VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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夢乃マホの場合

夢乃マホは高遠原中学2年生、つまりは片岡優希と原村和の後輩であり2つ年下の少女である。インターミドルで優勝した和のことを特に慕っており、ネット麻雀では『のどっち』をリスペクトして『スーパーまほっち』を名乗る逸材である。

しかも尊敬する雀士の打ち筋を再現するいわゆるコピー系のオカルトを持っている。

 

こう聞くと非常に強いのではないかと感じるだろうが、コピーできるのは一日に一回であり、必ずチョンボするという特性を持つため永遠の初心者でもある。

磨けば条件や欠点を改善し能力を伸ばせる可能性もあるため将来に期待できる逸材ではある。とはいえ今は基礎能力も低いため原石でしかない。

 

そんなマホが『京ちゃんと一緒』というアプリを始めたのは先輩への強い憧れが原因。

和や優希にとどまらず、女子部員だけでは飽き足らず、主に雑用ばかりしている先輩にも向けられていた。

 

「須賀先輩はすごいです! 麻雀卓のメンテナンスも牌譜の整理も、お掃除までできちゃうんですね!

 マホ、須賀先輩みたいになりたいと思います!」

 

『うんまあ、出来れば和みたいになってくれな』

 

雑用を任されているのは主に本体の実力足らずから早々に敗退したためであって、別に雑用係を志しているわけではない。

少しタコスづくりが楽しくなってきたとか整頓のコツがわかってきたとかそういう小さな楽しみはあるものの、麻雀を諦めない男であった。

 

「でもマホ、あんまり上手くなくて」

 

才はあっても土台がしっかりしてなければ持ち腐れ。

いずれは毎局コピーしたオカルトで罰符を帳消しにして余りある戦果を挙げられるかもしれないが、そんなのは未来にならないと分からない。

 

『だったら俺に教えてくれないか? 教えるのは復習に最適だってどこかで聞いたことあるしさ』

 

「ま、マホが先生ですか!?」

 

『京太郎』からすれば当然の提案もマホには自分よりも年上に教えるという発想自体がない。

何しろ今まで常に教わる側であったのだ。

 

『麻雀歴で言えば俺は半年にも満たないからさ。よろしく頼むよ先生』

 

茶化すように相手を持ち上げるのは『京太郎』にはお手の物。

しかしそういったことを日常的にすることで将来どうなるかは想像もしていない。

本人的には単なる軽口だが、異性に耐性のない女性にどう受け止められるかという視点は持たないのである。

 

「え、えっと、マホ上手く教えられるか分かりませんよ?」

 

『大丈夫だ。俺もちゃんと教えを守れるか自信がない』

 

自信がない発言にさらに自信がない発言をぶつける『京太郎』。こちらは別に茶化しているつもりはない。

 

なにしろ本体が受けている教え自体が矛盾しているのだ。和は数値で語るし優希は根性論、咲は何となくとか言い出すし、まこは経験と実践重視、久は悪待ちを勧めてくる。

どれかを守ればどれかに背く状態、これで上手くなれるわけがない。

唯一どうにかできそうな久は本心では京太郎を人の目に触れないようにしたいので、上手くする気がなかった。なんとも困った独占欲である。

 

『とりあえず俺はマホ先生のやり方を選ぶぜ。というわけでよろしくな』

 

所詮はコピーされた存在である『京太郎』は上手くなっても何かを現実にもたらせないと考えているため、失敗を恐れない。

自分の存在価値を軽く見たり二の次におく悪癖であった。

 

「じゃあ、マホは麻雀を教えますから、須賀先輩は恋愛を教えてください!」

 

『うん?』

 

勇気を出した年下からのアプローチに『京太郎』ははてな顔である。

 

「あの、須賀先輩は恋愛アプリ、ですよね?」

 

『ああ、そういえばそういう設定だったな』

 

すっかり忘れていたとぶっちゃける『京太郎』。

無自覚で口説くくせに当人としての実感がないという地雷建築士の片鱗を見せつける。

 

『いいかマホ、恋愛は学ぶものじゃない。自分がそうだと思ったものが恋なんだ』

 

どや顔で言い切る彼女いない歴=年齢の男。含蓄がない。

だがここにいる相手は疑うことを知らない中学生、夢乃マホである。

 

「もしかして今マホがドキドキしてるのが恋!?」

 

『いやそれは緊張じゃないかな』

 

立ちかけたフラグをへし折りにかかる『京太郎』。だが彼は夢乃マホの持つ真っすぐさを理解していなかった。

 

「でも須賀先輩は自分でそう思ったら恋だって言いました! だからマホは恋をしてるんです!」

 

その抗弁に『京太郎』はしばし考え、

 

『……うん、まあ、それでもいいか』

 

先送りにすることにした。可愛らしい年下の少女に、本体の飼っているペットの面影を見たためである。

 

「マホ、須賀先輩に好きになってもらうように頑張ります!」

 

『じゃあまず、仲良くなるために名前呼びから入ろうか』

 

「マホには『京太郎先輩』って呼ぶのは難易度が高すぎます、無理ですっ」

 

提案に両手を前に出して首を横に振る姿に『京太郎』はほんわかとした気持ちを抱きながら、それでも習性に近いツッコミを挟む。

 

『今呼んだぞ?』

 

「ふわっ、ま、マホやりました!? ごめんなさい!」

 

恐縮する後輩の姿になんだかポンコツな影を見つつ、空を見上げて『京太郎』は言う。

 

『まあ少しずつな。その代わり麻雀は頼むぞ』

 

「はい!」

 

その『はい』がどちらを指すのかを互いに勘違いしつつ、二人の関係は幕を開けた。




『夢乃マホの場合』、出来ました。
単行本が手元にないのでマホの話し方や呼び方が間違ってるかも?

次回は『南浦数絵の場合』かな。いつお届けできるかはちょっとわかりませんが。
最近気温の上下が激しいので皆さまお気を付けください。作者のように風邪をひかないように。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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