佐々野いちご、別名「ちゃちゃのん」。麻雀の強さそのものよりもアイドル的な人気を誇ることで有名な少女である。
そして女性雀士の御多分にもれず男の影はない。もしあったならばスキャンダルよろしく報道されてしまうのだろう。
人気があるといってもプロ活動をしてない高校生のプライベートを暴くなど倫理的に許されないはずだが、マスコミの良心に期待するのは厳しいものがある。
故にいちごは異性との付き合いを抑圧される環境にいた。
マスコミがいなければ実際にできるのかは別の話だが、それはそれとして精神的圧力は思春期の少女に大きな影響を与える。
そして人間というのは禁止されればやってみたくなるもので、いちごも背徳的な感覚に思いを馳せるのを止められなかった。
実際に行動には移れない程度には外聞と候補になる相手がいないという事実が作用されていたのだが、インターハイも終わり引退が決まった頃に状況が変わる。
お手軽に秘密にお試しに、それでいて現実感のある恋愛ができると噂のアプリが発表されたのだ。
どれだけよくできていてもあくまでゲーム、簡単にやり直しのできる代物だと軽く考えて。
そして今、いちごはごろごろと床で壁から壁へ転がりながら己の内側に生じた想いを吐き出している。
「こんなん考慮しとらんよ……」
たかがゲーム、そう思っていた。
だがいちごの前に現れたのは気さくで優しいながらも体格はしっかりと男の子をしていて、顔だって全然悪くないというか結構好み、そしていちごが先輩と知ってからはちゃんと敬意をもって懐いてくれた。
余りの予想との違いにテンパって噛んでしまっても咎めることなく、手を包んでゆっくりと深呼吸を勧められたが年頃の男性に手を握られるなど初めてのいちごの心臓は逆に鼓動を大きくして顏を火が包んだ。
正直その後のことはよく覚えていない。そんなに長い間話してはいないはずだが自分が何を言っていたのかよりも心中に渦巻く嵐の制御でいっぱいいっぱいであった。
「変に思われとらんかな」
リセットすれば……とか言っていた人間がこうである。
いちごは確かに失態を見せたが、だからと言って去り際の「また呼んでくださいね」という『京太郎』の笑顔を裏切ってしまうのに罪悪感を覚える。
「……あんなん考慮できんよぉ」
なおもいちごは枕を抱えてゴロゴロと床を転がり続ける。そろそろ目が回りそうである。
立ち上がると若干立ち眩みに似た感覚を引きずりながらベッドにダイブ。いちごは枕を引き寄せてぎゅっと抱きしめる。
「あの人とお付き合い、ええんじゃろか」
スペック的にいちごが負けているわけではないが、慣れてないせいで釣り合いをついつい考えてしまう。
つり合いも何も他人には見えないのだからあとは当人同士の気持ちでしかないのに無意味に悩む。
こうやって悩んでしまっている時点で恋愛の入り口に足が沈んでいるのだがそんなことは恋愛経験なしのいちごに自覚しろという方が無茶である。
「お付き合いってなにするんじゃろ」
未経験者であるが故の無知。想像できるのは一般的に語られたり映画にされたりというおぼろげな虚像。
「デートして、手なんか握ってしもうたりして、それからキスやら、その後は……っ、~~~っ!」
この今ねているベッドの上でのなんやかんやにまで頭が行ってしまい、そのピンクだったり肌色だったりの妄想を自分の中から叩き出そうと、枕を振りかぶって何度もぼふぼふと叩きつける。
「いけん、もう寝よ。……? ?!? ~~っ、――っ!」
これ以上はまずいと判断したいちごはベッドにもぐりこむが、そこで自分の発した「寝る」という言葉に付随する様々な要素を連想、再び枕を掴んでベッドからは落ちないようにぐるぐると悶絶し始める。
一般的にはアイドル的な人気の佐々野いちご、通称「ちゃちゃのん」だが、こうやって切り取った部分だけを見ると恋に恋する女の子だということがよくわかる情景だった。
流石に体面を気にして外ではこのアプリに触れることはないだろうが、それはすなわちおうちデートになってしまうのが必然なわけで、それに後日気づいたときいちごはまた頭の中を妄想で沸騰させるのだろう。
『京太郎』の前でそういった意識しまくりな自分を出さないでいられるか、それが一つの見ものであることは間違いない。
『佐々野いちごの場合』、出来たー。
あえて『京太郎』の露出をできる限り減らしてみようとしたのが今回の試み。割と難産でした。
恋愛未経験者だからこその妄想に振り回される女の子が書きたかった。しかもおそらくお茶の間の人気が高いだろう少女に。
こう世間とのイメージのギャップが生きるかなと思って。
はやりん? さすがにはやりんでこれをやるのはイタ……(ここで文章は途切れている
次回は王者先輩こと『小走やえの場合』の予定なんだけど、GWに向けて忙しくなるので遅れそうな予感。
そしてGWに休みとか都市伝説ですね
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ