VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

4 / 80
鷺森灼の場合

鷺森灼は赤土晴絵の熱烈なファンだ。

一時こそ最前線で活躍しないことに不満を持っていたが、自分たちの師として教え導かれていくうちにその優秀さを目の当たりにし「ハルちゃんはすごい」という思いを強めることになった。

今の灼の異名は「伝説の後継者」赤土晴絵を継ぐものとして注目されている。

 

そして今年度が終われば、赤土晴絵はプロとしての道を歩むことになる。

そのことに誇らしさを感じつつ、同時に託されたものとして何ができるかを考えるようになった。

 

彼女がアプリに出会ったのはその頃である。灼が注目したのは外見などのミーハーな部分ではない。

麻雀は役を覚え少し齧っている程度、そして女性よりも雀力に劣る男子。

それをもし自分が強くすることができるなら、赤土晴絵の優秀さをさらに証明できると自信が持てるようになるのではないかと考えた。

流石にその辺の一般人で実験するのは躊躇があったため、その点でも都合がよかった。

 

「これまで見て分かったけど京太郎はデジタル寄りの打ち方をしようとするけど、ミスが多いし裏目に出ることも多い」

 

『それはもっとミスを減らして完璧なデジタルを打てるようになれってことですか?』

 

オリジナルが今も受けているだろう指導法を思い浮かべて『須賀京太郎』は言葉を返す。

 

「もちろん麻雀の基礎はデジタル部分が大きい。『何切る』の正答率を上げるのは必至」

 

その言葉に京太郎は自分の道の険しさを思う。和の域まで到達するには何年、いや十年単位でかかるかもしれない。

 

「でもデジタル打ちには大前提がある。一つは確率通りに牌を引ける運、言い換えれば引く牌に偏りがないこと。もう一つは常時修正可能な計算力。

 この二つのどちらが欠けてもデジタルは完成しないとおも」

 

誰もが原村和のようになれるわけではない。

 

例えば松実姉妹がデジタル打ちをし出せばどうなるか、今より圧倒的に弱くなる。

赤土式の指導は本人の個性を分析することで強みを伸ばし、逆に欠点をカバーすること。さらには対戦相手の分析と対策が要となる。

 

「これは京太郎が打ったデータ。これから分かることは?」

 

『んー、直撃されることが多い?』

 

自信なさげに答える京太郎に灼は頷き補足する。

 

「より正確には他家が聴牌した時に不要牌かつ当たり牌がある場合、京太郎はほぼ確実に掴んでる。当然ツモ切りしたらそのまま直撃」

 

『まじか……運悪すぎだろ俺』

 

明かされた事実に愕然と落ち込み地に蹲る京太郎の頭を優しく撫でながら灼は続ける。

 

「見方を変えれば悪いことだけでもな。出さなければ相手の上り牌を握りつぶしたのと同じ」

 

『おお……強くなれるんですか俺!?』

 

「引いた牌から逆算すれば人より振り込みにくくなる。回して張り替えればい」

 

期待に尻尾を振らんばかりの食いつきに、灼は大型犬を連想して可愛く思う。

 

『つまり、俺が鍛えるところは?』

 

「聴牌気配の察知能力。できないと普段引く不要牌と見分けつかな。

 あと追っかけリーチは必ず負けるから禁止。よほど早くない限りはリーチ自体不利、ダマテン安定」

 

サラサラと述べられる指摘に京太郎の目が輝く。

 

『俺、灼さんについていきます! 強くなって恩返しします!』

 

純真な目で見つめられながら手を両手で握られ、男慣れしていない灼は少し心を乱す。

 

「まだ検証も済んでな。やってから言ってほし」

 

照れ隠しにそっけなく言うも、京太郎は尊敬の目線をやめない。

もしかしたらハルちゃんが私へ抱いていたのはこんな感情だったのかと重ね、緩みそうになる顔を引き締める。

 

そんな折

 

「灼、いるー?」

 

ヒョコっと顔を出した女性の姿に灼は即座に走り寄る。

 

「ハルちゃん! どうしたの? しばらくプロ活動のための調節するって言ってたのに」

 

じゃれつく犬のような灼の表情に察した京太郎は邪魔にならないようにすすっと下がる

 

「ちょっと整理してたら昔の制服が出てきてね。灼のネクタイ毎日使っててちょっとへたってるし、予備にいるかと思って」

 

「いる。ありがとうハルちゃん」

 

嬉しそうに薄紅色のネクタイを受け取った灼はほころぶような笑みを見せ、赤土晴絵はその頭を軽く撫でる。

 

「じゃ、私は戻るね。次の土曜に部活で」

 

「またね」

 

お互い小さく手を振って別れた後、再びすすっと灼の元に京太郎は近寄る。

 

『あの人が赤土先生ですか。たしか来年プロ入りするんですよね?』

 

「うん、ハルちゃんは凄い」

 

人から赤土晴絵が認められるのが大好きな灼は即座に頷く。だが、

 

『赤土先生にも教えてもらったら早く強くなれるかなー?』

 

軽い気持ちで放った京太郎の言葉になぜか灼は心がささくれ立った。

若干低くとげとげしい声で京太郎の目を真正面から見て宣告する。

 

「京太郎は、私の弟子」

 

『え、ああ。もちろんですよ。灼先生、俺麻雀がしたいです』

 

「ん。理論の後は実践あるのみ」

 

先生と呼ばれ気を持ち直した灼は満足感のまま頷き、すぐに思考を変えたためこの時は気づかない。

その感情が誰に向けた嫉妬だったのかを知る頃には自分の中の想いが育ち切ってからのことになる。

 

一方、京太郎は割と本気で仕様の抜け道を探し出していた。

 

『この修行の内容、どうにかして『俺』に送れないかな』

 

「行くよ京太郎」

 

『あ、はーい』

 

実は奈良で本物の京太郎に会える最短の道を持つのは鷺森灼であったが、本人は知る由もなかった。




はい、灼は麻雀の先生から独占欲の混じった恋愛コースです。
灼が恋愛感情を抱くにはどうしてもレジェンドの存在がネックなので、逆に灼との関係をダブらせる方向にしたら割としっくりきたという。

阿知賀のトリはアコチャーにお任せ。
実はプロット的に全く迷わなかったのは穏乃・玄・憧の幼馴染三人衆だったりします。


あと、()()()()()阿知賀編の後にどこの高校にするかのアンケートを置いているのでよかったらどうぞ。
感想欄でのアンケート活動は禁止なためご留意ください。作者が大変なことになるので()()()()()()()()よろしくお願いします。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。