VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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番外・運営の燃えた日

「なんっっでこんなに問い合わせが殺到しますの!?」

 

龍門渕透華は鳴りやまない電話の数々にストレスがたまり机を叩きながら立ち上がる。そんな透華に向かってボーイッシュな井上純は自分のスマホを操作し、透華の目の前に掲げる。

 

「どう考えてもこれだな」

 

示された画面には<『京ちゃんと一緒』サービス終了のお知らせ>とでかでかと書いてあった。

ついでに沢村智紀も別の検索した画面をタブレットごと透華の前に。

 

「Twitterも掲示板も炎上していないところを見つける方が大変」

 

事実を口にする智紀にそれでも憤懣やるかたないのか、透華は自分の主張を机を何度もたたいて抗議の声をあげる。

 

「今日を何日だと思っていますの!? エイプリルフール、エイプリルフールですのよ! こんなもの嘘だってすぐわかるでしょうに!」

 

そろそろ叩きつけられているタブレットが割れないか二次被害を気にしだした国広一はたとえ話を口にする。

 

「じゃあさ、今日京太郎くんが「もうここに来れない」って言いだしたら――」

 

「なに!? 衣はそんなこと聞いてないぞ!」

 

一の言葉が終わる前に慌てた天江衣がくいついてぴょんぴょんと兎のような大きいリボンが跳ねる。

透華も衣ほどではないが顔から血が引いてしまっている。

 

「う、嘘ですわよね、一?」

 

「さあ? でも今日はエイプリルフールだよ」

 

明らかに動転した主人に向かって一は詳細をぼかす。「今日が何の日か知ってるでしょ」と言わんばかりに。

 

「え、エイプリルフールでも言っていいことと悪いことがあるでしょう!? 万が一、万が一そうなったら私」

 

想像してめまいがしたのか力なく机にもたれかかる透華。その背中に次々と刃物が向かう。

 

「じゃあこの告知はやっていいことになるのか?」

 

「ブーメラン」

 

ぐさぐさと純と智紀の追撃が刺さっていく。

 

「透華はいけないことをしたのか?」

 

「少なくとも利用者の多くからクレームは来てるね」

 

衣の無自覚なそしりと普段自分の味方をしてくれていた一の追撃はもはや死体蹴りに等しかった。

 

透華は机に突っ伏したままプルプルと震え、唐突にがばりと起き上がる。

 

「認めましょう、私が浅慮だったことを! しかしこの龍門渕透華、ただでは起きませんことよ! こうなったら秘密裏に進めていたあのシステムを導入させますわ!」

 

「まさかR指定版? あれは京太郎くんの『協力』がないとどうあがいても無理な……」

 

一が口にする問題点。それは『協力』という名の倫理的に問題のある行為を経なければ実装不可能という理由で先延ばしにされていた計画。

ただそれはその過程で自分たちがある意味望みをかなえるため中々諦められなかった代物であった。

 

「そ、そちらではありませんわ! データ取りのために時間がかかるから間に合わないのですから!」

 

時間があればやりたかったのかは言及をさけ、あくまで中止ではなく延期の方向にとどめているのは彼女らの中で暗黙の了解であった。

それは置いておいて、今透華が繰り出そうとしているものは智紀のみ詳細を知るシステム。

 

「まさか――」

 

「そう、『真・VRシステム』ですことよ!」

 

「ああ、確かユーザーに「これVRじゃなくてARじゃ」って突っ込まれて透華が一時期作ろうとしてたやつか」

 

ポンと手を打つ純。企画段階で止まっているという認識から「そっちも間に合わなくねえか?」という疑問が顔にありありと現れている。

 

「うん? 衣は何も聞いてないぞ」

 

こちらは主に専門知識で役に立たないため主に機械以外の部分で協力している衣の言。

 

「衣のするべきことは従来と全く変わらないから省略したのですわ。智紀、説明を早くしてくださいまし!」

 

少々我儘なところがある龍門渕家のリーダーに普段寡黙な智紀がため息をついて紙束を持ってくる。

 

「『真・VRシステム』は網膜投影と指向性マイクによる従来システムと違い、脳に働きかけることで『自分』と『京太郎』の双方を脳内で再構築させるシステム。

 双方脳内の虚像なので従来の『すり抜け現象』などは起こらず極めてリアルな存在として触れ合える」

 

相変わらず技術の無駄遣いというかテクノロジーの壁をいくつかぶち破っていた。

 

「質問なんだけど、それ平気なの? 脳波弄るとか一つ間違ったら死人出しそうなんだけど」

 

一の人道に即した疑問に対し智紀はふるふると首を振る。

 

「従来のでも視覚に干渉したり感覚のフィードバックで脳には干渉してるから今更。ただ歩きスマホや運転スマホのような危険がないように安全措置はとった」

 

智紀が長台詞での説明で区切りが終わったその直後、透華は大事なところだけ持っていく。

 

「そう、これは『寝ている時』にのみ作用するシステムですわ!」

 

どや顔で胸を張る透華。隣でうつむきがちな智紀の方が胸は大きかった。

 

「それは夢ではないのか?」

 

衣の言うこの場合の夢とは希望や目標の方ではなく寝ている時の方である。

 

「明晰夢というのを知ってまして? 自分でも夢だと分かりながら夢の状況はある程度操作できるという特殊な夢。これはそれを意図的に生み出すシステムですの!

 夢の中で好きに京太郎さんとイチャイチャできるという夢のような新たな境地、それをこの『真・VRシステム』が可能にするのですわ!」

 

一定のユーザーは『京太郎』が物理的に干渉できないことで不満感があるはず、自分も不満なのだから、という主張は納得させるだけの勢いがあった。

 

「このシステムを明日からアップデートしますわ! ただ研究にお金をかけすぎたので課金制にせざるを得ないのが残念ですわね」

 

こうして翌日の4月2日、まさかの最新アップデートに昨日抱いた不安や怒りを忘れ掌をくるくるさせる女性雀士が多数であったという。

 

龍門渕財閥も女性雀士もどこに向かっているのかは謎である。




エイプリルフールネタはやっておきたかった、ただそれだけです。
次回は鶴賀だといったが番外を挟まないとは言っていない。

咲ちゃんが予想以上にサクサク書けたのでその分日が空くことになってしまいましたのはお詫びします。


それと咲の魔王化について反響が多くて嬉しいと同時に、補足すべきかなと思った点をいくつか説明をば。

咲が照のみ脅威と考えてるのはあくまで咲の知覚範囲が狭いため。清澄・龍門渕・照しか把握できてませんし、集団でくるなど元ボッチの文学少女には思考外です。
アプリで本気になる人が全国各地にいるなどとはもっと理解不能、なのでラスボスオーラ出してる咲さんを突破できる人物はけっこういます。

例えば穏乃は「エゴだよそれは!」とアムロのように、淡は「私たちの愛は負けない、石破ラブラブ天驚拳!」とドモンのように正面突破します。
当然京ちゃんの気持ちが向こうにあることは前提です。

魔王はいつも数の暴力か勇者に倒されるもの、なお咲さんが『抵抗』するのは基本変わらない。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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