南浦数絵は平滝高校の1年生である。祖父がプロであり、彼女はその背中を見ながら育ってきた。そのため麻雀をするのも疑問には思わなかったし、個人戦だけでも全国にいけると考えていた。
過去形なのは実際のインターハイ予選で阻まれたからである。
その成績は県5位と惜しいものの、上位陣を見れば喜べるものではない。
1位の風越女子のエースである福路美穂子、2位の元インターミドルチャンプ原村和まではいい。問題は3位に名が挙がった宮永咲である。
最終戦で直接対決し土をつけられた。こんな強い人がいるのかなどと認める気持ちがあったのも帰る途中まで。
祖父の口から、その宮永咲が予選1日目に全局プラスマイナスゼロという『お遊び』をしていたと聞いた瞬間、憤怒とともに恐れを覚えた。
自分が真剣になっていたものを遊びの道具にし、それでもなお全国に出場を果たす調整能力。まごうことなく化け物である。
実際の咲は単に(モチベーションが持てない自分が全国なんて)などと気乗りがしなかった結果流されるままに『いつもの打ち方』でやらかしただけであり、叱られて真面目にやり直した結果3位に入れたのは運の要素が非常に強く滑り込みだったのだが、数絵には知る由はない。
そしてもう一つの脅威、まだ2年生の怪物、天江衣ははなから個人戦に出ていない。もし出ていれば確実に全国入りしていただろう。
原村和は非常に安定したデジタル打ち、そして2人の異次元に君臨する魔物。個人戦で全国に出れるのは3枠、来年もこの陣容は変わらない。
再来年ですら3位に入れるかの自信が揺らいだ。原村和も宮永咲も同じ1年、確実に対峙するのだから。
そんなふうに心が弱っていたからだろうか、数絵は平静の自分であれば手を出さないであろうアプリを使用した。
そして出会ったのは麻雀部員ではあるがまだ半年程度という初心者であり、当然のように麻雀で毟られ続けているくせに悔しがり見返してやると諦める気もない男の子。
話していると表情のコロコロ変わる『京太郎』を目の当たりにして、やっと数絵は消化できていなかった思いに気づくことになった。
自分は悔しかったのだと、差を見せつけられた『弱い自分』から目をそらすこと自体が間違っていたんだと。勝負の舞台にもあがろうとしなかった魔物を見返してやって今度は討伐してやると意志が灯る。
その際『京太郎』は「手を抜かれたうえで負かされた」と数絵が証言したため次のように述べた。
『全くひどい奴もいるんだな。俺は断固として数絵の味方をするぞ』
同じ負かされる側としての連帯感からかフランクな口調になって、邪悪な魔王への敵対の宣言である。
この男の中では幼馴染のイメージは『ポンコツですぐに迷子になる困ったやつ』という形で固定されており、『討伐される魔王=宮永咲』という図式に気がついていなかった。
もし気づいていたとしても『頭をぐわんぐわんさせるぐらいで許してやろう』などと上から目線で言いかねないため敵対自体には変わりがないのだが、数絵への入れ込み加減は変わっていたかもしれない。
なにしろ数絵は胸こそおもちではないものの、長い髪を後ろでリボンでくくった美少女である。
和風美人といった印象の数絵が耐えかねるように唇を結びわずかに潤む目で見上げてくる、それは悲壮感を抱くには十分であり『助けないと男が廃る』といった感情の元になる。
そして数絵は祖父以外で初めて頼る男の子として『京太郎』を見ることになり、親身になってくれることから段々と絆されていってしまう。
それまで同年代の男の子との接点がなかったことで耐性のなかった数絵は時を追うごとに『京太郎』の存在が大きくなり、自然と異性としても気になり始めていく。
ある時は本を読む態で自分の傍にいてくれることを確認するように『京太郎』をチラ見してはほころびそうになる口元を本のカバーで隠したり。
ある時は目にかかった前髪を指で掬い耳にかけあげる仕草にボケっと見惚れている『京太郎』の姿を見てしまい、少し赤くなりながら目を斜め下に落としたり。
ある時はアプリを切り忘れてお風呂場に入ってしまっていつもの調子で服に手をかけかけたところで『京太郎』が慌てて背を向けて見てませんよアピールし始め、数絵も咄嗟に羞恥心のあまりスマホの電源を落とし、冷静になったところで『不具合が起こらないか』などと浮かぶ不安を湯船の中でブクブクと泡と一緒に吐きだそうと試みたり。
まあそんな日常を過ごせば数絵も自身の感情に気づきもする。さすがにそこまで鈍感じゃない。ただ
「私ってひょっとしてちょろいのかしら」
比較できる経験がないため架空の男の子を気にするというどうしようもない事態に幼いころ「おじいちゃんと結婚する」などと言っていた記憶と照らし合わせてその不毛さの類似に諦めに似たため息をこぼす。
実は意外と近い県内に架空ではない実物が存在するなんて思い至るわけもなく、熱のこもったため息をつくばかり。
麻雀だけではなく恋愛においても違う舞台に立っている魔王が立ちはだかり穏当な討伐法に頭を悩ませる未来はまだ先のようだ。
『南浦数絵の場合』終わりはしたけど……なんでほぼ地の文なんですかね?
まあ南浦さんの可愛い所作はアニメで見た読者によって勝手に脳内で再生されると信じたい。
南浦さんは優希の対照としてのイメージ強かったんですが、対優希では勝ってて、対咲で3位→5位への転落してるから因縁深いのってむしろ後者だったんだなって気づいてしまったのです。
真面目にストイックに個人戦に臨むタイプっぽいので、そりゃいい感情は抱けないよねって。
和はすぐ再戦してお友達になれたけど、そんな機会もなしの実戦一回のみ。
ある意味清澄1年生トリオ全員と際立つと書き終わって思う。
数絵を勇者としたら魔王は咲で攫われたお姫様ポジが京ちゃん。しかも咲さんは恋愛でも別ステージに立ってる。
うん、もう数絵が主人公でいいんじゃないかな? 阿知賀編の怜のように。
次回、『岡橋初瀬の場合』? エピローグまでの道が妙に遠く感じる昨今。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ