VRアプリ『京ちゃんと一緒』正式リリース版   作:風見猫

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二条泉の場合

二条泉はかつて高1最強を名乗っていた。それには自らを鼓舞する意味もあったが、半分程度は本気だった。

自分が中学時代負けた原村和は無名校へ進学、たいして泉は強豪の中で唯一1年レギュラーを勝ち取った。

 

ぬるい環境にいた人間と自ら苦難に飛び込んだ人間では圧倒的に後者が伸びるはず、理屈ではそうなるはずだった。

 

ところが蓋を開ければどうだったか?

原村和はミスをしない完璧な機械へと変貌し、ニューカマーやカムバック組が圧倒的資質で敗北という現実を突きつけてきた。

 

ネリー・ヴィルサラーゼは世界ジュニアで活躍していたから分かる。原村和も牙を磨いたということで納得もしよう。大星淡は強豪の中で新星として勝ち上がったのだから許せる。

 

だが、小学校に経験があった程度というブランク組が勝るというのは理解ができない。

そんなに才能があったのならなぜ途中で辞め、そして今更また始めるのか? よりにもよって同学年でそんな化け物ばかりが湧き出るのか?

 

そしておそらくその魔物たちはこれから3年間立ちはだかるのだ。どんな悪夢だ?

 

結果、二条泉の心は癒しを求め架空の男へと愚痴ることで精神の安定を図るしかなかった。

 

「来年になったらな、清水谷先輩も江口先輩も園城寺先輩も抜けるやん? 実力の近いこの三本柱が抜けるとなるときついもんがあるんよ」

 

『そうかもですけど弱体化するのは千里山だけではないでしょ?

 白糸台は絶対的エースが抜けるわけですし、臨海は補充してくるにしても、定員いっぱいの阿知賀・清澄は見通しも不明。永水は3年が3人抜けるので弱体化するのは同じ。

 ぽっと出は計算できないですけど、強豪同士で争う普通のトーナメントになる可能性も』

 

『京太郎』は心の中だけで(うちって部長いないと作戦立てる人いないからなあ。困った人だけど牽引力はおかしいからな。本当に困った人だけど)などと愚痴る。

 

「長野は清澄が来なくても龍門渕がおるやん。あそこ全員3年になるから気合の入り方やばいやろ絶対」

 

『あー』

 

少し前まで検査と称して色々された記憶のせいでうっかり忘れていたが、あの人たち元は麻雀がメインだったと思い出す。

 

「私は千里山で唯一1年でレギュラーを取れた。それが自信やった。

 けど、それは私が強かったんじゃなくてあの人たち以外の千里山自体が弱かったんじゃないかって」

 

『その気持ちは分かる。俺もな、中学の時ハンドのエースで天狗になってた。けど県大会には俺以上もごろごろいて、結局決勝で敗退したんだよなあ』

 

「私は全国に行ったから一緒にせんとって。県大会とか勝って当たり前やん」

 

慰めの言葉を泉はバッサリと両断。

 

『てめ、頬を引っ張られたいのか、そうなんだな!?』

 

「あはは、冗談冗談。でもま、おかげでちょっと吹っ切れたわ」

 

『京太郎』の伸ばす手を避けながら、泉は笑い声とともに目から落ちた雫を拭い去る。

 

「ごちゃごちゃ言ってもはじまらん。自分の力不足は分かった。あとはそれをどう埋めるか、やな。

 都合のええことに千里山にはデータ収集の鬼がいますし」

 

『んー、そっだな。あれだ、確か姫松の大将、えっと末原なんとかさん? とかを参考にすればいいんじゃねえかな』

 

胸が小さかったので正確に名前を憶えてない失礼な『京太郎』は自分の幼馴染を苦しめた相手の名前を絞り出す

 

「えらい具体的やけどIHのテレビ中継見てたん?」

 

『ま、ちょこっとした縁でな』

 

特に大したこともできなかったと自分を評価している『京太郎』ははぐらかす。

 

「でも肩入れしてくれるんやな。あ、私のアプリだからか」

 

『どっちかっていうと仲間意識、かね。怪物を倒す凡人とかかっこいいじゃん。俺も持ってない方だからそうなりたいって思うしさ。

 ここの俺くらい、泉を応援しててもいいだろ』

 

(清澄の応援はオリジナルに任せときゃいーや)とか適当に放り投げて、目の前の少女に告げる。

 

『だから夢見せてくれ。泉があいつらに勝ってやれ。挫けそうになったら、俺が支えるよ。

 まあ実際には物を支える力とかないんだけどな。普通にすり抜けちまうから』

 

三枚目に茶化す少年の笑顔を眼に刻んで、二条泉は吠える。かつて高1最強を名乗ったときのように。

 

「私の活躍見て惚れてみ。そん時までに返事も考えとくさかい」

 

『は、俺を惚れさせられるならやって見せろ。かなりぼこぼこにしないと俺の憂さは晴れないからな』

 

泉は心の中で(この人のために勝とう)と強く思う。そして同時に、尊敬する先輩たち三人にあり自分に足りなかったものを自覚する。

彼女たちは、親友とそして千里山の名、自分以外を背負っていたからこそああまで強くあれたのだと。

 

「来年みてみぃ、私が、私たちが勝つで!」

 

自信家だった二条泉は帰ってきた。

そしてさらに一回り大きくなって再び全国の舞台に立つだろう。

当然、その隣には『京太郎』がいるのは間違いない。




泉はスポーツ青春物のようになぜかなりました。

他のヒロインと大きく違うのは自分が好きになって告白するのではなく、惚れさせて告白させようというスタンス。

既に自分は『京太郎』が好きなのにそれを言わずに前を向いて結果で返そうとする。そんな泉さんの出来上がり。

『心の折れかけた泉と励ます京ちゃん』ということだけ決めてあとは筆の赴くままに任せたので、どうしてこうなったのか作者自身が分かりません。

白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?

  • 面倒見のいいところ
  • 自分を女扱いするところ
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