シンドウの最高傑作   作:サイトー

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 ゾンビランドサガ、爆笑してしまった。


十一話 チーズインキャンプ

 3連休。それは学生と公務員とホワイト企業勤務に許された貴族特権。ブラック企業に勤める哀れな人には不可能な至福の時間。後、日々毎日仕事が生活から離れない自営業の人とかも、多分何もかもから解放される連休は難しいだろう。取れるとしても、ゴールデンウィークなどの長期休み期間程度で、月に何度かある三連休などは絶対に不可能なことだ。

 そして、私は学生だ。素晴しい。和菓子屋で働いている父さんに朝に挨拶をして、この日を楽しむべく外に出ることを躊躇う道理は全く無い。後、父さんはマジで毎日忙しそうで、余り私達を構ってくれない。別に良いけどさ……いや、本音を言えば休みの日曜日くらいは遊園地とか連れてってくれても良いじゃんと泣きたくなることもあったけど、それはもう小学生時代のことだ。でも、そう言う家族サービスも少しはあった。だからちょっとだけ成長した私なら、我慢など容易い事だ。あ、やっぱりそれも嘘で実は今でも連れてって欲しいけど、そこは我慢しないといけないだろう。

 だって私、別にファザコンじゃないし。

 シスコンでマザコンだけど、ファザコンは流石に恥ずかしいもの。

 思春期の糞餓鬼な自覚はあるも、やっぱり我が儘言うのはいけないことだ。父さんを困らせるのだけは、流石に駄目だろうと思っている。母さんをバドで困らせるのは実は少し楽しいんだけど、父さんは家族の為にも働いてるんだから、養われている家族の私が迷惑を掛けるのは本末転倒。だって私が親の立場なら、そんな子供の為になんて働きたくないし、両親には気分良く仕事をして貰いたいと考えるのが子の義務と言うものだ。

 まぁ、こんな風に考えるのはちょっと変な子供と言う自覚はあるも、バレなければ問題ではない。根本的には犯罪と同じだ。

 それに伊達眼鏡買って貰ったし。この眼鏡は良い眼鏡だ。良く分からないけど、何故か三つも買って貰ってしまった。

 

「ふふふ。父さんが家族サービスの為に買ったけど、何だかんだで使われず倉庫入りしていた道具一式。その名も―――キャンプセット。

 良いですね。テントに寝袋に、ランタン。何より、焚火道具。

 はぁ……良い。実に心が洗われますよ。キャンプの火は、誰もを平等に照らしてくれます。薪の灯火だけが、私の薄汚れて醜い心を浄化してくれます」

 

 なので、ちょっとキャンプ場に来てみた。独り言をぶつぶつ言うのも楽しくなる時間だ。はぁ良い……焚火は良い。火はなんで人間を温め、メンタルさえもポカポカと癒してくれるんだろうか。特に暗い夜に眺める焚火の炎は素晴しい……はぁ、素晴しいな。特に月とか、夜空の星とか、日常生活で如何でも良いものが美しく見える。人間が意味も無く汚くしているだけで、そもそも世界は綺麗なものなんだってことを実感させてくれる。

 おっと、何だか今の私なら詩人になれそう。そうだな、眼鏡外すと美人になるって使い古された少女漫画の設定ってあるけど、私は眼鏡外すと目付き悪いヤンキーになる変わった中学生だ。そこに一味足す為に、眼鏡外すと今度からポエマーにでもなってみようか……いや、やっぱ止めよう。どうせ厨二病の黒歴史になって、未来の私が悶え苦しむだけだもの。そんな事が許されるのは絶倫超人とか、ロリコン殺人貴くらいなもの。私はエンジェル伝説なヤンキー少女から脱却する為に眼鏡ッ子である事を選んだのだから、眼鏡を外すよりも眼鏡が似合う文学少女街道を歩むべきなんだ。

 

「月が良いですねぇ……今日は珍しく、朱色の良い月です」

 

 今はただ綺麗なものに心を振わせよう。焚火の炎と、夜の月と星が綺麗がこんなにも綺麗なんだ。だからそんな単純な感想だけで留めておいて、自然を愛する一人の子供として今を感動しているだけで十分だろう。

 

「おっと、チーズが煮えてきましたか……って、ふふふ。私ったら、何を独り言を言っているんだか……全く、実に可笑しな気分ですね。けれども、全て火がいけないんですよ。焚火を愉しめない人間とか、そもそもホモ・サピエンスじゃないですからね。良い所、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラが限界でしょうし……あ、良い匂いです。

 ふふ、良いですね……良いチーズだったみたいです。

 行き着けのパン屋で買った美味過ぎるフランスパンを、良い感じにスライスしたのに乗せて、トロリとしたチーズと一緒に食べる至福の時が……そろそろ来てしまいます」

 

 一人キャンプはやっぱ最高だ。ちゃんとラケットとシャトルは持って来て、練習をきっちりした後なので、気分最高な状態でする一人キャンプファイアとか、人生最高の贅沢だろう。全くいやはや、中学生でここまで贅を極める女子なんて私くらいしかいない。バドミントンで精神をキめた後にする焚火こそ、明鏡止水に至る境地だろう。故に、これはバドファイアと命名するのが正解で……うむ。やっぱりフレイムミントンって方が語呂が良いかな。でも実際のところ、略し方はバドでもミントンでもどっちも良いので、ぶっちゃけどっちでも良いかな。

 ……あ、そうだ。

 明日の朝は川でゆっくり釣りをしよう。

 ぶっちゃけキャンプ場じゃないので公僕共に見付かるとヤバいけど。しかし、やはり露見しなければ罪は犯罪として裁かれないのさ。

 

「ワージッ! パーパパパパパッパパッパパー」

 

 テンションが静かに燃えて、ついつい好きな歌を鼻歌で披露してしまう。この場に誰もいないが、だからこそ気分が乗るというものだ。何よりも、火と師匠はベストマッチする。多分某漫画の主人公である狂戦士も、こんな雰囲気で復讐の旅を続けていたんだろう。第一巻の最初のページから、焚火しながら致してたし。まぁ尤も私は、異性になんて今は興味もないけど。まずそう言うのはバドを完成させてからだ。愛とか要らないので、コーヒー牛乳を私に下さい。後は某死にゲーの主人公とか、普段からこんな気分でエスト瓶をガブガブ飲んでいるんだと思うと、私も来世はゾンビとかに転生してみるのも悪くないかも。まぁ来世とか前世とか転生とか、糞痛々しい妄想は誰にも言えないことだけど。多分こう言うファンタジーは空想の中で憧れるもので、それを他人に言っちゃう奴が厨二病何だと思う。だって厨二病的発想力がないとそもそも科学とか絶対進歩しないし、イメージが人間と言う生き物の全てにおける原動力であるのだろう。

 ―――……お、チーズが蕩けてきた。

 寒い夜、熱々の溶けたチーズを乗っけて食べるフランスパン程、キャンプに相応しい軽食はないだろう。この特上フランスパンの上に……いや、ここは思い切ってチーズの海にブチ込んで食べてしまえ。

 

「いただきます」

 

「いただきまーす!」

 

「…………………」

 

「うわぁ中々美味しいね、織乃!」

 

 何時から其処に、マイシスター?

 

「あ、こんなところで何やってんの?」

 

「あら。織乃ちゃん、こんな山の中で奇遇だね」

 

 知らないから。そんな奇遇とか私一切知らないからな、デーモン閣下。後、藤沢さん、ちゃっかり私の隣に座って暖を取らないで欲しいんだけどな。

 

「ダァイスンスーン………―――で?」

 

 ぶち壊しじゃないか。色々ともう本当に全部台無しにされてしまったではないか。

 もしかして、一人だと思って喋ってた独り言とか聞かれていないだろうな。してたら残酷なことになってしまって、このキャンプを中止しないといけなくなるよ。

 

「なんて言うか、ほらさ。綾乃の元気がないし、織乃も誘ってどっか行こうってのり子とサプライズで家に行ったんはいいけど、織乃はおじさんのキャンプセット背負って何処かに行ったっていうから、まぁ……だったら、綾乃だけでも良いから連れて行こうってね。

 まず、綾乃だけを連れてくことにしたのよ」

 

「うんうん。そんな感じだった、確かにね」

 

「………で?」

 

 私のカマンベールチーズとフランスパンをバクバク食べる姉さんを横目に、戦闘服を着た藤沢さんと三浦さんの話を促す。

 

「あ、織乃。肉まんないの?」

 

「ないです。カマンベールなフランスパンで我慢して下さい」

 

「はーい」

 

 話の途中で割り込まないで欲しい。姉さん、空気読めない子だから仕方ないけど。と言うよりも、そもそもキャンプに蒸し器まで持って来る奴とかそうそういない。でも隠し兵器である文明の利器、いざと言う時のガスコンロを使えば何でも作れるけど、それは邪道だ。私的に焚火で料理しないとキャンプじゃないので論外。とか思いつつ、持って来てはいるけど。正直、そこまで拘りはないので便利な道具は持つ主義だ。

 うーむ、私も早く熱々チーズ食べたかったな。でも、良いか。姉さん、何時も通り可愛いし。それが全てだ。

 

「あの、すみません。姉さんが話を遮りました。それで?」

 

「別に良いって。綾乃だし」

 

「まぁ、綾乃ちゃんってミントンきめてないと、結局は綾乃ちゃんだし」

 

 おいデーモン、バドミントンの選手を薬中みたいに言うな。

 

「分かった分かった。分かりました……で?」

 

 ちょっと思う所があったので、姉さんが取ろうとしていたフランスパンを串刺しにし、横から掠り取り、チーズに沈める。更にクルクル回し、チーズをこれでもかって絡め、カマンベールを堪能するべくクルクルに没頭する。

 クルクル、クルクル、クルクル、良し。こんなもので良いかな。うん、最高に美味いね。

 

「うわぁ……何時もアンタはやり過ぎるよね。太るよ?」

 

「カロリー計算は完璧ですので安心して下さい。そもそも脳を使っていれば、糖分なんて一瞬で消化されますから。つまりこのチーズは全て私の脳の神経細胞に生まれ変わる訳です。

 つまり私は常時ゼロカロリーな女って訳ですよ」

 

 うるさいママだ。母さんよりも母親だよなぁ……あ、別にこれが悪いって訳じゃないけど。大切にしてる友達だからこれで良いんだけど、もう少し同世代の友人として私のことを見て欲しい。自分が子供って自覚はあるけど、そこまで子供扱いして欲しい訳じゃない。私、正直隠してるだけで厨二病入ってるから、其処らへん気難しいので。

 

「うん。織乃って天才少女だけど、凄い馬鹿だよね。良いのって頭の出来だけで、思考がちょっと向こう側の住人だもの」

 

「何処がですか?」

 

 なんて失礼な。そもそも筋肉をモリモリ付けて体重増やしたいから、太るのは大歓迎で、その為の乳製品だ。今太らずに何時太れば良いのか。そのチャンスは成長期の今しかない。いや、本当は筋肉付け過ぎるとヤバいんだけどさ。

 

「……はッ! 今はそう言うのを良いんですよ」

 

「そうだね、織乃ちゃん。これ、ハイジの動画で見た時から食べてみたかったんだよ」

 

 おいデーモン閣下、何で貴女は私以上にクルクルを楽しんでやがる。話を聞いてるようで会話をする気ないな、三浦のデーモン。

 

「食べてて良いですから、それで?」

 

「まぁ……それで、まず気分転換させて上げようと思って、綾乃の部屋に乗り込んだらいなくてね?」

 

「はい」

 

「じゃあ、もしやと思って織乃の部屋に行ってみたら……その、綾乃がソンビみたいにゾンビゲームしててさ。しかも、やってたゲームが凄まじいゴアって言うか、そのあれな部類だったのよ。ぶっちゃけるとバイオとエイリアンをハイセンスで混ぜたようなので、ちょっとアカンと言うか。後、凄まじいエンジニアが主人公なヤツで、見てるだけで私もあの踏み付けとパンチは興ふ……あ、じゃなくて、外に連れ出した方が良さそうじゃないかなって思ってさ。

 ……いや、別にあの手のゲームを否定する気はないの。

 だけどあんなメンタル状態の綾乃が、ポクテみたいな宇宙生命体の手足を工具で引き千切ってるのって、流石にどうかと思ったからさ」

 

 ああ、デッドなスペースに嵌まってたのか。別名、絶命異次元。確かにあのゲーム、狂気度凄いからな。でもまさか、あの姉さんがネクロモーフの手足を切って達磨にしているとは、流石の私でも見抜けなかった。下手をすればマーカーで頭の中身に宇宙人の叡智を植え付けられて、人類最強の宇宙エンジニアと同じになってしまう鬱病状態になってしまう前に脱出出来たのは良いが……まぁ、ゲーマーの私が言うのもあれだが、何事もやり過ぎ位が丁度良いけど、やはり限界一歩手前で止めないといけないのは事実。

 超えれば壊れるラインを見極め、境界線をウロチョロするのが楽しんであって、躊躇わずアクセルを踏むのは狂人じゃなくて普通に自殺志願者だ。バドミントンを失った姉さんに新しい娯楽としてゲームを教えたけど、ちょっと最近は逃避率が高くなっているようだ。やっぱり夜更かしとか教えたのはメンタル回復に役立ったけど、段々とバド廃人からただの廃人にジョブ変化してしまう可能性がある。

 だが、そこは我らがママ。姉さんのSAN値を見抜いてリフレッシュ出来る藤沢さんは、ちょっと子育ての才能がこの年で溢れているなと考察する。

 

「成る程。ゲームもやり過ぎはいけないからですね。ありがとうございます」

 

「別にいいの。でもまぁ……だからさ、次の日とその次の日も休みな三連休なんだし、偶には山の中で修行でもしようかと思ってね」

 

 つまりそれ……え、意味が分からないんだけど?

 

「修行ですか。つまり、それは一体……?」

 

「うん。だから、ただの修行よ」

 

 それを選ぶ意味が分からないんだってば。修行の意味自体はそりゃ分かるけど、なんで友達と休日を過ごす選択肢の一つに、山の中で修行するなんてチョイスが選ばれるのかが意味不明なんだって?

 いやまぁ私も今、ちょっと修行っぽい事してる自覚はあるさ。

 しかし、これは一人キャンプって言う建前があり、ガチで仙人みたいに山岳修行をしている訳じゃない。

 

「なぁに、織乃ちゃん。もしかして修行って分からない?」

 

「……三浦さん、口からチーズが垂れてますよ」

 

「あ、ホントだ。ありがとね」

 

「まぁ、はい。どういたしまして」

 

 それと三浦さん、貴女は何時もマイペースのデーモンだ。もう良いから、姉さんと一緒にハイジごっこしていて欲しい。後、なんでそんな妙にエロい仕草で口元のチーズを食べるのか、その意味も分からない。でも相手はかつて独裁権力を手に入れたデーモン閣下なので気にしても仕方ない。

 

「で、藤沢さん。なんでまた修行なんて?」

 

「え……? だって修行、普通はするでしょ?」

 

「いやいや、まぁ確かに修行をするのは良いでしょう。でも、こんな夜中にまで、山の中で?」

 

「うん」

 

 ははは。うん、じゃないと思うんですけど。後、私、貴女達とのお泊りを言い訳にキャンプ道具を家から持ち出したから、家に帰るとちょっとヤバそうで今から気分がダウンしてる。お願い神様、父さんと婆さんと爺さんにバレテいませんように。小学生の時みたいに怒られるのは、中学生になった今だと精神的にきつい。

 

「じゃあ、どんな修行内容だったのですか?」

 

 取り敢えず、変人の自覚がある私以上にカッ飛んでる姉さんと、それを引っ張って友達出来る藤沢さんと三浦さんの所業を聞き出さないと。

 

「滝に打たれながら、感謝の正拳突きとか。気合いで葉っぱを切ったり、弾き飛ばしたりとか。後は遭遇した大熊と喧嘩したり、猪と鬼ごっことかかな」

 

 お前ら坂田金時か……ってか、え?

 ここって熊いるんだ。熊注意の看板とかなかったし、神奈川県にそんな場所有ったか?

 と言うか皆、姉さんの天然に毒され過ぎなんじゃない。それとももしかして、姉さんが藤沢さんと三浦さんに毒されていたんだろうか?

 けれども、ぶっちゃけデーモン閣下がいれば危機もなにもないか。三浦さん、人間複数人をパンチで吹き飛ばす化け物だから。その気になれば、拳一つで熊の心臓を内部破壊とか出来ても驚かない。後、藤沢さんなら熊に柔術仕掛けても別に不思議でも無いし……あれ、私って結構まともなのでは?

 よく考えなくても、バドミントンが好きなだけの女の子だもの。姉さんを含めた三人と比較すれば、其処ら辺にいる普通の一般人だった。

 

「貴女達は宮本武蔵にでもなるつもりですか……」

 

「無理無理。そもそもこの修行だって、綾乃の思い付きに付き合ってただけだしさ。まぁ、私とのり子もノリノリだったけど。のり子だけに」

 

「ちょっとエレナちゃん、こんな寒い夜で寒いこと言わないで」

 

「のり子だけに、のっりのり~」

 

「ほら。綾乃ちゃんがこう言うの聞くと、直ぐ無自覚天然で煽り出すんだから」

 

「ごめんごめん、のり子。ほら、このフランスパン食べて良いから」

 

「いやそれ……ってか、ここにあるの全部私のなんですけどね」

 

「仕方ない。今回だけだよ」

 

「そうですか。無視ですか」

 

 無理だ。この三人を制御する何て絶対無理だ。何時も保護者してる藤沢さんの偉大さが身に染みる。しかも、実際はこれに私まで加わるのだから、私が保護者役になると絶対胃潰瘍で倒れる確信があるね。そして、ハジケ出すと藤沢さんも中々に面倒臭いお人だ。

 まぁ、食糧は明日の朝、釣れば良いだけだ。調味料と道具さえ万全なら、飯に困ることもない。

 川魚ってなると何が釣れるかな。鮎とかいると最高なんだけど、そこまでは求めない。でもイワナとか、マスとか、色々と釣り上げたいなぁ……うん、明日が楽しみ。今日みたいに焚火して、木の枝で串刺しにして、じっくりジワジワ丸焼きにして良いものだ。ちゃんとすれば骨まで食えるけど、寄生虫が怖いので丸焦げになる前段階まで焼きたいところ。でもフィッシャーマンな私でも内臓ははっきりいって好きじゃないので、焼く前に腹だけ捌いて捨ててしまおう。

 父さんのアングラーセット、ちゃんと私が受け継いだので無駄金じゃないからね。だから安心して欲しい。父さんの分までキャンプを楽しむから。全くもう、私程の親孝行な娘はそうそういないことさ!

 ―――畜生。

 一人でハイジしてみたかったのに。はぁ……もう、如何でも良いや。チーズパン食べよう。

 

「でも良かった。もしかしてと思ったけどアンタが此処にいたから、飯無しの地獄を味わうことも無かったし」

 

 姉さん……そう言うの、何も考えないで突っ走るからな。後、貴女達は頭悪くないのに馬鹿になるの好きだから、敢えて姉さんに合わせて何も考えないで並走する。その後始末とか、誰が基本的にしてるのか知って欲しいものだ。

 とは言え、今回の言い出しっぺは姉さんみたいだ。妹として一言位は有るべきか。

 

「いや本当、姉さんが何時も何時もご迷惑を」

 

「良いのよ。好きで友達してるんだから、こう言うのを楽しむのも良い思い出だから」

 

 ママだ。この人、母性の王様だ。母さんの娘とか辞めて鞍替えしてしまおうか……はぁ。私、今、何考えてた?

 親の鞍替えなんて考えちゃいけないことだけど、何だかんだで全然メンタルが癒えないみたいだ。一人キャンプを堪能してみたけど、あの日のストレスは凄まじい重荷らしく、引き摺り続けてもまだまだ磨り減らないみたい。

 母さんだって悪い母親じゃない。特に私みたいな人間にとって、一番適した育て方をしてくれる人だ。姉さんにとってはそうじゃなかったみたいだけど、私はこの具合で丁度良いと思う。厳しくしようが、甘くしようが、どっちでも構わないのが事実。

 それはそれとして、捨てられたのはショックだったけど、母と娘なんて関係は何時からだって再開できる。大人になった後からでも、私から母さんの娘であろうとすれば充分に間に合う関係だ。そりゃ母さんが病気だったり、私が病気だったりで体が弱く、時間がないんだったら話は全く別だけど、お互いに元気なんだから良いことだ。父さんや、爺さん婆さんからは何も聞いてないし、母さんも何時もみたいに外国で元気にしているんだろう。

 

「じゃ、そう言う訳ですので。私は夕飯も食べて、夜食で準備した例のハイジも食べましたので、もう寝ます。こっちはこっちで、かなり疲れていますから。

 なので、お疲れさまでした。お休みなさい……」

 

 何だかんだでパンもチーズも消えてしまった。飲み物はちゃんと取って置いてあるし、後はもう明日を迎えるだけだ。この一人用テントに引き籠って、私はもう関係ないアピールをしないとならない。どうせまだ姉さんと修行するんだろうし、私と関係ない所で頑張って欲しいものだ。

 マジで、私は、修行と関係無いのでもう寝る。

 明日もちゃんとキャンプを楽しみつつ、バドミントンの気分を変える為に森の中で素振りとかしてみる予定なんだから。

 

「うん。お休み」

 

「はい。お疲れ~」

 

「お休みの時間だね。皆、もう寝ましょ……」

 

 ―――狭い。

 川の字とかそんな次元じゃない。手足全てが他人と重なってる状態だ。ただの組体操じゃないか、眠れるかッ!?

 

「…………ねぇ、皆様?」

 

 だと思ったよ。どうせそんな事だって分かっていたさ。凄く自然な動作で私の後に続いて、物凄く無理矢理私を逃げられないよう囲みながら、テントに入り込んで来たもんな。

 ―――……って、汗臭!

 アポクリン汗腺の臭いがしないだけまだマシだけど、もう普通に臭うわ。滝に打たれてたの本当みたいで、生乾きの嫌な匂いとかもするし。え、後なんでか血の鉄臭さも残ってると言うか……え。あれか、熊と猪と戦ったのってもしかして本当だったりするの。いやいや、多分ちょっと修行中にほんのちょっぴり怪我しただけだろう。誰もそんな仕草してなかったけど、自分のメンタルを守る為にそう言うことにしておこう。

 それと私はちゃんと濡れたタオルで肌を拭いてある程度は清潔感を保ってるけど、この三人は泥と埃に塗れてやがる。

 

「はっきり言って、臭いから出て行って下さい。眠れません」

 

「なんだとこのヤロぉー!」

 

「デーモン、貴様何をするつもりですか!?」

 

 チョーク。まさか背後からチョークで私の意識を絞める気か。男喰らいミウラビッチのおっぱいとか、同じ女なんで背中に当てられても嬉しくないからな。そう言うセクハラサービスは男にしろ。

 しかし、そんな程度の技で気を失う私ではないわ!

 例え武術の心得がある学生で組まれた連合義勇軍を単身で撃破したデーモン閣下だろうと、人間である事に違いない。多分だけど。間接さえ決めてしまえば、デーモンチョークからだって逃げ出せる。

 

「織乃、いけないよぉ。まさかまさか、実の姉に臭いから出て行けなんて……――ねぇ?」

 

 あ。これ、なんかデジャブを感じる。

 

「だよねぇ……もう。ここは皆で一緒に寝ましょう。だって、テント一つしかないんだから」

 

「ふざけないで下さい。ここで諦めてたまりますか!?」

 

 ふんぬぅー――――……って、駄目だ。私の貧弱なパワーじゃ、デーモンとエクソシストの相手にもならない。脳から血が出るくらい頑張ったけど、欠片も動かない。

 

「なんで、織乃。もう姉妹で一緒に寝るの嫌な年頃さん?」

 

「そんな訳ないじゃないですか。嫌ですね、マイシスター」

 

 仕方ない。姉さんが言うなら仕様が無い。もうぶっちゃけ鼻も潰れたから、臭いも気にせず眠れるし。でも、糞熱いのだけは勘弁して欲しい。更に汗臭くなるんだけどな。

 ま、良いか。一人だろうと四人だろうと、キャンプはキャンプ。

 明日になれば釣りを楽しめるし、こんな三連休の始まりも悪いものじゃないと思いたい。

 






















 とのことで修行パートでした。
 この世界ですと、山の中で修行しても平然と藤沢さんと三浦さんはついて来ます。と言うよりも、デーモン閣下と保護者が完璧なボディガードになってくれますので、主人公の織乃も安心して姉を好き勝手にさせている節があります。

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