VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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獅子原爽の場合

獅子原爽は有珠山高校3年にして大将を務めた圧倒的エース、そして人を引っ張るカリスマを持つ故に部長――ではない。その自由な性格のため主導はするが制御はもっぱら誓子と由暉子に任せているのが実情だ。

『打倒はやりん』などと言い出したのも爽のノリに基づく計画である。

 

とはいえ気遣いができないわけでは決してない。

由暉子が中学時代にイジメ(当人は頼られてると思っていたが)を受けているとみるや自分達の中に引っ張り込み、地味な印象があった由暉子のルックスを改造して自信を持たせようとしたのが先の計画の出発点だ。

『楽しそう』という爽自身の動機も合わさっているのはご愛敬。

 

そういう性格であるからして新しいものに飛びつくのは自然の理だったのかもしれない。

 

最先端技術で五感にフィードバックする触感、そこに実際にいるように見える存在感、耳をすませば聞こえてくる優しい男の子を思わせる声。

それらが全部、爽にしか認識できない。つまりは自分のための存在も同然! アプリなのだから実際このインストールされた『京太郎』は爽のものなのだが、そういったレア感が深みにはまらせる原因になった。

 

結果、部活中の爽が5人故に必ず発生する余りの観戦者になった一幕。

椅子の背もたれに寄りかかるように逆側に座った爽と、彼女にしか見えない『京太郎』が数センチほどの距離で佇んで視線を麻雀卓へと視線が向いている。

その『京太郎』の太ももを爽が摘まんでねじる。その痛みに『京太郎』は小さな悲鳴を上げる。

 

『つっ、何するんですか爽さん!?』

 

「ユキばっか見過ぎ」

 

唇を曲げ、頬をほんの少し膨らませた爽は他の誰にも届かない呟きで不機嫌を表す。

 

『違いますよ、俺が見てたのは麻雀で』

 

「後ろからも胸の膨らみが見えるように入ったスリットは?」

 

『それはもう、眼福で――はっ』

 

一度否定したものの、隠し事が苦手な性格の『京太郎』はあっさりと爽の指摘に見入ったポイントを白状してしまう。

 

「見てたじゃんか」

 

『痛い! 痛いから耳たぶ引っ張らないで!』

 

痛みにかがんだ『京太郎』の耳をグイグイと引く爽は目線で男の子の性をきつく咎める。

 

「見たいんなら私の見ればいいだろ。そりゃユキほどはないけど」

 

大きいとは言えないがそれなりに美乳だと自負する爽は一度全身を見せつける必要があるのか、などと少しばかり女子としてはかなりすれすれな覚悟を決めそうになって、引き寄せた『京太郎』の耳にぼしょぼしょと呟く。

 

すると息が耳に吹きかかることになった『京太郎』は、くすぐったさによじりながらも爽の発言に気を取られる。

だが『京太郎』が思索する前に目敏い爽は弱点を発見した悪戯っ子の笑みを浮かべ、唇を尖らせて息を強く吹き込む。

 

『やめ、や、めっ』

 

力ずくになればどうとでも逃げられるのに『京太郎』は変に動くとフィードバックで体勢を崩してしまう可能性に思い至り抵抗が弱まる。

そしてその優しさに付け入る形で爽は『自分を蔑ろにした罰』という都合のいい名目で『京太郎』を存分に責め立てる。

 

される側が微かに見せる弱い抵抗は逆にする側の嗜虐心を煽るだけで、だんだんとエスカレートする欲求に流されて誰も止められないまま行き着く――前に

 

「爽、終わったから鍵閉めるよー」

 

幼馴染の誓子の声が強制的に部活の終了宣言をもって中断した。

 

気を取り戻した爽は自分たちの様を客観的に見てしまい今更恥ずかしくなる。

床には膝をついた『京太郎』が生まれたての小鹿のように震わせて涙目で爽を許しを請うように見上げ、爽は実在しない『京太郎』の耳を舐めしゃぶった唾液が唇からこぼれ濡れる。

 

爽も『京太郎』も両者ともに熱くなっていた体温が現実に直面して表情筋がぴくつき、血がサーと下がっていく感触を実感する。

 

そして誓子は爽とすれ違いざま囁き声で誰にも聞こえないように爽に問いかける。

 

アレ(パウチ)使ってた?」

 

使っていない。使ってはいないが今の自分はそう間違われるほどに見えたのかと、自分が部室内でやらかした先程までの情景を思い起こし(いっそ使ってた方が言い訳できてよかったかもしれない)とまで爽の心に深く刻まれた。

 

既に誓子は通り過ぎて後ろのドアの鍵を閉めて残る一つのドアに向かっている。

焦って自分の鞄をひったくり爽は走って廊下に出て校門の外を目指す。追い越された揺杏や由暉子、成香たちが目をしばたたかせるがそれに構っている余裕は今の爽にはない。

 

そして男としての威厳を落としがっくりうなだれた『京太郎』は5m制限に基づいて膝をついたまま走っている速度で引っ張られ続けるのだった。もし現実に存在していれば擦りむいて血が出ていたこと間違いなしである。

 

校門から飛び出し、家路を走っていく爽は後悔を口にせずにはいられない。

 

()()()()()()()()!」

 

後悔するべきところが明らかに間違っていたが当の爽自身は真剣である。

 

ところでこの日の夜、獅子原家において『京太郎へのお詫び』として月光に照らされた()()()()が『京太郎』の眼に晒されたかどうかは爽は墓の中まで持ち続ける秘密である。




『獅子原爽の場合』、結局こうなった。
構想段階では乙女反応、気の合う相方、意識し始めたぎこちなさ、などと幾つか候補があったんですが書き出すとしっくりした文章にならなくて。

爽はライオンだし無自覚肉食のどこかずれてるけど『京太郎』ラブっぷりが強いです。
具体的には相手にカムイを使うことも辞さないほどの深み。

実際にパウチ使ってたらたかみー以来の能力バトル化してた可能性。
衣と爽のカムイどちらが強いのか分からなかったから没りましたけどね。


次回は『桧森誓子の場合』、どうなるかは作者にもまだ分かりません。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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