VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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赤土晴絵の場合

赤土晴絵、その名は地元では広く知られている。強豪晩成高校を打ち砕きインターハイ準決勝まで勝ち進んだ彼女を人はこう呼ぶ、『阿知賀のレジェンド』と。

実際晴絵の情報収集・高度な分析からの対策はトッププロの間でも非常に高く評価されている。瑞原はやりからのスカウトや熊倉トシの推薦の誘いなど、買われていなければあり得ないことだ。

 

だがここ最近の彼女の実績といえば実業団でのある程度の活躍と母校を決勝まで導いたことの二点のみ。

雀士としての実力を示すのは前者だけなため、その実力に比べればパッとしないという印象だろう。

 

それもこれもすべて高校時に準決勝の対戦相手、小鍛治健夜に打ち砕かれたせいである。

当時の健夜は麻雀を始めてたかが数ヶ月。そんな存在が幼いころから研鑽を重ねた人間を壊した。

 

後のグランドマスター、国内無敗につけられた傷はあまりにも深く、晴絵は自らの全力を発揮できないようになった。

それでも牌を捨てなかった、それだけで十分に称賛に値する。己の心と向き合い、何年もの時を経て教え子たちと歩み、初心を思い出して再びプロとして生きる決断をした。

 

ストーリーとしては感動ものと呼べそうなものであるが、それは傍から見た場合の話。

当人は10年以上かけてただひたすら己の麻雀と向き合い続けたわけであり、そこに犠牲は当然発生する。

 

つまりは女盛りであったはずの時を恋などというものに費やせる余裕などなく、男っ気ゼロの人生である。

 

それも他の女性雀士のように『麻雀に打ち込んでいたから』のような一種の逃げの言い訳が発生する余地のない、小鍛治健夜という人間にもたらされた人災、完全に被害者の立場。

 

小鍛治健夜は赤土晴絵の雀士としての生命だけではなく女としての人生をも狂わせた怨敵に等しい。

「強かったからやっちゃった」などという言い訳は怒りを煽る材料にしかならない。

 

結果、晴絵は自宅でやけ酒を飲みながらアプリの架空人格に愚痴り慰めてもらうという他者からすれば目を逸らしたくなる有様である。

 

「私、どこで間違ったんだろう」

 

『間違ったというより巡り会わせが……あとたぶん、真面目過ぎるんだと。俺としてはそういう不器用な生き方している人の方が好みですけど』

 

「ほんろぅ?」

 

酔いに涙腺の緩んだ晴絵はどう見ても年下の金髪少年の頭なでなでスキルに縋っていた。

情けないかもしれない、しかし晴絵が弱みを見せられる相手など新子望の他にはおらず、彼女は今日も実家の神社でお仕事中である。

 

『晴絵さんはすごく頑張りましたよ。頑張りすぎたっていうほど。だから少しは弱音を吐いたっていいんです。俺なんかでよければいくらでも支えますから』

 

張りつめた糸は切れやすい。背負いやすい性格の人間ほど挫折した時立ち上がるのに時間がかかるものだ。

 

『また頑張ろうって思えただけ晴絵さんはすごいんです。それにただ思っただけじゃなくて行動にだって移してたじゃないですか』

 

「でも、私の今までやったことでよかったことなんてあの子たちぐらいで」

 

涙をためる晴絵の目じりを『京太郎』はそっと親指で擦って

 

『無駄なことなんかありませんよ。遠回りでもやってきたことは財産なんです。それに、教え子たちがあんな風に晴絵さんを尊敬してるのは貴女の背中を見てたからですよ。自信持っていいんです』

 

一人ばかり重すぎる尊敬があるものの、阿知賀の皆は気安いながらも敬意をもって接している。同級の姉を持つ人間は照れ隠しに否定に回るかもしれないが。

 

「うん……うん」

 

酒に飲まれて幼児退行している晴絵は優しく染み渡る言葉に深く頷き、『京太郎』に照れたように笑顔を向ける。

 

「ごめんね、大人なのにこんな姿見せて」

 

『年上ぶるのにポンコツすぎる人間で慣れてるので。それに、自分にだけ弱みを見せてくれる女性に男は惹かれるものですよ』

 

面倒見のいい性格をしている『京太郎』はそういった傾向も強い。好みの女性のタイプは包み込んでくれる女性ではあるが、なんだかんだで仲良くなるきっかけが多いのは圧倒的に逆のタイプである。

ちょっとばかり見栄を張って背伸びをする『京太郎』は年上の女性から見ると可愛いのに頼りがいがあると、かなりの好条件であったりした。

 

「明日も仕事だから、今日はこの辺で切るね」

 

『はーい。いつでも呼んでください。困った時もそうじゃない時も、いつだって味方しますから』

 

酒のせいではない赤らみと火照った体を危ないと感じて自制できるうちにアプリを止める晴絵。それに伴って『京太郎』の姿は消える。

 

ちゃんとそれを見届けてから晴絵は万感を込めた呟きを口にする。

 

「いいなあ、和はあんないい人と一緒に部活だなんて」

 

情報収集はほとんど性である晴絵は長野に引っ越した教え子、原村和の周囲も当然知っている。その中に1人だけ男子部員がいることも、その名前も。

 

「あー、私ももっと後に長野で生まれてたらなー」

 

リアルバレをしているなどということは『京太郎』は知る由もない。

精神的に弱い部分はあるものの常識を兼ね備えた晴絵には直接突撃なんて暴行は起こせない。そしてもちろん誰にもしゃべったりしないという分別もある。

 

「皆の前ではしっかりしなきゃね」

 

ONとOFFの使い分けができる晴絵は教え子の前では元気な姿で見栄を張れる。プロになるまでの短い時間、自分の教えられるすべてを残すために。




『赤土晴絵の場合』、こんな感じに。
神様はレジェンドに試練与えすぎだと思う。

リアルバレしているのは現時点で煌・照・晴絵(New)
照以外は常識人と、長野の京ちゃんはこっち方面の天運を持っているのかも。

はやりんはいい女ムーブしておいて最後に落とす、レジェンドはダメな女ムーブして最後に上げる、すごく対照的な出来上がり。


次回も大人勢。順番はアイデアが降ってきた順になりそう。
リアルの時間が削られると執筆に間が空くので困ります。積みあがった予定表見るだけで現実逃避したくなる感じなので投稿遅れます、ごめんなさい。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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