「私の知らないラーメンデスカ?」
メガン・ダヴァン、愛称メグは今年臨海女子の3年にして副将を務め、国麻には参加資格がないため実質引退となり暇であった。
そこで好物のラーメン巡りに出かけようとしたのだが、旅は道連れ世は情けとばかりにアプリ名の通り『京ちゃん』と一緒に行こうとしたところで『京太郎』から『待った』がかかったのである。
『ええ、それはこの東京に存在するラーメンの中でも珍しい種類のもの、その名も……』
ゴクリ、とメグの喉がなる。なぜかまとう空気がシリアスである。
『タコスラーメン!』
「タコス、ラーメン?」
聞き慣れない名称に首をひねるメグ。
当然のことだが情報提供者は現在長野に住んでいるタコス娘であるが、個人情報なのでそれは言わないことにする『京太郎』。
『中国から輸入した中華麺が独自の進化を遂げもはや日本の国民食の一つになったラーメン。そこにあえてメキシコの風を取り入れ融合させた新たな試み。
しかもここから食べにいける店があるんです!』
「なん、デスッテ」
『具体的に言うと秋葉原の駅から徒歩10分ですよ』
「思った以上にチカバ!?」
臨海女子学院は東東京なため電車路が複雑すぎて面倒ではあるが行こうと思えばそれほど難度は高くない。
当然のことながらラーメンがかかったときのメガン・ダヴァンの行動力をもってすれば容易いといって過言ではなかった。
そして完食。ものとしてはひき肉や野菜など基本的なタコスの中身がラーメンの上に乗せられ、本来ノリがあるべき位置に代わりにトルティーヤが鎮座するという中々に見た目のインパクトがあるラーメンであった。
『で、どうでしたお味の方は?』
実際に肉体を持っているわけではない『京太郎』は当然お相伴にあずかることはできず、実食は全てメグの権利であった。
「意外と違和感なかったデス」
『沖縄にはタコライスがありますし、日本人は文化の輸入と改良に特化してますからね』
変態大国日本と呼ばれる一端であるのかもしれない柔軟さ。まあ悪く言えば節操がないだけともとれるのだが。
「あと辛くはなかったデスネ」
『まあスパイシーなものだけがタコスってわけでもないですしね』
本場ではトルティーヤというトウモロコシを粉にしたもので作っている生地に包まれていればそれでいいらしい。
つまりは日本で例えると「昆布が入っていようと、鮭が入っていようと、ツナマヨが入っていようとおにぎりには違いがない」と表現すればその緩さが理解できるだろう。
メグはラーメンでお腹がいっぱいになって満足顔で歩く。その横に『京太郎』が並ぶと3センチほどメグの身長が高く、自然と『京太郎』の視界にはメグの唇が入る。
『メグさん、ここに食べ残しついてますよ』
チョンとメグの唇の端を突く『京太郎』に、された行為と意味を理解してメグはみるみるうちに赤く染まっていく。
「失礼、しまシタ」
異性との接触がないメグにはその時点で許容オーバーになってしまう。
実体がないからこそできないが、漫画のように「ひょいパク」されたらその場で気絶して倒れそうなほどメグは羞恥心に苛まれる。
一方で『京太郎』といえば少しばかり抜けた所のある幼馴染によって無意識レベルで耐性ができており、メグの心の動きに気づかない。
『次はどんなラーメン食べに行きます? 新機軸ラーメンもありですけど定番のしょうゆ味噌とんこつ塩も外せませんよね。
次回からはネットとかで調べてからになりそうですけど』
メグはその間必死に唇に触れた指先の温度を反芻しながら頭の中がぼうっとなってろくに話が入っていかない。
その様子にやっと気がついた『京太郎』は首を傾げながらメグの視界に入って見上げ、手を頬にあてる。
『メ~グ~さ~ん?』
顔がすぐ近くに寄せられたことでメグは一瞬正気を取り戻すも、すぐに自分たちの状態を客観視してしまい焦りながら口走る。
「そ、そうデスネ。私も暇デスシ、ラーメン巡りの旅とイウのも」
『んー、だったら遠くに行って毎回戻るのも大変ですし泊りも考慮に入れなきゃですね。準備何がいるかなー?』
無邪気な『京太郎』の言動一つ一つに翻弄されるくらいには、メガン・ダヴァンという少女は首ったけだった。
『泊り』というワードに彼女がどんな内容を思い浮かべたのかは女としての尊厳のために内緒である。
執筆時間がなかなか取れなくてやっと書けた『メガン・ダヴァンの場合』でした。
彼女は大のラーメン好きということもあって切り離せませんでした。『亦野誠子の場合』と似たルートですね。ただしこちらの方が初々しい感じですけど。
いやこう、文化圏的には日本より接触の多いだろう国の人が自分の恋愛絡むとまるっきりダメというのもギャップかなと。
次回は誰かも決まっていないという突貫工事。この話は数時間で作ったから仕方ないよね。
臨海は全員キャラ濃いから悩みどころです。