少しフェアになったかもしれない第四次聖杯戦争   作:L(・◇・)┘

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ACT.1

 

 

 そこは遠坂邸、地下魔術工房だ。

 暗がりの室内には、ほのかに赤く揺れる蝋燭の灯りが幾つかあるのみである。

 向かい合うのは二人の男だった。この魔術工房の主であり、ここ冬木市のセカンドオーナーを務める魔術師、遠坂時臣。そして聖職につきながらも、遠坂時臣の魔導の徒弟である言峰綺礼だ。

 

「申し訳ありません、導師」

 

 開口一番の言葉とともに、言峰綺礼が頭を下げた。薄暗い密室の中にあって、だが重々しい表情がはっきりと見て取れる。自らの失態を、彼は深く受け止めているのだろう。

 弟子からの謝罪を受けて、時臣に怒気はない。自らの顎に指を添え、逡巡の素振りを見せただけである。

 時臣がおもむろに口を開く。

 

「綺礼、もう一度確認するが……アサシンの召喚には失敗した、ということでいいかね?」

「はい。どういうわけか、私が招いたサーヴァントはアサシンではなく()()()()()でした」

「ふむ」

 

 再度、時臣は深く考え込む。

 アサシン。アーチャー。それらはここ冬木市で執り行われる魔術の大儀式、聖杯戦争にちなんだ言葉である。

 聖杯戦争。万能の願望器である聖杯を得る為に、七人の魔術師が七騎の英霊を使い魔(サーヴァント)として召喚し、殺し合う。

 そして七騎召喚されるサーヴァントの七つのクラス。このうち、バーサーカーとアサシンだけは狙って召喚できるクラスなのだ。

 時臣はこの聖杯戦争において、弟子である綺礼に己の支援を担当してもらう予定だった。その為にも、彼には諜報用のサーヴァントとしてアサシンを召喚させる腹積もりだったのだ。

 だがいま綺礼が話した通り、アサシンは召喚できなかった。

 綺礼が遠坂邸に来る前に伝えてきた報告によれば、召喚に際して些かの不備もなかったという。万全を期し、召喚に臨んだと。

 だというにも拘らず、アサシンではなくアーチャーを召喚してしまった。

 ならばもしや、他のマスターが先んじてアサシンを召喚したのでは。時臣はそう考えたが、それも否である。

 聖杯戦争は聖堂教会によって監視されている。そして監督役である綺礼の父、言峰璃正神父が拠点とする冬木教会には“霊器盤”なる魔導器具が存在する。

 それは聖杯戦争で召喚されたサーヴァントのクラスを示す物に他ならない。

 その霊器盤が、いまだ綺礼のアーチャーしか存在を示していないのだ。他のマスターにアサシンが召喚された、という線はこれで消えている。

 結局のところ、綺礼がアサシンを召喚できず、アーチャーを召喚してしまった理由は謎である。聖杯戦争を司る御三家、その一角の家系の魔術師である時臣をして首を傾げるばかりだ。

 とはいえ、時臣はこの事態を深刻に考えていなかった。依然として頭を下げたままの綺礼に微笑を向ける。

 

「頭を上げたまえ、綺礼。予定外ではあるが、特に問題あるまい。元よりアサシンを召喚しようとしたのは暗殺ではなく諜報の為だ。アーチャーならば、アサシンと似た働きも期待できるだろう」

「……だとよいのですが」

 

 頭を上げたものの、綺礼の表情は依然として優れない。

 時臣は傍らの机に置いてあったグラスにワインを注ぐ。それを優雅な仕草で呷ってから、さらに続ける。

 

「それに君がアーチャーを召喚したのは、不幸中の幸いだ」

「と言いますと?」

「私が兼ねてより召喚を狙っていた英霊、英雄王ギルガメッシュ。彼の暴君が“単独行動”のスキルを有するアーチャーで召喚される可能性がこれで消えた。聖杯戦争において、七つのクラスが被ることなどないからね。まぁ、だから、そういった意味では綺礼、君がアーチャーのクラスを埋めてくれたのはファインプレーと考えることもできる」

 

 アサシンのサーヴァントが敵に回るのは、それはそれで厄介でもある。が、同時にとりわけ強力とされる三騎士のクラスの一角を手駒にできたのは僥倖とも言えよう。

 そう。何も問題はない。あとは時臣が、英雄王ギルガメッシュを正しく召喚できるかどうかだけである。

 話はそれで打ち切りだった。景気づけのワインを飲み干し、遠坂時臣はいざ英霊の召喚に臨む。

 魔法陣を床に刻み、そこへ熔かした宝石を流し込む。祭壇にはこの世で初めて脱皮した蛇の抜け殻の化石──即ち、英雄王ギルガメッシュの縁たる聖遺物を奉る。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 力ある言霊。朗々と諳んじられる詠唱。英霊を現世へと招き寄せ、サーヴァントとしてこの世に留める為の儀式。

 それは、奇しくも同じ時間、違う場所でも行われており──

 

 

「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うのならば応えよ!」

 冬木市深山町の片隅、雑木林の奥の空き地にて、年若き魔術師であるウェイバー・ベルベットは聖遺物を持ち得ぬまま英霊の召喚を敢行し、

 

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 冬木市深山町の一角にある武家屋敷。その土蔵にて、“魔術師殺し”衛宮切嗣は聖剣の鞘を触媒として確実なるセイバーの召喚を狙い、

 

 

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし……汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者……っ!」

 義憤と憎悪を抱えた満身創痍の男、間桐雁夜は魔蟲蔓延る間桐邸の魔術工房にて、間桐臓硯から強要されたバーサーカーの召喚を血涙を流しながらも決行し、

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」

 一族の悲願を胸に、遠坂時臣が締めの言霊を高らかに謳い上げた。

 

 

 四つの異なる場所で、されど同時に荒れ狂う魔力の奔流。燦然と輝く魔法陣。その中央より圧倒的なまでの力と神秘を伴い、それらは顕現した。

 四つの人影。即ち四騎のサーヴァント。彼らが纏う威風はいずれも尋常から外れるほどに鮮烈であり、その存在が超常のモノであると、確かな実感として眼前の召喚者たちへと知らしめていた。

 そうして、召喚されたサーヴァントたちは──

 

 

「サーヴァント・()()()()()、召喚の招きに従い参上しました」

 ウェイバー・ベルベットの眼前で片膝をついた青年は穏やかな面持ちで、されど何処までも堂々と自らのクラスをマスターへと告げ──

 

 

「サーヴァント・()()()()()。召喚の命に従い参上しました。どうか我が身が役に立つことを祈ります」

 バーサーカーを召喚する為につけ加えた二節の詠唱など、果たしてなんの意味も成さなかった。竪琴とも思しき弓を携える赤髪の騎士は、眼を閉じたままマスターへと優美な声音で語りかけ──

 

 

「サーヴァント・()()()()()。召喚に従い参上した。問おう、貴方が私のマスターか?」

 星の聖剣は間違いなくその右手に携えられていた。されど同時に、その左手に握られているのはあろうことか水鉄砲だ。

 聖剣の担い手であるはずの騎士王は男性ではなく女性であり、その身に鎧すらも纏っていない。細身の体を覆うのは、クロスホルタータイプの白いビキニのみである。

 自らの格好の異様さを理解しながらも、それでもなお少女は己がマスターへと凛と告げ──

 

 

「答えよ。貴様がこの(オレ)()()()()()のクラスで召喚し、我が光輝に縋らんとする魔術師か?」

 そして、金色の輝きを備えし絶対の王者が、傲然と己がマスターへと問いかけた。

 

 

 ──このように、四騎のサーヴァントは、既に召喚されているはずのクラスの名を己がマスターへと口にした。

 この時、ウェイバー・ベルベット以外のマスターは驚愕に支配されていただろう。

 間桐雁夜は、召喚したサーヴァントがバーサーカーでなかったことに。

 衛宮切嗣は、召喚したサーヴァントがセイバーでなかったことに。

 遠坂時臣は、召喚したサーヴァントがアーチャーであることに。

 これは、本来ならば起こり得ぬ状況だった。遠坂時臣が先刻口にした通り、この冬木の聖杯戦争において、召喚されるサーヴァントのクラスが重複することなどあり得ぬはずなのだから。

 そして、後に召喚される残りの二騎のサーヴァントもまたアーチャーである。

 そう。これはアーチャー七騎、同クラスのサーヴァントたちによる第四次聖杯戦争だ。

 ゆえに七騎のアーチャーたちよ。

 汝、自らの弓術を以って最強を証明せよ。

 

 

 

 

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