VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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新子憧の場合

新子憧は阿知賀一のお洒落さんである。

麻雀部員5人のうち1人は常に上だけジャージ、もう1人は真夏だろうがマフラー&セーター&手袋、さらに1人はアニマルプリントTシャツを好むため、実質松実玄しか比較対象がいないのだが、流行の服でコーデを決めるセンスは比肩するものがいない。

 

麻雀は全国のエースと競えるレベル、偏差値は70は余裕、運動神経も幼いころ穏乃についていけた時点で察せるし、中学時を機にすらりと手足が伸びてスレンダーな美少女へ。

玄いわく「おもちには足りない」ではあるが、最近は女性的に丸みを帯びて肉感的になっている。

 

そんな完璧にも見える彼女だが、苦手なものもある。それは男性。

 

成長期とともに急に美貌を開花させた彼女を男たちが放っておくわけがなかった。

チラチラ見るなんてのは可愛いもの、明らかに下心がある眼で見られたり、言い寄る男も多かった。

 

ちょっと町に遠出した時に大学生と思われるガタイのいい二人組に絡まれたときは危機すら感じた。

それ以来男性に対して怖い、苦手という意識が付きまとうことになった。

 

だがそのままでいいとは憧自身思ってはいない。

進学、就職と将来を見据えた時に必ずその苦手意識は仇となると悟るだけの賢さがある。

だから練習、慣れるためにそのアプリに手を出した。

 

そしてインストールしてからしばし時は経ち、街中へと舞台は移る。

 

「すー、ふー、うん、行く」

 

『無理はするなよ』

 

「多少はしないと改善しないでしょ。それに、あんたがいいやつなのは分かってきてるし」

 

憧はスマホを耳に当てて答えながら『京太郎』の腕の裾をちょんと摘まむ。

 

『んじゃ、歩くか』

 

人がまばらに行き交う中、歩道を踏みしめるたびに憧の指先に引っ張られるような感覚がフィードバックされる。

『京太郎』の動きに連動して感覚を錯覚させほぼリアルと変わらないと感じさせる、高度にも程がある技術だ。

 

「これ絶対採算取れてないでしょ。アンタの運営つぶれないのかしら?」

 

『このアプリは実験で、医療方面への適応や特許での収益が主眼とか、よくわからん説明された』

 

「いや分かっときなさいよ。アンタ開発された側でしょ」

 

憧は緊張を紛らわすように雑談を始め、察した京太郎はそれに乗っかる。そして京太郎の突っ込みどころ満載な発言に憧が突っ込みを返す。

 

友人とするならばごく普通の会話だが、インストールした当初は異性ということで憧は過剰に気をとられて会話すら微妙に間が開いたり京太郎の動きにビクビクしていた。

 

まずは最低半径1mの距離を取って話すことから始めたにしては、腕の裾を摘まみながら軽快に会話できる今はずいぶんと前進したものだ。

 

『残念だが俺は一般的な脳みそしか持ち合わせてなくてな。同じ高校に通ってたら間違いなくお前に勉強を見てもらってたと言い切れる』

 

「ダメじゃん。しずと同類かー。今度の勉強会、脇で聞いとく?」

 

『今の俺はテストを受ける必要がないから別にいらない。どーだ羨ましかろう』

 

どやった顔で勝ち誇る京太郎を指でくんと大きく引いて、その影響で足並みが崩れた京太郎は転びそうになるがどうにか体幹で支える。

 

『おま、コケかけただろ、危ないからやめろよ!』

 

「コケても怪我しないでしょアンタ。肉体ないんだから」

 

焦り顔に変わったのを見て憧はクスリと笑い、その直後

 

『馬鹿、危ないのはお前だっての。服掴んでるから俺がこけたら感覚フィードバックされるんだぞ。

 それでバランス崩したら片手スマホで塞がってるから憧が怪我する確率高いだろ』

 

「っ、ごめん。そこまでは考えてなかった。その、ありがとね」

 

真っ先にされたのが自分への心配だったのだと気がつき、反省と同時に胸の奥が締め付けられたような感覚を一瞬覚える。

 

『……あれ? でも製品になってるんだから俺が気付くくらいのことスタッフは予想してるかも。実は杞憂?

 んー、でも見落としだとやばいしな。憧、悪いけど後で運営に問い合わせ頼めるか?』

 

「あ、うん、分かった」

 

ぼんやりとした返事に京太郎は憧の顔を覗き込み

 

『調子悪いなら今度にするか? 焦ったからって早く慣れるってもんじゃないし』

 

本心からの気遣いに反応して憧は服の袖から手を放し、今度は京太郎の小指に指を絡める。

 

「もう少し冒険してみるから、続けよ」

 

『憧が言うなら。ところでこれって手をつなぐに入るのか?』

 

「今は、これで精一杯。ちゃんとしたのは少しずつできるようになるから待ってて」

 

急にしおらしくなり顔が赤いのに京太郎は気づくが、頑張ってるのだろうと自己完結してあえて口にはしなかった。

 

「とりあえず映画見にいこっか」

 

『お、久しぶりだし結構いいかもな。憧は好きなジャンル何?』

 

憧の中で目的が男慣れの練習からデートに変わっていくのだが、京太郎がそれを知るのはまだ先のこと。

 

「今は恋愛、の気分かな」

 

『俺も嫌いじゃないし憧に合わせるわ。開場まで時間あるようだったら喫茶店にでも寄るか』

 

ただ、それほど先の未来ではなさそうだった。

 

まだ恋と呼ぶには早い胸のドキドキが絡めた指を通して伝わらないか、今の憧はそんなことで心がいっぱいであった。




憧には王道のこっぱずかしい青春恋愛を。

服の袖摘まみ→小指に絡めのコンボは穏乃編考えてる時からすでに頭にありました。

穏乃も憧も京太郎の言動で突発的に意識してしまうのは同じ、だけどそれが恋に育つのはそれぞれ彼女達らしく。みたいなのが出ていれば嬉しいです。


予告よりも公開が1日早くなったのは謝らない。早いのは悪くないはずと信じたい。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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