園城寺怜がこのアプリをインストールしたのは、まあ親友に押されてというのが大きかった。
いざというときに緊急連絡がほぼリアルタイムにできるという課金機能は体の弱い自分にとって確かに有用だという理解もある。
個人的には平日でのベッド暮らしが暇すぎるため、話し相手ができるのは素直に嬉しかったとも言える。
「病院でスマホの使用はいいのか」という突込みは、技術も進んで多少の電波でどうこうなるような柔な機具など刷新されたため一部以外ではそこまでうるさく言われない。
「うち……もうすぐ死ぬんやな」
『何言ってるんですか怜さん!?』
「うちの体のことはうち自身が分かっとる。あの木の葉が落ちるころ、うちの命も」
『そんな弱気にならないでください、俺は、俺は怜さんのことが……』
「その前に京太郎に頼みたいことがあるんや」
儚げな笑みに寂寥を帯びさせて怜は告げる。
『俺、何でもします』
「膝枕してくれへんか?」
そんな小さな願い事にこくりと『京太郎』は頷き
『俺なんかでよければ』
「ああもう、思い残すことはない……」
スッと目を閉じる怜の頬に『京太郎』は手を当てて
『怜さん、怜さんっ』
『京太郎』は涙をこらえるように歯を食いしばり、しかし目線は怜の顔から離さない。満足げな笑みを浮かべる怜をただじっと見つめて
パシャッ
スマホのシャッター音がすると怜はそのまま寝返りを打ち、そのまま病室のベッドの上でうつ伏せになりつつ今さっき撮った写真を見る。
『どうですか、出来?』
「そうやな、役に入り込んだ分映画のワンシーン的な感じがよく出とる」
満足げな怜に『京太郎』は次の採点を頼むことにする
『膝枕はどうでした?』
「あー、竜華とちごうて硬めやけど筋肉質なんで頼りがいはあるな。手で頬を包まれたときは男らしさを感じて、ちとドキドキしたわ」
『おお、思いのほか高得点』
コントとともに自分の欲求を同時に満たす。園城寺怜という人間はそういう自分に素直な性格だった。
「ただなあ、首、疲れるねん」
『感覚はフィードバックされても、体勢を維持するのは怜さんの筋肉の力ですからねぇ』
「龍門渕財閥には粒子なんたら論で実在させてほしいと要望出さなあかんな」
『電子データを元に実体を生み出すとかオーバーテクノロジーでしょう。
怜さんの体をスキャン、首から下の随意筋への神経伝達を一時的に遮断。同時に電脳空間で怜さんのアバターを作って脳波に従って動かす。の方がまだ実現は近いと思いますよ』
あんまり頭がいいとは言えない『京太郎』がこういう言葉を返せるのは、その辺りの質問があり得るだろうと判断したスタッフによる仕込みである。
実際『京太郎』は手に広げたメモ用紙を読んでいるだけで内容は理解できていない。
この辺り、龍門渕財閥の力の入れようは謎というしかなかった。
「膝枕への愛のためにどうにかしてもらわんとな、できるだけ早く」
『なんでそこまで意欲的なんですか』
「そらあれや、エロいことも可能になるからや。うちも18になっとるしな」
『流石にR-18版は出さないと思うんですが』
苦笑する『京太郎』に、しかし怜は力強く断言する。
「でもごっつ売れるで。人は三大欲求で進化してきたんや」
あながち間違いでもないのが問題だった。
コントのようなやり取りも含め、怜と『京太郎』の仲は深まっていく。怜のバイタルチェックも兼ねて24時間起動してるので当たり前と言える。
この機能は怜の入院病院で絶賛され、医療化してほしいと財閥に訴えたため、龍門渕財閥は医療参入に好感触を得たという余談もあったりする。
ただ怜は友人といる際はそちらを優先させるため、『京太郎』は距離をとることもそこそこあった。部活中は特にそれが顕著である。
そしてある日、珍しく怜と竜華が喧嘩別れをする日があった。
家にたどり着いた後、おもむろに『京太郎』は尋ねる。
『何があったんです? 竜華さんすごく怒ってたみたいですけど』
「京太郎と前撮った膝枕シーンの写真を竜華に見られてな。でもそうやな、これはいい機会だったかもしれんな」
親友と喧嘩したにもかかわらずあんまり堪えてなさそうな姿に『京太郎』は首をひねる。仲が良すぎてお互いに依存しているようにも見えていたのだが。
「竜華な、たぶん自覚してないんよ。自分が京太郎、いや正確には竜華の『京くん』にべた惚れてしもうてること」
『へ?』
「最近口を開けば『京くん』『京くん』『京くん』、んでうちが合わせて京太郎の話になるやん? すると微妙に機嫌悪くする。分かりやすすぎや」
自分の分身があの見た目ドストライクな人に好かれている、それに現実感がなく聞き返す。
『えっと、嫉妬の対象が逆ってことは?』
「ないな。それやったらうちを睨み付けるんやなくてスマホに視線やるやろ。
予想ならそろそろ……と、来たわ」
竜華さんから送られてきた文面は『もう怜専用やないからな!』で、添付に『京太郎』が竜華さんに膝枕されてる姿
「ふう、一安心やな。うちの安住の地は守られた。でも竜華は奥手やからな。
京太郎、うちのこと背後から抱きしめてくれへん?」
『よくわかんないけど、分かりました』
細い怜さんの体を抱きしめてみると、シャッター音がして
「『それはうちがすでに通り過ぎた道や』、と。どうなるかワクワクやわ」
数分の間をおいて、正面から抱き合った写真がメールで送られてくる。
「これだけでどんだけまごまごしてるねん。しゃあないな最後の一押しや」
怜さんはベッドの上に仰向けで転がって
「京太郎、覆いかぶさってキスしてーな。壁ドンやなくてベッドドンって感じで」
『え、でも』
「ええから、はよぅ」
そう、これは人助け、怜さんもそう言っていた、と『京太郎』は覚悟を決めて怜との距離をゼロに。
唇と唇が触れ合う感触と体温、水気の感覚までが怜の中に流れ込んでくる。
そして、間を置かずシャッター音。
「よっしゃ。これで勇気出さんならもう手に負えんわ。あとは放置っと。
んじゃ京太郎、うちらも純粋にイチャイチャしよか?」
ポイっとスマホをベッドの隅に放り投げて潤んだ目で『京太郎』を至近距離で見る怜に動揺。
『え、今までのは竜華さんのための煽りで、怜さんは別に俺のことなんとも』
「好きに決まっとるやろ。やないとここまでできるかいな。竜華と違ってうちは『うちだけの京太郎』がいるから一々嫉妬せーへんだけ。
もし京太郎が1人しかおらへんとかやったら竜華も倒してうちだけのものにするに決まってるやん」
その言葉に『京太郎』は誰にも聞こえないエールを送った。
『オリジナルの俺、もし発見されたらガンバ』と。
怜編、今までで最長。
コントと機能の説明が思ったより膨らんでしまった。
見て分かるように竜華編と互いに補完する形です。
というか竜華も怜も重い。阿知賀はさわやか青春の重さだが、こっちはドロドロになりかねん。
没入型VRは龍門渕が数年がかりでどうにかできるかもしれないが、R-18はオリジナルのサンプルとる必要があるから、話の時点で清澄が戦争起こすとしか思えない。
次回は『二条泉の場合』です。
いずみんマジどうしようかな、アイデアが降ってこない……
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ