真屋由暉子、それはポストはやりんを目指し養成された有珠山高校のアイドルである。養成されたとはいえ本人はそれを嫌がってなどいない、むしろ自分を引っ張ってくれた先輩たちに感謝でいっぱいだ。
麻雀の実力も全国で十分に通用するレベルであり、国麻にもすでに出場が決まっているも同然。
なにより有珠山麻雀部の皆を好いている。そんな後輩を先輩が可愛がらないわけがない、だが可愛がるあまりに方向性をめぐって由暉子のあずかり知らぬところで会議が行われることもある。
今回もその一つ、議題は最近ブームになっているスマホアプリを由暉子から遠ざけるべきか否か。
誓子は言う
「やっぱりアイドルに醜聞は致命的だからやめたほうがよくない?」
揺杏はメリットを提示する
「でも男からの評価を知る必要あるし、ラブソング歌うのに経験なしってまずくね?」
成香はおずおずと感情に配慮する
「ユキちゃんだけ仲間外れはどうかなって思います」
爽は目を閉じて見解を述べる
「いや、これはユキのためにもやらせるべきだと思う」
プロジェクトリーダー的存在の爽の真意を読み解こうと視線が集中する。特に誓子の視線が鋭い。
「ユキって基本断らないだろ? 馬の骨に『付き合ってください』とか言われると了承しちゃう気がするんだよな」
その言い分に皆の頭の中で同じ情景が思い浮かぶ。すごくありそうだった。口々に「あぁ……」という納得のため息が漏れる。
「それなら先にあてがった方がいいかもな、他人には見えないわけだし」
最悪奇行が見られても電波系アイドルという逃げ道がある。できればそっち系ではなく由暉子には正統派アイドルを目指してほしいのが総意なので起こらない方がいいに越したことはないが。
そして秘密会議が収束へと向かう段になって、おもむろに部室の扉が音を立てて開かれた。
「話は全て聞かせてもらいました! ただもう始めちゃってます」
この秘密会議の意味をなくす宣言が由暉子当人から出る。そして(扉の前でずっと待機してたのか)という心の声が一つになる。
間を置かずに由暉子は何事もなかったように輪の中に入る。まるで何事もなかったかのような自然な笑顔である。
「ユキがもうやってるならもうどうもこうもないよな」
揺杏が肩をすくめる。利点があると元々反対もしていないのだから当然だった。
「わぁ、これでみんな一緒です」
素直に喜ぶのは成香。隠し続けることに罪悪感があった分、雲が晴れたような笑顔。
「ユキも『彼』のことが好きなの?」
反対派として旗を振っていた誓子は目の奥に炎のような情念を潜ませる。
「あんまり人前ではやるなよー」
完全に自分のやらかしを棚上げして爽は一応注意だけしておく。
温かい肯定を受けたと感じた由暉子はさらに自分の思い付きを口にする。
「えっとこれからの活動なんですけど『人を探すためにアイドルになった』という設定を盛り込んだらダメでしょうか?」
いまいち言いたいことが理解できない有珠山面子は首を傾げる。
「このアプリの京太郎さんって人間っぽすぎると思うんです。だからもしかしたらモデルになった人がどこかにいるんじゃないかと」
持論を展開する由暉子。直感と推論にすぎないのに事実に迫り、探索の意図をアイドル活動にもたせようというポジティブさ。
「男の人って言わないならいいかも?」
一瞬にして掌を返す誓子。由暉子が健気さを出しつつ見つけられるなら利用しようという思いは表に出さない。
「いっそこの運営に由暉子バージョン作ってもらおーぜ」
由暉子ブームの足掛けにしようと貪欲な揺杏。もし見つけられることがあれば色々遊ぶつもりである。
「健気で素敵です」
もっと素敵なのはもし本当にモデルがいたら会ってみたいという純情を抱える成香。
「いなくて元々で適当にストーリー考えっか」
美談でも作っておけばいざというときに役に立つかと一石二鳥を狙う爽。
「いいんですか? じゃあ、みんなで頑張りましょう!」
実在するのなら自分の頑張りで何とかなるはずだと前向きな由暉子。
純朴で仲間想いの彼女は身内に敵が潜んでいる可能性になど思い至るはずもない。
なおこの中で由暉子は己のスマホの中にいる『京太郎』の好みに直撃するためまんざらでもない対応を受けており、本当に会えれば有利にできると無自覚に悟っていた。
恐るべきプランが北海道の大地より始まろうとしていた。
由暉子は自分のスマホに向けて周りの誰にも届かない呟きを告げる。
「大好きです、京太郎くん」
『真屋由暉子の場合』っていうかこれ有珠山総集編じゃね?
まさかの本編にアプリ京ちゃんが出てこない不具合。
これは別に由暉子オンリー回を作るべきかなと思わなくもない。
一応言い訳させてもらえると、のよりん回の焼き直しになりそうになって軌道修正した結果。
なお後日直すにしても有珠山による包囲網が発現するのは逃れられません。
次回は閑話で咲の出番です。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ