荒川憩は昨年、高校1年生にしてインターハイ個人戦2位となった少女である。
つまりは去年の時点ですでに全国の中で2番目に強いという称号を自分のものにしている。
そんな彼女が好む衣装はナース服である。制服を着ない人間は数あれど割とチョイスがおかしい。
親が病院を経営しているといっても継ごうと思えば普通は女医を目指すものなのに、それでも白衣ではなくナース服を選ぶ。
憩の名前自体に「他人を癒す」という意味合いを含んではいるが、高校生がナース服を着るのは違う方向で癒してしまっているのではないかと少々心配になる。
しかし憩本人はそんなことに気づいているのか気づいていないのか、ニコニコと手元のスマホを弄っている。
起動したアプリの影響で視界に些細なノイズが出てすぐに一人の少年が網膜に形作られる。
『んにゅ、今日はいい天気ですね~』
ふわと能天気に『京太郎』はあくびして、憩へと小さくお辞儀する。
「おはようさん、あんまり夜更かししたらあかんですよーぅ」
『いやいや、夜更かしは憩さんがずっと質問責めにしたからですからね。なに関係ないみたいな言い方なんですか』
笑顔で注意してくる憩に対して『京太郎』は咄嗟にツッコミを放つ。
「だってうち、男の人と夜に一緒なんて初めてやったから意識して中々眠れへんかったんですぅ」
『……ねえ、それわざとなんです? 誰かの耳に入ったら確実に誤解されますよね』
もじもじと憩が恥ずかし気に体をよじらせているが、『京太郎』はどこかの部長のせいで弄られているだけだと感じていた。
「ほんとですよーぅ。京太郎くんはうちのドキドキ直接聞いたやん。体だって熱くなってたんですよぉー。知ってるのに京太郎くんはいけずですーぅ」
まるで胸に耳を当てたか抱きしめて心臓の鼓動を聞いたかのような物言い。だが事実は違う。
『バイタルスキャンでね! 病院に龍門渕財閥の検査機械入れるかの参考にするって話だったでしょう!?』
憩が『京ちゃんと一緒』を始めたのは龍門渕財閥の技術を体験し、龍門渕財閥の医療部門の参入を受け入れるかの判断の一助にしたいという話であった。
医療機器のスペックは『京太郎』の知るところではないが、スマホのアプリにとんでも機能を実装する龍門渕のことだから普通のものとはかけ離れている予感しかしない。
だがそんなことはさておき、憩は悲しそうな顔をして京太郎に上目遣い。
「そのためだけにうちがインストールしたと思ってたんー? チェックだけやったら病院で働いてる人が直接しますよぉ。
うち自身が京太郎くんのこといいなって思ったんですーぅ。うちのこと好きになってほしいから、興味持ってほしいから傍にいてほしいんやよーぅ」
予想外のうるうる目線に『京太郎』はたじろいだ。異性にストレートに好意を向けられるということに慣れていないためあわあわする。
憩は胸こそぺったんこだが間違いのない美人。しかもナース服を着ていることで萌え要素がプラスされている。しかも疑ったという負い目が『京太郎』を襲う。
『いやその、憩さんみたいな美人さんにそんなふうに思ってもらえるほど自分に自信がないといいますか、というか俺のどこがいいんです?』
本体の(俺ってなんでモテないんだろ)という思考がコピー先にも適用されていた。
咲が引っ付いていたり、高嶺の花の和や、部員以外には人気のある生徒議会長の久が一緒にいることで他の女子からは「勝てない」と諦めムードが漂っているだけで、実は水面下ではかなり人気があったのだがそんな事実は知る由もないのだった。
「うーんと、京太郎くんは安心できるというか、素の自分を受け入れてもらえるように感じるんですよーぅ。
でもちゃんと男の子で、ふっとした時に頼りがいやセクシーさを感じてドキドキするんですーぅ」
はっきりと言葉にするのは流石に恥ずかしいのか、憩は自分の赤くなった頬を掌で挟んでもじもじと太腿をすり合わせる。
「性格は優しいのに―ぃ、胸板や肩幅はがっしりした男の子で、ごつごつした感じがその……もう言わせんでよーぅ」
憩としては(押し倒されたら絶対抵抗できへんよーぅ)などと少々いけない妄想が加速され、周囲に男性がいないため己を持ち余らせている状態であった。
端的にいえば憩は妄想豊かなむっつりさんなのである。ナース服を着るのも他人の視線を集められているというのが大きな部分を占める。
実はこれには『親からは後継ぎとして期待されていない』というコンプレックスの裏返しであるのだが、それを乗り越えられるかはもっと後々の話。
「うちはとにかく京太郎くんを意識しとるんですーぅ。だから京太郎くんがうちのこともっと知ってくれて、うちがいいってなったら――」
『はい、俺から告白します。可愛いんですね、憩さんって』
最後まで言わせずに男気を見せて畳みかけるように誉め言葉。無意識でやってる分『京太郎』はさらに質が悪かった。
憩はその直撃を受け、もう湯気が出るほど傾倒度をあげていくのだった。荒川憩は『京太郎』の元となった人間がいることをこの時はまだ知らない。
『荒川憩の場合』、終わり。
キャラが暴走した、作者は謝らない。
感想で指摘されたけれどマホは素で気がついてませんでした。
ムロは……普通の子&地味過ぎてどう書けばいいのか。
カツ丼さんは作者内で架空恋愛と結びつかない……年齢はプロ勢の中でも若いのになぜだろうね。修羅場を見て「初めて見た。あんなに雀士に愛される人間を」とか可愛そうなものを見る目ですごく言いそうではある。
こーこちゃんはキャラもつかめておいしいけど、女性雀士じゃないという理由で登場しません、残念です作者的にも。
そういうことでまずは『夢乃マホの場合』は追加しようと思います。出番は次回。
その後はエピローグ挟んでとりあえず完結かな。
もしアイデアが降って湧いたら追加しよう、ムロたちは。今は思いつきそうにないので。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ