四葉の特殊体質 作:search
『魔法』それが伝説や御伽噺の産物ではなく、現実の技術となってから一世紀が経とうとしていた。
現在の世界では、魔法師の育成に躍起になり魔法師の数に応じて軍事力も測られる世界になった。それもある『戦争』が原因なのだが。
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春。
麗らかな桜吹雪の中緊張や焦燥といった感情で歩いている初々しい新入生が、ここ国立魔法大学付属第一高校に向かっていた。合格できた其々が魔法師として認められた存在だがある種の差別のような校則が設けられていた。
「納得いきません!どうしてお兄様と蓮が補欠なのですかっ!お兄様は、入試の成績ではトップだったではありませんか!それに蓮!」
補欠。そう言われた言葉に、分かりやすく姉さんである司波深雪には、制服の肩の部分に花冠のマークが付いており一科生とマークが何も付いていない者を二科生と呼んでいた。
「どうして蓮まてもが補欠なのですか!実技でも勉強でも蓮の方が私よりも上でしょう!本来なら蓮が新入生総代になっているはずです!」
「いや、姉さんこれには理由が...」
姉さんの怒る気持ちが分からなくは無いが、俺だって全力でやった結果がこれなのだ。俺の力を全力で使う場合は、トリガーが必要になるのだが、このトリガーを知っているのは兄さんである司波達也と母様である人物と本当に極一部の人だけである。
つまり姉さんは、俺のトリガーを知らないのだ。知られていても気まずいだけなので教えないが....知っている筈の兄さんからの助け船も無く涙目である。
「それにお兄様だって本当なら」
「深雪」「姉さん」
言ってはならない事を言いそうになってしまった姉さんに兄さんと少し強めに止める。姉さんの申し訳なさそうな表情が心に刺さるがこればかりは仕方がない。秘密がバレる訳にはいかないのだから。
「深雪も分かっているだろ?それは言っても仕方がない事なんだ」
「はい、お兄様...」
兄さんが姉さんを宥めるつもりで言った言葉は、逆効果だったらしく気を使わせてしまったと尚更落ち込ませてしまった。
「姉さん。兄さんも俺も手は抜いてないですよ。それに、兄さんも俺も楽しみなんですよ。姉さんが壇上で新入生総代として一幕を飾る姿が。ね?兄さん」
「ああ、素敵な姿をこの駄目兄貴に見せておくれ」
兄さんの言葉で頬を朱に染める姉さんに見慣れた俺は、いつも通りだなと思い、そろそろ時間になることを伝えると姉さんだけ先に入学式会場に向かっていった。
「蓮さっきは助かったよ」
「ううん、俺の話も逸らせたからおあいこだよ」
そもそも素の俺の実力は、そこまで高くない。実技が不得手な兄さんより少し出来るくらいだ。魔法論理なんてからっきしだし下手したら兄さんよりも評価は低いだろう。
だがトリガーを引くことにより一時的に通常の30倍以上の力を得ることが出来る。
-----------ヒステリア・サヴァン・シンドローム。
HSS。それが俺の力の名前。
あるトリガーを切っ掛けに、神経伝達物質を媒介し大脳・小脳・精髄といった中枢神経系の活動を劇的に亢進される。その結果ヒステリアモード時には思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上する。更にエイドスを書き換える速度が上がりサイオンの量も一時的に爆発的に増幅する。その際サイオン量が著しく増えることにより、酒に酔ったような感覚に陥りキザな言葉や言動を取ってしまう。ただ通常の状態よりもクリアーに見え思考も判断力も反射神経も30倍まで上がるため酒に酔ったようなという表現は正しくはないかもしれない。
因みにだが蓮も通常の状態でフラッシュキャストが使えるので本当は、試験程度の魔法に起動式じたいが必要ないので一科生に入ることも出来たがフラッシュキャストの存在は秘匿であり公にするものでもないので使用していない。
「蓮の力は特別だ。俺以上にな、深雪にも教えられない程に」
「姉さんが知らないのは、俺が言いたくないって母様に言ったからって理由も大きいけどね」
実際知られたくない。聞いただけでは凄い能力にも思えるがこの力を使う為のトリガーは性的な興奮なのだ。そんなものHSSになってしまったら俺は性的に興奮していると白状しているようなものだ。この体質のせいで何度母様に弄られた事か...。見た目が20代後半だが既に本当はかなり年上である。そんな詐欺ババアに誘惑紛いの事を何度かされた覚えがある。あの時の恨みは未だに覚えている。
あの不適な笑みの下に隠れた愉悦。俺は思い出しただけで拳を固く握る。
「そうか...そろそろ時間みたいだな。俺達も移動しようか」
「そうだね、兄さん」
時間を確認すると入学式が始まる三十分前だった。姉さんと別れたのが三十分前だったので三十分も話していた事になる。
「おはようございます。新入生ですよね?」
声をかけてきたのは、少し小柄な女生徒で一見して美少女と呼べる人だった。左手首の隙間から手首に付けるタイプのCADが見えることから風紀委員か生徒会役員のどちらかだろうと目星を付ける。
「そろそろ会場の時間ですよ」
周りを見渡すと未だに数名の生徒が歩いていることから兄さんか、俺に目星を付けて見に来たと考える方が自然だろう。入学試験の時の成績は、本来表には出回らない筈である。試験を受けた本人でさえ合否の判定しか教えられない。だが姉さんが知っていた事から点数を知ること事態そこまで難しい事じゃないのかもしれない。それが風紀委員や生徒会役員なら尚更である。
「ありがとうございます。それでは、蓮行くぞ」
「蓮?....やっぱり、噂の司波さんですか?」
「...そうですが」
噂と聞いて兄さんと俺の警戒心が強まる。試験を受ける際に、顔写真も一緒に送っているので俺と兄さんの顔を知っていてもおかしくはないだろう。だが兄さんの成績はトップなので話しかけてきても不思議じゃない。だが俺の成績は秀でたものがない。更に言ってしまうとどちらも低い部類に入るだろう。そんな生徒の名前を覚えている筈はない。
「あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています。七草真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさと読みます。よろしくね」
七草...ナンバーズか。それも七草、一校だけあって警戒はしていたがこんなにも早く会うことになるとは思わなかった。俺と兄さんの名前を聞いて驚いているようにも見えるが生徒会長なら予想道理既に知っていて近付いてきたと思う方が妥当だろう。
「俺、いえ自分は司波達也です」
「弟の司波蓮です」
兄さんが言い直したことに笑いそうになるが後が怖いので自重する。
「司波さん達の事は教師の間でも噂になっていたのよ。教科平均90点越えで、司波君に至っては96点。圧巻なのは魔法理論と魔法工学ね。満点ですもの先生方が前代未聞だって騒いでたわ」
流石兄さんである。魔法理論と魔法工学とかからっきしの俺には到底手の届かないレベルです。
「それに妹さんも歴代最高得点で新入生総代だもの。そして私的に一番気になってるのは、蓮君ね」
兄さんからは、何をしたんだ?というジト目を向けられるが正直テストの日の事は思い出したくないのだ。全ては詐欺ババアのせいである。
「全ての教科と魔法理論と魔法工学で50点。実技もニ期生の平均的な結果だと聞いたわ。どの結果も高いものはありません。学力に関して50点という数字は低いものでもあります。ですが全ての点数が50点なんて私には取れません」
「不思議な事もあるものですね。ですが単純に半分は分からなかったと言うことですから、まだまだ勉強不足ですね。兄さんを見習わなくてはいけませんね」
「会長。そろそろ講堂に向かわなくてはいけない時間なのでは?」
ここで兄さんから助け船が出される。流石にこの人相手にこれ以上は誤魔化しきれなくなっていた。足早にその場を後にすると兄さんから聞かれる。
「蓮、なったのか?」
その質問にどう返そうが兄さんは、なんとも思わないだろう。多少驚く顔をするくらいだろう。
「試験当日の朝一にメールが来たんだけど...母様のビキニ写真だったんだ...」
通常なら母親のビキニ写真とか嗚咽を感じさせるだけで終わるのだが流石は詐欺ババアというところか、見た目も若々しくそれでいて大人の魅力溢れる肉体に不覚ながら落ちてしまったのだ。しかも水波の水着姿まで、落ちた理由は水波の写真が原因だと思うが兄さんには黙っていることにした。
「叔母上の...」
兄さんは頭痛でもしているのか頭をおさえながらため息を溢す。母親の性格を知っている兄さんには、想像も出来ないだろうけど俺を弄る目的ならと納得しようとしているのだろう。
会話も途切れる頃には講堂の中に入り座れる場所は無いかと探すと時間的にも大部分の席が埋まっていた。それに。
「一科生とニ科生、ね」
俺は呆れながら講堂の中を見る。真ん中よりも前列が一科生であり、後列にニ科生が座っている。差別意識があるのはニ科生にも問題はありそうだと思いながら変に波風をたてる気はないので兄さんと一緒に座れる後ろの隅に座った。
「お隣は空いていますか?」
端の方に座っている俺に聞かれた訳じゃないと分かっているが反射的に見ると眼鏡をかけた危険因子がいた。思わず目を背けると更に声が聞こえてくる。
「あー!蓮じゃない!」
この声としゃべり方には覚えがある。三年ほど前に訳あって千葉家の道場に行ったときに聞いた声だ。なんなら会いたくない相手でもあった。
「エリカちゃん、知り合い?」
「蓮、知っているのか?」
兄さんは一緒に行ってなかったので知らなくて仕方ないし聞くのも分かるが一言言わせてくれ。俺がこんな態度を取ってる時点で察してるだろ兄さん。姉さんには激甘な癖に俺には、ハードとか、今度姉さんにあることないこと喋っておこうか....後が怖いから止めとくか。
「三年ほど前に剣術習いに行ってただろ?それが千葉家だったんだよ」
未だに顔を反らしたままの俺に機嫌を損ねたのかエリカが追い込みをかけてくる。
「蓮の言った通りうちの門下生。ふーん、そっかぁ~。門下生として入ったときの蓮ちゃんは可愛かったのになぁ」
背筋にぞわっと悪寒が走り少しずつ顔を向けると兄さんが興味深そうな顔をして眼鏡の危険因子さんは、頬を朱に染めてこちらを見ている。そしてエリカだけは、してやったりと悪い笑みを浮かべていた。
「その話少し興味があるな。詳しく教えてくれないか?」
そこで兄さんが悪のりしてくる。分かっていたが兄さんって本当に性格悪いと思う。だがあの事だけは知られてはいけない。あの事件のせいで俺は道場に行かなくなったのだから。
「勿論良いわよ。うーん、何処から話そっか。千葉家の道場ってそこそこ有名だから知ってるわよね?」
「ああ、その知識は問題ない」
「そう、それじゃ。蓮がうちの道場に初めて来たときの話からするわね」
~回想。
夏の暑い陽射しに殺られかけた俺は水分を求めて道をさ迷っていた。だが普通の住宅に押し掛けて水を分けてくださいなんて言えない。そこで見付けたのが道場だった。
「す、すいませーん」
間延びするような、声が枯れたような覇気の無い声音を聞いて慌てて道場の指導者であろうか男性が来てくれた。
「どうしたんだい!?」
慌てた様子で聞いてくる男性に一言俺は呟いた。
「み、水を...」
そこからの記憶は無かった。意識が回復してくると何やら竹刀どうしがぶつかる音が聞こえる。気合いのはいった掛け声と共に。目を開くとそこは道場の中で風邪を引かないようにするためなのか毛布がかけられていた。気持ちは有り難いがこの猛暑の中、毛布をかけられていた俺はたまったものでは無かった。唯一の救いは目の前に見えた水筒というオアシスだった。
「水っ!!」
生まれてこのかたこんなにも叫んだことは無かっただろう。水筒の蓋を開けるとそのまま水筒を口に付けて一気に飲み干した。
「ふー..生き返った」
「あー!!あたしの水筒!」
「おや、目が覚めたのかい?」
顔を真っ赤にしている明るい栗色の髪の女の子と先程意識を失う前に見た男性の顔が見えた。
「何勝手に人の水筒全部飲んでるのよ!!」
「こらこら、エリカ。この子は熱中症で倒れていたんだ喉が乾いていたんだから仕方がないじゃないか」
「それは次兄上がいけないと思います!この猛暑日に毛布までかけた時には、皆でドン引きです!」
「ええー...だって風邪引いたら可哀想だと思って...」
「こんな暑い日に毛布までかけた方が危ないです!」
そんな会話が眼前で繰り広げているなか俺の心中は穏やかではなかった。今、明るい栗色の女の子は確かに自分の水筒と言ったのだ。それもこの水筒はカップに注ぐタイプでは無く直接飲むタイプだ。半分ほどしか入っていなかった事を考えるに、思考が考えてはいけない方にどんどん巡らされていく。心拍数が上がっていくのを感じヤバイと思った俺は、必死に忘れようとするが目の前にいる女の子の唇を見ると一気に血が沸騰しなってしまった。
「とても美味しかったですよ。お姫様」
俺の言葉に先程までの喧騒が嘘のように静かになった。道場内にいた門下生の生徒達も今の言葉で立ち合いを止めてこちらを見ている。
「だ、誰がお姫様よー!!」
「っ!駄目だ!エリカ!」
エリカは持っていた竹刀を大きく振りかぶり、そして気付いた時には、手から竹刀が無くなっていた。
「え?」
「お姫様に武器は似合わないよ」
一瞬の出来事に戸惑っているエリカと先程エリカに次兄上と呼ばれていた男性。俺の言葉を徐々に理解してきたエリカは、顔を真っ赤に染めて道着の中に入れておいたらしい警棒の用な物を取り出した。
「絶対殴る!」
そんな言葉を皮切りにエリカが真っ直ぐ突っ込んできたと思ったが一瞬でエリカの体がブレて先程よりも距離をおいた。次兄上は、先程と変わり止める気が無いのか顎に手を置いて観察している。
「どうしたんだい?お姫様。隙だらけだろ?」
エリカの手には警棒らしき武器が俺の手には何もない。だが正直エリカの動きは、今の俺には止まって見えている。あまりにも遅すぎたのだ。女性に手をあげる選択肢がHSSになってしまった俺にあるはずもなく、追撃を加えられるタイミングでも呆然と見守るしかない。
「隙なんて無いじゃない!」
それでも俺に隙が無いと分かるのは、エリカがそれだけ修羅場を潜り経験を重ねてきたに他ならない。そこは素直に称賛するべきだろう。魔法師の年齢なんて聞いてみるまで分からないが見た目通りなら、まだ中学1年くらいだろう。つまり同い年だ。特別な環境で育ち特別な能力を持っている俺とは違う。努力により手に入れた境地。その事に少しだが悲しく思う自分がいた。
「お姫様に怪我をさせたくないんだ。諦めてくれないかい?」
「...それってあたしじゃ、あんたには勝てないって事?」
「そうなるね」
その言葉が皮切りになったのか、エリカは一歩で既に俺の懐にいた。怪我をさせない為に出来ることは、と考えて一つの結論に行き着いた。負けないが勝てない方法だ。
エリカは更に距離を取り深呼吸をして先程までの速さとは段違いな速さで真っ直ぐ警棒を振りかざしてきた。残像を残しながらのエリカの攻撃により周囲に埃が舞う。
「山津波」
「エリカやりすぎだ。その技は完成してないと言っても普通の人間じゃ!?」
「怖いお姫様だ。でも」
埃が晴れた中で警棒を片手で掴んでいる蓮の姿があった。
「秘技警棒掴み。なんてね」
爽やかに笑いかける蓮に対して何が起きたのか理解できたのは、蓮に打ち込んだエリカだけであった。
自分出せる最速のスピード。自己加速術式を応用し更に空気抵抗なども過少させ高速移動の如く踏み込んで警棒を降り下ろした筈だ。心得のある者でも今の動きを見えたのは、この道場の中でも次兄上くらいだろう。そのような動きの一撃を蓮は片手で掴んでいた。
降り下ろした瞬間。蓮の手首がブレ、そして何かに当たったという感触はあった。骨の砕けるような感触では無いことに驚きはしたがそれでも当たっていることは間違いなかった。山津波、技の名前を言ってから警棒を上げようとして違和感に気付いた。警棒を掴まれていた。かわしたのでも、魔法の障壁で身を守ったわけでもなく、腕を犠牲にしたわけでもなく、掴みとった。
「あれ?格好いいと思ったんだけどお姫様は、起きに召さなかったのかな?」
先程までなら啖呵の一つでも飛ばしていたかもしれないがそんなことは出来なかった。山津波という技は、エリカにとって完成とは言えないレベルの技だった。それもその筈、本来の山津波はエリカが使った山津波の二倍は早くそして威力も大きいのだ。完成された山津波なら感じる重さが10トンにもなると言われている。だがエリカの山津波は、500キロが精一杯。未完成も未完成だ。
だが蓮の手にはCADが存在していない。CADを使わずに、魔法を使わずに500キロもある警棒の一撃を片手で受け止められるか?と聞かれればエリカの兄である、次兄上でも無理だろう。
エリカの首筋から冷や汗が流れる。見た目どう見ても同年代の相手に敗北したのは初めての経験だった。エリカは強者だった。それは、道場に通いに来る大人たちを一刀両断のもとに切り伏せることが可能なくらいに。そんなエリカの目の前に自分より強いとハッキリ言える同年代の存在。そんな存在に嬉々として喜んでしまうほど、エリカは現状に飽きていた。
「ねえ、名前何て言うの?」
「司波蓮だ、蓮って気軽に呼んでくれ」
「そう。ねえ蓮」
「なんだい?お姫様」
「お願いがあるの」
そして長い一日が終わるとHSSも切れて元に戻った俺は、布団の中でわめいていた。HSSってたおかげで四葉という名字を名乗らずに済ましたまでは良かったが。外では絶対ならないと誓っていたHSSになってしまった。母様も男の子だもの、となることについて何も言ってくることはない。だが、女性に対してキザになってしまうこの体質だけは、本当になんとかならないものだろうか?本来なら断るはずの内容に間髪いれずにオッケーしたのも。
「明日からうちの道場に来て一緒に稽古してくれない?」
「お姫様のお誘いなら喜んで」
喜んでじゃねーんだよ!誰だよこのキザ野郎は!俺だよ!知ってるよ!
「あ、あの...蓮様大丈夫ですか?」
部屋の扉が開き俺のガーディアンである桜井水波が心配そうに入ってきた。俺のこの頃の最も危険因子である相手でもある。理由は単純である。見た目が俺の好みなのである性格も優しくて、なんどHSSってしまったことか....。なるべくHSSらないように見ないことを心掛けていたら何故か俺に嫌われたと思われたらしく泣かれてしまった事もあり、今では、過度な接触さえしない限りなるべく逃げないようにしている。
因みに桜井水波を俺のガーディアンにしたのは母様だ。俺の好みを知ってるからこその人選なのだろう。本来なら姉さんのガーディアンとして育てられていたみたいだしな。まあ兄さんがいるから間に合ってると思うが。
「水波か...ちょっと嫌な事があってさ」
俺の言葉に部屋の気温が5度ほど下がったのではないかと言うくらい嫌な雰囲気になったので慌てて顔をあげると水波の目のハイライトが消えていた。
「蓮様に嫌な思いを?蓮様、その方の名前を伺ってもよろしいでしょうか?夜が明ける前までに帰って来ますので」
「水波落ち着いてくれ。俺が嫌な思いをしたのは、誰かのせいじゃない。俺のせいなんだ」
ふっと部屋の空気が元に戻っていた。その代わり何故か水波は、部屋に入ってきてベッドに寝そべっている俺の頭を撫でてきた。...何故に?
「えーと水波?何をしてるのかな?」
「真夜様が、蓮様が元気が無いときにはこうしろと言われたので」
気のせいか、ほんの少しだが水波の頬が赤い気がするが部屋が暗いので気のせいだと自分に言い聞かせた。
「悪い、このまま寝ていいか?」
「はい。蓮様が眠るまでこうしてますから、ゆっくりとお休みなさい」
そして、そんな長い一日も過ぎ去り俺はと言うと。
「蓮!ちょっとあんた本気でやりなさいよ!」
何故か竹刀を持たされエリカに怒られていた。ほんと、どうしてこうなった。
約束したので行かない訳にもいかすが道場に向かうと次兄上さんがいた。次兄上は止めてくれと頼まれたので今では、次次(つぐつぐ)さんと呼んでいる。次次さんは、何かを諦めたように道場に戻っていくとエリカが出てきた。
「来たわねっ!今度は、あたしが勝つんだから!」
何を言っているのか勿論分からない俺にエリカは竹刀を投げつけるといきなり竹刀を右肩目掛けて降り下ろしてきた。咄嗟の事で判断力もままならない今の状況の俺ではなす術もなく痛みで気絶して起きたら夕暮れになっていた。太陽は、まだ昇ってきたばかりだと思ったが日が沈むのは早いなと感慨に浸っていると次次さんに謝られ、膨れっ面のエリカに睨まれた。
「どうしてあれくらい避けなかったのよ!」
「こら!エリカ!」
エリカの物言いに次次さんは、怒鳴り声をあげるとエリカは涙を流して何処かに走っていってしまった。来たばかりで、いきなり襲われて気絶して起きたら怒られるって、あんまりだと思うがエリカに流させてしまった涙を俺は忘れることは出来なかった。
その後に次次さんが謝罪をしてくれていたがエリカの涙のことしか暫く考えていられなかった。
「エリカも悪気はなかったんだ。千葉家の者として強者として育ったエリカは、同世代でエリカと戦える者に今まで会ったことが無かったんだよ。道場の門下生とやってもエリカと良い勝負するものは中々現れない。それどころかエリカが怖くて止めてしまうものもいるくらいさ。だからとは言わないが、分かってやってほしいんだ、エリカの事を嫌わないでやってくれないか?頼む」
次次さんは頭を下げる。エリカの気持ちは正直俺には分からない。いや、今の俺には分からない。俺は弱者だから。
だが一つだけ決まっている事もあった。
「次次さん頭を上げてください。エリカの気持ち、俺には分かりません。俺は次次さんやエリカの思うような強者では無いですから」
「そうか...」
「ですがエリカを嫌いになる。これは無いですよ。この程度の事で俺は人を嫌いになったりしませんから」
人を嫌いになるとき、それはその人を殺しても構わないと本気で思った時だ。あの日の『戦争』の時のように。
「そうか!」
次次さんと話をしてその日は、家に帰ることにした。特にやることもないし、そう特にやることも。
「水波」
帰って一言目に水波を呼んだのは、初めてのような気がするが俺の行動は迅速だった。
「はい、蓮様」
「地下室に行き、少しやりたいことがある。付き合ってくれるか?」
「勿論です!」
思いの外良い返事で暫く固まってしまったが二人で地下室に降りていく。
「今から適当に竹刀で攻撃するから障壁魔法で防いでくれないか?」
「分かりました。ですが蓮様、蓮様のお使いになる竹刀は普通の竹刀ですがよろしいのですか?」
恐らく水波は、CADを使わなくてもいいのか?と聞いているのだろう。正直俺も使いたいところなのだが今回に関して、魔法を使うわけにはいかないので、純粋に肉体の強化と剣術の向上が目的である。九重先生から教えを受けているので体術もそこそこ出来るが一般人レベルを中々越えることが出来ないのである。その為なのか、先生が悪ふざけでHSSらせてこようとするので大変である。
「ああ、問題ない。それに水波は剣術を使う相手との実戦をしたことはあるか?」
現在11歳の水波の年齢を考えれば幾ら魔法師であったとしても実戦を経験していることは普通の家なら無いだろう。だが俺達は普通の家の人間ではない。
「はい、二、三度ですが」
「それなら話が早いな。そいつらと今の俺の力を比べてくれ」
「分かりました、蓮様」
因みに水波も俺の力の秘密は知らされていない。ただ普通にやっても普通だ、としか母様には言われていない。
数十分が経過し、障壁魔法にガンガン竹刀を降り下ろすが障壁魔法はびくともしない。流石障壁魔法に関して四葉が認めているだけはあるだろう。
「どんな感じかな?」
特に疲れなどはないが、これ以上やっても仕方がないので聞いてみることにした。
「大変言いにくいのですが...現在の蓮様では、剣術を嗜めていると言える領域ですらありません」
あまりの言われように驚いたが水波は、ここからが凄かった。夜ご飯の事など忘れて竹刀の振り方、技のキレ、そして俊敏性、運動神経、どれ程大事なのかを説明されたあと、障壁を一枚破壊するまで特訓は続けられた。手は豆だらけだし、体はボロボロなのに、何故か分からないが竹刀を持つと力が溢れてくるような気さえしていた。
朝は千葉家の道場に、夜は水波との特別レッスンである。週末は九重先生のレッスンと体が悲鳴をあげていた。
あの日以来エリカは、俺に話しかけることはない。それでも俺は千葉家の道場に通い続けた。最初は竹刀を持つ前からだったので複雑ではあったが、次次さんが率先して教えてくれたので色々と助かった。
そんな日が続き一月が過ぎ去り季節が変わりそうな日。いつも通り道場に行くと入り口で微かに血の匂いが感じられた。嫌な予感がして中に入るとそこには、傷だらけの門下生と血に染まりながらも警棒を数人の男達に力なく振るうエリカの姿だった。
数人の男達は、明らかに素人ではなく国籍も日本人ではないことが叫び声によって分かった。
「はぁはぁ...次兄上を返せ!!」
エリカは叫び自己加速術式を使いながら肉薄する。俺は咄嗟にフラッシュキャストを使用し障壁魔法を発動させる。
「っ!蓮!今は来ちゃ駄目!」
エリカが俺を見つけ声を発した瞬間後ろからエリカが銃器で殴られ倒れてしまう。一瞬の油断が魔法師の勝負では命取りになる。
どくんっと心臓が暴れ脈打つ。視界がどんどんクリアーになっていき目の前で起きた現象が脳に信号として送られていく。俺のトリガー。このトリガーの事を知っているのは二人だけ。兄さんと母様。大切な存在が危険な状態に陥る事でなるパニックによる興奮により、より深いHSSになることが出来る。
--------ヒステリア・メガルメンテ。
大切な存在が傷つけられた時に入るHSSだが通常のHSS×傷つけられた大切な存在1.2倍の力を発揮する。今回の蓮にとって大切な存在は二人。次次さんとエリカだ。HSSの2.4倍は72である。その力は人間の限界を軽く凌駕していた。
一瞬。
本当に一瞬の出来事だった。蓮が掌を複数の敵に向けると一人を残して後は消滅した。残りの一人は、白目を向きよだれを垂らしている。
「お前達のボスはどこにいる?」
「.....」
精神干渉魔法を使っている状況で嘘をつけるはずもなく分からないのかと思ったが日本人じゃないことを思い出したので英語で聞いてみることにした。
「You our boss Where are you?」
「It east of the B-48 fourth district」
成程。B-48地区の東か。
敵のボスの場所も分かったので用済みは消滅させた。
「蓮...」
「エリカ」
このモードでは、意識はハッキリとしておりキザな態度も取らないが怒りにより歯止めが聞かなくなってしまうという体質があった。
「次兄上を...助けて」
「ああ、次次さんは俺が助けるよ。だからエリカは安心して眠ってくれ」
涙を一筋溢したエリカはそのまま眠ってしまった。傷は深くはないが病院に早く連れていった方がいいだろう。
門下生の一人にエリカを病院まで連れていってもらおうと考えたがその考えを諦め自分で連れていくことにする。奴等がまだこの近辺にいる可能性もあるからだ。
「蓮様!」
どこから情報を入手したのか慌てた表情の水波が道場の中に入ってきた。情報源としては、一人しか思い付かないが良いタイミングだと、水波にエリカを病院まで運んでくれるように頼む。
「それは受け入れられません。私は蓮様のガーディアンです。千葉家の方に恩を売るのは」
「水波。少し黙ってくれ」
有無を言わせない俺の声音に顔を真っ青にする水波。
「もう一度だけ言うぞ?これは命令だ。俺の大切な友達を病院まで連れていけ。安全にだ」
「....分かりました。命に変えても守って見せます」
「ありがとな、水波。あーあと、この事で水波に何かあれば母様でも許さないからな?」
何処からか見ているだろう人物に伝わると思い釘を指しておく。水波も俺の中でとっくに大切な存在になっている。それを害するなら母様でも俺は容赦しない。今回の敵のように。
自己加速術式を自身にかけて、踏み込む。踏み込む瞬間に地面に固定化の魔法をかけて崩れないようにして走ること3分。普通に走ってきていたら1時間はかかる筈の距離を数分で到着した。
古びたビルの前には、何人ものスーツを着こんだ男達。恐らく雇われた魔法師だろう。一斉にCADを向けてくるが、今の俺の魔法発動速度は、姉さんよりも速くそして母様の[夜]よりも速い。そんな人間の限界を軽く越えている俺の魔法速度にフラッシュキャストすら使えない魔法師が着いてこれる筈もなく一瞬にして全員消滅した。
先程からの蓮が使っていた魔法は分解。
兄さんの分解を自分でも出来ないかと思いやってみたら出来たのだ。流石に再生は出来なかったが。
血も流さずに匂いも残さずにそこに存在していたのかも分からなくなるほどに消えていく相手をまるで、そこら辺にいる虫のように次、次に消していく。
「何なんだてめぇ!」
兄さんと同じように視ることが出来れば確認も簡単に出来るのだが俺に出来るのは、精々マルチスコープでの確認がやっとだった。マルチスコープで確認すると残るは、目の前にいるちょっと肥えた奴だけ。そしてその後ろでは、縄で縛られ酷い怪我をしている次次さんの姿があった。次次さんは、まだ生きている。その事実に胸を撫で下ろし最後の一人を消すために意識を向けると携帯型のCADを此方に向けていた。
「う、動くんじゃねーぜ!貴様がどれ程優秀な魔法師かは知らんが結局は人だ!私がCADを発動させればこの建物は一瞬にして崩壊する。勿論、お前達だって無傷ではすまないだろうな!」
下らない。と吐き捨てた俺は奴のCADを消滅させた。それと一緒に指を数本消したのは痛みを与えるためだ。
「うぎゃあああ!!」
叫び声をあげる奴を無視して次次さんの縄をほどき明らかに身長が違いすぎるのでお姫様だっこをして外に出る。そして古びたビルの鉄柱をマルチスコープで確認してから全て消し去る。
物凄い騒音と共に崩れ落ちたビルを背後に俺は病院に向かった。次次さんを病院の先生に預けてエリカの病室に行く。
夕焼けの空の中心地よい風がカーテンを揺らしている。エリカは、まだ起きていないのか寝たままだった。
「起きてると良かったんだけどな」
そう言って病室から出ようとすると頭に警棒が投げつけられる。こんなことするのは一人しかいなかった。
「馬鹿。何も言わないで行っちゃう気だったの?」
笑顔で俺に言うエリカに俺は微笑んでから病室を立ち去った。
「ほんと...蓮ちゃんって馬鹿なんだから」
~回想終わり。
まあこんなことがあったのだがエリカが全部話す筈がなく。
「蓮ちゃんったら、そこであたしの使ってた水筒を全部飲んだのよ!」
「それは、なんと言うか」
「それは災難だったな」
兄さんの災難だったなは、俺に言われたのかエリカに言われたのか分からないがこのままでは、エリカの隣に座っている柴田さんにあらぬ誤解を招きそうなのは勘弁願いたいので話を変える。
「ほら姉さんの演説が始まるよ。話はここら辺で切りにしようよ」
「そうだな」
「姉さん?」
「お姉さん?」
エリカと柴田さんは、俺の言葉に疑問を浮かべているが壇上に上がってきた一人の生徒の登場に固まっていた。
姉さんの、新入生総代としての言葉は、危うい言葉が多く含まれていた。魔法の才能に力をおいている第一高校で「平等に」や「等しく」や「魔法師の実力の良し悪しに関係なく」等、聞く人が聞けば怒るような内容である。それも、姉さんの美貌の前に、皆内容よりも姉さんを見ており意味を完全に理解できた人なんて少ないと思う。
「平等に、か。良い人ね。司波深雪。蓮ちゃんのお姉さんは」
「俺もそう思うよ」
姉さんは、本当に良い人だ。重度のブラコンじゃなければな。
新入生歓迎会も終わると兄さんと共に一度教室の席を確認するため教室に行くことになった。俺と兄さんの教室は1-E組で同じだったのは運が良かったと言える。もしかしたら母様が動いているかもしれないが、そこは考えない方がいいだろう。
席の確認も済んだので兄さんと一緒に姉さんを迎えにいこうと廊下に出るとエリカと柴田さんに会った。
「二人ともこれから何処か行くの?」
エリカの問いに答えたのは兄さんだった。
「妹を迎えにね」
「エリカ達は、何処か行くの?」
「あたし達は、少し校内を見学に。ね?美月 」
「うん!広いから色々と確認したくて」
先程教室に入ったときに、兄さんから柴田さんには気を付けろ。と言われた。その理由は恐らくあの眼鏡にあるのだろう。今の俺にはここまで考えるのが精一杯だが分からないことは兄さんに任せたほうが良いだろうと、結局は俺にとっても危険因子なので近付くことはないだろう。
「お兄様!蓮!」
「深雪」
「姉さん」
俺と兄さんを見つけた姉さんが小走りで駆け寄ってくる。姉さんの後ろには、朝会った生徒会長とその後ろに此方を睨んでいる男子生徒。
「ところでお兄様、蓮。二人でダブルデートですか?」
「へ?」
「え?」
姉さんの思いもよらない言葉に戸惑いの言葉を隠せなかったエリカと柴田さんに俺は頭を下げて謝罪した。
「深雪、この二人はクラスメートだ。そう言う言い方は失礼だろ?」
兄さんの言葉に我に帰った姉さんは、丁寧に頭を二人に下げた。
「気にしてないから大丈夫!それよりもさ、深雪ってけっこー気さく?」
「もーエリカちゃんは...あの、謝らないでください、何も気にしていませんから」
兄さんは気付いていそうだが此方を見ている視線が少しずつ鋭くなっていた。生徒会長の後ろで待っている男子生徒である。生徒会長は、何を考えているのかニコニコと笑顔を絶やさないが男子生徒は、俺達、特に兄さんと俺に敵意を隠そうともせずにぶつけてくる。敵意といっても、生徒会長が待たされてそれに対して怒っているように見えるが、なんとも生徒会長とは対称的に分かりやすそうな人である。
「それよりも深雪。生徒会の方での用事は済んだのかい?」
兄さんが姉さんに聞くと忘れてたと言わんばかりに振り返り生徒会長に謝罪した。
「構いませんよ。急ぎの用事ではありませんし、予め約束していた訳でもありませんからね。今日は失礼します」
「会長!」
「深雪さん。また後日ゆっくりと」
親の仇のように兄さんを睨む男子生徒に内心ムカついたので、少し虐めることにした。
「えーと会長と一緒にいる先輩」
「...なんだ」
男子生徒は、怒りのこもった目を此方に向けて聞いてくる。
「会長の事が好きなのは分かりますが、あんまり会長しか視えてないと嫌われちゃいますよ?」
「なっ!」
俺の言葉に男子生徒は、顔を真っ赤にしてたじろぎ、隣にいた生徒会長はクスクスと笑い姉さんは驚き、兄さんは呆れて柴田さんは、男子生徒と生徒会長を交互に見て、エリカは隣で爆笑していた。
「はっ!か、会長気にしないでください、あいつの勝手な妄言です!」
先程まで兄さんに向いていた敵意を全て拾うことに成功した俺は、既に兄さんと姉さんに帰宅の提案をしていた。
兄さんと姉さんの家に本来なら一緒に住む予定だったが何故か兄さん達の隣に俺の家が用意された。ここまで近いと離れて暮らす意味が分からないが家の中に入るとその原因は母様の悪戯だと分かる。
「お帰りなさいませ。蓮様」
広々とした玄関には、学生服にエプロンを身に付けた水波が立っていた。昨日まで兄さんの家で泊まっていたが急に用意された家である。何かあることは確実であった。
「水波、母様の指示でここに?」
「はい。蓮様のガーディアンとして一緒に暮らすようにと言われました」
中学三年の春から水波は突如として俺のガーディアンでは無くなった。そのことを言及しようと母様に会いに行くと単純に水波を鍛える為に呼び戻したと言う。元々訓練途中の水波にガーディアンを任せていた、ということもあり今日までは、兄さんと姉さんと一緒に暮らしてきた。姉さんを守るついでに兄さんは、俺の事も守ってくれていたということだ。そんな水波が、俺のガーディアンとして戻ってきたと言うことは、訓練過程を終わらせてきたと言うことである。水波と暮らさなくなってから俺は、もう一度水波が俺のガーディアンとして戻ってきたときに一つだけ無理を聞いてもらうつもりでいた。
「水波、これからは俺の事を様付けで呼ぶのは止めてくれないか?」
昔は、水波の事を避けていた(水波の為にも)ので気にしていなかったがこれからは違う。HSSも以前よりはコントロール出来るようになったし何より穂波さんに会わせる顔がない。この間母様に会う前に穂波さんに会ってきたが、なんだろうな、好きにして良いからね!とか勘弁してほしかった...。
「真夜様には、蓮様のガーディアンとしてここに来ましたので」
「ならそうだな。母様に俺から説得したら良いか?」
「っ!危険です...蓮様」
四葉家当主-------四葉真夜。蓮には、甘いと言っても何でも許可してくれる訳ではない。こう言った理にそぐわない我儘はお仕置きの対象にもなった。四葉真夜のお仕置きは、誰に対しても平等に『死』を与える。その『死』を乗り切ることが出来れば此方の意見も通るかもしれない。お仕置きの後はご褒美が待っているのだから。大抵の人間はお仕置きに耐えられず『死』と直面するしかない。それほどに危険なことだった。
ただのガーディアンなら慌てることなく断っただろう。だが水波にとって蓮は、既にただのガーディアンとして接する事が出来ないほどの感情を持ってしまっている。本来なら蓮のガーディアンとして、再び一緒に居られることが水波にとっては幸福だった。けれど四葉のガーディアンとして、蓮を守る気持ちに私情を挟んではいけないことだと知っていた。だからこそ久し振りにあっても嬉しい動作一つしないで迎え入れたのだ。心の中で悲鳴を上げながらも、自分の感情を隠す。そして、命に変えても蓮を守る。これは自分の母を『戦争』から命を救ってくれた蓮に対しての感謝の気持ちだった。
だから私情を挟むことは出来ない。
なのに、挟むことは許されない筈なのに、蓮の言葉が嬉しくて胸が痛くて涙が止まらなかった。ただのガーディアンではないと言ってくれているようで、口では反対していても体は、水波の気持ちを表してしまっていた。
涙を急いで拭いている水波に蓮は、抱擁をした。初めて蓮から近付き水波を抱き締めた。
「れ、蓮様...」
「水波の気持ちは分かった。だから」
抱擁しながら水波の頭を撫でながら、自分の決意は間違っていなかったと昂る血を抑える事もなく俺は。
「俺のお姫様を泣かす奴なんかに負けはしないから大丈夫だよ」
《あら、これではまるで私が悪者みたいね》
リビングに置いてある大きなテレビに急に母様の顔が映し出される。
「ま、ままま真夜様!?これは全てガーディアンである、私の責任です。お仕置きなら全て私が」
「ねえ、母さん」
《ふふ、なにかしら?蓮》
水波の言葉を遮り母様を呼ぶ蓮。
「俺のお姫様に少しだけ自由を貰えないかな?」
「い、いけません!蓮様!」
《ふふ、蓮。貴方分かっているのかしら?貴方のその言葉の意味を》
「はい、勿論です。もし、俺の願いが叶わないのであれば仕方ありません。母さんでも敵とみなします」
その言葉と共に明るかった筈の部屋は暗くなり天井がある筈なのに夜空が現れる。母様の『夜』が発動した証拠だった。
《蓮、貴方にはお仕置きが必要ね。水波を本気で殺しにかかるわ。貴方は、守りきって見せなさい》
夜空から星が流れる。その一撃は、障壁魔法最強と言われている、十師族の一人である十文字 克人のファランクスさえも貫く威力を誇っている。そして、この術は光の速さで穿ってくる為に避けるのも困難になる。従って障壁魔法等の防御も出来ず、かといって自己加速術式をいくら極めたところで避けることは出来ない。
従ってこの魔法を打ち破るには、術式そのものを分解させるか、魔法が放たれる前にこの魔法の領域に干渉し光の分布の単一素で母様を上回らなければ打ち破ることはできない。ただのHSSでは、後者は成功するか五分と五分。少し危険な賭けだが母様も知らない俺の魔法を見せる必要がある。
通常の状態ではサイオン量が足りずに使うことのできない魔法。だかHSSになったいまだから使える魔法でもある。
深呼吸をして兄さんに作って貰ったループキャストに特化している真っ黒な銃型のCADを構える。
サイオンを大量に圧縮させて『夜』に向けて引き金を引いた。
夜空があった場所には部屋の天井が見え画面からは、母様の少し驚いた顔が一瞬だけ見えた。
《蓮も使えるなんてね...少し驚いたわ》
体を震わしている水波は、現状の把握が出来ていないようでキョロキョロと周りを見ている。
「今までこの魔法を使ったのは一度だけでしたから」
知られていたのなら母様が『夜』を使って来ることは無かっただろう。それほどに収束系の魔法である『夜』に術式解体は相性が良いのだから。
《そうね、楽しませてもらったし。水波の縛りを外します。ですが困るのは蓮だと思うけど》
それだけ言い残してテレビが切れる。HSSの切れた今の状態の俺ではもう一度『夜』を使ってこられたら対応出来なかっただろう。サイオン量を大量に使う術式解体は、HSSが解けてしまう危険もかなりあった。普通のHSSではなければいくら使っても切れることはないが、普通のHSSでは切れてしまうのであまり使う機会はなかった。
それに兄さんに頼んで作って貰ったCADがなければ恐らく術式解体は失敗していた。サイオンを大量に圧縮させるのに少しの頭痛がした。処理のサポートがあってもこれである。処理速度を上げないと普通のHSSでは使えないと思い、処理速度を上げようと心に決めていた。
「れ、蓮様ぁああ!」
涙を隠そうともしない水波が俺に抱き付いてくる。あまりの勢いにリビングで押し倒される形で抱き合っているが、俺はHSSらないように必死に耐えていた。昂ってくる血をなんとか抑えようと別のことを考えたり、色々と必死だった。
だが一つだけ。まだ言わなければいけないことがあった。
「水波。もう縛りが取れたんだ俺の事は様付け禁止だからな?」
「蓮様...分かりました!蓮...君」
その照れた笑顔に一瞬でHSSにさせられた俺の夜は日が変わるまで更けていった。
読んでくださりありがとうございます。劣等生に関して浅知恵にも程があるので、設定上おかしなところがあったり、魔法や話で矛盾があれば御指摘よろしくお願いしますm(__)m