気した顔色もあってちょっとエロく見える気がする。

次回は『瑞原はやりの場合』。はやりんってキャラ濃いからある意味わかりやすい。


それと活動報告で今後の展開順についてアンケートしてるので、よければそちらにご要望をば。
期限ははやりん編の投下後、日が変わるまでにしております。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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