VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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雀明華の場合

(チェー)明華(ミョンファ)は歌うのが好きだ。それはオカルト的な意味では歌えば自分のツキが上がるというのもあるが、気分のノリというものはメンタルと深くかかわる麻雀において重要な要素。

 

明華は歌う。朝の日課、公園の大きな樹の下でその美声を紡ぐ。それはルーティンに近い。

 

ルーティンとは一定の行動をスイッチとして自らの調子や精神を切り替える行為。

世界ランカーに数えられる『風神』ならば持っていて当然の技術だ。

 

ただ以前と違う点は聴衆が小鳥たちだけではなくなったことぐらい。

 

パチパチと明華にしか聞こえない拍手が贈られる。

 

『やっぱり明華さん奇麗な声ですね。歌手とかの道は考えなかったんですか?』

 

べた褒めする『京太郎』に明華は日傘で少し照れた顔を隠して

 

「考えたことはありますが、母子家庭でしたから初期投資の関係で麻雀になりましたね」

 

明華のその言葉に『しまった』という焦りが顔に出る『京太郎』に明華は気にしてないとばかりに笑顔を向けて

 

「実力があっても芽が出ない可能性もありましたし、私は今はこうやってやっていけているので選択を後悔したことはないですよ」

 

自分の選んだ道に胸を張って見せる明華。別の意味でも胸が張っているのだがそこは置いておく。

 

『スポーツ関係は才能と実力主義なところがありますもんね』

 

「スポンサーを選び出すと容姿がどうしても影響するとネリーはぼやいていましたけど」

 

くすくすと思い出し笑いをしている明華の姿に『京太郎』は(もうプロとして活躍しているんだな)と明華を憧れるような目で見る。

 

「そういえば京太郎さんはずいぶんとがっしりしていますけど、何かやっているんですか?」

 

『中学はハンドボールを。今は麻雀ですから鈍っている感じですね』

 

「あら、ハンドをされていたんですか?」

 

驚きに目を見張る明華に何を驚いているのか分からないという顔で言葉を続ける。

 

『まあマイナーだったんで部員全員がレギュラーというかなりの自転車操業でしたね』

 

「日本ではそうなんですか? フランスでは結構メジャーな部類ですよ、偶然ですね」

 

今度は『京太郎』が驚く番。

 

『え? そうなんですか?』

 

「ええ。あ、まさか私の出身を知って言いましたか?」

 

相手に合わせて性格や設定が変わるゲームに似たようなものかと首を傾げる明華。

確かにホストなどでは無理やり共通点を作るものだが、ここにいる『京太郎』は当人をコピペして投影されているようなものなので当てはまらない。

 

『それはないですね。まあ証明しろと言われればできないんですけど』

 

長野にいる本体ならば家に転がっているハンド用のボールを使って再現できるのだが、ただ感覚に働きかけている存在なので不可能だ。

 

「そんなことありませんよ。京太郎さん、掌を上に向けていただけますか?」

 

『あ、はい』

 

よく分からない指示であろうととりあえず従う、そんな日常を過ごしていたため言われた通りにすると、明華の指がつつっと表面を撫でていく。

 

「大きくてタコのあともある、これならがっしりと握ってしまえますね。ふふ、ずいぶん頑張ったんですね、よくわかります」

 

掌をなぞる指先は羽毛のように軽いタッチで『京太郎』をくすぐったくされる。

 

「この手で握られてしまったらきっと私逃げられませんね」

 

ふと微笑みかけてくる明華に思わず『京太郎』はドキドキしてしまう。

 

『……じゃあこれで、逃がさないですよ?』

 

ちょっと迷った後で『京太郎』は少し目線を逸らしながら恋人つなぎにしてみる。

 

照れてしまうのは本体の好みが明華にかなり一致するためどうしても意識してしまったせい。

恋愛ゲームアプリでもやはり当人の好みというものはあるのだ。タイプでなくとも好きになることも同時にあるが。

 

「ふふ、こうしていると少し浮かれてしまいます」

 

『そうなんですか?』

 

日傘にちょっと隠れて顔は見にくいが声音はずいぶん弾んでいる。

 

「私も年頃ですから異性とこうして、というものはやはり特別ですよ」

 

『はあ』

 

共学出身の上に迷子とはぐれないように手をつなぐ事に慣れている『京太郎』にはいまいち分からない感覚である。

 

「……ごめんなさい、私課金もせずに自分だけ楽しんでしまって」

 

『え? でもお母さんに恩返ししたいからでしょう? それに無課金プレイも一つの遊び方なんですから』

 

この点、無料でサービスを受けるのが当たり前な日本人とサービスには直接チップを渡す欧米諸国の差である。

気にしないようにしたってどうしても罪悪感は湧く。そしてもう一つ、明華には現在のままでは叶えられない現実があった。

 

『いいんですって、ほら俺もこんなに楽しんでるんですから』

 

繋いだ手を振る感触に、元気づけてくれる優しい『京太郎』との間ではどうしてもできないその事。

 

「お母さんに『恩返し』できるのはずいぶん先になるかもしませんね」

 

なぜか惹かれてしまう彼との間には生まれては来ない存在。母親に孫の顔を見せるという願いは明華にとって遠すぎた。

 

日傘をさして愛しい我が子の乗るベビーカーを押しながら『彼』と語らう光景は儚く遠い蜃気楼にも似ていた。




『雀明華の場合』、これで終了。

イチャイチャして明華の優しさと可愛さを書くという予定だったのに何で最後にこうなっちゃったのかね? 作者が不思議でなりません。

無課金プレイのライト層として明華を書く予定が、書き終わったらベビーじゃん、もといヘビーになってしまった。

いや違うんです、だって最後の光景想像したらギャルゲーのENDの一枚絵っぽくていれたくなったんですごめんなさい(土下座)

原作で渾身のタコスを優希に渡す姿が智葉に見られたりしてたらやばい、危険値が……


次回『辻垣内智葉の場合』、見てください。


ちなみに感想があると作者はすごくチョロく喜びます。感想返しはしないけど作品を頑張るよ。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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