VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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愛宕絹恵の場合

愛宕絹恵が『京ちゃんと一緒』というアプリの存在を知ったのはとある夕方のことだった。

 

リビングの机の上に姉の携帯が置かれていて画面が下向きだったので傷がつくと思って裏返した。

その時指が触れたのかアプリのうちの一つが起動した。

 

その起動に合わせて目の前に知らない金髪の少年が現れ、気軽に手をあげたまま彼の笑顔が硬直した。

同時に絹恵も目を見張り、母へと助けの声をあげる。

 

「お母さん、家の中に不審者が!」

 

そのかすれた悲鳴に母、愛宕雅枝は素早く目を走らせ息を吐き

 

「なにゆーとん、おらへんやん」

 

「お母さんこそなに言ってん、おるやろここ!」

 

ビシッと指さし主張するも、質の悪い冗談としかとらえない雅枝は肩をすくめるのみ。

苦笑いした『京太郎』は(まずいことになった)と思いながらも自らの存在がどういうものであるのか説明を余儀なくされた。

 

 

一通りの『京太郎』の話を聞き終わった辺りで姉がお風呂から出てきたのでちょっとした出来心でからかってみると真っ赤になってスマホを奪い、どたどたと足音を立てて自分の部屋へと閉じこもってしまった。

 

仕方がないので絹恵も自分の部屋に戻り、姉の見せた珍しい表情に思いを馳せる。

 

「お姉ちゃん、あんな顔もするねんな」

 

基本的に自信満々といった顔の洋榎を見て育った絹恵にとっては意外であり、同時に興味がそそられる。

 

気がつけば半分無意識にアプリ名を検索しており説明文に目を通したあとだった。

 

「あの子だけ、なんや」

 

幾人かの候補の中から自分の好みで選ぶというような形態を想像していた絹恵には剛毅な戦略に映ったものの、(あれだけ技術詰め込んだんやから開発費も大変なんやろな)と思いなおす。

 

自然すぎる応答や起動した人間にしか見えない・聞こえない事を可能にする技術は明らかにオーバースペックなのだからその分しわ寄せが行くのも仕方ないだろうと1人納得する。

 

長めのダウンロードを経てインストールされたアプリ、それをクリックすると目の前に見覚えのある金髪少年が網膜に表示される。

 

『こんにちわ、初めまして。俺の名前は』

 

「『須賀京太郎』くんやろ? 実は初めましてでもないんやで」

 

説明文からわざと外された名字を当てられ、さらに目の前の少女が和と相対した人間でもあることを思い出して(すわ身バレの危機か)と焦る『京太郎』。

 

「実はお姉ちゃんがやってるん見てん。それで私もやってみよかなー、て」

 

『ああ、そうだったんですか。偶然だなぁ。偶然でもこんな可愛い人と知り合いになれるなんて嬉しいですよ』

 

焦ったせいで『京太郎』は咄嗟によいしょに向かう。まあ可愛いというのは本心でもあるが。

 

「か、可愛いなんて何言ってんっ? そんな煽てられても嬉しゅうないよ」

 

実は嬉しい絹恵、だがその本心は隠す。しかし追撃が止まらない。

 

『いやいや本気ですって。俺が同じ高校に行ってたら告白しちゃうな、「付き合ってください」って』

 

姉と比べられ続けていた絹恵は唯一勝てる点として自分のプロポーションを自覚してはいたがなにぶん女子校育ち。それを実証してくれるような男子とは出会いがなかった。

 

「せ、せやったら、私とお姉ちゃん、付き合うならどっちなん?」

 

その疑問に『京太郎』はちょっと考えて姫松高校のレギュラー陣を思い出す。

 

『洋榎さんとは話は合いそうですけど、好みという点では断然絹恵さんですね』

 

この『京太郎』にとっては話したこともない異性と目の前の美少女を比べるのだから当然この結論になる。

だが絹恵からしてみれば『姉に恋する乙女の顔をさせる男が自分を選んでくれた』という錯覚を生む。『女として自分の方が優れている』と優越感がくすぐられる。

 

「そ、そうなんや。そういえばうち、前までサッカーやってたんやけど」

 

『あ、偶然ですね。俺も中学はハンドボールやってたんですよ』

 

ここでさらに共通点を見つけ、絹恵はどんどんと深みに落ちていく。

 

「だからそんなに手がおっきいんや」

 

『ですです』

 

男の子特有のごつごつとした手がボールを掴む仕草になるのを見て、一瞬自分の胸のボールが掴まれる妄想までしてしまう絹恵。

実は愛宕絹恵、隠してはいたがむっつり気味であった。

 

「ふ、ふーん。うち、もっと『京太郎』くんのこと知りたいな」

 

『俺も絹恵さんのこと知りたいですし、これから一緒に過ごしたいです』

 

「……せやな、一緒におろな」

 

『はい。よろしくお願いします』

 

こうして絹恵の心はあっさりとボールのように転がった。もう瞳は姉にも負けないほど恋する乙女のものである。

 

 

結果、愛宕雅枝は自分の娘が二人とも完全に男にいかれているのを看破し、何かを覚悟したような顔になるのであった。




『愛宕絹恵の場合』、そして姫松編は絹ちゃんがコロコロされたところで一区切り。

次回は閑話で優希の出番。
そしてそこから大人編として流れを汲んで『愛宕雅枝の場合』、『赤阪郁乃の場合』、その後かいのーさんか咏さんへと続いていきます。


前回不安を呟いたら一気に感想が来て、「これでいいんだ」と悩みは吹っ飛びました。
励ましてくれてありがとー!

まだ未登場の有珠山に長野面子・個人戦組もいるので閑話の回数が足りないということはなさそう。

掲示板みたいなので『京ちゃんと一緒』ユーザーの自慢のし合いや、透華がとある日にやらかして大炎上というネタも温めてますので(その辺もやれたらなー)と思ってます。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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