辻垣内智葉は去年のインターハイ個人戦で3指に入った雀士である。
当時の3年生が弱かったのではなく、宮永照・荒川憩・辻垣内智葉の3人が強すぎて吹っ飛ばした結果と言える。
今年もこの3人がいたという事実は全国の指導員にとって悩みの種であっただろう。
そんな彼女の普段の姿は髪を後ろで束ねメガネをかけ制服の上から見ると胸もつつましい。
凛とした空気と触れれば切るような鋭い麻雀は一種のヤの字の家の生まれではないかと揶揄されるも、そんな輩は一瞥しただけで黙らせる、そんな人間だ。
頼りになる支柱としての才能もあるため、周りの人間に「辻垣内智葉に彼氏はいるか?」などと聞けば多くの人間は「彼氏? 彼女の間違いじゃなく?」などと返されるだろう。
実際女子校内で人気は高い。
さて、そんな彼女の自室を見てみよう。
「ふふっ、おだて上手だな京太郎くんは」
長い黒髪がふわりといい所のお嬢様風、裸眼の目もとは優しげ、胸も平均並みかそれ以上、なにより全体のシルエットが美しい。声色は少々浮かれたような甘い語調。
智葉を知るものなら「部屋を間違えたかな」などと言って帰ること請け合い、麻雀部の仲間でさえ「誰これ?」と言いかねない。
だが語調が男に媚びるように聞こえるものの、声自体は間違いなく辻垣内智葉である。
つまりは辻垣内智葉その人である。
普段との違いといえばその精神状態。「気になる男の子に可愛く見られたい」というたったそれだけだ。
『えー、智葉さんが彼女だったら絶対自慢するけどなー』
なおこの『京太郎』は準決勝、決勝で臨海女子の先鋒を務めた辻垣内智葉だとは想像もしていない。
起動してから開口一番「私のことは智葉と呼んでくれないか?」と言われたからそう呼んでいるだけである。
仮に名字を知ったところで別人レベルで見た目が違う上に薄化粧をして唇に軽く紅をさしているのだから(同姓同名の人っているんだな)と思い込むのが落ちであろう。
「冗談で言ってたらいつか刺されるよ」
『刺されるぐらいモテたいもんですけどね』
非常に大事な忠告に対して『京太郎』は軽く肩をすくめて受け流す。
雑用生活と周囲の素直じゃない反応のせいで『京太郎』はその可能性を微塵も考えていなかった。
結果、「彼女が欲しい」などとのたまう男子高校生の完成である。
「なら私が「彼女にしてほしい」と言ったらしてくれるのかい?」
『断る理由がないです。智葉さんって超美人ですし』
確認しておこう。
今の智葉は濡羽色のロングのストレートな髪を耳元でかきあげ、もとより美しい肌は薄化粧で儚い透明感を滲ませ、白のワンピースという清純さに加えて、薄紅の唇は誘うようにしっとりとした色気を垣間見せている。
ついでに大事なことだから二度言うがおもちもある、平均並み以上のおもちもあるのである。
全力をあげて男子を墜とす気全開のガチモード、智葉の中の乙女力をかき集めて凝縮した結実。
深窓の令嬢といった感を出しまくりの女性に乗り気のような笑顔で頼まれれば男の答えは一択である。
「なら、今度デートしよう。お互いに知りたいこともたくさんあるし、ね」
首をわずかにかしがせて瞳を覗き込むように見上げ、嬉しそうに約束を持ち出されれば特に用事のない『京太郎』は簡単に首肯する。
『あ、でも今日も休日ですけど何か用事が?』
「ああ、ちょっと友達とやらなきゃいけないことがあってね。悪いけれど支度をしたいから一度切るよ」
『はーい』
今の格好ですでに支度は万全ではないのかという疑問も覚えずに生来のお人好しさで額面通り受け取る『京太郎』。
そして智葉はアプリをちゃんと停止したことを3回確認し、近くの机の上に顔をつける。
「緊張した……」
女子団体戦の決勝ですら感じなかったプレッシャーから解放されて体から力を抜く。ドキドキバクバクの心臓が今更機能して顔がみるみるうちに紅潮していく。
短時間の会話だったのに疲労感がすごく、今日デートできないのは元々の予定もあるが慣らさないとデートなんかできる精神力が残ってないからというのが大部分の理由だった。
「ふう、さて出かけるか」
一息おいてからは化粧をしっかりと落とし。最近買った乳液を薄く延ばして塗り、髪を後ろでゴムで束ね、最後にメガネをかける。
この格好では似合わない白のワンピースをハンガーに掛けてサラシを巻き、着慣れた服に着替えていつも通りの『辻垣内智葉』に戻る。
「しかしまあ、ネリーもたまにはいいものを教えてくれる」
彼氏持ちになれたという事実に口元が緩みそうになるが、周囲のイメージが崩れると思い引き締める。
「行ってきます」
起動もしていないアプリの中の『京太郎』に挨拶をして靴をつっかけてかばんを持って出かける。
しばらくは『京太郎』は素の智葉ではなく乙女になった智葉の姿しか知らない日々が続くのだが、素が垣間見える頃には既に大体のことは受けいれられる仲になっていることだろう。
つまるところ辻垣内智葉はかなり重度の恋をしていた。
『辻垣内智葉の場合』、完。
ガイトさんのあの姿はギャップという点でいれば乙女セーラに並ぶのではないだろうか?
さらにお化粧してるから『京ちゃん』が見た智葉先輩は絵から出てきたようなレベル。
普段かっこいい智葉が恋しちゃうとすごく可愛いという話が書きたかった。
そして次回『ネリー・ヴィルサラーゼの場合』は時間を遡って、臨海面子で一番先に『京ちゃんと一緒』を始めたネリーのお話になります。
ネリーがなぜ周囲に勧めたのかも作中で明らかになります。
臨海編は次で最後。閑話の清澄ーずは誰にするか迷うところ。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ