蒲原智美は鶴賀学園の3年生にして麻雀部の部長である。加治木ゆみが大体カジ取りしているため間違われることが多いが、れっきとした部長である。
だがその部長という役職名も過去のものになる。国麻に選ばれることもまずなく、引退して津山睦月にその役職を手渡すことになるからだ。
来年麻雀部が団体戦に参加できるかも怪しい。身内で固めた龍門渕高校はともかく名門風越か今年全国で注目を集めた清澄高校に麻雀をしたい人間は流れることが容易く予想できる。
そもそも今年参加でき、予選決勝に進めたのもできすぎと言っていい。蒲原自身は自分が助けられていたことをよく分かっている。
だからこそ笑う。常にそこに希望があると皆が思えるようにワハハと。
その運転技術で同乗者に地獄を見せるという側面もあるがそれは些細なこと、だと信じたい。
とまあそんな感じであれば美談なのだが、半分以上は素だった。
人間自分のキャラに合わないことをしてもすぐにメッキが剥げる。なら素の自分を少し水増しする程度がちょうどいい。
そんな智美であったが恋愛方面は初心だった。
幼馴染の妹尾佳織がプロポーション・ルックスともに優れており、異性の目はそちらに向いていることは分かりやすかった。
仲がいいからこそ無意識に比較し女としての自信を失う。誰でもありうるコンプレックスである。
さて、そこに同年代で金髪で快活、面倒見がよくて顔もよしのコミュ力に優れた異性を引き合わせたらどうなるか?
さらに自分だけを見て自分だけに囁きかける異性。声が素晴らしく聞きほれることも多々。
欠点と言える三枚目で微妙にエロくてしかし行動には移せないヘタレという部分も、年下だからか可愛いと欲目で見てしまうのも仕方がないのではないか?
要するに恋愛耐性ゼロの智美はたかがアプリ、しかしその実異常なほど現実感のある少年を架空の存在だと分かっているにもかかわらず意識しまくっていた。
ワハハといつものように笑っているように自分に言い聞かせてはいるが、声には照れが混じり視線はちらちらと行き来し指はスカートのすそを無意識に弄っている。
今の智美はどこにでもいるただの恋する乙女だった。
問題は受験に向けて努力すべき高3でありながら、人生の大事な岐路よりも架空の存在である男の方ばかりに意識が割かれていた。
智美当人は勉強の息抜きだの、余裕も必要だの、高校最後くらい甘酸っぱい思い出があってもだの、そんな言い訳にもならないことを本気で考えているが、誰が見ても明らかにまずい状態だった。
そして『須賀京太郎』という人格はそれを他人事として済ませられるようなタイプではない。理由への察しはつけられなくともこのまま智美に転落人生を歩ませてはならないと決意した。
『とても大事なお話があります』
その日『京太郎』は所有者である智美に毅然とした態度で臨んだ。
一方智美はその厳粛な雰囲気を(あれ、これは告白されるのか?)などと色ボケた予想をして、落ち着かない指はスカートをくいくいと弄りながら必死にいつもの笑みを浮かべるだけで精一杯だった。
『今日から俺は原則禁止態勢に入ります』
「? ?? !?!?!?」
智美の表情が(あれ? 告白は?)から(言ってる意味が分からない)、そしてようやく理解して笑みが引きつり固まった。
まさかのアプリからの使用制限。(智美にとってだけ)唐突なるサービス放棄のお知らせであった。
「まさか時間に応じて課金が必要に!?」
基本的にゲームアプリとはあれやこれやの手で課金を促す代物。故に智美の思考は資本主義の条理にたどり着いた。
こんなところで頭が回るのならもっと大事なところに使うべきではなかろうか。
『違いますよ、そういうのは導入されてません。課金じゃなく勉強時間に応じて使っていいことにします』
呆れた声で頭痛をこらえながら『京太郎』は口にする。
『智美さんが3時間勉強したら30分、6時間勉強したら1時間お相手します。それ以外は無視します』
余りにも厳しい条件。智美の顔は真っ蒼になる。これから自分は何を糧にして生きていけばいいのか、などと呆けた思考が空転した。
『俺は智美さんがこのままだと大学に入れないんじゃないか心配なんです。人生を台無しにする智美さんは見たくないんです。
だから、今は鬼になります。耐えた先にこそ智美さんの幸せがあるんです!』
力説した。所有者が身を持ち崩すなんて許されないと、ただのアプリである『自分』のできる範囲で相手のためになることをしようという己の誇りをかけた誓いだった。
そして智美はこの発言を自分なりに捉えなおし、その意味を見出した。
(えっと大学に受かったら幸せにする――つまりこれはプロポーズ! 勝ったな、ワハハ)
見出したように思えたがその気がしただけだった。完全に脳内お花畑、ポジティブ思考と恋愛脳のハイブリッドだった。
『いいですね、約束ですよ』
真剣な表情の『京太郎』の念押しに勘違いした智美は顔を真っ赤にして頷いた。頷くことしかできなかった。
なお冷静になった直後、ごねにごねてご褒美タイムを倍増してもらうことに奮戦した智美にプライドは片鱗も見受けられなかった。
『蒲原智美の場合』、こんなのになりました。
まともな智美のセリフが1行しかないという不具合。ワハハにまともにしゃべらすと、のらりくらりと勉強せずいちゃつくことを優先させに来るから仕方がないね。
アイデアだしに時間がかかった割にこれか、ワハハよ強く生き……どんな状況でもポジティブに生きてそうなキャラだよねこの子。
それはそうとワハハの言葉通りな課金システムだったら身を持ち崩す人間が大量に出そうでやばい。
崩さないキャラの方が少ないとかこのアプリは麻薬かなにかかなの?
次回『妹尾佳織の場合』。メガネ、巨乳、金髪、天然気味、1日1回役満……キャラ立ちすぎじゃないですかね。
むっきーだけ鶴賀でキャラが薄い気がするのは気のせい?
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
-
面倒見のいいところ
-
自分を女扱いするところ