船久保浩子はデータが大好きだ。データ収集もデータ分析も好きだからこそ得意になったことであり、興味があればとにかく少しでも多くのデータを取ろうとしてしまう。
だから、部員の間に広がっている流行を見つけ出すのに時間はかからなかった。
そして周囲がそれを基におかしなことになっていくのを観察し続けた。
だがそれでもどうしてもあることが分からず、それが気になって気になって仕方がなく、自分もアプリをインストールして起動するなり開口一番に質問した。
「自分、なんでそんなにモテてるん?」
『……言ってる意味が分からないです。というかモテるなら何の苦労もないんですけど』
起動直後に変な質問をしてきた所持者に『京太郎』は過去のあれこれを思い出す。
『俺、彼女いたこと一度もないんですけど』
この『京太郎』の言は事実である。
だがその裏に常に近くにいて牽制を続けた幼馴染やら、(流石にあれには勝てない)と戦意を失わせた高嶺の花や、互いの出だしを邪魔する麻雀部内の高度な駆け引きが存在する。
ただそんなドロドロを好きな男に見せる女子がいるはずもなく、ゆえに彼の認識が現実とズレていた。
「なるほど、無自覚系と」
『ま、マイペースだこの人』
淡々とデータを打ち込んでいく浩子の所作に『京太郎』は自分が振り回される姿を幻視する。
だがよく考えなくても清澄での日々自体が振り回されているに等しかったため、あっさりと心持ちを回復させた。
『というか俺、あなたの名前すら聞いてないんですが』
「ああ、忘れとったな。船久保浩子、好きに呼んでくれて構わんよ」
『じゃあ、浩子先輩で』
浩子は「気安いタイプ」とメモに加える。
「いきなり名前か」
『え、あ、嫌でした? すいません、船久保先輩』
「別に名前でかまへんけどね」
『ならなんで言ったんですか!?』
浩子のメモにはさらに情報が増えていく「真に受けやすい」「素直、またはチョロい」「ツッコミの素質あり」
『なんだこの人、なんか部長に似て』
「ん? 『部長』って誰?」
滑った口を即座に拾われ質問を返されてしまい、『京太郎』の中で警鐘がなる。
『の、ノーコメントで』
「何か隠したい、と」
『ノーコメントで!』
浩子のメモに「いじると面白い」「拒否することもある」と連ねられていく。
焦ってる姿を少し可愛いと思ってしまうあたり、浩子の感性は久に似ていた。そう、いわゆる「好きな子ほどいじめたくなる」というやつである。
こういう人間の厄介なところは好きだからいじめたいだけではなく、いじめているうちに好きになることもある、S気質を有することだ。
「ま、話し戻そか。実際にモテてる相手やったっけ? まあ清水谷部長は確定やな」
『え!? あの黒髪ロングでおもちの大きい人が!? くっ、俺と代わってくれ!』
思わず漏れた本音。それを聞いて浩子は「なぜか清水谷部長を知ってる」「胸が大きい女が好き」と書き記す。
ほんの数分で『京太郎』の情報は収集されていく。鮮やかな手前であった。
だが同時に、浩子はほんの少しむっとする。
「ほー、私じゃ不満と?」
指で持ち上げたメガネが光る。浩子は自分でも竜華の方が女として魅力的だということは分かっている。
だがそれはそれとして、目の前であからさまにそういう態度をとられて傷つかないかは別の話である。
『そういう意味ではなかったんですけど、すみません。
俺、まだ浩子先輩のことよく知らなくて』
大きい体を縮こまらせて若干上目遣いに顔色を窺ってくる『京太郎』の姿に気の小さい大型犬を連想し、浩子の背筋にゾクゾクとしたものが走る。
「その辺はあとで教えるとして、まずは骨までしゃぶらせてもらいまひょか」
おもむろにケーブルを『京太郎』が入ったスマホとパソコンをつなぎ、高速でキーボードを打ち始める。
そしてそのやっている内容に『京太郎』は戦慄する。
『ちょっ、待って! クラックしようとしないで! 規約違反だから! というかそれ裸に剥いてるようなものだから!
透華さん、智紀さん、ヘルプ! ヘルプです! 助けて!』
「中々セキュリティ堅いやないか、燃える、これは燃えるで」
『やーめーてー!』
泣き叫ぶ『京太郎』の言葉を無視して浩子はデータを吸い取っていくが、迎撃プログラムの猛攻にさらされデコイを巻いてどうにか逃げ切る。
「ちっ、表面上の部分しか浚えんかった。あんま実になる内容はないなあ」
『うう、もうお婿にいけない……』
成果に納得のいかない浩子と、蹲る『京太郎』の姿が対比となって夕焼けに照らされる。
「別に困らへんやろ。うちがもらったるから」
『そんなこと言って人に言えないようなことをするんでしょ!? 同人誌みたいに! 同人誌みたいに!』
男女逆の定番セリフで遊んでいる辺り、割と相性は悪くないというのが問題だった。
そして今度は運営に連絡しようとする『京太郎』と、それを阻止する浩子という攻防戦へと移り変わっていく。
こうしてスリル満載の戦いを経てなぜか二人はお互いを認め合い恋仲にまで至る、誰にも想像のできない終わりまでまだまだ時間はかかりそうだった
書いてて苦難の連続だった。
正直一目惚れ以外の道筋では恋愛へのルートが他に思いつかんという。
ぶっちゃけ、今回の出来は悪いなと思っている。
というか、こんなことされても最終的に許してしまえる京太郎は聖人かなにかなのか?
次回は『江口セーラの場合』
そしてその次は『幕間・その時リアル京太郎は①』の予定。
白糸台生活の菫は京ちゃんのどこが好き?
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面倒見のいいところ
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自分を女扱いするところ