本内成香は南北海道代表の有珠山高校における2年生であり、インターハイでは先鋒を務めた少女である。
ただしその力量がエース区間である先鋒に相応しいかといえばそんなことはない。
有珠山高校のオーダーは副将・大将頼りであり、それ以外は全国区に相応しい実力は備えていない。
それに成香は麻雀を始めて1年程度なのだから逆に備えている方がおかしいともいえる。
だが結果としては『真屋由暉子を秋に行われる国麻の北海道代表として出場させる』という第一目標は達成できた。
由暉子のポストはやりん化は元々爽や揺杏の主導ではあるが成香も力を貸したことには違いはない。
違いはない、のだが熱量に差があるのは事実。成香にとっては小学生から一緒だった誓子以外は1年半にも満たない関係である。
そこに成香が由暉子のポストはやりん化に貢献できているという実感の弱さが追加する。
人は求められているという実感、その満足感を幸せだと感じそれに傾いていく生き物だ。
それが異性ともなると恋心へとつながりやすい。
結果として
『でも成香さんも可愛くないですか? その髪型とか独創的ですし』
こんなことを目の前にいる年下男子高校生から、素で疑問に思っている表情で言われるとポーとなってしまうくらいには飢えていた。
由暉子を確かに可愛いと認めていても、女の子として心の端っこの方に(私はどうだろう?)という気持ちは存在する。そこを間近で突かれた形である。
なお成香の髪は首後ろで一度リボンでまとめてそこから楕円のように二つに分かれて背中の腰辺りでまたリボンで留めている。
ピンクがかった薄紫の髪色に右目を前髪で隠しているため、しずしずとした小動物のような可愛らしさがある。
そのため『京太郎』には実家にいるカピバラが餌をねだる姿を投影してしまっていた。
だがその事実を知らない成香には『女の子として可愛い』と言われているように認識してしまう。
「その、京太郎くんも素敵です」
『え、えと、ありがとうございます』
男の子の形容に『素敵』という単語が使われることはあまりない。だから『京太郎』も照れたように頬をかく。
ここで『京太郎』、この場で出す必要もない競争心とかつて聞いた話を思い出す。
『よかったら右目、見せてくれますか?』
「は、はひ」
わざわざ隠しているのをさらすというのは特に理由がなくとも恥ずかしいもの。成香はおずおずと前髪を右手でかき上げる。
そこに『京太郎』がそっと慈しむように優しく撫で、必然と近くなった距離で笑いかける。
『やっぱり綺麗ですね』
風越のキャプテンである福路美穂子と『京太郎』本体の清澄の部長である竹井久、その二人のやり取りの再現だった。
だが待ってほしい、これを事情も知らない相手が異性から受ける場合それはどう考えても口説き文句である。
その辺りを『京太郎』はすっかり忘れていた。仮に覚えていたとしてもノリで幼馴染を姫扱いするので早いか遅いかの差しかなかったかもしれないが。
結果、ぼひゅっと顔から湯気を出すほど赤くなった成香が足腰がたたなくなってぺたんと地面に座り込む。
『あれ、大丈夫ですか!? メディック、メディーック! ってバイタルスキャンは課金要素だった。これ、俺はどうすれば!?』
触る感覚は与えられても現実に干渉する力のない『京太郎』は狼狽え年下相応のヘタレさをみせる。
だが成香はそんな情けないさまも『自分を思ってこんなにも慌ててくれる』などとフィルターがかかっていた。
もし本当にバイタルスキャンなんかされようとしたら成香は恥ずかしさのあまり拒否しただろう。だってこんなにも心臓の鼓動が早くなっているのがばれてしまうのだから。
「素敵すぎます……」
完全に王子様を見るような目で多大なフィルターのかかった成香と、何も考えずにやらかした『京太郎』のすれ違いと勘違いをトッピングした恋物語の幕開けだった。
『本内成香の場合』、思ったより短くなったけれどこの辺で。
今回はネタに困った結果の遅れなので言い訳はできませんね、うん。
成香は小動物、それもリスをなぜか思い浮かべてしまう作者です。
冷静に見ると由暉子だけを前面に押し出さなくても有珠山の顔面レベルは高くないか、などと思います。
いやまあ咲キャラは可愛いのばかりなわけですが。原作者はよくあれだけのキャラを魅力的に描けるものだと感心する次第。
次回はたぶん『岩館揺杏の場合』になるかと。
揺杏、爽、由暉子はかなり掘り下げられてるけど成香&誓子は足りない感。可愛いのに不公平ではなかろうか。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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