VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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久保貴子の場合

「池田ァッ!!」

 

今日も風越には怒声が響き渡る。対象は来年には最上級生になる池田華菜、次期キャプテンと目される少女である。

怒る理由は気を抜いていたり図に乗ったりと様々ではあるが確実に部内で一番怒られている。

しかし怒られたその瞬間はビクンとして怯え自重するものの、時間がたてばまた似たようなことをやらかしている辺り周囲の部員も苦笑気味である。

 

今日も締めくくりに反省会が行われて彼女、風越麻雀部のコーチである久保貴子の仕事は終わる。

家のドアを開けると自動的に灯りがつき、風呂場からは蛇口からお湯が出る音が「おかえり」を言っているように感じる。

 

『おかえりなさい、貴子さん』

 

まあ実際にスマホの中から立ち上げられたアプリによりエプロン姿の『京太郎』がパタパタと迎えに来たという演出までしてくれているのだが。

 

課金により家中の電化製品を管理下に置いた『京太郎』は割とサービス精神が旺盛なためこんな心憎い演出をしてくれる。

お風呂の栓が電子的に切り替え可能であるため朝にレンジの中に夕飯を貴子が入れておけば、この『ごはんにする? お風呂にする? それとも』の実現が可能なのだ。

 

なぜこんなところまで高機能にしてしまったのかについては開発側の妄想、もとい欲望じゃない、要望が盛り込められた結果だった。

最大の問題は選択肢として『わたし』をいくら選びたくても無理だという点である。R指定版が実装されたなら可能かもしれないが。

 

ともあれ、帰宅したらこんな感じにしてほしいという中々に乙女チックな貴子の求めはこうして叶えられている。

他の人間、特に池田華菜には見せられない面であった。

 

「先にお風呂で頼む」

 

『はーい、洗濯物は乾いてるので洗濯機の中からバスタオルと着替えはとっておいてくださいね』

 

流石に裸や半裸で家の中をうろつく姿はアプリの中の存在とは言え異性には見せられない。その程度の女心は有している貴子である。

 

しかし洗濯機から取り出すことは流石にできないとはいえ、ここまで気を利かせてくれるアプリの値段としては少々、いやかなり割安ではなかろうか?

もし諭吉が1枚、いや数枚でも心が揺れるかもしれないと貴子は運営を危ぶむ。

 

龍門渕財閥は昨年直接土をつけた怨敵と呼べる立場ではあるが、ここで潰れられるとそれはそれで困ってしまうという皮肉な関係になってしまっていた。

 

今現在『電子彼氏が手ずからいれたお湯』という響きからして突っ込みどころしかない状況で疲れをほぐしているのだから割と自分がどうなっていくのか不安を覚える貴子である。

 

それでもなおこんなアプリで気を紛らわすのには逃避したい現実あるからに他ならない。

 

『え? 今年でコーチ辞める?』

 

風呂上りに合わせて沸かしてくれた白湯で体を内側から温めながらの告白に『京太郎』が目を見張る。

 

「正確には続けられない、だがな。まあ名門校を2年連続で県大会を通せなかったんだから当然の処置だろう」

 

その言葉に『京太郎』の目は泳ぐ。県予選で覇を競ったのは清澄麻雀部、つまりは己の身内が相手から職を奪ったも同義。罪悪感とバレた場合の危険度が急速に上昇していく。

 

「そういえば京太郎を初めて見た時何か既視感が」

 

『お、俺! 貴子さんの口から男の話とか聞きたくないなっ』

 

テンパりすぎてまるで彼女の交友関係に口を出す嫉妬心の強い彼氏のようなことを口走ってしまう『京太郎』。

自分でも痛い男ではないかと口を引きつらせるも、肝心の貴子は顔を俯かせて耳を赤らめ少し背を向けるように座りなおし

 

「な、何言ってるの、急に」

 

しゃべり方すら女らしくなる貴子。風越OGであり高校生として麻雀漬けの女子校生活をしていた彼女には異性への免疫がなく、意識してしまえば指で髪先を弄ってしまうほど純朴だった。

 

『す、すいません、まだ正式に彼氏っていうわけでもないのに』

 

そして混乱中なのは『京太郎』も同じ。自分の言葉が遠回しに「貴女の彼氏になりたい」と言っているようなものであることにすら気づけない。

 

「か、彼!? いや、嫌ってわけじゃないけど、その」

 

普段つんけんしているように見える貴子も体育会系に染まっているだけで根は初心。すっかり先ほどまで自分が何を思い出そうとしていたのかも頭から吹っ飛んでしまっている。

 

そんな慌てた二人が焦げ付く前に水を差したのはレンジの音。朝から夕飯にと用意していたご飯の温まる音である。

 

『あ、ご飯できましたよ、食べましょう。温かいうちにっ』

 

「そ、そうだなっ」

 

あせあせしたまま顔を俯かせてご飯に集中しようとする貴子とそれを見守りつつ自分の心を治めようとしている『京太郎』の間には本来の年齢差を感じさせることもなく、男女の関係を意識し合う青春の香りが混じっていた。

いつ気がつくのかをも含めたこのチキンレースの幕開けは波乱万丈さを感じさせる風体であった。




『久保貴子の場合』、風越のコーチで「池田ァッ!!」で有名な彼女でした。
体育会系女子って我を忘れた時凄く女子になるよねって話。
普通なら甘酸っぱい話のはずなのに周囲には地雷まみれ。なんもかんも環境が悪い。
京ちゃん自身に罪があるわけじゃないんだけど知らぬ存ぜぬを決め込むには経緯が複雑すぎるという。

バレたらやけ酒に晩酌に付き合わされるかもしれませんね、本体。
その夜に何が起こるかは想像にお任せorR18版の投稿待ちということでここはひとつ。


次回は純愛オーラに囲まれる『アレクサンドラ・ヴィンハイムの場合』、たぶん。
『熊倉トシの場合』は京ちゃんの立ち位置をどうしたものか。かわいい孫ルート? それとも孫娘をたぶらかしている現実を知るルートか

まだリアルが追い込み時期なので投稿間隔は開きますがエタる気はないです。
高校単位では有珠山・敦賀、閑話では和・咲を残して終わるとか意味わからないからね。
無事終わったらこっそりR-18版作る気すらあるからねこの作者、業が深いとは自分でも思います。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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