原村和、元インターミドルチャンプにして容姿・スタイルともに恵まれ成績優秀、いわゆる学園のアイドルや高嶺の花を体現する少女が彼女である。
和は浅く椅子に腰かけ麻雀台にたゆんとその豊満な胸を乗せて真剣に手牌を開け、牌から対面に座る見慣れた金髪の少年へと視線を動かす。
「『須賀くん』、どこを見てるんですか?」
そう聞きながらも和はどこに視線が集中しているのかなんて事は承知の上。
『わ、悪い』
顔を赤くして『京太郎』は視線を外そうとするも、未練があるのか反応が遅れる。その隙間に和は楔を打つ。
「ひょっとして触りたいんですか?」
和の声には嫌悪も棘もない。ちょっとした優越感とからかうような笑み。今この瞬間だけは部長である竹井久の気持ちに近いかもしれない。
「でもダメですよ、付き合ってもいないのにそんな事させてあげません」
『そ、そうだよな、うんうんっ』
己の行為をいけないと分かっていながらも『京太郎』はちらちらと和の胸の谷間に目をやってしまう。和が自分から強調する姿勢を取っているせいである。
「でも付き合ってる相手なら別ですよ」
ほんの少し『京太郎』との距離を詰めながら伺うように頤をあげて何かを待つようにそっと目を閉じ、実は空けておいたほんの少しの隙間から『京太郎』の反応を楽しむ。
『それって。えっと、和、俺――』
和は期待した言葉を受け頬を緩ませて『京太郎』との間の距離をなくし、ささっとアプリを切る。
並大抵ではない現実感をもたらすとはいえこの『京太郎』はあくまで電子上の存在。アプリが停止されれば哀れにも消えることしかできない。
そして和はバックグラウンドで動いていたストップウォッチの計測値を見る。
「ふむ、RTAだとこれが一番ですかね」
βテスト時は付き合った後の激甘シチュエーションを堪能しまくり外聞が危機に走った和であったが、正式サービス後の『京太郎』にはその記憶が受け継がれなかったため悲嘆にくれた過去を持つ。
だがそのショックから立ち上がった和は今度は付き合うまでの最速タイムとシチュエーションを特定すべく、リセマラを繰り返したのである。
電子上の存在であることを存分に活かした発想、電子の天使のどっちだからこその活用法だった。
「須賀くんからの告白じゃないと言い訳がたちませんからね」
優希からの恋愛相談を受けた身、自分からの告白では友情にひびが入りかねないと憂慮した和はどうすれば京太郎から告白されるかを真剣に検討を行っていた。
実のところβテスト時にやらかした京太郎最優先の言動のせいで事情を知る人間のうち想い人当人以外には和が京太郎に懸想していることなどバレバレであったのだが、和本人は周囲には知る人などいないと固く信じていた。
『これなら確実に円満に恋人になれる』と確信した和は電気を消し、明日の部活を楽しみにしながら「おやすみなさい、京太郎くん」などと名前呼びをしながら付き合ったらまずをなにをしようかなどと妄想の翼を広げながら夢の世界へと旅立った。
そして実際に訪れた放課後の部活時間、和は首をひねることになった。
今まで京太郎の視線は6割がた和へと集められていたのだが、この日に限っては咲・優希・和に等分の割合で割かれていたからだ。
これでは自らのアピールが不発に終わる可能性も高く、何よりも今までにない出来事にどう対応するかに思考がまとまり切らず、部内の雰囲気の変化に誰もが戸惑っているようで京太郎と二人っきりの環境を作り出すことなどついぞできなかった。
部活が終了すると同時に京太郎は何やらいそいそと帰り、追おうにも親友の優希に咲ともども声をかけられて居残り。
そして優希は開口一番、特に悪気もなさそうに軽く頭を下げて常の元気よさで
「やーごめん、のどちゃんに咲ちゃん。この前京太郎に告白しちゃったじぇ。
あ、でも抜け駆けにならないように『のどちゃんや咲ちゃんも好きだから返事はその後でいい』って言っておいたから条件としてはイーブンだよな」
そんな爆弾を落とした。
「ふぇ? 京ちゃんにそんなこと言ったの?」
「あわ、あわわ、リセットボタン、リセットボタンはどこに……」
キョトンとする咲と混乱して現実には存在しないボタンを探し始める和。
「和ちゃん、現実を受け入れないとダメだよ。それにあの『京ちゃん』はその時点での京ちゃんのデータ? なんだから」
今実在する人間としての京太郎とは当然ずれが起こると、咲はのほほんと話す。
「な、何を言ってるんですか、私は京太郎くんの事なんて」
「え、好きだろ?」
「和ちゃん、名前で呼んじゃってるよ」
間髪入れぬツッコミで否定すらさせてもらえない和、自爆つきである。
「でも優希ちゃん、私は京ちゃんとそういうのじゃないんだけどな」
「違ったのか? ごめん咲ちゃん、勝手に決めつけて。京太郎には訂正しとくな」
「いいよ、その辺は自分でやるから。ところで和ちゃん、頭は冷えた?」
和がオーバーヒートしている間にさらっと咲と優希は和解。二人の目線が茹だる和へと向けられる。
「ま」
「「ま?」」
「負けませんから!!」
自分の鞄をひったくるように確保して和はピンク色のツーテールを翻しながら真っ赤な顔を隠すように走っていく。
それを見送る優希と咲の二人は
「おー、なんか咲ちゃんが初めて来たときと似てるじぇ」
「そっか、あんな感じだったんだね」
のほほんと談笑しながら一人は心の内を燃え上がらせ、もう一人はふと和が坂を走る姿を見下すのだった。
今回の閑話は時系列的に優希の告白後です。
その関係で優希と咲が出張してる形になります。
β版で弁当作ってきて中庭でエア「あーん」とかしてたくせに和はなぜ隠せると思ったんですかね?
そして和も久に関してはノーマーク。「あれで好きとかありえません(ASA)」
本体の経験はアプリ京ちゃんには反映されないしその逆も、というのが今回の裏のテーマ。
限りなく同一人物に近い別人、というのが正確なところ。
このギャップをどう処理するかがアプリで満足するか本丸を落とすかの考えの差になるかと。
清澄も残るは咲のみ。リアルでも京太郎争奪戦が起こりそうになってるが大丈夫なのか冥福をお祈りください。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ