須賀京太郎は中学でハンドボールを、高校では麻雀を選んだ男だった。
当人は自分がモテてないと高校までずっと思っていたりしたのだが、それは単に幼馴染の宮永咲が常に傍にいて『売約済み』だと認識されていたにすぎない。
運動ができて人当たりがよく気遣いで優しくて、言動が三枚目っぽいから見られにくいが中々に顔もいいし声は反則的、性根は真面目で人間関係を大事にする、これだけ長所があるのだから中々モテないということにもっと早く疑念を抱くべきだっただろう。
欠点は微妙にヘタレなところやちょっと女性の一部分に目をやってしまうエロさくらいだが、そんなものは大抵の男がそうである。
そんなある意味普通の男子高校生を自認していたのだが、そんな契機に龍門渕からおふざけのゲーム作成の手伝いが欲しいと声をかけられ、ノリに任せて乗ったのが始まりだったか。
悪ノリにしては手の込んだ、後々に考えるとそこまで必要があったのかと首を傾げる完成度で作られたそれが現代ネット社会に拡散すると、予想外にも程がある状況が生みだされていった。
勝手に通帳の貯金額の桁が跳ね上がり『ちょっとお金持ち』程度ではすまない金額に至り、何となく怖くなってその通帳は机の引き出しの奥に封印した。
それからは普通などとは言えない波乱万丈の恋愛劇の当事者にされていった。
理由もよくわからず告白され、次の日には告白してきた相手が友人と喧嘩をしてたり、一方的にライバル宣言をしてきた乱入者が場をかき乱したり、覚えのない約束を持ち出されて困惑させられたり、女の子に挟まれてギスギス空間が発生したり、勝手に浮気認定されて怒られたりと様々であった。
そんな普通とはいいがたい経緯や思い出したくもない数のいざこざを経て、高校を卒業する頃にはもうどこか達観していた。
大概のことでは動じなく対処できるようになったこともあり、もういい加減けりをつけようと親御さんを説き伏せ、結婚式を敢行することにしたのである。
相手は京太郎側からのプロポーズになぜか動揺していたが、散々振り回されたのだから「今度は俺についてこい」と告げるとやたらしおらしくなったのである。たまには攻勢に出るものだと京太郎はやっと学んだ。
勢いというものは大事で知り合いのことごとくに結婚式の招待状を送りつけたら、悲鳴やら懇願やら泣き落としやらが発生したが断固たる意志で跳ねのけた。
なお、数少ない祝福の言葉をいただいた方へはしっかりと感謝をささげると共に心中の株が急上昇した。いざというときはこちらも助けようと誓いまで立てておく。
そんなこんなで今、京太郎は着慣れないタキシードをつけて赤い絨毯を進む人生の伴侶になる人を神父の前で待つ。
衣装合わせの時よりも綺麗に見える彼女にはステンドグラスから光が差し込み、ウェディングドレスも相まって神秘的に見える。
神父の祝詞が場を支配し、互いに指輪をはめ合ってお決まりの警句を交わす。
「この結婚に異議あるものは~~」の部分で後ろから声が上がった気もしたが、開催側と言い含めておいた神父は何事もなかったように完全にスルーしていた。
新婦のベールをすくい上げ、今日初めて見る彼女の顔には嬉しそうな笑みと目じりから溢れそうな涙。
この人を好きになってよかったと、万感を込めてそっと背中に手を回し口づけを交わす。
「愛してる――」
言葉に思いをありったけ乗せて彼女の名を口にする。この時彼女が見せた笑顔を忘れることは永遠にないだろう。
エピローグ的に『須賀京太郎の場合』、完。
『京ちゃんと一緒』正式リリース版としても全80話でいったん終わりです。
京ちゃんの結婚相手はぼかして誰であっても成立するようにしておきました。特に矛盾はないと思う。
永水勢は神前式しそう? ドレスが着たかったんですよ、きっと。
皆様長いことお付き合いいただきありがとうございました。咲キャラの魅力が少しでも伝わっていれば作者的には嬉しいです。
R-18版の展開はしばし時を置いてからということで。ただいま充電中。