アレクサンドラ・ヴィントハイムは危機感を覚えていた。彼女の属する臨海女子高校はスカウトにより既に活躍している外国人選手を招聘して日本国内の大会で実績をあげるというスタンスをとっている。
悪く言えば札束で殴りつけるような戦い方である。
だがこの方式というのは実績をあげられなければ札束をどぶに捨て、スカウト側の見る目に対する信用や信頼にひびを入れるという諸刃の剣でもある。
それでもこの方式を取り続けるのには実際に「勝てる」という結果以外に日本人に足りないハングリー精神を刺激し、馴れ合いではなく切磋琢磨させるという意味も大きい。
だがよりにもよってアレクサンドラが監督を務める臨海女子麻雀部において『緩み』が出ていた。それも1人や2人ではなくレギュラーほぼ全員に感染するような形でだ。
それを看過などできないし、出来る立場でもない。そして原因にも心当たりがあった。
彼女らの仕草や無意識に出る表情などを注視すれば見るものによってはすぐに分かる。あれは『男ができた』人間特有の空気であると。
「お前ら、弛みすぎだ」
部活が始まるなりインターハイレギュラー陣を集めての開口一番。
「サトハ、国麻もある身でその体たらくは何だ。部長である以上範を示せ」
辻垣内智葉はぐっと自分のこぶしを抑える。
「メグ、国麻には参加できず実質引退の身ならこれからの身の振り方に真剣になれ」
メガン・ダヴァンは自らの目を手で覆い上を見上げる。
「
「
明華は黙ってそっと目を伏せる。
「ネリー、初心はどうした? 一番こだわるところを見誤るな」
ネリーは抗議するようにまっすぐと視線に炎を灯す。
今までにない上段から責める言葉遣いを選んでまで口にしたのはわざと。
そしてふっと雰囲気を普段のものに戻して同じ麻雀界で生きる人間として対等に見た言葉を発する。
「何より、貴方たちが負けた時責められるのは彼じゃないの? それに負ける情けない姿を見てほしいの? 勝った姿を誇れてこそさらに惚れさせられるんじゃないかしら?」
恋愛するなとは言いはしない。だがそれを原動力に変えられなければ世界で戦うことはできないと部員たちに自覚させる。
アレクサンドラは目の前の少女たちを見渡し全員が自分の言いたいことを間違えずに受け取ったと確信して唇を綻ばせる。
「もう何をすればいいかは分かるわよね」
集めた彼女らはそれぞれ散って己の磨く部分を探し始める。チームではあっても戦うライバルなのだと気を引き締めて。
その姿を見届けてアレクサンドラは安心する。これからはいい意味で恋愛も麻雀も両立できるように祈って。
家に帰ってアレクサンドラは一息つき、己のスマホからとあるアプリを起動する。
『はいはい、あなたの京太郎ここに参上です』
多少おちゃらけた挨拶にもアレクサンドラは教え子たちを見るのよりもはるかに柔らかな視線を送りすり寄るように近づく。
「今日とても大変だったの」
本日あったことを報告しながら要所要所に『教え子を思う監督感』を甘えるような声で匂わせる。
『あー、確かに気を遣いますよね選手じゃない分どうやって役に立とうかとか』
うんうんと頷くのはインターハイに完全に雑用係になっていた『須賀京太郎』。
選手の兆候に心当たりがあったのも理由を聞けばなんということもない。アレクサンドラ自身同じアプリをこっそりとやっているからであった。
麻雀監督としての矜持? 選手じゃないからそこまでシビアになる必要はないのである。
教え子には自重させながら自分はこうやってこっそり楽しんでいるのだから万が一バレれば信用は地の底を貫く勢いで下がるだろうが、見られなければいいとアレクサンドラは慢心気味であった。
20も年が離れているが見た目は若いアレクサンドラ、自分の実年齢を隠して教え子たちと同年代の若い男子高校生によく見られようと媚び売り気味である。
34という年齢、完全に恋愛のし時を逃してしてしまったアレクサンドラはこうやってアプリ相手に気を紛らわせながら思いを募らせるのだった。
『アレクサンドラ・ヴィントハイムの場合』、なのでした。
うん、臨海勢の浄化されそうな純愛オーラを近くで30代半ばの恋愛経験なしの女性を放り込んだ想像をするとこうなりました。
たぶん臨海の中で一番京ちゃんへの依存度高いのこの人じゃないかな、実在を知られてはいけない相手がまた一人……。
トシさん除くと関係者で最年長ってこの人なんですよね。結婚諦めるかどうかって境目でもあると思います。
次回は……トシさんなのかなあ? 正直なところ宮守勢を優しく見守ってそうで書く必要があるのかという気もしますが。
あ、閑話はのどっちこと原村和です。その後は有珠山の予定、単行本見直してキャラのイメージ深めなきゃ。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ