ネリー・ヴィルサラーゼにとってお金の存在は重要極まりない。貧困というものが身に染みている故に『お金さえあれば何でも買える』という発想に至るのは当然であった。
全てを手に入れるためにこれまで頑張ってきた。強くなって自分の存在を強め、スポンサーだって手に入った。今ではこの物価の高い日本でだって生きていけるだけの蓄えを得た。
普通に生きるのはもう問題ない。なら次は? 『幸せ』だ。
それを手に入れるためにお金を稼ぐ。スポンサーに受けがいいようにインターハイ準決勝では鮮やかな逆転劇を刻みつけた。
おかげでがっぽり転がり込んできたこのお金で自分の『幸せ』を買う。
それが自分が敷いたレール。絶対に『幸せ』を掴む。
未来でも予定でもなく今この時の現実にそうなる、そのはずだったのに、どうして
「なんで? なんで好感度アップアイテムが売ってないの!? 課金したら普通上がるでしょ!?」
ネリーはお冠であった。
ネットゲームは基本的に課金すると目に分かるレベルで強くなれる。その価値観が自分と同じだからこそネリーはポチポチと暇つぶしにやって充足感を得ていた。
未体験の『幸せ』の一つでもある恋の体験をしてみようとこの『京ちゃんと一緒』を始めたのはそんな理由。
『えーっとな、『人の気持ちはお金で買えない』という言葉があってだな、現実感を増すために――』
「そんなの積む金額が少ないからじゃん! 数百、数千万と見せれば目の色変えて飛びついてくるの! 日本は余裕あるからそんな日和ったことが言えるだけ!」
ネリーの言うことは正しい面がある。生活に困った人間にポンと渡せば簡単に忠誠心は買える。ただしお金に対しての忠誠心ではあるが。
だが未だ男子高校生という保護される側の『京太郎』にそんなシビアな世界を実感しろというのは無茶である。
『強要した時点でそれは恋愛じゃないだろ?』
そう言えるのは純粋な子供時代の特権だろう。大人になれば妥協も恋愛に関わってくる。
『そもそも恋愛ゲームアプリに頼る時点で妥協していないか?』などという点は触ってはいけない。
『正攻法で俺を惚れさせてみるんだな』
どや顔で胸を張る『京太郎』。対して自分の姿を客観視しているネリー。
「無理だから課金アイテム探したんだけど」
自分の容姿は『可愛らしい』の範囲には入るが、それは子供っぽいという意味であり恋愛においてはむしろハンデだとネリーは考えていた。
『そっか? ネリーは可愛いのになんか大人っぽいこと言うしそのギャップでいけるんじゃね?』
この男、「可愛い」とか「綺麗」とかいう言葉にためらいがない。言っても「はいはい」と周囲が受け流すため全く是正されないでいた。
なお言われた側は冷静に見えるのは表面だけで実は(もっと言ってほしい)とか思っているのだがそんな事実には気づかないのである。
「っ、は? 何ゆってんの!? 意味わかんない!」
自分も恋愛対象になりえるという言葉を突きつけられ急に狼狽えるネリー。
表面上の誉め言葉には慣れているが、その特有の空気を『京太郎』からは感じなかったからである。
『京太郎』当人が何も深く考えずに思ったことをそのまま言っているため嘘の空気など纏うはずがない。
『ところでその服民族衣装? 可愛いは可愛いけど露出多くないか?』
原村和と国広一が周囲にいるくせに突然まともそうなことを言う男である。
「こ、これはスポンサーに受けがいいから。『どこそこの国の支援をしてます』って会社がアピールするイメージ戦略だよ。
改造はしてるけど、ある程度露出してる方が目立つし」
話が全く変わったことに助かったという気持ちが半分、何かよく分からないくすぐったさともやもやが半分。
そしてネリーの返答に微妙に眉を寄せる『京太郎』。
「なに?」
『いやなんか、ネリーが自分を安売りしてるみたいで勿体ないなって。彼女が他の男に肌見せるのに抵抗があるみたいな?そんな感覚』
もにょもにょとした自分の中身を吐露するのにすら迷わない辺りが『京太郎』の個性である。無論自分好みの女性の前ではかっこつけたい気持ちもあるが。
「は、はあっ!? なに彼氏面してんの!?」
真っ赤になって両こぶしを上げ下げするネリー。『京太郎』の言葉に翻弄されすぎである。
『いやこのアプリしてるってことは最終的にはそういうことも、って感じだろ?
まあ今のは確かに今口出しできる範囲を超えてたかもな。ごめん、謝るよ』
引き下がられるとそれはそれでなんだか寂しい乙女心。だが『京太郎』にばかり振り回されるのは負けん気が働くためネリーは話題を自分の得意分野に変える。
「ところで、さ。このアプリ採算とれてるの? 機能が明らかにオーバースペックなんだけど」
『さあ? その辺は俺にはよくわからん』
「ちょ、採算とれないとサービス終了になるのに何でそんなに他人事なわけ!? これは買い支えないと最悪……でも個人資産じゃこっちの浪費が激しすぎてリターンが」
急にぶつぶつと考え出すネリーに『京太郎』は首をこてん。
『おーい、ネリー?』
「よし、布教しよう! 一人じゃ買い支えられなくても数があれば問題ない、まずは今の部員たちに……」
決断したネリーの体は走り出し、5mを超えたところで『京太郎』の体がスマホに引っ張られていく。
ネリーの中ですでにアプリに見切りをつけるという選択肢がなくなっていることを彼女は自覚していない。
こうしてネリー・ヴィルサラーゼの地道な布教活動が始まった。
『ネリー・ヴィルサラーゼの場合』、終わり。思ったより長くなった。
ネリーはシビアな経済感覚を持ち合わせていると思ったので「このアプリ赤字じゃね?」という俯瞰視線からの布教。
Twitterとかでやってしまうと人気や収入に関わるので信頼できる人間にという地道な形で臨海勢を取り込みにかかるネリーさんです。
裏で大物プロが大量に株を買っているからネリーの行動はあまり影響しないけど、彼女自身はそれを知ることなんてできないので、やれることをやるしかないというのがネリーの立場。
閑話でまこさんか優希を挟んで、臨海の次に票が多かった姫松高校編に行くつもりです。
あと感想で要望の多いプロ以外の大人勢(主に顧問)ですが、それはそれで書くつもりです。別に個人戦だけの人でキャラ分かってる子なども。
最大の問題は愛宕母になるのでそこはちょっと恋愛とはズレるかもです。人妻をどうするかは家庭の問題になりかねないので構想を練る時間をいただければと思います。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ