愛宕雅枝は二児の母である。産んだ年齢が若いため見た目も現役であるものの、恋愛観は今どきのそれではない。
娘二人の入れ込みようは明らかに異常なものであったし、それが現実での恋愛に影響を及ぼすとなれば保護者としては見過ごせない。
「で、うちの娘で二股してどうするつもりなんや?」
インストールされるなり身に覚えのない罪を追及される『京太郎』、これには愕然とせざるを得ない。
『ええっとつまり、娘さん二人が遊んでるということで?』
「ほう? 娘で遊んでると今白状したやんな」
『『が』! 『が』! 『で』じゃないですから!』
すさまじい猛攻に自分は無実であると主張する『京太郎』。
しかし親バカモードとでもいうべき状態の雅枝が止まらない。
「なんや、うちの娘だと不満ゆーんか」
『えぇ?』
肯定しても否定しても理不尽に晒されそうな気配に困惑。
『ま、まあ、お二人とも雅枝さんに似てますし? こんな美人の娘さんなら魅力的でしょうけど』
あいまいにして誤魔化した。
そもそもこの『京太郎』、目の前の人物が姫松高校の愛宕姉妹の母であるという事実を知らない。
つまり適当に言っている。
そしてとりあえず煽てる、女所帯で獲得した彼の悲しいスキルの一つである。
だが歴戦の愛宕雅枝にこのような攻撃が効くかと問われれば
「ま、まあ、うちも若いころは結構モテてたし?」
空中に目線が泳ぎ手で自らの顏を扇いでいる。防御が薄い、人妻として大丈夫なのか少々心配になる反応である。
「とにかく、二人を幸せにできん奴にはやれん」
『あのー、『俺』は何人もいるので俺に言われても困るというか』
「でも根っこは一緒やろ?」
『それは、まあ』
眼力に押され頷いてしまう『京太郎』。
「うちの娘と会ったら恋愛関係になる可能性もあるわな?」
『可能性であれば』
流石に自分が全くモテないと公言したくはない、そんな男心である。
「つまり二股やんか!」
『どっからその発想に飛躍した!?』
頭が痛くなる『京太郎』。運営もこのような問題は想定外であろう。
「まあ二股はやな、百歩譲って認めるとしても」
『ここまで否定しといて急に認めるってどういうことなんですかね』
「結婚できんやん?」
むしろできる方が怖い。さすがに世界はそこまで寛容になっていない、今の時点では。
『戸籍自体ないんで無理ですね』
本体には存在するがこの相手にだけは知られるとまずいと『京太郎』の感覚が警鐘を鳴らす。
「そしたら二人とも行き遅れになってしまうんや」
『いやそれ以前の問題ですよね?』
仮想AIとの結婚とか重婚とか法の壁は厚い。
「稼ぎはまあいいとして」
『そこいいんだ』
求められてるのも困るわけだが。そもそも現在の本体の貯金の大半はこのアプリから出ている。
つまりよその女からもらった金であり、ヒモが愛人に金を回すような冒涜的所業といえよう。
「子供もできへん」
『だからどうやって作るのかと』
子供が作れるサービスとかすごく怖い。サービス終了したら絶望のあまり死人が出そうなほどに怖い。
『そもそも俺にどうこうできるものじゃないので親からストップをかけるしかないのでは?』
例えれば『ゲームをしすぎて受験に落ちたからゲーム会社を訴える』という言い分と似た八つ当たりでしかない。自己責任と家庭で何とかしろという話だ。
だが雅枝は大きくため息をつく。
「言ってやめるような問題やない。むしろこっちが反対したらするほど燃え上がるもんや。『ロミオとジュリエット』状態やな」
なんだか遠くを見て自嘲したように笑う姿にはあたかも体験したような実感がこもっている。
「うちもあの時は若かった」
『本当に経験してんのかい』
思わず敬語を忘れるレベルでつい突っ込んでしまう。
この人が結婚して子供を二人も作ったことが何か奇跡のように感じられてしまうから不思議だ。
「うちも変わるべき時が来たんかもしれんな」
『何か盛大にdisっといて一人で完結しようとしてません?』
「愛の形は一つやないということか……もう本人が良ければそれでいいんかもしれへん」
『なんかいい感じのこと言ってる風に見えて実際は問題を棚上げしてませんか?』
雅枝はもはや『京太郎』の言葉を聞いているようで聞いていない。思い込みやすさは洋榎に、一度思い込んだら突っ走るところは絹恵に受け継がれたのかもしれない。
「新しく息子ができるんやと思えばいいことやな、うん」
『なんかもう俺疲れたよ』
この日、三人の『京太郎』が愛宕家に加わった。
一人は愛宕洋榎の婿候補。
一人は愛宕絹恵の夫候補。
最後の一人は相談役という名の雅枝の愚痴聞き係である。
ある意味一番かわいそうなのは知らないうちに知らない存在に家庭を侵略された愛宕父であろう。
だが『京太郎』には侵略の意図など欠片もなく、むしろどうにかストッパーになってくれないかと心から祈るのであった。
『愛宕雅枝の場合』、終わり。
さすがに人妻に恋愛させて家庭破壊させるのはいかんよねって。
そう思って書いたはずなのに違う意味で家庭が破壊されているような気がする。
まさか愛宕母が最大のボケ役となるとはこのリハクの(ry
次回からはまとも(?)な恋愛話になるのでご安心ください。
次回は『赤阪郁乃の場合』にすべきか、時期的に『須賀京太郎のバレンタインデー』を番外編みたいに作るべきか。
郁乃んって26で野依んと同年齢だと調べて知った。やはり咲世界の人は若く見える人が多い。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ