VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

72 / 80
池田華菜の場合

池田華菜は風越麻雀部で自他ともに認めるNo.2、おそらく来年は先鋒を受け持つことになる少女である。

高火力タイプであり本来なら全国レベルの実力を持つ雀士であり、日の目に当たっておかしくない能力を持つ。

 

ただ不運は風越麻雀部のNo.3以下との差がありすぎるという2年・1年の不作。それに反して龍門渕高校に集中した2年生の実力者、無名校のはずの清澄や鶴賀にいる異能の打ち手の存在だった。

 

風越に来るだろうと思っていたインターミドルチャンプは、友人の『タコスが学食にあるから』という普通ではありえない条件を満たす清澄高校に付き合いで入学してしまったという事実。

 

池田華菜をはじめとする風越麻雀部にとって不遇の時代と言える。麻雀で好成績を修め推薦で大学生やプロになるという人生プランはかなり厳しい。

池田にとってそれは正直予定の範囲外だったが、基本的に図々しいので(これから活躍すればいいし!)と奮起の材料にしていた。

 

そして華菜が進学や就職へのアドバンテージを望む理由に家庭環境がある。

華菜には今年4歳になる妹がいる、しかも3人。三つ子である。当然子供を育てるために必要なものは単純に3倍、これを賄うのは非常に厳しい。

なので華菜はその分いい条件で自分を売り込み、家計の足しにしたいという気持ちが強い。もちろん現在進行形で妹たちのお世話も積極的にする。

 

部活では問題児タイプ、家ではしっかりとお姉ちゃん、そういった二面性があるとも言えた。

 

そんな彼女に架空とはいえ彼氏を作る余裕などない、のではあったがアプリのインストールはしっかりされている。

 

曰く「キャプテンに変なことしないか確かめるしっ」という審査とスマホ操作の代行のためであった。

無事、人畜無害と判断された『京太郎』は自分のコピーが好みのタイプの女性の元に送られ、華菜のスマホから離れられずに羨ましさの滲んだ視線を向けざるをえなかった。

 

そして現在華菜の元にいる『京太郎』が何をしているかというと

 

『華菜さん、みんな寝てますので今のうちに』

 

「よし、京太郎は見張っといて。私は夕飯の準備するし」

 

子守りのお手伝いをしていた。物理的に何の干渉もできない『京太郎』であったが、見張り番と声くらいはかけられる。

そして三つ子に気を取られずに家事ができるというのは華菜にとっても十分なプラスだった。

 

4才児3人というものは予想以上に元気であるため火元に近寄らせるわけにはいかない。だが家事はしなければ回らない。

 

物理的に不可能な分を補うためには非現実の存在でも使う、そういう逞しさが華菜にはあった。本格的に困る場合は友人に頼むことも多い。

図々しかろうと子守りはおろそかにすれば危険が迫る。なら使わないなどという選択肢はない。

 

「どう?」

 

コトコトと煮込む合間の端的な華菜の問いかけに『京太郎』は壁を通り抜けて様子をうかがう。まるで幽霊であったが華菜にとっては現実感より利便性重視であり、その意向に沿った形だ。

 

『今のところは平気……ん? 緋奈ちゃんがむずがっているような、これはトイレですかね』

 

「んー、1人でトイレぐらいは行けるしこっちに来ないかだけ注意して」

 

ちょっとしたことであればある程度放置するという諦めも必要だ。人間手は二本しかないのだから構えない時はある。かといって目を離すわけにもいかないのだが。

 

『何かあったら声かけますね』

 

障害物を無視できる探知機のように使われる『京太郎』だが特に不満はなかった。染みついた雑用魂にかかればデスクトップパソコンを運ばされるよりは楽に思える。

基準がおかしいと言ってはいけない、時には現実逃避も必要である。

 

かくして『京太郎』はいつもに比べれば大人しい三つ子を見守り、夕飯の時間まで無事につないだ。

走り回る事態に目を回して華菜の助けを待つこともあるため、今日は本当に楽な日だった。

 

「ふー、終わったぁ」

 

親が帰ってきたらバトンタッチ。うにょ~んと机の上に猫のように上体を伸ばして休憩時間。その背に『京太郎』は声をかける。

 

『お疲れ様です』

 

実体があったらもっと手伝えるし今もペットボトルの差し入れぐらいはできたのだが、出来ない以上声色に労わりを乗せるのが精いっぱい。

 

『でもあれですね。華菜さんっていいお母さんになりそうですよね』

 

「っ。なに生意気言ってるし。もっと麻雀強くなってから言えだしっ」

 

なぜか思ったことを言っただけなのに振られるのか、そんな悲しみを覚える『京太郎』。自分が恋愛ゲームアプリであるせいでむやみに華菜に深読みされたのだが、そこまで頭の回る男ではなかった。

 

『じゃあまあ、来年の夏に強くなってたらまた言いますね』

 

ほんのちょっとの悪戯心。麻雀が弱い事実を指摘されて何も言い返さないのも男が廃るという虚勢。

言うだけ言って本当に強くなれるのか自分の本体の現状に思いを馳せるが、リンクのようなものはないため知ることはできなかった。

 

だから華菜の顔が赤くなって足がパタパタと動いているという現在を見落としていた。

 

来年の夏、須賀京太郎が人目に晒される長野代表になれるかは今の時点では全くの不明であった。

それがいいことなのか悪いことなのかは、人により回答は違うだろう。




『池田華菜の場合』完成だしっ。

華菜ちゃんは家庭的でいい妻になれる可能性を秘めているのではないかという可能性の話。
ついでに地雷も埋めておく『京ちゃん』の無自覚ぶり。

いや本当、長野予選突破したら確実にバレるよね。その前に他大会の随伴でバレるかもしれんが。

今まで70人以上書いて、そのほぼ半分は重い女子がいるのだからヤバイ。
ある意味より取り見取りだがここまで行くと羨ましいより別の感情が湧く。


次回は『福路美穂子の場合』。キャップのスマホ使えない病は華菜ちゃんのナイスプレイで解決だしっ。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。