加治木ゆみは鶴賀学園麻雀部の部長格である。正確には部長ではないのだが部長がやるべきことはほぼ全てゆみの主導によるものであり、次期部長の津山睦月に引き継ぎ作業をしたのもゆみである。
ついでに言えば竹井久がかつて合同合宿の話を持ち掛けた折はゆみに対してであり、どうも部長職を担っているのが蒲原智美だと気づいていない節があった。
久とは今も初心者の育て方について話し合うことも多い。ゆみ自身が高校に入ってから麻雀をやりだした口であり、来年以降自分がいない状態で後進をどう育てるかは共通の悩みでもある。
ただ友人関係とも呼べる関係になっても久が唯一の男子部員の詳細については口を閉ざすため、ただの先輩後輩の仲とは別の感情があるのでは、などと邪推してしまいたくなる時もある。
「それもまあ、余裕があるからかもしれないが」
余裕というよりも暇と呼ぶべきか、ゆみ自身は受験にさほどの危機感は抱いていない。普通に勉強して普通に受ければそれなり以上の結果になると分かっているからだ。
傲慢でもなんでもなく単なる積み重ねの問題だ。努力は人を裏切らない、普段から他人より頑張っていればそれだけ報われるということ。
だからといって公言して周囲と軋轢を作る必要はない。受験にピリピリしている空気に紛れ自分も勉強を積み重ねるのは忘れなかった。
誤算があったのは桃子がゆみへの接触を控えたこと。なんだかんだで桃子から構われに来るとなぜか妄信していた。だが実際には桃子はゆみの邪魔になることを恐れ距離を取ってしまった。そして桃子からのアプローチがなければゆみは桃子がそこにいるかどうかも気づけない、その現実が立ちふさがることになった。
そして初めて気がついたのだ。桃子がゆみに依存していた以上にゆみもまた桃子に依存していたのだと。
よく思い出せば最初から桃子へと欲しいという気持ちをぶつけたのはゆみの方だった。それが段々と桃子からの肉体的接触を伴うアプローチに慣れ、いつしか(桃子は私がいないとだめだな)なんて勘違いをしてしまった。
そして今、実際に桃子がいるかどうか分からない中で叫ぶにはあまりに時期が悪い。受験生のさなかでそれをやってしまえば顰蹙ものである。
結果、ゆみは人恋しいという気持ちを持て余すことになった。
だからだろうか、恋愛アプリなどに手を出してしまったのは。実際には存在しないと分かっているつもりなのにその言動に一々左右される。
時間が空いた時には髪が変になってないかを鏡で確かめてから一呼吸おいて立ち上げる。
後輩が最近構ってくれないことを理由に甘えてみてくれないかなどと頼みだし、『京太郎』が照れ交じりに動物の真似をするのに衝動的に猫可愛がりしたくなったりと人様には聞かせられない経験も。
思慕の量も今ではすっかり後戻りできなくなってしまっているのだ。
最初は軽い気持ち、お試しだった。(桃子が構わないのが悪い)などと代替を求めていたはずだった。なのに彼にしかない魅力が目につき、彼としか過ごしていない時間が重なるたびに思いの比重はどんどんとズレていく。
『存在していない彼に思慕を寄せるなんてばかばかしい』、以前のゆみならそうはっきりと言えたはずなのに。他の皆が今も勉強している、後輩が自分の道を見直している。そんな裏でこんな非生産的な想いを抱くなんて許されるのだろうか?
『許されるわけがない』、今もゆみの脳髄は明瞭に答えを返す。なのに自制するための背徳感がより強くゆみの気持ちを炙ってしまう。
自分がおかしくなっているとゆみは分かっているのだ。この道の先に得るものなどないだろうと、他のものを傷つけてしまう危険も。
それでも、『京太郎』に自分がどう映るかを優先してしまう。なにをすれば『京太郎』が喜んでくれるかの思考が来る。
そして最大の問題は、これほどに思慕を募らせてもなお『京太郎』本人への態度や周囲への反応はかつての『加治木ゆみ』として振る舞えてしまっていることだ。
発覚しない。何事も起こっていないかのように周囲は錯覚してしまう。燻っている芯の温度は表からは全く見えない。
現に今、二人きりの麻雀教室でさえ
『ゆみ先輩、なんでこの手牌から点数を低くしてでも待ちを変えたんですか?』
「それは相手への「読み切っているぞ」というブラフだな。大会などの場ではどうしても脅威を感じると委縮してしまう。
分かっていても脳内をよぎれば間が空く、そういったところから相手のミスを誘発させる搦め手も選択肢に入れれば打ち方の幅も広がるんだ」
『ほへー、ゆみ先輩すっごい』
完全に先生と生徒、先達を尊敬の目で見る『京太郎』の目はキラキラと輝きでいっぱい。そこに不純な気持ちはない。
対するゆみは奥に炎を宿しジリジリとその身を焦がしている。そこに不純な気持ちは膨大。
ぎりぎり窯の蓋とでもいえる薄皮一枚でとどめているゆみの炎が何かの拍子であふれかえってしまえば、どうなってしまうのか、少なくともあまり平和な図は描けそうになかった。
『加治木ゆみの場合』、鶴賀終了のお知らせ。
かじゅって見た目はクールだけど中に秘めたものはすごく熱いよねっていう話。
いきなり「君が欲しい!」なんて校内告白かます人ですからね、クールに見えるのは表面だけなんですよ、という話がなぜか大惨事長野大戦の火種の一つに。
京ちゃんを他の高校には晒さず独占したい久はここでもナイスセーブをしています。
京ちゃんを他校にはやらんという鉄の意志。久は恋愛でも常に悪待ちしてますね、素直にアピールしないから清澄1年トリオにも全く警戒されてないです。
次回は……『池田華菜の場合』か、番外挟むかといったところ。
これまでいろんな高校+α書いてて思うのは咲キャラの豊富さ。よくあれだけ生み出せるよね原作者、すごい。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ